すべて試着し、手書きで残す。選び抜かれた一着がAYINに並ぶまで
コレクションシーズンは、世界中からバイヤーやデザイナー、著名人が集まるパリ。華やかなファッションの舞台で、AYINのバイヤーは半年以上先に届く一着を探します。ただ、その仕事は華やかなだけではありません。一着ずつ手書きで記録し、試着し、過去のデータと照らし合わせながら決めていく。地道で、妥協のない仕事の連続です。

今回は、パリ買付を担うMeg、関、瀬野の3人に話を聞きました。何を基準に「AYINらしい一着」を選んでいるのか。そして、その一着を通してお客さまに何を届けようとしているのか。パリの舞台裏にある、AYINのバイイングフィロソフィーをお伝えします。
1日10ブランド以上。チームでつくる連携
―まずは、1日のスケジュールを教えてください。
関真之介(以下、関):展示会場は早いと9時から始まって、終わるのは18時か19時。休憩はだいたいタクシーの中で取ります。夜の食事のあとは、その日に見てきた展示会のオーダーを仮決めするミーティングをします。
―1日にどれくらいのブランドを回るのですか。
関:10ブランドから15ブランドですね。一般的には5ブランド前後だと思うので、そこまで回るところは珍しいかもしれません。滞在中は全部で100ブランドくらい見ます。
―3倍近い数ですね。現地ではどういう流れで動くのですか?
関:まず代表の髙木がラックから候補をピックアップして、それを綺麗に並べ直し、そこからもう1回ピックアップするんですよ。その後、残ったものを見ながら「これ追加どうですか」という話をしつつ、最終的に見直して、絞り込んでいきます。
―そこからどう進むのでしょう?
関:髙木が品質の特徴や値段を全部手書きでメモしていくんですよ。これをやっているのは珍しいみたいで、海外の方にびっくりされますね(笑)
そのあと試着もして、サンプルサイズがMだったら「これならLのほうがいいな」というのを全部書いていきます。数を見ていくとどんどん忘れていくので、きっちり残しておかないといけません。
髙木が手書きしている間に、僕が着替えて、それを撮影します。そのうえで、次のものを準備しておき、グッズも撮影する。これを全ブランドでやるんですけど、最短だと、2時間くらいかかるところを30分まで縮められます。
―相当な早さですね!
関:これはもうチームワークですね。やり方が決まっているので、この量ならこれ、という感じで進みます。
髙木めぐみ(以下、Meg):でも、最初からできたわけじゃないんですよ。何度も海外で買い付けを重ねてきたからこそ、少しずつ体に染みついてきた、という感じですね。
―チームで動くうえで、大切にされていることはありますか。
Meg:自分の役割をこなすのはもちろんなんですけど、そこに集中しすぎると周りが見えなくなって、やっぱり見落としてしまうこともあります。なので、チームのことも気にかけつつ、思いやりや感謝の気持ちを忘れずに、というのは意識していますね。
―現地の方とのやり取りでも、何か心がけていますか?
Meg:行ったときに「ハロー!」と、たぶん会場で一番元気に挨拶していると思います(笑)。ブランドスタッフも長時間働くと、やっぱり疲れてくるじゃないですか。商談が1時間、2時間経ってくると、ちょっとブレイクタイム行きたいねんけど、という感じになるんですよね。
そこを盛り上げるために、日本のお菓子をお渡ししたりもします。タクシーでの移動中も同じです。うまく話せなくても、日本から来たというだけで話が盛り上がることもあって。そうやって場を盛り上げると物事が円滑に動きますし、誰もがハッピーでいられます。

華やかさの裏で、起きていること
―嬉しいのはどういう瞬間ですか。
瀬野康亮(以下、瀬野):デザイナーに会えたことが今までで一番嬉しかったですね。特に、RICK OWENSというブランドが昔からずっと好きで。国内トップクラスのラインナップを扱わせてもらっているブランドなんですけど、展示会場でたまたまお会いできる機会があったんです。ご本人が現場にいらっしゃること自体がかなり珍しいので、その場面に出くわした時はめちゃめちゃテンションが上がりました。
なんかもう、すごく嬉しくて子供みたいにはしゃいじゃいましたね。実際の身長は180センチくらいのはずなんですけど、そのときは250センチくらいに見えました(笑)。僕にとって神様みたいな人だったので、本当に存在したんだ、という感じでしたね。
―逆に、現地で、焦ることはありますか。
Meg:思うようにピックアップできないときですね。コレクションは、行ってみないと本当にわからないので。基本はトータルで見たいんです。Tシャツだけいいものがあっても、パンツや靴とのバランスも見て、全体的な世界観をお客さまに提案したいと思っています。だから「Tシャツしかないやん」というときは、ちょっと冷や汗かきますね。
―その他には何かありますか?
Meg:今までサンプルを着れていたのに、今回から着れない、ということもありますね。写真も、前のシーズンまではOKだったのに、今回から急にNGになったりします。
そういうときは、やっぱり手書きのメモが役立ちます。前のシーズンのものを参考にして、臨機応変に進めていきます。

