【調査速報】精神・発達障害があるLGBTQの92%が求職活動で困難を経験。また、76%が行政・福祉サービス利用における困難を経験。企業や支援職への理解促進や支援体制構築を求める声も。

ReBitは、精神・発達障害があるLGBTQの求職活動に関する調査を実施。困難の現状に応え、本年8月に、日本初のLGBTフレンドリーな就労移行(障害がある人の就職を支援する福祉サービス)を開所予定。

認定NPO法人 ReBit

認定NPO法人ReBitは、2021年5月1日(土)〜23日(日)に、「精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査」を実施しました。速報として、精神・発達障害がある性的マイノリティ(以下、LGBTQ)の求職時や、障害福祉サービス利用に関する現状と、具体性のある自由回答に寄せられた声を発表します。

なお、これらの困難の現状と支援を求める声に応え、2021年8月に新宿にて、日本初となるLGBTQなど多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリア」の設立を目指します。
  • <『精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査』:目的と意義>

LGBTQは社会の状況などからメンタルヘルスが悪化しやすく、LGBの25%、Tの35%がうつを経験するといいます(*1)。ReBitは2013年から、LGBTQなどマイノリティ3500名以上へキャリア支援をするなかで、精神・発達障害があるLGBTQからのご相談も多くいただきました。

一方で、精神・発達障害があるLGBTQは、性のあり方と障害の双方を、安心して伝えられる場が少なく、「いないこと」とされやすい存在です。だからこそ、困りごとの根幹を相談できなかったり、働く上での不安がさらに大きくなったり、医療・福祉へのアクセスに障壁が生じてしまうこともあります。

本調査では、精神・発達障害があるLGBTQの求職活動の現状を明らかにすることで、職場や行政・福祉サービスなどでの支援体制が改善される一助となることを願い、実施しました。
 
  • <『精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査』:速報>
2021年5月1日(土)〜23日(日)にて、インターネットで実施した『精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査』の回答者について、その年代、状況、セクシュアリティや障害の分布は、下記となります。なお、本調査は、260名にご回答いただき、うち有効回答206名を分析しました。
 


アンケート調査より見えてきた、精神・発達障害があるLGBTQが求職時に抱える不安や困難を、以下、5つのポイントにてまとめました。

1)求職時、性的マイノリティかつ障害があることに由来した不安や困難が多い
精神・発達障害があるLGBTQの92.5%が、求職活動やキャリア形成について、性のあり方や障害に由来した不安や困難を経験していました。上位項目として「各企業に性のあり方や障害への理解や、安全に働ける環境があるか分からず不安だった(54.5%)」、「性的マイノリティかつ障害がある社会人のロールモデルがいなかった、もしくは少なく不安だった(53.5%)」、「性のあり方と障害の両方を開示し、相談できる人・場がなかった、もしくは少なかった(50.8%)」「性的マイノリティかつ障害があるため、差別的言動やハラスメントを受けるかもしれないと不安だった(43.9%)」「求職活動で性のあり方と障害の両方を伝えたら、合否に影響するかもしれないと不安だった(38.0%)」などが挙げられました。
LGBTQであること、精神・発達障害があることの個別の困難に加え、インターセクショナリティ(交差性)により求職活動における不安・困難が多層化している様子が窺えます。
 

 

<自由回答>
・セクシュアリティや障害に理解があると明言している企業が地元では見つからず、自分が安心して働ける場所に就職するのは無理なのではと感じている。(20代、レズビアン、発達障害)
・精神疾患が悪化して自宅療養中。LGBTQであるだけでも仕事を探すのが困難ななか、精神疾患もあるとなるとさらに困難。自分のような存在が不安なく働ける世の中になってほしい。(20代・FtXトランスジェンダー/パンセクシュアル、精神障害)
・トランスジェンダーで発達障害だなんて伝えたら、どこにも採用されないだろうと思った。やっと入社した企業では発達障害の特性が強く出て、メールの送り間違いなどのミスで注意されることが多かった。「あなたがしっかりしないと今後LGBTQの人は採用できないな〜頑張って仕事しな」と上司から言われ、さらにプレッシャーに。入社3ヶ月で自律神経失調症になり、休職。入社半年で退職した。(30代、トランスジェンダー男性、発達障害)

