ゼロ知識証明×秘密計算技術で「信頼できる第三者」なしにゲーム進行を実現 -「トラストレス人狼」をEthereum上で公開

オープンソースの「zk-mpc」ライブラリを開発。金融・医療・AI領域での応用を見据える

株式会社Yoii

株式会社Yoii(本社:東京都渋谷区、代表取締役CEO:宇野 雅晴、以下「Yoii」)は、ゼロ知識証明(ZKP)と秘密計算(MPC)を組み合わせた独自の暗号技術「zk-mpc」を用いて、信頼できる第三者(ゲームマスター)を一切必要とせずに人狼ゲームを完全に進行できる「トラストレス人狼」を開発し、Ethereumテストネット(Sepolia)上で公開したことをお知らせいたします。

本プロジェクトは、Ethereum Foundationのエコシステム・サポート・プログラム(ESP)において2度の採択(2024年2月・2025年2月)を受け、約2年半にわたる研究開発を経て実現したものです。ソースコードは全てオープンソースとして公開されており、人狼にとどまらない幅広い領域への応用を見据えています。

■ 開発の背景

人狼ゲームは、参加者がそれぞれ「役職(村人・占い師・人狼など)」という秘密情報を持ち、それを隠したまま議論・投票・占い・襲撃などのアクションを行う「不完全情報ゲーム」の代表例です。従来のオンライン人狼では、役職配布、投票集計、勝利判定、占い結果の通知といった機能を、サーバー運営者(ゲームマスター)が一手に担っていました。これは、プレイヤーがその第三者に秘密情報を開示し、その取り扱い方についても「信頼する」ことを前提とした仕組みです。

しかし、インターネット上の匿名の参加者同士でゲームを行う場合、ゲームマスターの不正や結託を検知する手段はありませんでした。「信頼できる第三者がいない環境で、いかにして公正なゲーム進行を実現するか」、これはゲームに限らず、金融取引や投票、身元認証など社会のあらゆる場面に共通する課題です。

■ zk-mpc技術の概要と「トラストレス人狼」の仕組み

「トラストレス人狼」では、以下の2つの暗号技術を組み合わせることでゲームマスターの全機能を代替しています。

秘密計算 - マルチパーティ計算(MPC: Multi-Party Computation)

各プレイヤーの秘密情報(役職、投票先、占い対象など)を「秘密分散」と呼ばれる手法で複数のシェアに分割し、各シェアを別々の計算ノードが保持します。ノード同士が結託しない限り、元の情報は誰にも(サーバーを含め)明かされません。これにより、役職配布、匿名投票、占い、襲撃、勝利判定といった、秘密情報を伴う全ての計算を、秘密を保ったまま実行できます。

例えば匿名投票では、誰が誰に投票したかを秘匿したまま、最多得票者だけを算出できます。従来のZKPのみの実装では各候補の得票数が公開されてしまうのに対し、MPCを併用することで、票数すら秘匿にしたまま結果だけを出力できます。

ゼロ知識証明(ZKP: Zero-Knowledge Proof)

「ある計算が正しく行われたことだけを証明し、その中身は一切明かさない」ための技術です。重要なのは、ZKPは秘密を守るための技術というよりも、「正しく計算されたかどうかを第三者に検証させるための仕組み」である点です。

本システムでは、MPCで行った計算が正しかったことを、第三者が検証できる証明(プルーフ)を生成します。この証明により、役職配布のランダム性、各アクションの正当性(例:占いを行おうとした人が本当に占い師であること)、投票結果の正確性、勝利判定の正しさなど、ゲームの全工程が改ざんされていないことを、内部データを公開することなく誰でも検証可能です。この証明は、MPCとZKPを組み合わせた「Collaborative Proof」として生成されます。

このように、MPCが「秘密を守ったまま計算する」役割を担い、ZKPが「その計算が正しいことを証明する」役割を担うことで、誰も内部の情報を知らない状態のまま、全員が結果の正しさを信頼できる仕組みが成立します。

ブロックチェーン(Ethereum)の役割

さらに、コミットメント(暗号化された役職情報の登録)とZKPの検証をEthereum上のスマートコントラクトで実行することで、「誰が検証しても同じ結果になる」第三者透明性を実現しています。将来的には、ゲーム結果に基づく報酬分配や、サーバー運営者の不正を検知した際のペナルティ付与なども実現可能です。