目で見て、手で触って、着て決める
―AYINで、絶対に外せない基準はありますか。
Meg:当初から長年やっているのは、絶対に試着するということですね。どんなに小さいブランドでも、大きいブランドでも、関係なく試着します。お客さまに提案するということは、自分たちが絶対的にわかっていないと、やっぱり伝えられません。
―着ることで、何が変わるのでしょう。
Meg:着ないとわからないことがすごく多いんです。私たちが現地に行って、目で見て、手で触って、服を着て感じれば、全部伝えられるんですよね。いいこともそうでないことも、そのまま。
―服をピックアップするとき、最初にどこを見ますか。
関:まずデザインですね。その上で、素材に触れます。僕はAYINに入る前、ビンテージの古着屋で10年くらい働いていて、買い付けでアメリカにも行っていたんです。同じTシャツが山のようにある中から、触って良し悪しを見分ける、というのをずっとやってきました。
コットンでもレザーでもそうですけど、素材が良くないとやっぱりチープに見えてしまいますし、肌触りも悪くなります。
デザインがいいなと思ったものは、可能なかぎり全部試着します。そのうえで、着心地や着たときのシルエットの出方を見ますね。
―AYINならではだと感じる買い付けはありますか。
関:一般的な買い付けだと、たとえばSからXLまで1枚ずつ、みたいなオーダーが多いと思うんです。僕らはやり方が違っていて、Sからある中でもLからかっこよくなる、という見方をします。だから、実際に着てみないと決められないんですよ。

AYINの「枠」から外れたものは選ばない
―買い付けで、失敗したと感じることはありますか。
関:試着までして、そこで失敗したなというのはないですね。あれだけ時間をかけて選んできているので、お店に並べるものに関しては商品に自信があります。
―その判断軸は、どうやって身につけたのですか。
関:お店の世界観というか、枠みたいなものがあるんですよ。まず、その枠を理解するのが一番大事かなと思います。そこから外れたものは絶対にピックアップしません。
―流行を追う、ということではないのですね。
Meg:流行っているからこれを選ぶ、ということではなくて、そのブランドならではのものをピックアップする、というところですね。AYINとして譲れない部分は守りつつ、でも流行りを抑えないといけない。そこをバランスをとりながら選んでいます。
―その感覚は、どこで身につくものですか。
Meg:見ながら覚えていく、という感じですね。あまり言葉で説明することはないんですけど、続けていると自然と同じ考えにたどり着いている、という感覚かもしれません。
パリに行くメンバーだけでなく、店頭に立つスタッフにも同じ感覚を持てるよう普段から伝えるようにしています。

感覚を裏づける、地道な作業
―感覚以外で、バイイングで必要な力はありますか。
瀬野:数字の管理ですね。予算がすごく大事です。これは実際に買い付けを経験する中で、すごく大事だと感じるようになりました。ブランドごとに予算が決まっていて、予算が小さくなると、どれだけ商品がいっぱいあってもピックアップできるものは限られます。
―オーダーは、どういった単位で決めていくのですか。
瀬野:1品番1カラーずつ、サイズひとつにしてもすごく時間をかけます。その品番の販売実績を見てオーダーしていますね。ブランドによっては毎シーズン出ている定番があるので、その実績データも参考にします。
―なるほど。過去の実績を参考にするんですね。
瀬野:はい。それと半年後の予測ですね。半年後にどれくらい売れて、どれくらい残るか、というのを定番の全商品、全ブランドの実績として把握しておくんです。それに基づいてオーダーを決めます。単純にかっこいいから入れよう、ということではないんですよね。
過剰在庫を抱えないように限られた予算の中でやっていくので、オーダーには時間をかけています。
―半年以上先のトレンドは、どうやって読んでいるのですか。
瀬野:いろんなメディアで、次はこれが来る、みたいな記事も結構見るんですけど、それがピタッとはまる、とはあまり感じたことがなくて。それより、100ブランド以上オーダーしていると、どのブランドも推しているカテゴリーやデザインに共通するものが見えてくるんですよ。来季は全体的にこういうものを推しているんだな、というのがわかってきます。
―プライベートでチェックしているものはありますか。
瀬野:無意識に見ているのは、やっぱり若い人の服装ですね。「おしゃれやなこの子」と思ったら、どういうサイズ感で着ているんだろう、とつい見てしまいます。感性的なところは若い世代のほうが掴む能力に長けていると思うので。こういう風に着たらかっこいいな、とわかった状態でバイイングに生かします。
僕達が選んだものは最終的にお客さまの手元に届くので、提案しやすいように着方を学ぶ、というところも意識していますね。