​2)面接など選考時の、困難やハラスメント経験が多い
精神・発達障害があるLGBTQの88.2%が、面接などの選考時に、性のあり方や障害に由来した困難やハラスメントを経験していました。
性のあり方に由来した困難やハラスメントを経験していた回答者は、66.3%。その具体的な困難状況は、「選考時に、性のあり方を伝えられなかった・隠さなくてはならず困った」(32.1%)、「人事や面接官から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言を受けた」(23.5%)、「性のあり方に関連し、職場での不安や望む対応を、人事等に伝えられず困った」(21.4%)などが挙げられました。
障害に由来した困難やハラスメントを経験していた回答者は、82.9%。その具体的な困難状況は、「選考時に障害があることを伝えるべきか、どの範囲にすべきか困った」(41.7%)、「障害者雇用か一般雇用かどちらで求職活動をすべきか分からず困った」(35.8%)、「障害に関連し、職場での不安や望む対応を人事等に伝えられず困った」(29.9%)などが挙げられました。
性のあり方、精神・発達障害に由来した困難のいずれも、隠さなくてはならないことや開示範囲についての困難や、働く上で必要な対応を伝えられないこと、人事や面接官の無理解が、困りごとの上位となっています。
 

<自由回答>
・面接時に「今、彼女はいるの?」と聞かれたり、障害について伝えると「うちの企業では障害者には配慮ができないので、他を当たって」と言われた。(20代、ゲイ、精神障害/発達障害)
・採用面接時、障害とトランス女性であることを理由に、採用をする意志がないことを明言された。(50代、トランスジェンダー女性、精神障害)
・採用面接で突然、社長から「君はホモか?」と聞かれ、否定したが、就職してからも「ホモか?」と何度も聞かれ、体調を崩して出社できなくなり、退職した。(40代、ゲイ、精神障害)

3)応募企業への性のあり方や障害を開示していない
精神・発達障害があるLGBTQの72.8%が、「性のあり方と障害の両方を開示し、応募した企業はない」と回答。
多くが、応募時に複合的マイノリティであることを企業に伝えていない現状が明らかになりました。
性のあり方を、1社にも開示していない回答者は、61.7%。その背景として、「伝えたら、採用結果へ悪い影響があるかもしれないと思った」(55.4%)、「伝えたら、差別やハラスメントを受けるかもしれないと思った」(54.5%)などが挙げられました。
障害を、1社にも開示していない回答者は、46.4%。その背景として、「伝えたら、採用結果へ悪い影響があるかもしれないと思った」(77.3%)、「伝えたら、差別やハラスメントを受けるかもしれないと思った(45.5%)」などが挙げられました。
性のあり方、精神・発達障害を伝えなかった理由はいずれも、採用への悪影響や、ハラスメントへの恐れが挙げられ、「言わない」のではなく「言えない」状況があると考えられます。
 

 


<自由回答>
・性のあり方や病歴などひとつでも言えば、採用どころか地域で噂になり生活に支障が出る可能性もあり、言えない。(30代、FtXトランスジェンダー/パンセクシュアル、精神/発達障害)
・伝えたい気持ちはあるが、選考へ悪影響になるのではと考えて伝えられない。(30代、アセクシュアル、発達障害)

4)性のあり方かつ障害を開示して、キャリア相談をしづらい
精神・発達障害があるLGBTQの72.2%が、「求職時、性のあり方も障害も両方を開示してキャリアについて相談した経験がない」と回答。「相談した経験がある」と答えた21.9%を大幅に上回りました。特に、福祉関係者、ハローワーク等の公共の相談窓口、ケースワーカー等の行政職員の公的な支援サービスに、両方を開示し相談した回答者は、僅か11.8%でした。
 

 


なお、相談しなかった理由として、「どこに相談をしたらいいかわからなかった」(56.0%)、「開示したら、求職活動を進める上で不利になるかもしれないと思った」(50.7%)、「開示したら、差別的言動やハラスメントを受けるかもしれないと思った」(44.0%)など、安心して相談できる場所の不足や、相談した結果が差別やハラスメントにつながることへの恐れが挙げられました。
 


<自由回答>
・支援者から「女の子らしいね」「女の子だから力仕事はないよ」などとよく言われ、ここではセクシュアリティを開示し相談できないと感じた。(20代、レズビアン、精神障害)
・就労移行支援事業所で、身近なことから就職活動のことまで様々なことを相談していたけれど、セクシュアリティを開示して相談したことはない。支援員の自分を見る目や態度が変わったり理解のない言動をされるのではないかと不安だった。​(20代、バイセクシュアル、精神障害/発達障害)
・求職時に自己PRなどの添削をしてもらった際、ここで打ち明けてもいいのか迷ったけれど、今後の対応も怖く感じたため開示はしなかった。(20代、FtXトランスジェンダー/パンセクシュアル、精神障害/発達障害)

