国連大学:地球規模の水「破産」を宣言

国連大学は最新報告書で、水の過剰利用や汚染、気候変動の影響により、世界中で多くの水システムが回復不能な状態に陥り、地球規模の水「破産」の時代に入ったと警告しています。

国際連合大学

2018年6月(左)と2019年6月(右)の衛星画像の比較。チェンナイ市(インド)にあるPulhal湖の水位が急激に低下しているのがわかる。

国連大学の新たな旗艦報告書は、地球規模の水「破産」の時代に入ったと警告しています。数十年にわたる過剰利用、汚染、そして気候変動による影響が、多くの水システムを回復不能な状態に追い込みました。世界中の多くの地域で、長年の取水量が自然に補充される水の量を上回り、その結果、帯水層の枯渇、湖沼や湿地の縮小、地盤沈下の増加が生じていることを明らかにしました。報告書の執筆者は各国政府に対し、さらなる不可逆的な損害を防止し、水使用量の多い産業の変革を押し進め、脆弱なコミュニティのための公正な移行を優先することで、短期的な危機対応から「破産管理」への転換を強く求めています。


慢性的な地下水の枯渇、水資源の過剰な割当、土地・土壌劣化、森林破壊、汚染が地球温暖化によって悪化する中、本日発表された国連大学の報告書は、地球規模で水「破産」の時代が到来したことを宣言し、各国政府の指導者に対し「新たな現実に対し、科学的根拠に基づく誠実な適応」を進めるようよう促しました。

 2026年1月20日(日本時間21日)、国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)がニューヨークの国連本部で発表した旗艦報告書『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』では、「水ストレス」や「水の危機」といった従来の用語が、多くの地域における今日の実情をもはや捉えきれていないと訴えています。つまり、こうした表現は、自然の水資源が不可逆的に失われ、過去の基準値へと回復できない状態に陥っている「危機後」の現状を十分に反映できていないのです。

2026年1月20日(日本時間21日)に国連本部で発表された国連大学報告書『地球規模の水破産:ポスト危機時代における限界を超えた水利用』。

 「報告書では不都合な真実を伝えています。それは、多くの地域で人々が水資源の限界を超えて取水し、重要な水システムの多くが既に『破産』しているという事実です」と、UNU-INWEH所長で筆頭著者のカーヴェ・マダーニ氏は語ります。同研究所は「国連システム内の水のシンクタンク」として知られています。

 本報告書では財務上の用語を借り、多くの社会で人々が河川や土壌、積雪などから毎年得られる再生可能な水「収入」を過剰に消費したばかりか、帯水層や氷河、湿地などの自然貯水庫における長期的な「貯蓄」までをも使い果たしたことを指摘しています。

 その結果、帯水層の縮小、デルタ地帯や沿岸都市の地盤沈下、湖沼や湿地の消失、生物多様性の不可逆的喪失が拡大しています。

 国連大学の報告書は、学術誌『Water Resources Management』に掲載された査読済み論文に基づき、水破産を以下のように定義しています:

  1. 再生可能な流入量および安全な利用量に対して、持続的に地表水および地下水を過剰に取水している状態、なおかつ

  2. その結果、水関連の自然資本において不可逆的または法外なコストを伴う損失が生じている状態。

対照的に:

 「水ストレス」は水資源に対し高い圧力がかかっているもののまだ可逆的な状態を示し、「水危機」は克服可能な急激な衝撃を意味しています。

 本報告書は、2026年国連水会議(12月2―4日、アラブ首長国連邦とセネガル共催)に向けてセネガル・ダカールで開催されるハイレベル準備会合(1月26―27日)に先立ち、公表されました。

 マダーニ氏は、すべての流域や国が水破産に陥っているわけではないと前置きしつつ、「世界中で一定数の重要システムがすでにこの限界値を超えました。これらのシステムは貿易、移住、気候フィードバック、地政学的な依存関係を通じて相互につながっているため、世界のリスク構造は今や抜本的に変わってしまいました」と述べています。

2026年1月20日(日本時間21日)、国連本部(ニューヨーク)で報告書について発表するカーヴェ・マダーニ国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)所長(右)。

マダーニ氏は次の4つの重要なポイントを強調しています:

  • 水を守るためには、水を生み出す水循環や気候、基盤となる自然資本の中断やそれらへの損害を許してはなりません。世界中で行動を起こすための重要な戦略的機会がありますが、ほとんど活用されていません。

