わずか1日の調査で魚種の8割を検出〜海水からのDNA解析法で〜
JST 戦略的創造研究推進事業において、山本 哲史 学術研究員(神戸大学)、益田玲爾 准教授(京都大学)、荒木 仁志 教授(北海道大学)、近藤 倫生 教授(龍谷大学)、源 利文 特命助教(神戸大学)、宮 正樹 生態・環境研究部長(千葉県立中央博物館)らの研究グループは、海水中に含まれる排泄物などのDNAから周辺に生息する魚種を明らかにする新技術を使うことで、目視観察よりも効率の良い魚類生物相調査が可能なことを明らかにしました。
従来、海洋での魚類生物相調査は魚種を外見によって区別する潜水や捕獲のような方法に頼って行われていましたが、多くの人手が必要な上、魚種を区別する専門知識も必要としていました。この問題を解決する新しい魚類生物相調査法として「環境DNA多種同時検出法(メタバーコーディング))」と呼ばれる方法が注目されています。この新しい調査法は、魚が放出して海水中に存在するDNA(環境DNA)を回収・分析し、放出源となった魚種を特定するというものです。しかし、この調査法の有効性の確認は限定的なものでした。なぜなら、これまでは生息する魚種が少ない場所でしか検証されていなかったためです。日本沿岸のように魚種の多い場所では、従来法によって調査されたデータが乏しく、結果を比較できないためこの環境DNAメタバーコーディング法の有効性は未確認でした。
本研究グループは、京都府北部の舞鶴湾において、環境DNAメタバーコーディングを利用することで、現地調査をたった1日で行い、この方法によりその海水試料から128種もの魚類のDNAを検出することに成功しました。この128種には2002年から14年間、計140回の潜水目視調査で観察された種の6割以上が含まれます。ある年だけ偶然舞鶴湾へ回遊してきた魚種を除くと、8割近くを1日の調査で確認できたことになります。さらに、目視では確認されていない魚種も検出できました。目視では区別しにくい仔稚魚期を調査海域で過ごす魚種を、本調査法で初めて検出できたと考えています。
本研究で、魚種が多い場所でも、短期間で多地点の魚類相を環境DNAメタバーコーディングで調べることが可能なことが分かりました。広域にわたっての外来種の侵入や分布拡大の調査、さらには、アクセスが難しい深海や地底湖、危険な汚染水域や生物の採集が禁止されている保護区でも活用が期待されます。本研究成果は、2017年1月12日(英国時間)発行の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出」(研究総括:小池 勲夫(東京大学 名誉教授)
研究課題名:「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発」
研究代表者:近藤 倫生(龍谷大学 理工学部 教授)
研究期間:平成25年10月~平成31年3月
JSTはこの研究領域で、海洋の生物多様性および生態系を把握するための先進的な計測技術と将来予測に資するモデルの研究開発を行っています。上記研究課題では、海水中に含まれる魚由来のDNA(環境DNA)の分析に基づき、迅速かつ定量的に魚類の生物量や種構成、遺伝的特徴を把握する新しいモニタリング手法の開発に取り組んでいます。また、本研究の一部はキヤノン財団「理想の追求」プログラムによる研究助成を受けて実施されました。
一方、現在では全ての魚種についてDNAデータが揃っているわけではないため、DNAを検出しても、そのDNAがどの魚種に由来するのかが分からない場合があります。研究グループでは環境DNAメタバーコーディング解析に必要な魚類のDNAデータベースの充実化によって、より幅広い魚種が検出できるように今も改善を続けています。
図7 潜水目視調査で観察された種のうち、環境DNAメタバーコーディングでも検出された種
縦軸は14年間の調査で観察された各魚種の個体数。黒い棒グラフは環境DNAメタバーコーディングでも検出された種(40種)、白い棒グラフは検出されなかった種(25種)。目視調査では80種を観察しているが、現在のメタバーコーディング技術では仕組み上検出できない種を除いて、65種でグラフを作成した。
水に含まれる生物のDNAを解析することで、その水域に生息する生物種を特定するDNA解析法のこと。環境DNAとは水や空気、土壌などのサンプル中に含まれるDNAのことで、水の場合には魚類をはじめとした水生生物の排泄物や粘液、表皮などの細胞が水中に剥がれ落ちたものに由来するDNAが含まれており、それを解析することで生物相を明らかにすることができる。
(環境DNAメタバーコーディングが明らかにする種の豊富な日本沿岸の魚類相)
doi:10.1038/srep40368
