新生児死亡に関する報告書を発表~世界では年間100万の新生児が、生まれたその日に死亡~
子ども支援の国際NGOセーブ・ザ・チルドレンは25日、最新の報告書「新生児の死亡に終止符を(Ending Newborn Deaths)」を発表し、世界では年間100万以上の新生児が生まれたその日に亡くなっており、新生児にとって生後24時間以内が最も命の危険が高い状態であることを明らかにしました。その上で、新生児死亡の主な原因は、早産や、長時間の分娩・子癇前症(妊娠中毒症)・感染症などの合併症によるもので、新生児死亡の半数は、母親と新生児が無料の保健医療サービスを受けることができ、訓練を受けた助産師の立ち会いがあれば、防げるものであることを示しました。
さらに、出産時の赤ちゃんの心臓停止による死産は年間120万件にものぼり、これは母体の合併症、感染症、高血圧性障害などが主な原因であることも明らかになりました。
セーブ・ザ・チルドレンは、こうした新生児の死亡や死産をなくすため、訓練を受け必要な機材を持ったヘルスワーカーの数を増やして全ての出産が専門家の立ち会いの下で行われるようにすること、また妊娠や出産に関わる全ての保健医療サービスの利用者負担を無料化することを中心とした「新生児のための5つの約束(The Five Point Newborn Promise)」を推進するよう、世界各国の指導者たちに求めます。
子どもの死亡率を大幅に減少させることにおいて、国際社会は過去10年の間に目覚ましい進歩を遂げました。予防接種の実施、肺炎・下痢・マラリアに対する適切な治療、家族計画の普及、そして栄養改善といった分野に世界が政治的に取り組んだことで、子どもの死亡数を年間1,200万人から660万人まで、ほぼ半数に減らすことに成功しました。
しかし、本報告書によって5歳未満の子どもの死亡のおよそ半数が出生後28日未満の新生児であることが明白になった今、極めて高い新生児の死亡率の問題に早急に取り組まなければ、この10年の進歩は停滞することになります。
「生まれてから24時間が、赤ちゃんにとっても最も命の危険が高いのです。にもかかわらず、多くの妊婦が自宅の一室や野外の茂みで、緊急時の助けもなく、たった一人で出産しています。陣痛が始まった妊婦が、助けを求めて何時間もさまよい歩き、最終的に赤ちゃんを死なせてしまうという悲しい話もよく耳にします。出産を安全に行い、緊急時に適切な対処ができる専門家の立ち会いさえあれば防げるこうしたケースを放置しておくことは、非道であると言わざるを得ません。」セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン政策提言マネージャー堀江由美子
毎年4,000万人もの妊婦が専門家のサポートなしに出産をしています。例えば、エチオピアでは、出産時に医療サポートを受けられる妊婦は全体のたった10%です。アフガニスタンの地方によっては、1万人に1人の助産師しかいない地域もあります。また、コンゴ民主共和国や中央アフリカ共和国では、帝王切開手術などの出産時の緊急医療サービスがひと月分の食費と同額にもなるため、支払いが完了するまで、出産後に何ヶ月も牢屋のような場所に閉じ込められる母親たちのケースが報告されています。
「これらの統計は、新生児が置かれている危機的状況の深刻さを始めて明るみに出しました。解決策は既に誰もがわかっていることですが、この世に生を受けた新生児たちに24時間を超えて生き延びる機会を与えるための、更なる政治的取り組みが必要です。目標を定めた行動を起こさなければ、ワクチン接種や栄養不良の改善といった施策で成し遂げてきた子どもの死亡率の減少が、ここで止まってしまうことになります。」堀江由美子
セーブ・ザ・チルドレンは、2014年、世界各国の指導者、慈善活動家、民間セクターの関係者に対し、次の「新生児のための5つの約束」を推進するよう求めます。
1)各国政府とそのパートナーが、予防可能な新生児死亡に終止符を打ち、年間200万の新生児の命を救い、120万の死産を予防することを宣言すること。
2)各国政府とそのパートナーが、2025年までに全ての出産が、訓練を受け必要な機材を持ったヘルスワーカーの立ち会いのもとに行われること。
3)各国政府が世界保健期間(WHO)の定める最低基準である国民一人あたり年間60ドル以上の公共支出を保健に配分し、保健人材の育成を行うこと。
4)各国政府が緊急産科ケアを含む母子保健サービスの利用者負担を無料化すること。
5)製薬企業を含む民間セクターが、最も貧しい人にもアクセスできる母子の健康のための革新的な製品を開発し、そのアクセスを向上させること。
以上
報告書(英語): http://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/1417/1393294210115.pdf