  • 水問題は伝統的な政治的分断を越える課題です。右派左派や地球の南北すべての人に関係する問題であり、ゆえに国家間や国家内の信頼と結束を築く架け橋となり得ます。分断された現代の世界において、水は協力を築き、国家の安全保障と国際的な優先課題を一致させるための重要な軸となり得ます。

  • 水への投資は、気候変動、生物多様性の喪失、そして砂漠化の緩和のための投資にもなります。水問題を他の環境危機の影響を受ける下流部門としてのみ扱うべきではありません。むしろ、水問題のために戦略的な集中投資を行うことで、地域社会や国家の差し迫った課題に対処すると同時に、リオ諸条約(気候、生物多様性、砂漠化)の目標を推進することができるのです。

  • 水問題への世界的な関心の再燃は、停滞した交渉を再加速させ、中断した国際プロセスに新たな活力を与える可能性があります。水問題への実践的かつ協調的な取り組みは、差し迫った地域のニーズと世界の長期目標を結びつける道筋を提供します。

水問題のホットスポット

 中東や北アフリカ地域では、深刻な水ストレス、気候変動への脆弱性、低い農業生産性、大量の電力を要する海水の淡水化、砂塵嵐が複雑な政治経済と交錯しています。

 南アジアの一部地域では、地下水に依存する農業と都市化が慢性的な地下水位の低下と地盤沈下を招いています。

 米国南西部では、コロラド川とその貯水池が、過剰に期待を寄せられた水資源の象徴となっています。

赤字の世界

 世界中のデータセットと最新の科学的証拠に基づき、本報告書は統計的観点から水に関する厳しいトレンドを示しており、トレンドの大多数は人間の活動に起因しています:

  • 50%:1990年代初頭以降に水量を失った世界の大型湖沼(人類の25%がこれらの湖沼に直接依存)

  • 50%: 現在、世界中で地下水から得られている家庭用水の量

  • 40%以上:着実に枯渇しつつある地下水脈から汲み上げられている灌漑用水の量

  • 70%:長期的な減少傾向が確認されている主要な地下水脈

  • 4億1000万ヘクタール:過去50年間に消滅した自然湿地の面積(欧州連合全体の面積にほぼ匹敵)

  • 30%以上:1970年以降に失われた世界中の氷河の体積。低・中緯度山脈では数十年以内に本来の性質(流動性等)を備えた氷河は完全に消滅すると予測

  • 数十本:一年間で海に到達できなくなる時期のある主要河川

  • 50年以上:多くの河川流域と帯水層が過剰取水されてきた期間

  • 1億ヘクタール:塩害の影響だけで劣化した農地の面積

人間への影響:

  • 75%:世界人口に対し、水の安全保障状況が悪いまたは著しく悪いとされる国々に住む人口

  • 20億人:地盤沈下地域に住む人々

  • 25cm:一部の都市における年間沈下量

  • 40億人:年間で1か月間以上もの深刻な水不足に直面している人々

  • 1億7000万ヘクタール:高いまたは非常に高い水ストレス下にある灌漑農地の面積(フランス、スペイン、ドイツ、イタリアの面積合計に相当)

  • 5.1兆米ドル:失われた湿地生態系サービス(食料・資源供給や防災・浄水など、ある生態系から人間社会が得られる恩恵の総称)の年間価値

  • 30億人:総貯水量が減少している地域や不安定な地域に住む人々(世界の食料生産の50%以上がこれら地域で生産されている)

  • 18億人:2022年から2023年にかけて干ばつ地域で生活していた人々

  • 3070億米ドル:現在、干ばつによって世界全体で生じている年間コスト

  • 22億人:安全に管理された飲料水にアクセスできない人口。安全に管理された衛生施設(トイレなど)を利用できない人口は35億人

 マダーニ氏は次のように述べています。「縮小し、汚染され、あるいは消滅しつつある水源から、何百万もの農家がより多くの食料を生産しようとしています。水資源を賢く使う農業へと迅速に移行しなければ、水破産は急速に広がるでしょう」

新たな時代のための新たな診断

 例えある地域である年に洪水が起きたとしても、長期的な取水量が補充される水の量を上回れば、その地域は水破産状態にある、とマダーニ氏は補足します。その意味で、水破産とは場所の見た目(水が多そうか乾燥してそうか)ではなく、バランス、水の「出納」管理、そして持続可能性の問題なのです。