従来、海洋での魚類生物相調査は魚種を外見によって区別する潜水や捕獲のような方法に頼って行われていましたが、多くの人手が必要な上、魚種を区別する専門知識も必要としていました。この問題を解決する新しい魚類生物相調査法として「環境DNA多種同時検出法(メタバーコーディング))」と呼ばれる方法が注目されています。この新しい調査法は、魚が放出して海水中に存在するDNA(環境DNA)を回収・分析し、放出源となった魚種を特定するというものです。しかし、この調査法の有効性の確認は限定的なものでした。なぜなら、これまでは生息する魚種が少ない場所でしか検証されていなかったためです。日本沿岸のように魚種の多い場所では、従来法によって調査されたデータが乏しく、結果を比較できないためこの環境DNAメタバーコーディング法の有効性は未確認でした。
本研究グループは、京都府北部の舞鶴湾において、環境DNAメタバーコーディングを利用することで、現地調査をたった1日で行い、この方法によりその海水試料から128種もの魚類のDNAを検出することに成功しました。この128種には2002年から14年間、計140回の潜水目視調査で観察された種の6割以上が含まれます。ある年だけ偶然舞鶴湾へ回遊してきた魚種を除くと、8割近くを1日の調査で確認できたことになります。さらに、目視では確認されていない魚種も検出できました。目視では区別しにくい仔稚魚期を調査海域で過ごす魚種を、本調査法で初めて検出できたと考えています。
本研究で、魚種が多い場所でも、短期間で多地点の魚類相を環境DNAメタバーコーディングで調べることが可能なことが分かりました。広域にわたっての外来種の侵入や分布拡大の調査、さらには、アクセスが難しい深海や地底湖、危険な汚染水域や生物の採集が禁止されている保護区でも活用が期待されます。本研究成果は、2017年1月12日(英国時間)発行の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。
本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。
戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)
研究領域:「海洋生物多様性および生態系の保全・再生に資する基盤技術の創出」(研究総括:小池 勲夫(東京大学 名誉教授)
研究課題名:「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発」
研究代表者:近藤 倫生(龍谷大学 理工学部 教授)
研究期間:平成25年10月~平成31年3月
JSTはこの研究領域で、海洋の生物多様性および生態系を把握するための先進的な計測技術と将来予測に資するモデルの研究開発を行っています。上記研究課題では、海水中に含まれる魚由来のDNA(環境DNA)の分析に基づき、迅速かつ定量的に魚類の生物量や種構成、遺伝的特徴を把握する新しいモニタリング手法の開発に取り組んでいます。また、本研究の一部はキヤノン財団「理想の追求」プログラムによる研究助成を受けて実施されました。
- 研究の背景と経緯
- 研究の内容
- 今後の展開
一方、現在では全ての魚種についてDNAデータが揃っているわけではないため、DNAを検出しても、そのDNAがどの魚種に由来するのかが分からない場合があります。研究グループでは環境DNAメタバーコーディング解析に必要な魚類のDNAデータベースの充実化によって、より幅広い魚種が検出できるように今も改善を続けています。
- 参考図
図1 舞鶴湾
図2 採水の様子 野外での調査は水を汲むだけで終了する。
図3 採水後の船の様子
図4 舞鶴湾の各採水地点で環境DNAメタバーコーディングにより検出された魚種数
図5 目視で観察できる魚類
図6 潜水目視調査の様子
図7 潜水目視調査で観察された種のうち、環境DNAメタバーコーディングでも検出された種
縦軸は14年間の調査で観察された各魚種の個体数。黒い棒グラフは環境DNAメタバーコーディングでも検出された種(40種)、白い棒グラフは検出されなかった種(25種)。目視調査では80種を観察しているが、現在のメタバーコーディング技術では仕組み上検出できない種を除いて、65種でグラフを作成した。
- 用語解説
水に含まれる生物のDNAを解析することで、その水域に生息する生物種を特定するDNA解析法のこと。環境DNAとは水や空気、土壌などのサンプル中に含まれるDNAのことで、水の場合には魚類をはじめとした水生生物の排泄物や粘液、表皮などの細胞が水中に剥がれ落ちたものに由来するDNAが含まれており、それを解析することで生物相を明らかにすることができる。
- 論文タイトル
(環境DNAメタバーコーディングが明らかにする種の豊富な日本沿岸の魚類相)
doi:10.1038/srep40368
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