JISDA、ウクライナ現地調査に基づく「ドローン戦時代の戦術医療」レポートを公開
前線知レポート第2弾。後送困難な戦場で人命と継戦能力を守るため、教育・装備・補給・技術を一体とした戦術医療体系の整備を提言

JISDA株式会社(Japan Integrated Security Design Agency/日本技術安全保障戦略機構、以下「JISDA」)は、ウクライナでの継続的な現地調査を踏まえた報告書「前線知レポート vol.2 ウクライナから学ぶ ドローン戦時代の戦術医療」を公開しました。
本報告書は、JISDAの創業チームが法人設立以前から約3年間にわたり蓄積してきた現地調査の知見をもとに、無人機の導入が負傷者の救護や搬送に与えている影響と、日本の防衛への示唆を整理したものです。
無人機による監視と攻撃が広がる戦場では、衛生兵が負傷者のもとへ到達できず、後方の医療施設への搬送もすぐには行えない状況が生じています。本報告書では、こうした環境における戦術医療を、隊員の生命を守り、部隊の経験や練度、継戦能力を維持するための中核的な機能として位置付けています。そのうえで、自己救護・相互救護、前線での状態維持、遠隔支援、無人補給などを接続した、一体的な体制整備の必要性を提示しています。
■報告書公開の背景
ウクライナでの戦闘は、無人機の普及によって、装備や戦い方に加え、負傷した兵士を救うための前提条件も変化していることを示しています。FPVドローンをはじめとする各種無人機によって、前線での移動や車両の停車、物資の集積などが発見されやすくなり、救護や搬送のための行動にも継続的な危険が伴うようになりました。負傷者を救うために前進する衛生兵や、搬送を担う人員が、同じ脅威にさらされる状況も生じています。
その結果、負傷直後の処置に続いて、後方医療へ接続できるまでの時間をどう支えるかが、これまで以上に重要になっています。衛生兵が前線まで向かえない中、限られた資材と通信環境のもとで負傷者の状態を維持し、必要な支援や補給につなげる。その一連の対応を成立させることが、救命の可能性を左右します。
JISDAは、こうした変化を日本の備えに反映するには、医療の専門領域と部隊の運用、装備開発、教育訓練を横断した議論が必要であると考えています。今回の報告書は、現地で得た知見を共有し、隊員の生存性を支える具体的な制度・技術・運用の検討につなげるために公開するものです。
本報告書の全文は、以下よりご覧いただけます。
【報告書のダウンロードはこちら】
https://www.jisda.jp/files/JISDA_report02.pdf
なお、JISDAは2026年6月、衆議院第一議員会館において、ウクライナの前線医療関係者を招いた勉強会を開催しました。今回公開する報告書は、この勉強会においても参加者に配布されました。
参考:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000017.000179032.html
■報告書の概要
本報告書では、TCCC(戦術的戦傷救護)やMARCH(救護の優先順位を整理する枠組み)の基本的な考え方を踏まえ、ドローン戦下で救護を実行する条件がどのように変わったのかを整理しています。
主な論点は、爆傷・破片創・熱傷などを伴う複合的な損傷への対応、後送の遅延、衛生兵が接触できない状況での自己救護・相互救護、そして遠隔支援や無人補給を含む救命体制の構築です。これらを相互に関連する課題として捉え、現場で実行できる能力へと落とし込む必要性を論じています。
また、訓練された隊員の損失は、部隊が積み重ねてきた判断力、経験、連携にも影響します。負傷時に救護や支援を受けられるという信頼は、隊員の心理的な負担や部隊の持続性にも関わります。本報告書は、人命保護と人的基盤の維持の双方から、戦術医療を防衛力の実効性に関わる課題として提示しています。
【JISDAが提示する主な視点】
1.自己救護・相互救護を、全隊員が実行できる能力として整えること
衛生兵が直ちに到達できない状況では、負傷者本人や周囲の隊員による初動が重要になります。本報告書では、全隊員への実技教育と反復訓練に加え、IFAK(個人携行救急キット)の構成、携行方法、消耗品の補充や更新を一体で検討する必要性を示しています。必要な資材を保有し、それを厳しい条件のもとでも確実に使用できる状態を、平時から整えておくことが求められます。
2.複合的な戦傷と後送の遅延を前提に、訓練と支援体制を設計すること
ドローン攻撃を含む爆発性の脅威に対応するには、複数の損傷や長時間の状態維持を想定した準備が必要です。負傷直後の救護から後方医療への接続までを見通し、前線で必要となる資材、人員、支援のあり方を検討することが重要になります。訓練においても、暗所、騒音、通信不良、疲労など、現場で判断や行動が難しくなる条件を織り込み、実行可能性を確かめる必要があります。
3.遠隔支援やAIの導入を、隊員の認知負荷を抑える観点から検討すること
専門の衛生要員が現場に到達できない場合に備え、通信を通じた支援や、必要な情報を提示するAIの活用を検討課題として挙げています。その際には、情報の正確性とともに、疲労や緊張のもとにある隊員が短時間で理解し、行動につなげられるかが重要です。情報の表示方法や操作性を含め、認知工学・人間工学の知見を取り入れた研究開発が求められます。
4.無人補給・無人搬送を、救命を支える機能として位置付けること
ドローンやUGV(無人地上車両)による輸送は、後送が困難な環境で医療資材を届け、救護に伴う人員の危険を抑える手段として重要になります。本報告書では、無人補給・無人搬送を戦術医療の一部として捉え、必要な物資、輸送条件、部隊での受け取りや再補給の手順まで含めた運用設計の必要性を提示しています。