5)行政・福祉サービスが利用しづらい
障害や就労に関する行政・福祉サービスの利用経験があるLGBTQのうち76.8%が、行政・福祉サービス利用における不安や困難を経験していました。なお、困難の詳細として、「性のあり方に関連し、どこだったら安心して利用できるかわからなかった」(48.4%)、「性のあり方を伝えたら、利用を断られたり、不利な対応やハラスメントを受けるかもしれないと思った」(30.5%)、「支援者・職員が、性のあり方に関する知識や理解がなくて困った」(29.0%)、「利用者から、性的マイノリティでないことを前提とした質問や発言を受けた」(31.7%)など、安心して利用できる行政・福祉サービスがわからない、性のあり方を伝えたら利用を断られるのではと利用に関する不安や、支援者・職員や他利用者の無理解や否定的言動が挙げられました。
 


<自由回答>
・就労に関する障害サポートを受けた際、身だしなみについての講習があり、服装など男女別の細かいルールが記載された資料が配布され、辛かった。(20代、ジェンダークィア、精神障害/発達障害)
・特別支援学校に通っていたけど、性のあり方のせいで職業実習が一度も受けられなかった。(20代、トランスジェンダー男性、精神障害/発達障害)
・障害支援を行う施設や制度がLGBTQの想定を一切していないように感じる。LGBTQの存在を想定し運営してほしいし、居ないことにしないでほしい。生きるのも就職も大変で、もう生きていけないと感じています。(20代、トランスマスキュリン、精神障害/発達障害)
・履歴書に戸籍の性別を書かずに就職活動をしていたが、ハローワークで性別を記載するようにと指導を受けた。(40代、トランスジェンダー男性、発達障害)

なお、利用しやすい障害や就労に関する行政・福祉サービスの条件として、「支援者や職員が、性のあり方と障害への理解や配慮があること」(74.5%)、「ダイバーシティへ理解や配慮があることを明言していること」(70.3%)、「性のあり方と障害へ理解・配慮がある企業へ就職支援をしてくれること」(55.8%)などが挙げられました。
 


<自由回答>
・支援者に、障害者とLGBTQの両方に関する知識の両方を持っておいていただけると助かります。  発達障害があるLGBTQであると伝えると、「どうしよう」とオロオロされることが多いです。(20代、パンセクシュアル、発達障害)
・LGBTQや精神疾患など、見えづらいけれど確実にいる求職者のために、相談しやすい雰囲気作りや周知がなされていれば、もっと助かるなと思いました。(20代、FtXトランスジェンダー/パンセクシュアル、精神障害/発達障害)
・就労移行など障害福祉サービスにトランスジェンダーであることを開示することが不安で、相談できませんでした。障害フレンドリーだけでなく、LGBTQやダイバーシティにもフレンドリーであってほしい。(30代、トランスジェンダー男性、発達障害)
 
  • <『精神・発達障害がある性的マイノリティの求職活動に関する調査』:全体考察 〜複合的マイノリティのキャリア形成と支援における課題と今後に向けて〜>

1)精神・発達障害があるLGBTQは、求職時における困難が多いが、相談しづらいことからも可視化しづらい現状があります。
精神・発達障害があるLGBTQは、求職時における不安・困難を経験する割合が高く、インターセクショナリティ(交差性)により、その不安・困難がより多層化している様子が窺えまました。一方で、差別等を恐れ、精神・発達障害があるLGBTの多くが、キャリア相談においてそれらを開示しておらず、そもそも相談先につながれていない状況があります。精神・発達障害があるLGBTQが自身の存在や困りごとを「言えないこと」が社会的に「いないこと」とならないよう、調査等を通じ支援ニーズや現状を継続的に可視化し、社会で議論を深めていく必要があると考えられます。

2)精神・発達障害があるLGBTQの困難解消には、企業や支援職への理解促進や支援体制構築が必要です。
困難解消のために、人事・面接官の理解促進や職場環境整備の促進など、企業の取り組みは重要です。また、障害や就労に関する行政・福祉サービスの利用における困難経験が高い現状は、LGBTQが社会のセーフティーネットからこぼれ落ちてしまっている、喫緊の課題を浮き彫りにしています。行政・支援職の理解促進や連携を通じ、LGBTQも行政・福祉サービスを安心して利用できる体制構築が急がれています。

3)より詳細なご報告は、オンライン報告会にて行います。
日時:7月10日(土)19時〜20時
内容:
・代表理事の藥師実芳による、調査報告
・ダイバーシティキャリアのサービス管理責任者による、事業所説明
配信:認定NPO法人ReBitのYouTubeチャンネル
   https://www.youtube.com/channel/UC2vXCRaNmWDg_z7OiG896LA/featured

