世界初、10か月間の木材宇宙曝露実験を完了
木材用途の拡大、木造人工衛星(LignoSat)の打上げを目指して
国立大学法人京都大学(総長:湊 長博/以下、京都大学)と住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎/以下、住友林業)が2022年3月より取り組んできた「国際宇宙ステーション(ISS)での木材の宇宙曝露実験」※1で、約10ヶ月間の宇宙空間での木材試験体※2の曝露実験が完了し2023年1月、試験体は地球に帰還しました。NASA、JAXAを経て3月、木材試験体を受理。外観、質量等を測定する1次検査を実施しました。木材の割れ、反り、剥がれなどはなく、温度変化が大きく強力な宇宙線が飛び交う極限の宇宙環境下で、試験体の劣化は極めて軽微で材質は安定しており、木材の優れた耐久性を確認しました。2024年に打上げを計画している木造人工衛星(LignoSat※3)1号機に使用する樹種は、今回の実験結果を踏まえホオノキを使用することを決定しました。
今後、木造人工衛星の打上げに向けて最終的な調整を進めるとともに、試験体の詳細解析を進め、劣化のメカニズムを解明し、劣化抑制技術の開発、地球上での木材利用の拡大に繋げます。
図1 宇宙曝露した木材試験体
※1 参考:「京都大学と住友林業 世界初の木材の宇宙曝露実験」リリース(2021年8月) https://sfc.jp/information/news/2021/2021-08-25.html
※2 木材試験体:ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバの3樹種。地上での各種物性実験により木造人工衛星に使用する最終候補として選定。
※3 LignoSat(リグノサット)は、Ligno(木)と 人工衛星(Satellite)からなる造語で本プロジェクトにて命名。
図2 ISS船外曝露プラットフォーム (C)JAXA/NASA
(拡大図:中央の直方体上部が曝露試験中の木材)
■検査概要
①外観測定
・宇宙曝露後の試験体を目視とマイクロスコープにより、割れ、反り、剥がれ、表面摩耗などについて評価。
結果:いずれの樹種においても、割れ、反り、剥がれ、表面摩耗などの劣化は全く認められないことを確認。
図3 宇宙曝露後木材試験体(ホオノキ)拡大写真
左:宇宙曝露試験体 右:宇宙未曝露試験体
②質量検査
・木材試験体の宇宙曝露前後での質量変化を測定。宇宙放射線や宇宙空間の原子状酸素(AO: Atomic Oxygen) ※4が木材にぶつかることによる表層の消失、化学変化や分解による質量変化の程度を検証。
結果:曝露試験体の重量を測定し、含水率の影響を補正した結果では、ほとんど減少していないことを確認。
③3樹種の違い
・3種類の樹種ヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバそれぞれの劣化の差を検証。
結果:3樹種間の劣化の差は確認されなかった。
極端な温度変化、原子状酸素の衝突、銀河宇宙線(GCR: Galactic Cosmic Ray)や太陽エネルギー粒子(SEP: Solar Energetic Particle)の影響など、地球上とは桁違いに過酷な環境下の宇宙空間に10ヶ月間晒した試験体は、それらの影響により何らかの浸食が生じることを想定していました。予想に反し外観上に極端な劣化は認められず、木材の利用拡大への可能性を再認識する結果となりました。
今回の宇宙曝露実験は木造人工衛星(LignoSat)に使用する樹種の候補のヤマザクラ、ホオノキ、ダケカンバから、最終的に使用する樹種を決定するプロセスの一つでもあります。3樹種間に劣化の差は確認されなかったことから、地上で実施した各種試験の結果(加工性の高さ、寸法安定性、強度等)も踏まえ、木造人工衛星(LignoSat)にはホオノキを使用することを決定しました。
※4 原子状酸素:酸素分子が太陽からの紫外線により分解したもの。地表付近の酸素は通常酸素分子(O2)として存在するが、低軌道では太陽からの紫外線の影響で酸素原子(O)の状態で存在する。これを原子状酸素という。
■経緯・今後のスケジュール
2020年4月 | 京都大学と住友林業は2020年4月「宇宙における樹木育成・木材利用に関する基礎的研究」に共同であたる研究契約を締結し「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project※5)」をスタート。木造人工衛星打ち上げをめざし開発を進める |
2021年9月 | 宇宙航空研究開発機構(JAXA)へ木材試験体を引き渡し |
2022年3月 | 国際宇宙ステーション(ISS)「きぼう」日本実験棟の船外曝露プラットフォームで宇宙曝露試験を開始 |
2022年12月 | 294日間の宇宙曝露実験を終え、12月23日若田宇宙飛行士の手により試験体回収を完了 |
2023年1月 | ドラゴン補給船運用26号機(Spx-26)にて地球に帰還 |
2023年3月 | 京都大学/住友林業が木材試験体を受理。1次(簡易)検査を実施 |
2023年5月 | 元素分析、結晶構造解析や強度試験等のより詳細な分析を開始。微細構造への影響等を分析することで、更なる木材の可能性を追求 |
2024年2月以降 | 木造人工衛星打上げ、運用開始予定 |
※5 LignoStella(リグノステラ)は、Ligno(木)と Stella(星)からなる造語で本プロジェクトにて命名。
京都大学は今回の曝露試験のデータと1号機の運用データをこれから計画を進めるLignoSat2号機の設計や2号機で計測を検討するデータの基礎資料としていきます。
住友林業は試験体の今後の詳細分析を通じて、ナノレベルの物質劣化の根本的なメカニズムを解明することを目指します。このメカニズムを解明することで、高耐久木質外装材等の高機能木質建材や木材の新用途開発に役立てていきます。
図4 京都大学と住友林業にて宇宙曝露試験体を受理(クリーンルーム内にて)
以 上
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