日本再生医療学会、間葉系幹細胞等の経静脈内投与の安全な実施への提言を発表
幹細胞の経静脈的投与により何らかの疾病等が発生した場合、患者の状態、提供体制等について問題がなかったか、各提供機関で確認し、迅速に必要な措置を講じることを求める。投与時、および投与後の経過観察を行うことはもちろん、後発的副反応なども考慮し、必要に応じて入院による医療措置の必要性を検討することのほか、入院可能施設の確保は必要であり、さらに後発的な副反応をモニタリングするため、一定期間内の定期的受診は必須である。特に、投与した細胞により肺塞栓、心筋梗塞や脳梗塞などの塞栓を生じた場合、一旦閉塞が解除されても後に別の箇所で捕捉される可能性が考えられるため、投与中に症状を生じた場合は、症状が治まっても入院管理が必要である。
1. 患者への適切な説明
インフォームドコンセント関連
幹細胞の経静脈的投与の実施にあたり、実施責任者または担当医は、患者本人または代諾者に対し、届出された同意説明文書を用いて説明を行い、同意を得る。同意説明に際しては、同意説明文書に再生医療等安全性確保法施行規則に定める必須事項が含まれていることのほか、以下のポイントについてチェックする。
チェックすべきポイント
□ 認定再生医療等委員会に提出された同意説明文書を使って正しく患者やドナーに説明しているか
□ 細胞採取および投与についてその危険性を十分に文書で説明しているか
□ 特に塞栓症の可能性についても説明されているか
□ 患者に説明したことをカルテに記録されているか
□ 補償制度について検討されているか
□ 体調の異変や緊急事態、苦情について、いつでも対応できる連絡先が説明文書に記載されているか
□ 何らかの疾病等が生じた場合の適切な対応、緊急実施体制が説明されているか
□ 採取した細胞が使用できないこともあることを説明されているか
上記を実施するため推奨すべきチェックすべきポイント
① 基本的な実施施設の体制
□ 病院の場合は院内の委員会などが設置されて責任体制を明確にすべきである
スタッフの少ないクリニックでも経験の豊富な医師が責任を持って管理すべきである
□ 採取の責任体制が明確にされているか
□ 緊急時の連絡網が整備されているか
□ 日本再生医療学会や日本輸血・細胞治療学会の認定医や認定施設により提供されることが望ましい
② 実施体制の整備
□ 十分な経験をもつ医療スタッフによる監視体制が整っているか
□ 採取中のドナーの容態急変に備えて心電図、酸素飽和度モニター、酸素供給システム、蘇生セット、救急医療品が整備されているか
□ 迅速に救急措置ができる医師が確保されているか。または救急施設にすぐに搬送できる体制ができているか
□ 採取における手順書などがマニュアル化されているか
□ 患者に対しては治療計画について明確に説明しているか
□ 投与後、一定期間の受診をすることになっているか
□ 投与情報についてカルテに記載されているか
□ 投与直後のバイタルサインや身体所見や血液検査は確認されているか
□ 帰宅後の疾病等(具体例:肺塞栓症状、呼吸困難、手足のしびれ、胸痛、脳梗塞、意識消失、言語のもつれ)の出現についての具体的な説明がなされているか
□ 上記の疾病等が出現した場合、緊急時の連絡先が明確になっているか(できれば24時間体制で対応可能な連絡先を明確にすべきである)
□ 細胞投与に関連した感染症の発症を予期して投与後数か月程度での感染症検査を行っているか
□ 投与後の疾病等についても連絡先が明確になっているか
□ クリニックでの場合、当日の緊急入院を含め、再生医療等提供計画で届出を行った救急医療に必要な施設の確実確保がされているか
2. 実施時の注意点:骨髄・脂肪組織採取時のリスクおよび対策
脂肪塞栓に対する対策
骨髄採取や脂肪組織採取時の脂肪塞栓の可能性がある事を知っておく。
機序:骨髄や脂肪組織内の脂肪細胞が破壊され中性脂肪が静脈内に流入して肺塞栓を起こす。塞栓化した脂肪滴に局所で血小板や白血球が反応し、血管内皮傷害、血管収縮を引き起こす。
対策:医師の判断で以下にあげた措置等を講ずる。
(モニタリング)採取中、パルスオキシメータにて酸素飽和度をモニターする。
(対処)酸素飽和度が92%以下になった場合は、酸素吸入を直ちに行い、採取は中止する。
(検査)(塞栓が疑われた場合には)採取後、胸部レントゲン、CT、肺シンチグラフィ、血流スキャンなどを実施する
(実施に当たっては、再生医療等提供計画で届出された救急医療に必要な施設へ事前連絡を行う)
対象患者に対する事前のチェックすべきポイント
① ドナー(自家細胞投与の場合)のチェック事項
□ 血栓症の既往はないか
□ HIVや結核や肝炎ウイルスや梅毒などの感染症既往はないか
□ 重篤な基礎疾患や検査異常はないか
□ 高血圧、高脂血症がないか
□ 白血球増多、血小板増多など骨髄増殖性疾患や凝固系の異常がないか
□ 採取終了後に採血などで安全を確認することになっているか
□ 採取終了後に来院にて確認する事ができるか
3. 投与物の検討
投与細胞・組織による塞栓症の防止
A) 脂肪細胞の培養(継代)を伴う場合(脂肪組織の混入は少ないと考えられるが、実際に事例あり)
