水素ガスは副作用のない新規な抗がん物質である
MiZ株式会社は、カルフォルニア大学バークレー校および慶應義塾大学・武藤佳恭名誉教授と共同で、「新規な抗腫瘍物質としての水素分子:遺伝子発現に基づくメカニズムの可能性」と題した総説論文を発表しました。
がんに対する薬物療法は重要な治療法の一つですが、効果や副作用の問題から満足できる結果は得られていません。がんは主として細胞内にある核の遺伝子変異により起こり、この変異を起こす「主犯格」は悪玉活性酸素のヒドロキシルラジカルです。水素は、この核内で生成されたヒドロキシルラジカルを消去することができるので、がんを退縮させることができます。著者らは、国際英文誌に掲載された水素の抗がん効果に関する動物試験や臨床試験の論文23報を調査して、水素が副作用のない新規な抗がん物質であることを示しました。また、同時に水素が遺伝子変異を改善してがんを退縮させるメカニズムを提唱しました。
本論文は、2021年8月13日にスイスを拠点する出版社・MDPIが発行する国際科学誌「International Journal of Molecular Science」(インパクトファクター: 5.9)で発表されました。
がんに対する薬物療法は重要な治療法の一つですが、効果や副作用の問題から満足できる結果は得られていません。がんは主として細胞内にある核の遺伝子変異により起こり、この変異を起こす「主犯格」は悪玉活性酸素のヒドロキシルラジカルです。水素は、この核内で生成されたヒドロキシルラジカルを消去することができるので、がんを退縮させることができます。著者らは、国際英文誌に掲載された水素の抗がん効果に関する動物試験や臨床試験の論文23報を調査して、水素が副作用のない新規な抗がん物質であることを示しました。また、同時に水素が遺伝子変異を改善してがんを退縮させるメカニズムを提唱しました。
本論文は、2021年8月13日にスイスを拠点する出版社・MDPIが発行する国際科学誌「International Journal of Molecular Science」(インパクトファクター: 5.9)で発表されました。
1. なぜ「がん」は発生する?
ヒトの身体は約37兆個の細胞で構成されていますが、体内では1日当たり約1兆個の細胞が死に、約1兆個の細胞が新しく生まれています。これらの細胞はDNAの遺伝情報に基づき作られますが、これらの正常な細胞の遺伝子に様々な要因により数個の変異(突然変異)が生じてがん細胞に進展します。健康なヒトであっても体内で毎日数千個のがん細胞が生まれています。変異した細胞の全てががん細胞になる訳ではなく、この遺伝子変異が多段階の変化を経てがんに進展します。すなわち、ヒトの身体には細胞分裂を一時的に停止し、コピーミスがあるかないかをチェックし、もし修復可能なミスであれば修復を試み、修復が不可能であればその細胞を自死させる機構(アポトーシス)があります。また、がん化を促進させるがん遺伝子とがん化を抑制させるがん抑制遺伝子があります。しかし、通常は活性化されているがん抑制遺伝子が不活化されれば、細胞分裂の停止が起こらないだけでなく、異常な細胞がアポトーシスを起こさず、がん細胞が生まれ増殖します。しかし、通常の場合、がん抑制遺伝子の異常で生まれたがん細胞の多くは体内の免疫システムにより排除されますが、加齢や生活習慣の悪化により体内の免疫システムの働きが不十分であると、がん細胞が増殖します。このがん細胞が増殖し0.5~1 cmの大きさになって目視できるようになると、がんと呼ばれます。
2. 水素の「がん」に対する有効性は多くの論文で報告されている
水素のがんに対する有効性は合計23報の論文に掲載されています。すなわち、培養がん細胞に対する有効性を調べた論文(6報)、実験動物にヒトがん細胞または動物由来のがん細胞を移植したモデルに対する有効性を調べた論文(5報)、実験動物に紫外線または放射線を照射して誘発させたモデルに対する有効性を調べた論文(2報)、実験動物に高脂肪食を与えて非アルコール性脂肪性肝炎を誘発させ、肝臓がんへの進展に対する有効性を調べた論文(1報)です。また、がんの増殖過程には血管新生を伴うことより、培養細胞の血管新生に及ぼす有効性を評価した論文(1報)もあります。
一方、ヒトのがんに対する水素の有効性は合計8報の論文で報告されています。この中でも肺がん、肝臓がん、膵臓がんなどの82人の患者に対する水素ガスの吸入療法を1日当たり3時間以上、3ヵ月以上継続して行ったChenらの論文は特筆に値します。すなわち、34%の患者は水素ガス吸入のみの治療でしたが、残りの66%の患者は少量の抗がん剤数種を水素ガス吸入の他に補助的に使用しました。その結果、4週間後に疲労、不眠症、食欲および痛みなどのQOL(生活の質)の改善が41.5%の患者で確認されました。水素吸入後21~80日で完全寛解と部分寛解が現れ、全体の病状制御率は57.5%でした。病状制御率は、ステージIIIの患者がステージIVの患者よりも有意に高く(それぞれ83.0%、47.7%)、最も病状制御率が低かったのは膵臓がんの患者でした。この結果から、Chenらは水素ガスの吸入はがん患者のQOLを向上させ、がんの進行を抑制することができる治療法であると結論しました。
3. なぜ、水素は「がん」に有効か?
