ハンセン病問題に関する「親と子のシンポジウム」
正しい知識を身に付けて 偏見や差別のない社会へ
7月30日に「ハンセン病問題に関する『親と子のシンポジウム』」がオンラインで開催されました。ハンセン病患者・元患者やその家族に対する偏見・差別は、今なお社会に根深く残っています。この偏見・差別を解消するためには、ハンセン病問題に関する正しい知識と、患者・元患者や家族の方々が置かれている現実への理解、そしてそれらを次世代へも継承していくことが必要です。ハンセン病問題に関わってこられた方々や当事者の方々の声を聴き、親子で人権について考えてみませんか?
〈基調講演〉
●未来へと記憶をつなぐ
国立療養所長島愛生園入所者自治会会長
中尾 伸治さん
74年前、14歳だった私は、岡山県にある国立療養所・長島愛生園に入所しました。そこで初めて食べた夕食は、どんぶりにジャガイモが1つだけ。非常に空腹を感じましたが、先輩の入所者たちには「いい時に来たな」と羨ましがられました。先輩たちは、それほど厳しい生活を送っていたのです。
入所してから数年が経った頃、兄に子どもができましたが、兄からは「子どもが大きくなるまで家に帰らないでくれ」と言われました。また、母が亡くなる少し前、病院へのお見舞いすらさせてもらえませんでした。ハンセン病の息子を、人前に出すのがはばかられたのでしょう。家族までそのようにしてしまったのは一体誰でしょうか。
そして、ハンセン病が治る病気とされてから70年が経つ今でも、偏見・差別は続いています。また、近年の新型コロナウイルス感染症の流行下においても、感染者や医療従事者に対する偏見・差別が起きてしまいました。
これ以上過ちを繰り返さないためには、未来へと記録を継承することが大切です。そこで、瀬戸内3園※では、療養所がある各島を「人権学習の島」として残すための運動をしています。皆さんもハンセン病問題について学び続け、人権問題に対する理解を深めてください。
※長島愛生園、邑久(おく)光明園、大島青松(せいしょう)園の総称。
●誤った情報が広まる怖さ
国立療養所邑久光明園入所者自治会会長
屋 猛司さん
私は32歳の時、昭和49年にハンセン病と診断されました。そのことを家族に伝えると、みんな気持ちが沈み切って無言になってしまったことを覚えています。そして、私は国立療養所・邑久光明園に入所しました。
現在は「ハンセン病は遺伝しない、感染しにくい、治る」という事実が知られています。「癩(らい)予防法」(旧法)が公布された昭和6年頃にも、「ハンセン病は感染しにくい」ということを発表した専門家はいました。しかし、彼は異端者扱いされました。そして、患者を療養所に強制入所させる法律があったために、「ハンセン病は感染力が強い病気だ」という誤った情報が流布され、人々の頭に植え付けられていったのだと思います。
悲しいことに、私と同じ年代の方の中には、いまだにハンセン病を正しく理解していない方もいます。このような法律が89年間存在し続けた影響は、今も無くなっていないのです。
だからこそ、今を生きる子どもたちには、ハンセン病問題について正しく理解してもらいたいと思います。そして、次の世代にも正しい知識を伝えていってください。
〈パネルディスカッション〉
交流の中で考えを深める
●悲しい歴史を繰り返さない
第40回全国中学生人権作文コンテスト・第40回大会記念賞 受賞者
小西 祥生さん
小学生の頃、学校で、地域学習の一環としてハンセン病について学ぶ機会がありました。その後、社会見学で邑久光明園を訪れた際に、入所者の方に温かく迎えていただいたこと、そして、ご自身のつらい経験を丁寧に説明してくださったことをはっきりと覚えています。この悲しい歴史を繰り返してはいけないと強く思いました。
●レッテルを張らず対話する
第33回全国中学生人権作文コンテスト・法務大臣賞 受賞者
後藤 泉稀さん
中学校の部活動で療養所を訪れたのがハンセン病問題と出会ったきっかけです。入所者の方々との交流を重ねていく中で、他者を病名などでカテゴライズせず、一人の人間同士として交流することの大切さを学びました。偏見・差別をなくすためには、他者の痛みを想像し、人を排除する側に立っていないか、内省する必要もあると思います。
●行動の指針を持つことが大切
日本赤十字災害救護研究所心理社会的支援部門長(兼)諏訪赤十字病院臨床心理課長
森光 玲雄さん
新型コロナウイルス感染症が流行する中で、感染者や治療にあたる人を過度に遠ざけたり、差別的言動が向けられる事態が起きてきました。こうした状況は、ハンセン病問題と共通する部分があります。身を守ろうとする心が、感染に関連づく「人」を忌避する態度にすり替わってしまいがちな心の働きを知り、どう行動すべきかを考えてみましょう。
●長い負の歴史を忘れない
公益財団法人人権教育啓発推進センター理事長
坂元 茂樹さん
日本はハンセン病患者の強制隔離を89年間も続けていた負の歴史を持っており、残念ながら今でも偏見・差別の問題は続いています。私たちは誰しも、意図せずに偏見・差別をする側になり得ることを忘れてはなりません。同じ過ちを繰り返さないために、私たちはハンセン病問題について学び続ける必要があるのです。
〈ビデオメッセージ〉
●家族をバラバラにしないで
ハンセン病違憲国家賠償請求訴訟全国原告団協議会 事務局長
竪山 勲さん
母と私がハンセン病を患ったことで、家族は離ればなれにされてしまいました。私が強制隔離されたのは13歳のときです。療養所では、もっと小さな子が両親を想って泣いていて、彼らを抱きしめながら寝たものです。人が人として生きるのは国民の権利です。親と子が引き裂かれるような事は二度とあってはなりません。
●関心を持ち続けてほしい
全国ハンセン病療養所入所者協議会会長、国立療養所大島青松園入所者自治会会長
森 和男さん
らい予防法が廃止されて26年が経ち、ハンセン病問題に対する社会の関心が薄れてきたと感じています。そして新型コロナウイルス感染症の流行により、感染者や医療従事者に対する誹謗中傷が発生してしまったことを、非常に悲しく思います。私たちが生きている間に、あらゆる偏見・差別が解消されるよう願います。
●ハンセン病について話せる社会に
ハンセン病家族訴訟原告 代表 原告番号 169番さん
私の父と兄は、ハンセン病患者でした。しかし、親族にまで偏見・差別が及ぶのを恐れ、私はこれまで家族の話を夫以外には打ち明けられずに生きてきました。「偏見・差別の解消」とは、問題が忘れ去られることではなく、ハンセン病について、誰にも気兼ねせず自由に話せるようになることだと思います。
◎このシンポジウムの模様は、動画共有サイトYouTubeの[人権チャンネル]でご覧いただけます。
https://www.youtube.com/watch?v=DzveU0Xrloc
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