 マダーニ氏によれば、地球規模の気候変動やパンデミックと同様に、地球規模の水破産宣言は、あらゆる地域で均一な影響が生じていると主張しているわけではありません。「地域や所得水準を問わず、一定以上の数のシステムが「支払不能」に陥り、不可逆的なしきい値を超えたことで、地球全体の問題となったことを示しているのです」。

 また、「水破産が地球規模の問題であるのは、その波及力にも起因します」とマダーニ氏は説明します。「淡水の大部分は農業で使用されており、食料システム同士は貿易と価格を通じて相互に緊密に関連しあっています。ある地域で水不足によって農業に被害が起きると、その影響は世界の市場や政治的な安定、他の地域の食料安全保障にも波及します。このため、水破産は個々の地域的な危機の連続ではなく、世界共通のリスクであり、危機管理ではなく、破産管理が求められるのです」。

世界の水問題アジェンダをリセットせよ

 本報告書は、現在の世界の水問題アジェンダ(主に飲料水や衛生、そして漸進的な効率改善に焦点を当てたもの)が多くの地域で目的を果たせなくなっていると警告し、世界的な水問題アジェンダを新たに構築することを提唱します。その内容は以下の通りです:

  • 水破産に至っていることを正式に認めること

  • 水が気候変動・生物多様性・砂漠化対策に関する約束を果たす上での制約であると同時に機会でもあると認識すること

  • 気候変動・生物多様性・砂漠化対策に関する交渉や開発金融、平和構築プロセスにおいて水問題を優先課題として扱うこと

  • 地球観測、AI、統合モデリングを活用し、水破産のモニタリングをグローバルな枠組みに組み込むこと

  • 国連加盟国間の協力を加速させるために水問題を触媒として活用すること

 実践面では、水の破産管理には各国政府が以下の優先課題に注力することが求められます:

  • 湿地の喪失や破壊的な地下水枯渇、野放しの汚染など、さらなる不可逆的損害を防ぐこと

  • 劣化した環境のキャパシティに照準を合わせて、人々の権利・主張・期待を再調整すること

  • 生計の立て方を変えざるを得ない地域の人々のために公正な移行を支援すること

  • 農作物の種類のシフトや灌漑の改革、都市システムの効率化を通じ、農業や工業など水の多消費産業を変革すること

  • 継続的適応のための制度を構築し、しきい値に基づく管理(threshold-based management)と連動したモニタリングのためのシステムを設けること

 水破産が単なる水文学的問題ではなく、深い社会的・政治的影響を伴う正義の問題であり、政府内の最高レベルによる対応と多国間協力が必要であると本報告書は強調しています。水破産による負担は小規模農家や先住民族、都市部の低所得層、女性、若者に不均衡に集中する一方、水の過剰利用による利益は、より力のあるアクターに帰属しがちです。

 「水破産は脆弱性、移住、紛争の要因となりつつあります」と国連大学学長を務めるチリツィ・マルワラ国連事務次長は述べています。「水破産を公平に管理すること、つまり脆弱な立場にある人々を守り、避けられない損失を公平に分担することが、平和・安定・社会的結束を維持するための要です」

 「破産管理には誠実さ、勇気、そして政治的な意志が不可欠です」とマダーニ氏は補足しています。「消滅した氷河を再生することや、深刻に圧縮された帯水層を回復させることはできません。しかし、残された自然資本へのさらなる損失を防ぎ、新たな水循環の限界内で生活できるよう制度を再設計することはできます」

 今後の重要な節目、例えば2026年と2028年に開催される国連水会議、2028年に迎える水行動10年の終了、2030年のSDGsの達成期限は、必要な転換を実行するための決定的な機会を提供すると同氏は述べています。

 「この報告書は警鐘を鳴らしていますが、絶望を表明しているわけではありません」とマダーニ氏。「誠実さ、現実主義、変革への呼びかけです。破産宣告は諦めることではなく、新たな出発を意味します。水破産の現実を認めることで初めて、人々、経済、生態系を守る困難な選択が可能になります。遅らせれば遅らせるほど、赤字は深まるばかりです」

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会社概要

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URL
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業種
教育・学習支援業
本社所在地
東京都渋谷区神宮前5-53-70 国際連合大学 広報部 11F
電話番号
03-5467-1212
代表者名
Tshilidzi Marwala
上場
未上場
資本金
-
設立
1975年09月