バイオ3Dプリンタを用いた末梢神経損傷に対する三次元神経導管の医師主導治験の開始
京都大学医学部附属病院整形外科(松田秀一教授)、京都大学医学部附属病院リハビリテーション科(池口良輔准教授)、京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻(青山朋樹教授)は、株式会社サイフューズ(秋枝静香代表取締役)とともに、末梢神経損傷に対する新しい治療法としてバイオ3Dプリンタを用いた神経再生技術の開発に世界で初めて成功しました。そしてこの度、京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構(iACT)、細胞療法センター(C-RACT:副センター長 長尾美紀教授)と共に、手指の末梢神経損傷患者さんに対する医師主導治験を開始します。
1.背景
従来の末梢神経損傷に対する治療は、自己の健常な神経を犠牲にする自家神経移植が主流です。自家神経を犠牲にする治療を回避する目的で人工神経の開発が行われていますが、自家神経移植術を超える成績は得られていないため、一般には普及していないのが現状です。
京都大学医学部附属病院整形外科では、これまで末梢神経損傷に対して人工神経を用いた治療研究を実施してきました。しかし、人工神経には細胞成分が乏しく、サイトカインなどの再生軸索誘導に必要な環境因子が不足しているといった理由から、自家神経移植と比較して良好な結果を得ることができませんでした。本研究グループは、中山功一教授(佐賀大学)、株式会社サイフューズとの共同研究により、バイオ3Dプリンタを用いて細胞のみで作製した三次元神経導管をラットの坐骨神経損傷モデルに移植することで、人工神経より良好で自家神経移植に遜色ない結果を得ることができました(論文1)。これは、線維芽細胞から作製した三次元神経導管より放出されるサイトカインや血管新生によって、良好な再生軸索の誘導が得られた結果(論文2)と考えられます。
2.研究手法・成果
非臨床proof of concept (POC)確立のため、日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズB)、京都大学医学部附属病院先端医療研究開発機構の支援を得て、非臨床有効性、非臨床安全性試験(論文3)を実施し、医学部附属病院の医薬品等臨床研究審査委員会(治験審査委員会)の承認を得て、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に治験計画届を提出しました。
また、サイフューズ社の開発した臨床用バイオ3Dプリンタを、京都大学医学部附属病院C-RACT内の細胞調製施設(CCMT)に設置し、治験製品製造準備を行い治験実施体制を整えてまいりました。
3.今後の予定
京都大学医学部附属病院整形外科は、手指の外傷性末梢神経損傷に対して、臨床用バイオ3Dプリンタを用いて製造した三次元神経導管移植の医師主導治験を実施します。治験の同意取得後に、患者さんの腹部または鼠径部から皮膚を採取し、約2か月かけて三次元神経導管を製造し、神経損傷部に移植します。
【対象疾患】
外傷性末梢神経損傷
・外傷等による末梢神経断裂・欠損部位が手関節遠位にあるもの
・受傷日より6か月以内に登録が可能であるもの
・人工神経移植、および自家神経移植を希望しないもの
・同意取得時の年齢が20歳以上60歳以下の男女
【治験実施体制】
主任研究者:松田秀一(京都大学医学部附属病院 整形外科 教授)
自ら治験を実施する者/治験責任医師:池口良輔(京都大学医学附属病院 リハビリテーション科 准教授)
治験製品製造責任者:青山朋樹(京都大学大学院 医学研究科 人間健康科学系専攻 教授)
治験製品製造協力者:秋枝静香(株式会社サイフューズ 代表取締役)
治験製品製造施設管理者:長尾美紀(京都大学医学部附属病院 C-RACT副センター長・臨床病態検査学 教授)
4.研究プロジェクトについて
本治験は、国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)橋渡し研究戦略的推進プログラム(シーズC)「末梢神経損傷を対象とした三次元神経導管移植による安全性と有効性を検討する医師主導治験」の支援を受けて実施します。
<研究者のコメント>
末梢神経損傷を受傷したことによって、思うように手が使えなくなって仕事ができないなど苦しんでおられる患者さんや、神経移植のために神経を採取されて痛みが残ってしまった患者さんが多数おられます。それらの方々が元どおりに社会復帰できるように、本研究はお役に立てると思っております。どうぞよろしくお願い申し上げます。
<論文タイトルと著者>
論文1
タイトル:The efficacy of a scaffold-free Bio 3D conduit developed from human fibroblasts on peripheral nerve regeneration in a rat sciatic nerve model.
著 者:Yurie H, Ikeguchi R, Aoyama T, Kaizawa Y, Tajino J, Ito A, Ohta S, Oda H, Takeuchi H, Akieda S, Tsuji M, Nakayama K, Matsuda S.
掲 載 誌:PLoS One. 2017 Feb 13;12(2):e0171448. DOI: 10.1371/journal.pone.0171448.
論文2
タイトル:Mechanism of peripheral nerve regeneration using a Bio 3D conduit derived from normal human dermal fibroblasts.
著 者:Yurie H, Ikeguchi R, Aoyama T, Ito A, Tanaka M, Noguchi T, Oda H, Takeuchi H, Mitsuzawa S, Ando M, Yoshimoto K, Akieda S, Nakayama K, Matsuda S.
掲 載 誌:J Reconstr Microsurg. 2020 Sep 21. DOI: 10.1055/s-0040-1716855.
論文3
タイトル:The efficacy of a scaffold-free bio 3D conduit developed from autologous dermal fibroblasts on peripheral nerve regeneration in a canine ulnar nerve injury model: A preclinical proof-of-concept study.
著 者:Mitsuzawa S, Ikeguchi R, Aoyama T, Takeuchi H, Yurie H, Oda H, Ohta S, Ushimaru M, Ito T, Tanaka M, Kunitomi Y, Tsuji M, Akieda S, Nakayama K, Matsuda S.
掲 載 誌:Cell Transplant. 2019 Sep-Oct;28(9-10):1231-1241. DOI: 10.1177/0963689719855346.
Abbreviation
proof of concept (POC):新たな発見や概念について実現可能であるかを実証すること。概念実証。
【サイフューズ社概要】
株式会社サイフューズは、佐賀大学中山功一教授の発明をもとに、細胞のみから立体的な組織・臓器を作製するという独自の基盤技術を活用し、病気やケガで機能不全になった組織・臓器等を再生させ、従来の手術や治療法では満たされることのなかったアンメットニーズに応え、多くの患者さまに貢献することを目指し2010年に設立された、再生医療ベンチャーです。
サイフューズは、現在、独自の基盤技術を用いて、人工の足場材料(スキャフォールド)を使用せずに、立体的な組織・臓器を製造し、再生医療分野における骨軟骨や血管、末梢神経などを再生する画期的な再生医療等製品の実用化及び病気のメカニズムを解明する病態モデルや新薬の有効性・毒性・代謝等を評価する創薬スクリーニングツールとしての細胞製品の実用化を進めております。また2010年より澁谷工業株式会社と細胞塊の積層を自動化するバイオ3Dプリンタ「Regenova(レジェノバ)」を共同開発・製品化し、国内外に販売しております。
https://www.cyfusebio.com/
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