■ 従来のオンライン人狼との違い

従来のオンライン人狼と「トラストレス人狼」の最大の違いは、信頼できる第三者が不要である点と、ゲームの全工程が暗号学的に検証可能である点です。

  • サーバーを含め、誰も他のプレイヤーの役職情報を知ることができない

  • 自分の役職を偽ったり、投票を改ざんしたりする不正が数学的に不可能

  • ゲームの全工程がZKPで検証可能であり、透明性が担保される

  • ブロックチェーン上で結果が記録されるため、改ざん耐性を持つ

■ 技術スタックと開発体制

MPCプロトコル:SPDZ(悪意のある参加者の不正を検知可能な、マリシャスセキュリティ対応プロトコル)

ZKPスキーム:Groth16(ZKP分野において初期から実績のある、高速な検証が可能なスキーム)。zk-mpcライブラリは汎用セットアップ対応のMarlinもサポート

スマートコントラクト:各計算(役職配布・投票・勝利判定等)ごとに検証コントラクトを配備。ゲームロジックコントラクトがコミットメント管理を担う

デプロイ先:Ethereumテストネット(Sepolia)

開発体制:Researcher 1名・エンジニア1名の2名体制でコア技術からアプリケーション層までを実装

対応人数:現在最大9人まで同時プレイ可能

■ 技術的チャレンジと独自性

本プロジェクトにおける最大の技術的困難は、MPCとZKPを組み合わせた「Collaborative Proof」の実装です。先行研究では算術計算(加算・乗算)のみがカバーされていましたが、人狼のような複雑なゲームロジックには、ビット演算(AND、ORなど)や大小比較など、より高度な計算が不可欠です。開発チームは、複数の基礎研究を調査・統合し、これらの計算をMPC上で実現する独自の実装を行いました。

また、MPCとZKPはそれぞれ単体でも計算コストが高い技術であり、両者を組み合わせると計算量は更に増大します。有限体の変換手法の最適化や、証明と計算の分離によるパフォーマンス向上など、実用レベルの速度を実現するための多くの工夫がこらされています。

なお、ZKPのみで実装されたチェスやポーカーなどのプロジェクトは存在しますが、「複数人がそれぞれ秘密情報を持ち、それを隠したまま計算し、その結果の正しさを第三者が検証できる」という本プロジェクトのアプローチは、世界的に見ても独自性の高いものです。

■ 想定される応用領域

「トラストレス人狼」は、zk-mpc技術の実用性を示すためのリファレンス実装です。本技術は、「信頼できる第三者なしに、秘密情報を保ったまま正しく計算し、その正当性を証明する」という汎用的な課題を解決するものであり、以下のような幅広い領域での応用が想定されます。

1. 秘匿投票・ガバナンス

投票内容を秘匿に保ちつつ、結果の正確性を暗号学的に保証。得票数の公開範囲も柔軟に設計可能で、例えば「最多得票者のみを公開し、他の得票数は非公開」といった高度な秘匿投票が実現できます。企業の取締役会における解任決議など、今後の関係性に配慮が必要な意思決定において有用です。

2. 秘匿オークション

入札額を秘匿にしたまま、最高額入札者を決定。主催者による価格のつり上げや、不正な入札情報の漏洩を防止し、公正な価格形成を促進します。過去には国家規模のオークションでMPCが活用された実績もあります。

3. 金融取引(ダークプール)

大口投資家の注文情報を秘匿にしたまま、買い手と売り手のマッチングを実行。従来は証券会社という「信頼できる第三者」が必要でしたが、zk-mpcによりその信頼を暗号学的に代替できる可能性があります。

4. 信用スコアリング・与信審査

複数の金融機関が保有する財務データや取引データを、互いに開示することなく統合的に計算し、信用スコアを生成。そのスコアが正しく計算されたことをZKPで第三者に証明できるため、審査結果の信頼性向上とデータプライバシーの両立が可能になります。

5. 身元認証・KYC

個人情報を開示せずに、「KYC済みであること」や「特定のホワイトリストに含まれていること」を証明。複数機関が保有する認証リストを、リスト自体を共有せずに統合的に照合できる点がZKP単体では実現できないzk-mpcならではの強みです。