5.生体データを活用し、隊員の身体・認知パフォーマンスを支えること
疲労、睡眠不足、ストレス、情報過多は、隊員の判断や行動に影響します。本報告書では、受傷後の救護に加え、平時から身体・認知状態を把握し、訓練負荷や勤務計画、回復支援の改善につなげる視点を示しています。生体データの活用に際しては、本人の同意、利用目的の限定、データ保護などの制度設計も併せて進める必要があります。
6.医療記録と証拠の保全を、現場から接続できる体制を整えること
本報告書では、化学兵器使用時を含む証拠保全についても論点として取り上げています。医療記録や位置・時刻情報などを適切に記録し、専門機関へ引き継ぐ体制は、事後の検証や責任の明確化に関わります。前線で最初に対応する隊員や衛生要員の教育と、記録・保管・引き継ぎの仕組みを接続する必要性を示しています。
■日本の防衛と産業への示唆
日本の南西方面や島嶼部での事象への対処を考える際には、移動経路や輸送手段が限られ、後方医療への接続が遅れる可能性を検討する必要があります。ウクライナで得られた教訓を踏まえ、救護や搬送が制約される状況でも隊員の生命を守れるよう、日本の地理的条件や部隊運用に即した体制を具体化することが重要です。
こうした備えは、大規模災害への対応にもつながります。地震や豪雨による道路の寸断、集落の孤立、通信障害などにより、救助隊や医療従事者の到着、負傷者の搬送が遅れる場面では、限られた人員と資材で救護を行い、外部からの支援につながるまで状態を維持することが課題となります。自己救護・相互救護の教育、遠隔からの医療支援、無人機による医療資材の輸送、保温や状態把握を支える技術などは、防災・災害医療の分野でも活用が考えられます。
このため、戦術医療を支える研究開発には、医療機器に加え、通信、ロボティクス、AI、センサー、保温・保護材料、教育訓練、データ管理など、幅広い産業が関わる余地があります。搬送の遅延や通信の制約、資材不足といった共通課題に着目することで、防衛と防災の双方に資する技術開発や実証を進めることができます。その際には、救護を担う人の技能や活動環境を踏まえ、使いやすさ、補給、保守、訓練まで含めて検討することが重要です。
JISDAは、現地で得た運用上の知見を、企業や研究機関、関係機関との議論につなぎ、隊員の生存性向上に取り組んでまいります。併せて、そこで培われる技術や仕組みの防災分野への応用も視野に入れ、有事と災害の双方において人命を守り、社会の対応力を高める産業基盤の形成に貢献してまいります。
■今回の報告書の位置付け
本報告書は、JISDAが継続的に蓄積してきた現地調査の知見の一部を、一般向けに整理したものです。戦術医療をめぐる戦場環境の変化を共有し、日本の教育、装備、研究開発、制度設計において検討すべき論点を提示しています。
現地調査で得た具体的な手法、装備の仕様、運用上の詳細については、情報保全の観点から公開範囲を限定しています。専門的な内容や個別の課題に関するご相談については、ご所属と目的を確認のうえ、必要な範囲で対応します。
今後もJISDAは、現地調査に基づく報告書や提言の公表を継続し、運用の現実と日本の技術・産業・制度をつなぐ議論を進めてまいります。
■JISDA代表取締役社長・國井翔太 コメント
無人機をはじめとする無人アセットの導入が進むほど、その環境で任務を担う生身の人間に、どのような負担がかかるのかを考える必要があります。監視や攻撃の密度が高まるなかでは、現場で求められる判断や対応も複雑になり、身体的・精神的な負担が増す場面もあります。無人化を進める時代だからこそ、人間をどう守るかという課題に、これまで以上に責任を持って向き合わなければなりません。
一人ひとりの命と尊厳を守り、犠牲を減らすことを、技術開発や部隊運用の明確な目的として据える必要があります。任務の達成に必要な能力を整えると同時に、それを担う人の負担を軽減し、負傷した際には救護や医療につながる備えを整える。その責任を、教育、装備、補給、支援体制の設計に具体的に反映していくことが重要だと考えています。
この考え方は、災害時に支援を待つ人々や、危険な現場で救助に当たる人々を守ることにもつながります。JISDAは、ウクライナで得た知見を日本の備えへと生かし、無人機や通信、医療を支える技術を、防衛と防災の双方で人命を守る仕組みにつなげてまいります。
また今回ご紹介しているような知見は、ウクライナの方々が厳しい現場で積み重ねてきた貴重な経験に基づいています。共有いただいた知見を日本の備えに生かすとともに、私たちの技術や取組を通じて現地に何を還元できるのかを常に考え、双方に資する協力を進めてまいります。
■JISDA株式会社について
JISDA株式会社は、安全保障分野の研究開発およびインテグレーションに取り組む防衛スタートアップ企業です。国内外の運用現場に関する調査を通じて現場の課題を捉え、無人機をはじめとする技術の研究開発や運用構想の検討につなげています。技術・産業・制度を横断する視点から、日本の安全保障を支える基盤の構築を目指しています。
【本件に関するお問い合わせ先】
社名:JISDA株式会社
所在地:〒100-0005 東京都千代田区丸の内1丁目7-12 サピアタワー8F
代表者:代表取締役社長 國井翔太
URL:https://jisda.jp/
E-mail:contact@jisda.jp
専門的な内容に関するお問い合わせの際は、ご所属・お役職・お名前・お問い合わせの目的をご記載のうえ、ご所属先のドメインのメールアドレスからご連絡ください。
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