iPS心筋細胞を効率的に精度よく配置!創薬実験を変える新たなバイオプリンティング技術を開発
-
iPS心筋細胞の実験用プレートへの定位置配置を自動化
-
適量配置で細胞使用量を約80%削減し、創薬実験の低コスト化に貢献
NTN株式会社(以下、NTN)は、創薬分野における新たなバイオプリンティング方式*1として独自開発した「微細塗布装置」を用いて、iPS*2細胞由来心筋細胞(以下、iPS心筋細胞)を実験用プレート上に効率的に精度よく配置(播種)する技術を開発しました。従来の人手作業による配置を自動化することで、創薬実験の効率化や信頼性の向上、細胞の使用量削減に貢献します。
*1 生きた細胞や生体材料を積層して、組織や臓器を作製する技術。
*2 induced Pluripotent Stem Cells(人工多能性幹細胞)の略称。

「微細塗布装置」とは
「微細塗布装置」は、針の先端に付着させた数pL(ピコリットル:1兆分の1リットル)の液剤を1回あたり0.1秒と高速かつ±15µm(マイクロメートル:1,000分の1mm)以下の精度で定位置に適量塗布する装置です。自動車部品や半導体などの分野で多数の採用実績があります。
その高速かつ定位置・適量の塗布技術を活かし、NTNは本商品のライフサイエンス分野への応用を進めています*3。
*3 2025年5月19日プレスリリース:新たなバイオプリンティング方式として「微細塗布装置」がライフサイエンス分野の研究活動に採用
https://www.ntn.co.jp/japan/news/new_products/news202500020.html
「微細塗布装置」の特長
1. 定位置塗布:数pLの極少量の液剤を±15µm以下の繰り返し位置決め精度で目標位置に塗布
2. 高粘性対応:100Pa・s*4までの高粘度な液剤の塗布が可能
3. 高速:1回あたり0.1秒の高速塗布
*4 Pa・s(パスカル秒):国際単位系(SI)における粘度の単位、100Pa・sはハンドクリームほどの粘性を表す。

創薬分野への適用と開発のポイント
このたび創薬実験において、iPS心筋細胞の働き(拍動)を検出するため、「微細塗布装置」を用いて細胞を実験用プレートに精度よく配置することに成功しました。これは、国立大学法人 大阪大学大学院 工学研究科 NTN次世代協働研究所による成果を含みます*5。
*5 国立大学法人 大阪大学大学院 生命機能研究科との共同研究を基礎とする。
細胞を用いた機能評価試験や薬効評価は、作業者の違いなどにより、同じ実験を同じ条件で行っても再現性を確保することが難しいとされています。本技術においては、細胞濃度や塗布針の位置・形状・表面粗さなど実験結果に影響するパラメーターやアルゴリズムを独自に特定・制御することで、定位置・適量配置を実現しました。これにより、実験結果の信頼性・再現性の向上に貢献します。
「微細塗布装置」を適用した創薬実験例
1.多電極アレイ上へのiPS心筋細胞の精密配置による細胞外電位の検出実験
直径3~6mm×深さ10~13mmの多数の凹み(マルチウェル)の底に電極を設けたプレート(多電極アレイ)上の電極上に適量のiPS心筋細胞を配置し、心臓の拍動など細胞の電気的な活動を測定する創薬実験において、電極上にiPS心筋細胞の必要量のみを定位置に配置し、より正確な細胞の拍動の測定が可能となりました。

*6 S. Chikae et al. Biotechnol. Bioeng. 2019, 116, 3136
*7 S. Chikae et al. Biomed. Mater. 2021, 16, 025017
2.マルチウェルプレート上へのiPS心筋細胞の配置による薬剤評価実験
直径3~6mm×深さ10~13mmの多数の凹みを設けたプレート(マルチウェルプレート)を用いて、一度に大量の薬剤評価を行う手法(ハイスループット評価系)において、一定量のiPS心筋細胞を各凹みに高密度かつ高速に配置することで小さな心筋組織の構築が可能となりました。正確で再現性の高い薬剤反応の測定ができるだけでなく、細胞への負荷を抑える配置方法により高い細胞生存率を確保します。

*8 CV値:変動係数と呼ぶ。標準偏差を平均値で割った値。単位の異なるデータのばらつきを比較する場合などに用いる。
*9 第24回再生医療学会総会 P-12-08: March 21, 2025; 横浜(塚本佳也ほか)
「微細塗布装置」を創薬実験に用いるメリット
1.定位置・適量配置:細胞をセンサー上など狙った場所に適量を正確に配置し、細胞の働きを正確に検出し、正確な実験結果の取得が可能
2.効率化と再現性:細胞配置の自動化により、人手作業によるバラつきがなく効率的かつ再現性の高い実験が可能
3.細胞の節約:必要な量だけを正確に配置することで、高価な細胞を無駄にすることなく使用量を削減
NTNは創薬市場に向けて「微細塗布装置」の提案を進めるとともに、病気などで機能を失った組織や臓器を再生させる再生医療における本商品の適用を進め、ライフサイエンス分野の事業化を加速させてまいります。
ご参考:NTNの新領域における取り組み
NTNは、持続的成長に向けてライフサイエンスを含む6つの研究分野を新たなターゲットとし、外部研究機関と連携しながら、事業化に向けた取り組みを推進しています。2024年4月には「未来創造開発本部」を設立し、新領域におけるマーケティングから開発・研究、生産を同一部門で運営することにより、市場・顧客ニーズに合致した新商品・サービスの創出に取り組んでいます。
今後も各研究分野の開発活動を加速し、さまざまな社会課題の解決を進めることで、持続可能な「なめらかな社会」の実現を目指してまいります。
NTN株式会社
NTN株式会社は、ベアリング(軸受)やドライブシャフトなどの研究・開発、生産、販売を行う精密機器メーカーで、2018年に創業100周年を迎えました。
主力商品のベアリングは機械の回転を支える重要かつ精密な部品で、自動車や建設機械、農業機械、工作機械、ロボット、鉄道車両、航空機、電子機器などあらゆる機械に使用され、世界中の人々の生活を支えています。
主力商品の中でも自動車のタイヤの回転を支えるハブベアリングや自動車のモーターやエンジンの動力をタイヤに伝えるドライブシャフトは世界トップクラスのシェアを誇ります。
NTNは、省エネルギーに貢献するベアリング技術を幅広い分野で生かすことで世界を取り巻く社会的課題の解決に貢献し、人と自然が調和し、人々が安心して豊かに暮らせる「なめらかな社会」の実現を目指しています。
https://www.ntn.co.jp/japan/corporate/special1.html
このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像