ヒトは呼吸で1日当たり大量の酸素を消費しています。しかし、この過程で2~3%の活性酸素種が体内で生産されます。通常は活性酸素種の生成システムと消去システムのバランスがとれていますが、喫煙、飲酒、大気汚染、紫外線や放射線の暴露、激しい運動、肉体的や心理的なストレスなどで活性酸素種が過剰に産生されると酸化ストレスが惹起され、様々な有害作用が起こります。狭い意味での活性酸素種には、スーパーオキサイド、過酸化水素、一重項酸素およびヒドロキシルラジカルの4つがありますが、最も酸化力が強く「悪玉活性酸素」と呼ばれるものはヒドロキシルラジカルです。ヒドロキシルラジカルは脂質、タンパク質、DNAなどを酸化して障害を起こします。ヒドロキシルラジカルが最も多く生成される場所はミドコンドリアですが、ヒドロキシルラジカルは半減期が非常に短いため、このヒドロキシルラジカルが核に影響を及ぼすことはありません。核内DNAに障害を与え遺伝子変異を起こさせるのは核内で生成されたヒドロキシルラジカルです。水素はこの核内で生成されたヒドロキシルラジカルを消去して無毒化し水に変換しますので、発がんの原因となる遺伝子変異を防御することが可能です。ただ、これは水素のヒドロキシルラジカルに与える直接作用であり、水素の遺伝子発現を介した抗炎症作用、抗酸化作用、細胞致死作用などの間接作用も無視することはできません(図1)。
4. 水素は新規な抗がん物質として有望である
水素が抗がん効果を示すことを最初に報告したのは1975年のDoleらの報告ですので、研究の歴史は非常に古いです。しかし、水素が特に動物試験およびヒト臨床試験で抗がん作用を示すことが報告されたのは最近であり、これまで水素の抗がん作用については注目されてきませんでした。本総説で概説したように水素は各種の細胞モデル、動物モデルおよびヒト臨床試験で優れた抗がん効果を示しました。また、水素による抗がん効果のメカニズムも解明されつつあります。水素の医療応用に関する論文の報告数は1,000報を超え、またその中に含まれるヒト臨床試験の報告も80報を超えています。水素は様々な疾患に対する有効性が高く、安全性の問題が無いことはこれらの論文からも裏付けられています。がんに対する化学療法の分野で核酸医薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新しい医薬品が開発されていますが、有効性や安全性に対する問題点は多いです。従って、新規抗がん物質としての臨床応用により水素はがんに対する新しい分野を開拓することができます。
論文
英文タイトル:Molecular Hydrogen as a Novel Antitumor Agent: Possible Mechanisms Underlying Gene Expression
和訳:新規な抗腫瘍剤としての水素分子:遺伝子発現に基づくメカニズムの可能性
著者名:平野伸一1、山本 暖2,3、市川 祐介1,2、佐藤 文平1,2、武藤 佳恭4,5、佐藤 文武1
所属:1、MiZ株式会社研究開発部、2、MiZ Inc、3、カルフォルニア大学・バークレー校、4、慶應義塾大学、5、武蔵野大学データサイエンス学部
掲載誌:International Journal of Molecular Science, 2021, 22, 8724
URL: https://doi.org/10.3390/ijms22168724
ヒトの身体は約37兆個の細胞で構成されていますが、体内では1日当たり約1兆個の細胞が死に、約1兆個の細胞が新しく生まれています。これらの細胞はDNAの遺伝情報に基づき作られますが、これらの正常な細胞の遺伝子に様々な要因により数個の変異(突然変異)が生じてがん細胞に進展します。健康なヒトであっても体内で毎日数千個のがん細胞が生まれています。変異した細胞の全てががん細胞になる訳ではなく、この遺伝子変異が多段階の変化を経てがんに進展します。すなわち、ヒトの身体には細胞分裂を一時的に停止し、コピーミスがあるかないかをチェックし、もし修復可能なミスであれば修復を試み、修復が不可能であればその細胞を自死させる機構(アポトーシス)があります。また、がん化を促進させるがん遺伝子とがん化を抑制させるがん抑制遺伝子があります。しかし、通常は活性化されているがん抑制遺伝子が不活化されれば、細胞分裂の停止が起こらないだけでなく、異常な細胞がアポトーシスを起こさず、がん細胞が生まれ増殖します。しかし、通常の場合、がん抑制遺伝子の異常で生まれたがん細胞の多くは体内の免疫システムにより排除されますが、加齢や生活習慣の悪化により体内の免疫システムの働きが不十分であると、がん細胞が増殖します。このがん細胞が増殖し0.5~1 cmの大きさになって目視できるようになると、がんと呼ばれます。
2. 水素の「がん」に対する有効性は多くの論文で報告されている