 

  • 日本初、LGBTQなど多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所『ダイバーシティキャリア』の設立
これらの困難の現状と支援を求める声に応え、ReBitは、日本初のLGBTQなど多様性にフレンドリーな就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリア」を2021年8月に新宿にて開所を目指しています。
なお、就労移行支援事業所とは、障害や疾患がある人の就職・定着支援を目的として行われる障害福祉サービスの1つです。キャリア形成に関する講座の受講や、コミュニケーションやパソコンスキル等のビジネススキルの向上、面接練習や履歴書添削などの就職支援を受けることができます。
ダイバーシティキャリアでは、これまで3500名を超えるLGBTQやマイノリティへキャリア支援を提供してきたReBitのノウハウを活かし、ちがいをもつ誰もが、自分らしい生き方・働き方を探せるよう、一人ひとりの就職に伴走・応援します。
 


<概要>
・場所:東京都新宿区新宿1丁目
・開所:2021年8月(予定)
・時間:平日9:00~18:00(訓練時間は10:00~15:00)
・主対象:精神・発達障害、後天性免疫不全症候群(HIV)など、障害や疾患がある方。障害以外もマイノリティ性がある「複合的マイノリティ」の方も歓迎です。(定員20名)
・詳細:https://diversitycareer.org
※障害者総合支援法に基づく就労支援事業のひとつで、約9割の人が無料(0円)で利用しているサービスです。
※現在設立に向けた、クラウドファンディングを実施しています(https://rebitlgbt.org/diversitycareer_campaign)。
 
  • 認定特定非営利活動法人ReBit代表理事 藥師実芳(31歳)の想い

 

私自身、トランスジェンダーで発達障害(ADHD)があります。

前職でADHD特有のミスや、トランスジェンダーであることによるハラスメントが重なり、メンタル不調になった際、「ああ、相談できる人も場もない」と感じたひとりでもあります。

これまで3500名を超えるLGBTQやマイノリティのキャリア支援を行うなかで、「あの頃の私」とたくさん出会いました。複合的マイノリティであることで、求職時にハラスメントを受けたり、やっとの想いでつながった福祉サービスが安全に利用できなかったり、それらのことで生きること自体に絶望し、亡くなった仲間もいます。
そして、コロナ禍でその困難や困窮の状態がどんどん加速していくことを肌身で感じ、自分たちができることを模索し続けた結果、「LGBTQと障害福祉の架け橋」となるべく就労移行支援事業所の設立に踏み出しました。

就労移行支援事業所「ダイバーシティキャリア」の設立が、これまで可視化されづらかった精神・発達障害があるLGBTQをはじめ、さまざまな複合的マイノリティの「自分らしい生き方・働き方」を実現する場となれるよう、精一杯励みます。また、この実践が複合的マイノリティも安心安全に利用できる福祉サービスとはなにかとの問いを深め、議論を活発化する一助となることを願っています。
また、本調査にお声を届けてくださったみなさま、お力添えをいただいたみなさまに、心より御礼を申し上げます。
 
  • 認定特定非営利活動法人ReBit(りびっと)概要

LGBTQの子ども・若者特有の困難解消と、多様性を包摂する社会風土の醸成を通じ、LGBTQを含めた全ての子どもがありのままで大人になれる社会の実現を目指す、認定NPO法人(代表理事 藥師実芳、2014年3⽉認可)。
企業・行政・学校などで1300回以上、LGBTQやダイバーシティに関する研修を実施。また、マイノリティ性をもつ就活生/就労者等、約3500名超のキャリア支援を行う。2016年より、ダイバーシティ&インクルージョン推進をテーマとした国内最大級のキャリアカンファレンス「RAINBOW CROSSING」を運営する。
◎公式HP:https://rebitlgbt.org/

※1:特定非営利活動法人虹色ダイバーシティ、国際基督教大学ジェンダー研究センター(2015)「LGBTに関する職場環境アンケート」
※2:ReBit(2020)「LGBTや性的マイノリティの就労移行支援事業所利用に関する調査」​
※本リリースでは、「障がい者」を「障害者」と表記しています。「障がい者」という表記の場合、音声ブラウザやスクリーン・リーダー等で読み上げる際、「さわりがいしゃ」と読み上げられてしまう場合があるためです。
※本リリースでは、調査の自由回答を一部編集・補足し、掲載しています。
 

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業種
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本社所在地
東京都渋谷区代々木3-26-2 新宿カメヤビル4階
電話番号
03-6278-9909
代表者名
藥師実芳
上場
未上場
資本金
-
設立
2009年12月