B) 脂肪細胞を培養せずに投与する場合(脂肪をどこまで取り除けるかについて検討する必要がある)
脂肪以外の細胞の場合、間葉系幹細胞や白血球、リンパ球などの凝集塊がないかの確認が必要である。
そのほか、チェックすべきポイント
① 加工施設の体制の確認
□ 衛生管理ができているか
□ 機器の定期点検がされているか
□ 操作手順が文書化され、確実に記録が残されているか
□ 作業時の安全キャビネット、インキュベータ、フリーザー、遠心機などのモニタリング数値に異常は無いか確認する手順になっているか
② 加工物の確認
□ 容器の破損はないか
□ 細胞数、細胞濃度、投与速度は妥当か
□ 凝集について評価(顕微鏡での目視や細胞数の計算でも予測は可能)
□ DMSOの濃度及び体内への投与量は適切か
□ バッグに詰める前にフィルター処理(メッシュサイズ100μm以下)などの凝集塊除去が必要か
□ 運送時の品質について確認されているか
□ 運送、運搬が適切に行われているか医師として確認する体制になっているか
□ 投与時、容器の破損など汚染の危険性がないかを確認する手順になっているか
4. 投与にあたっての準備
投与中は、市販の赤血球用輸血セット(テルフュージョン輸血セット等)・微小凝集塊除去フィルター(ポール輸血フィルター)を用いるなどにより、凝集塊除去に努める。
投与にあたっての注意事項
投与時も採取時と同様にリスクへの配慮が必要である。たとえ頻度が非常に少ないリスクであっても命に関わるリスクが考えられることから万全の準備と対応が必要である事はいうまでもない。
特に、細胞投与においては、細胞の凝集や脂肪組織その他の混入による塞栓症、アレルギー反応、試薬などの残存による副反応、生物由来製剤のために引き起こされる感染症などの可能性を常に考慮して、終始再生医療に経験のある医療従事者の監視のもとで行われるべきである。
① 投与対象患者の事前チェック
□ 肺塞栓症、心筋梗塞症、脳梗塞症などの血栓症の既往はないか
□ 凝固検査(PT・APTT・FDP・Dダイマー・プロテインC・S、AT-Ⅲ)に問題がないか
□ 現時点での血栓症(深部静脈血栓症や肺塞栓など)がないか
□ 冠動脈疾患や心疾患や肺疾患、肝疾患や神経疾患がないか
□ 投与前の心機能・呼吸機能・肝機能に問題がないか
□ 使用薬品などにアレルギー歴がないか
□ 細胞の動脈系への混入を招くような静脈動脈間の吻合がないか(心臓の中隔欠損症など)
□ 高血圧、高脂血症がないか
□ 白血球増多、血小板増多など骨髄増殖性疾患や凝固系異常がないか
□ 投与時に治療対象以外の急性感染症を発症していないか
□ 投与終了後に採血などで安全を確認することになっているか
□ 投与終了後に来院にて確認する事ができるか
② 投与時実施時の体制
□ 再生医療に詳しい医師(日本再生医療学会の再生医療認定医など)が担当しているか
□ 対象疾患に詳しい医師が担当しているか
□ 十分な経験をもつ医療スタッフによる監視体制が整っているか
□ 投与中の患者の容態急変に備えて心電図、酸素飽和度モニター、酸素供給システム、蘇生セット、救急医療品(昇圧剤、ステロイド剤も含む)が整備されているか。
□ 投与時に医療スタッフによる一定時間の見守り・観察時間をしっかり設けているか
□ 迅速に救急措置ができる医師が確保されているか。または救急施設にすぐに搬送できる体制ができているか(あらかじめICUや救急部、近隣の救急施設に緊急時の支援を依頼しておくことが望ましい)
□ 投与における手順書などマニュアル化されているか
□ 提供する医療についてのリスクおよび手順について、定期的な研修を行っているか
5. 投与時、投与後の観察
① 投与時
□ バイタルサインに異常はないか
□ 心電図異常はないか
□ 心肺機能に異常はないか
□ 発熱はないか
② 投与後の確認事項
上記について、担当医、および関連担当者が複数で、患者の安全な状態を確認する。何らかの有害事象の発症を予測した場合は、緊急対応可能な機関に入院、対応する。
③ 翌日以降
心肺、生理学的項目の異常がないことの他、検尿、胸部X線検査、一般血液検査(白血球数、赤血球数、血小板数、白血球分画)、血液化学検査(総蛋白、アルブミン、総ビリルビン、直接ビリルビン、AST、ALT、γ-GTP、アルカリホスファターゼ、コリンエステラーゼ、LDH、尿酸、BUN、アンモニア、血清クレアチニン、ナトリウム、カリウム、C反応性蛋白)、血液凝固系検査(PT(%)、PT-INR、APTT、FDP、Dダイマー、アンチトロンビンIII)に異常がないことを確認し初期の観察を終了する。
細胞投与後、疾病等の発生がない場合も、後期合併症の発症を考え、1週間以内の再受診の適切なスケジュールを決め実施する。
【間葉系幹細胞等の経静脈内投与の安全な実施への提言】
https://www.jsrm.jp/news/news-13520/
【お問い合わせ先】
一般社団法人日本再生医療学会
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