6. 秘匿AI・プライバシー保護LLM

大規模言語モデル(LLM)への入力データを秘匿化したまま推論を実行する「秘匿LLM」や、推論結果が認証済みモデルで生成されたことを証明する「ZKML」への応用が想定されます。特に、機密性の高いデータを扱う金融機関や医療機関において、AI活用の障壁を下げる可能性があります。

■ Yoiiの本業との接点、今後の展望

Yoiiは、スタートアップ・中小企業向けにレベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)「Yoii Fuel」を提供するFintech企業です。RBFの審査では、企業の売上データや財務情報を受け取り、将来の売上予測やデフォルト確率(PD)の算出を行っています。これらの審査プロセスにzk-mpcを適用することで、企業の機密データを秘匿化したままスコアリングを実行し、かつその結果の正当性を第三者に検証可能な形で提示できる可能性があります。

このような仕組みが成立すると、企業はセンシティブなデータを開示することなく資金調達にアクセスできるようになり、データ提供のハードルが下がります。同時に、Yoiiにとっても、データ管理のリスクを抑えながら審査の精度と透明性を両立できる余地が生まれます。

さらに、審査結果の正当性が第三者によって検証可能になることで、金融機関や投資家にとっても、その判断を信頼できる共通基盤として扱える可能性があります。これにより、特定の事業者に依存しない形での信用評価やリスク共有が進み、より開かれた金融のあり方につながっていくことも考えられます。

また、この技術は金融に限らず、機密データを扱う意思決定全般に応用できる可能性があります。複数の企業や機関が、データを開示せずに協調して分析・判断できる基盤としても機能し得ます。

Yoiiとしては、この領域における技術と運用の知見を蓄積しながら、より汎用的な形での展開も視野に入れています。

■ 開発メンバーコメント

中江 優介(Researcher)

「人狼というゲームは、複数人が秘密情報を持ち、それを隠したままゲームが進行するという点で、MPCとZKPの両方が必要となる理想的な題材でした。ポーカーやチェスなどZKPのみで実装できるゲームとは異なり、人狼は秘密情報がゲームの最後まで明かされないまま進行する必要がある、非常に特殊なゲームです。この技術を汎用的なライブラリとして開発できたことで、金融や社会インフラなど、幅広い領域への応用が見えてきました」

大森 亮(共同創業者CTO)

「Yoiiは『資産の流動性を上げ、挑戦する起業家・企業の成長を後押しする』というミッションのもと、オープンな金融システムの実現を見据えています。今回の研究開発で培った暗号技術を、当社のRBF審査におけるデータ秘匿化や、将来的にはブロックチェーン上の金融インフラに組み込んでいきたいと考えています」

■ 外部発表実績

本プロジェクトの研究成果は、2024年11月にタイで開催されたEthereumの国際カンファレンス「Devcon SEA」においても発表されています。

■ 公開情報

■ 株式会社Yoiiについて

Yoiiは、スタートアップ・中小企業に「レベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)」という新しい資金調達の選択肢「Yoii Fuel」を提供するFintech企業です。YoiiはRBFの提供を通じ、「資産の流動性を上げ、挑戦する起業家・企業の成長を後押しする」というミッションを実現してまいります。

会社名

株式会社Yoii

所在地

東京都渋谷区千駄ヶ谷3-16-12 第一FMGビル301

代表者

代表取締役CEO 宇野 雅晴

設立

2021年4月

資本金

14億4万938円(資本準備金を含む)

事業内容

レベニュー・ベースド・ファイナンシング(RBF)「Yoii Fuel」の提供

ウェブサイト

https://yoii.jp/

外部株主

Emellience Partners、FFGベンチャービジネスパートナーズ、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、One Capital、インクルージョン・ジャパン、東京大学協創プラットフォーム開発、三菱UFJ信託銀行、農林中金イノベーション投資事業有限責任組合、Plug and Play Japan、HiJoJo Partners、dLab Group Limited、その他個人投資家(順不同)

■ 本件に関するお問い合わせ先

株式会社Yoii お問い合わせ窓口:contact@yoii.jp

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会社概要

株式会社Yoii

23フォロワー

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URL
https://yoii.jp/
業種
情報通信
本社所在地
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-16-12 第一FMGビル
電話番号
-
代表者名
宇野雅晴
上場
未上場
資本金
14億938万円
設立
2021年04月