報告書概要和訳: http://www.savechildren.or.jp/scjcms/dat/img/blog/1417/1393292933854.pdf
備考
1. セーブ・ザ・チルドレンとジョイ・ローンが行った共同調査によると、2012年に1,013,000人の赤ちゃんが出生したその日に亡くなった。本件は、2014年5月に発行されるランセット・グローバル・ヘルスの掲載記事にて発表予定である。
2. セーブ・ザ・チルドレンは、新生児死亡削減のための国際社会の行動計画「すべての新生児に関する行動計画(Every Newborn Action Plan – ENAP)」の策定に関わっている。この行動計画は、新生児死亡の3分の2の削減を目標とする。2012年の新生児死亡数は290万であった。もし2012年にENAPの目標である新生児死亡の3分の2の削減が達成されていれば、約200万人の新生児が救われたことになる。そのうち、出生日の死亡が予防できる割合を特定することは難しいが、ENAPのドラフトでは、陣痛および出産中の専門的介助と合併症への迅速な対応で新生児死亡の50%、出産中の死産の45%を予防できることが示されている。これは実質出生日の死亡となるため、半分が予防できると言える。
3. 2011年の世界助産師白書(UNFPA)によると、出産中の死産は陣痛が起きて以降の胎児の死と定義される。出産中の死産率については、以下を参照した:Lawn JE, Blencowe H, Pattinson R, et al. Stillbirths: Where? When? Why? How to make the data count? Lancet 2011; 377(9775): 1448-63. http://www.thelancet.com/series/stillbirth。出産中の死産の合計数は、国連人口局の出生数と生児出生数の最新推計値から2012年の数を出した。死産とは、赤ちゃんが死亡した状態で生まれることまたは妊娠28週(6ヶ月)以降の胎児の死を指す。
2009年の死産の数は世界で260万人であった。本報告書では、このうち45%の120万人が陣痛および出産中に死亡したことに焦点を当てている。これは、陣痛前には子どもの心臓は動いていたが、陣痛または出産の過程で停止したということである。
4. 世界の5歳未満児の死亡数は、1990年の1,260万人から2012年には660万人に削減された。参考:United Nations Inter-agency Group for Child Mortality Estimation. Levels and trends in child mortality: Report 2013. New York, USA: UNICEF, 2013. http://www.childinfo.org/files/Child_Mortality_Report_2013.pdf。
5. 2012年に亡くなった5歳未満の子ども660万人のうち、約半数の290万人が出生後28日以内の新生児期に亡くなった。参考:United Nations Inter-agency Group for Child Mortality Estimation. Levels and trends in child mortality: Report 2013. New York, USA: UNICEF, 2013. http://www.childinfo.org/files/Child_Mortality_Report_2013.pdf。
6. 専門的な訓練を受けたヘルスワーカーの介助を得ない出産の数は、WHO Global Health Observatoryのデータを使った。生児出生の数は世界子ども白書(ユニセフ)のデータを使った。
7. 可能な限り、最新の統計を使うようにした。アフガニスタンの助産師の数は、2010年の世界銀行のデータを使い(http://data.worldbank.org/indicator/SH.MED.NUMW.P3)エチオピアの介助を伴う出産数は2011 Global Health Observatoryを使った。
8. 一年間で命を救われる新生児200万人の算出方法は、2.を参照のこと。
■ セーブ・ザ・チルドレンについて
1919年設立。子ども支援の世界的リーダーとして、国連経済社会理事会(UN ECOSOC)のNGO最高資格である総合諮問資格(General Consultative Status)を取得。日本を含め、世界30カ国の独立したセーブ・ザ・チルドレンがパートナーシップを結び、現在、約120の国と地域で活動しています。
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