水素のがんに対する有効性は合計23報の論文に掲載されています。すなわち、培養がん細胞に対する有効性を調べた論文(6報)、実験動物にヒトがん細胞または動物由来のがん細胞を移植したモデルに対する有効性を調べた論文(5報)、実験動物に紫外線または放射線を照射して誘発させたモデルに対する有効性を調べた論文(2報)、実験動物に高脂肪食を与えて非アルコール性脂肪性肝炎を誘発させ、肝臓がんへの進展に対する有効性を調べた論文(1報)です。また、がんの増殖過程には血管新生を伴うことより、培養細胞の血管新生に及ぼす有効性を評価した論文(1報)もあります。
一方、ヒトのがんに対する水素の有効性は合計8報の論文で報告されています。この中でも肺がん、肝臓がん、膵臓がんなどの82人の患者に対する水素ガスの吸入療法を1日当たり3時間以上、3ヵ月以上継続して行ったChenらの論文は特筆に値します。すなわち、34%の患者は水素ガス吸入のみの治療でしたが、残りの66%の患者は少量の抗がん剤数種を水素ガス吸入の他に補助的に使用しました。その結果、4週間後に疲労、不眠症、食欲および痛みなどのQOL(生活の質)の改善が41.5%の患者で確認されました。水素吸入後21~80日で完全寛解と部分寛解が現れ、全体の病状制御率は57.5%でした。病状制御率は、ステージIIIの患者がステージIVの患者よりも有意に高く(それぞれ83.0%、47.7%)、最も病状制御率が低かったのは膵臓がんの患者でした。この結果から、Chenらは水素ガスの吸入はがん患者のQOLを向上させ、がんの進行を抑制することができる治療法であると結論しました。
3. なぜ、水素は「がん」に有効か?
ヒトは呼吸で1日当たり大量の酸素を消費しています。しかし、この過程で2~3%の活性酸素種が体内で生産されます。通常は活性酸素種の生成システムと消去システムのバランスがとれていますが、喫煙、飲酒、大気汚染、紫外線や放射線の暴露、激しい運動、肉体的や心理的なストレスなどで活性酸素種が過剰に産生されると酸化ストレスが惹起され、様々な有害作用が起こります。狭い意味での活性酸素種には、スーパーオキサイド、過酸化水素、一重項酸素およびヒドロキシルラジカルの4つがありますが、最も酸化力が強く「悪玉活性酸素」と呼ばれるものはヒドロキシルラジカルです。ヒドロキシルラジカルは脂質、タンパク質、DNAなどを酸化して障害を起こします。ヒドロキシルラジカルが最も多く生成される場所はミドコンドリアですが、ヒドロキシルラジカルは半減期が非常に短いため、このヒドロキシルラジカルが核に影響を及ぼすことはありません。核内DNAに障害を与え遺伝子変異を起こさせるのは核内で生成されたヒドロキシルラジカルです。水素はこの核内で生成されたヒドロキシルラジカルを消去して無毒化し水に変換しますので、発がんの原因となる遺伝子変異を防御することが可能です。ただ、これは水素のヒドロキシルラジカルに与える直接作用であり、水素の遺伝子発現を介した抗炎症作用、抗酸化作用、細胞致死作用などの間接作用も無視することはできません(図1)。
4. 水素は新規な抗がん物質として有望である
水素が抗がん効果を示すことを最初に報告したのは1975年のDoleらの報告ですので、研究の歴史は非常に古いです。しかし、水素が特に動物試験およびヒト臨床試験で抗がん作用を示すことが報告されたのは最近であり、これまで水素の抗がん作用については注目されてきませんでした。本総説で概説したように水素は各種の細胞モデル、動物モデルおよびヒト臨床試験で優れた抗がん効果を示しました。また、水素による抗がん効果のメカニズムも解明されつつあります。水素の医療応用に関する論文の報告数は1,000報を超え、またその中に含まれるヒト臨床試験の報告も80報を超えています。水素は様々な疾患に対する有効性が高く、安全性の問題が無いことはこれらの論文からも裏付けられています。がんに対する化学療法の分野で核酸医薬や免疫チェックポイント阻害剤などの新しい医薬品が開発されていますが、有効性や安全性に対する問題点は多いです。従って、新規抗がん物質としての臨床応用により水素はがんに対する新しい分野を開拓することができます。
論文
英文タイトル:Molecular Hydrogen as a Novel Antitumor Agent: Possible Mechanisms Underlying Gene Expression
和訳:新規な抗腫瘍剤としての水素分子:遺伝子発現に基づくメカニズムの可能性
著者名:平野伸一1、山本 暖2,3、市川 祐介1,2、佐藤 文平1,2、武藤 佳恭4,5、佐藤 文武1
所属:1、MiZ株式会社研究開発部、2、MiZ Inc、3、カルフォルニア大学・バークレー校、4、慶應義塾大学、5、武蔵野大学データサイエンス学部
掲載誌:International Journal of Molecular Science, 2021, 22, 8724
URL: https://doi.org/10.3390/ijms22168724
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