その一着がお客さまの手元に届くまで
―買い付けのとき、お客さまの顔は浮かびますか。
関:自分のお客さまももちろん浮かびますし、スタッフの顔が浮かぶときもありますね。この方が着たら似合うだろうな、と思いながら選んでいます。
―選んだ服を通して、お客さまにどんな変化を感じてほしいですか。
瀬野:お客さまによっては、提案したアイテムが「これはあんまり好きじゃない」という時がどうしてもあると思うんですよね。でも、それを「1回でいいから着てみて」と伝えると意外にはまったりするんです。
―そこから、選ぶ服の幅が広がっていくのですね。
瀬野:そうですね。今まで選んだことのなかったアイテムが意外に合う、というところも僕達から提案できます。いつも選んでいる洋服じゃなくて、他の洋服も選べるようになる。そういう変化をすごく楽しんでいただけるというのは、僕達の強みだと思いますね。
―お客さまから反応が返ってくることもありますか。
瀬野:そうですね。後日、友達と食事に行ったときに、友達からこのコーディネートを褒められた、という連絡をもらったときですね。写真付きで送ってきてくれたこともあって。販売をしていてめちゃめちゃよかったな、と素直に嬉しかったです。

3人が語る、バイヤーに必要な資質
―最後に、これからバイヤーを目指したいという方へメッセージをお願いします。
関:世間が思うバイヤー像として、センスがないとダメ、というイメージがあると思うんです。でも、そういうのって生まれ持ったものもあるじゃないですか。だから、素質がないとダメというわけではないと思うんです。
僕は、代表の髙木は天才肌だと思っています。逆に僕は自分がそうじゃないと思いますが、そこに近づこう、同じ感覚を持とうと思ったときに、いろんなところから吸収するようにしています。音楽だったり、映画だったり、家具ひとつ取ってもそうです。その好奇心がすごく大事だと思います。
―バイヤーになる前に、販売員として培っておくべきことはありますか。
関:好奇心と向上心ですね。まず、人に対して好奇心があって、お客さまに似合うのは何だろう、と相手の立場に立って考えられることが大切です。自分が売りたいと思うものを押すんじゃなくて、その方に何が似合うのかを考える。そうすると、お客さまがお友達から「それいいね」って褒めてもらえることもあるんですよね。
そういう経験があると、もっとお客さまに喜んでもらいたい、もっといい提案ができるようになりたい、っていう気持ちも出てくると思うんですよね。そういう向上心も大事だと思います。
―瀬野さんはいかがですか。
瀬野:バイヤーになるには、いろんなブランドを知っておかないといけない、知識を蓄えないといけない、と思う方はめちゃめちゃ多いと思うんです。
でも一番大事なのは、自分自身がいろんな服を着て、いろんな着方をして、楽しむことかなと思いますね。古着でもいいと思うし、どんなブランドでもいいと思うんです。それをすることで好き嫌いもなくなりますし、いろんなブランドを見たときにアイテムの良さが感覚でわかる部分が出てくると思うんです。知識よりも、まず自分で触れて着てみるというところを一番大事にしてもらいたいなと思います。
―Megさんからもお願いします。
Meg:最近は情報がすごく多いので、情報に流されずに、「服が好き」という一番最初の素直な気持ちを大切にしてほしいですね。そのうえで、周りの意見を聞くというのもすごく大事だと思います。
自分の中に芯を持っているのはもちろん大事なんですけど、それだけだとやっぱり偏ってしまうので。だから、柔軟に考えることも必要なんですよね。感性や信念を持ちながら、でも簡単にはブレない。ちょっと絶妙なバランスなんですけど。
だから、最初からこれは絶対無理とか、これは絶対売れない、と決めつけないようにすることが大切です。試してみないとわからないこともありますし、経験してみることでしか身につかない感覚もあると思います。
―なるほど。今からできることは何かありますか。
Meg:人と喋ることだと思います。相手が何を考えているか、何を必要としているか。学生さんでも友達同士の付き合いから学べることがあると思うので、販売員になる前から日々意識するのも、すごく大事だと思いますね。
―最後に、今後の展開を教えてください。
Meg:やっぱり地盤であり、私たちを育ててもらった大阪・南エリアを大事にしたいです。この街でお客さまと向き合ってきたからこそ、今があると思っています。だから、この場所で選んでもらえる店であり続けたいですね。
そのうえで、大阪で圧倒的なスケール感やスタッフ一人ひとりの個性を見せていきたい。そして、世界中の人に知ってもらえるセレクトショップでありたいと思っています。

■ AYINについて
2006年の創業以来、大阪を拠点に独自のポジションを築いてきたラグジュアリーセレクトショップ。取り扱いブランドは約130以上、そのほとんどが海外インポートブランドで構成されている。2026年1月には大阪・アメリカ村に天井高の開放的なワンフロア約330㎡の路面店「AYIN心斎橋店」をオープン。また、宮古島・池間島ではラグジュアリープールヴィラ「VILLA AYIN」も運営するなど、ファッションの枠を超えたライフスタイルブランドとして注目を集めている。
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