株式会社ぴよログと大阪大学大学院基礎工学研究科清野研究室、新生児・小児の体格発育評価に関する共同研究を開始
従来基準を見直し、身長や成長特性に応じた個別的な体格評価の実現を目指す

株式会社ぴよログ(本社:愛知県、代表取締役:榊原洋平)は、大阪大学大学院基礎工学研究科の清野健教授らの研究グループと共同で、育児記録アプリ「ぴよログ」に蓄積された成長データを活用し、子どもの発育過程を踏まえた新しい体格評価技術の開発に着手しました。清野教授の研究グループはこれまで、国内外で広く使用されている小児の肥満・やせ判定基準が、身長や骨格成長の違いを十分に反映していない可能性を指摘してきました。子どもの健やかな成長をより正確に評価するためには、身長と体重の経時的な発育データを大規模に収集・解析することが必要ですが、これまではそのようなデータの取得が困難でした。今回の共同研究では、1日あたり約70万人が利用する育児記録アプリ「ぴよログ」に入力された成長記録データを活用し、子どもの発育過程を考慮した新たな体格評価法の確立と、その妥当性の検証を目指します。この取り組みにより、科学的根拠に基づいた成長支援の実現を通じて、すべての子どもと家庭が安心して成長を見守れる社会の実現を目指します。
【研究背景と目的】
子どもの健やかな成長を見守ることは社会全体の責務ですが、科学的根拠に基づいた子どもの肥満ややせの評価法は、いまだ十分に確立されていません。大阪大学大学院基礎工学研究科の清野健教授らの研究グループは、これまでの研究で、世界的に広く用いられている体格指標BMI(Body Mass Index)の基準が、身長の違いや骨格成長の影響を十分に考慮していないことを明らかにしてきました(参考文献[1, 2])。現在、一般的に用いられている国際的な評価法では、背が高い子どもが太りすぎと判定されやすく、小柄な子どもがやせすぎと判定されやすいといった、身長に依存したバイアスが生じることが指摘されています。つまり、「体重を身長の二乗で割る」という従来のBMIの定義では、成長の途中にある子どもの多様な体型や発育のスピードを正確に反映することが難しいのです。
また、日本の学校保健統計で採用されている国内独自の基準でも、肥満ややせと判定される子どもの割合は年齢によって大きく変動しています。特に、就学前では極端に少なく、思春期前後で急激に増減する傾向が見られます。国際的な体格評価の考え方では、年齢による影響を受けにくいように基準が設定されていますが、日本の基準に見られるこの変化が本当に子どもの健康状態を反映しているのか、それとも評価基準そのものに内在する年齢依存的なバイアスによるものなのかについては、これまで十分に検証されていませんでした。本研究は、この疑問に科学的に取り組むことを出発点としています。
身長と体重を用いた体格評価の考え方は、「近代統計学の父」と呼ばれるアドルフ・ケトレー(Adolphe Quetelet)が約200年前に発見したべき乗則(スケーリング則)に基づいています。しかし、清野研究室の最近の研究では、骨格成長期の子どもでは、身長だけでなく体格にも依存する、より複雑なスケーリング関係が存在することが明らかになりました(参考文献[1])。これは、子どもの体重増加が骨格の発達と密接に関連しており、成長期の子どもと骨格が成熟した成人では、身長と体重の関係を同じ数式で表すことができないことを意味します。したがって、成人と同じ基準を用いて肥満ややせを評価することは、必ずしも適切ではありません。
こうした課題を解決し、より正確な評価法を確立するためには、多数の子どもの身長と体重を長期間にわたって観測した縦断的データが不可欠です。しかし、これまではそのような大規模データの収集が困難でした。そこで今回、1日あたり約70万人が利用する育児記録アプリ「ぴよログ」を運営する株式会社ぴよログと連携し、家庭で日々記録される成長データのうち、研究開発への使用について同意を得たデータを活用した大規模発育データ解析の共同研究を開始しました。
本研究開発では、子どもの個々の成長パターンや体格特性を反映した新しい発育評価法を開発し、従来の国内外の体格判定基準にみられる身長や年齢に依存したバイアスを補正することを目指しています。子どものやせや肥満は、将来的な骨の発達不良や生活習慣病のリスクと深く関係していることが知られており、成長段階に応じて体格を正確に評価することは、長期的な健康維持と予防医療の基盤となります。本研究の成果は、子どもの肥満ややせをより高精度に理解するための新たな科学的基盤を築くとともに、一人ひとりの健康的な成長を科学的に支援し、社会全体で子どもの健やかな発育を見守る仕組みの構築につながることが期待されます。
参考文献
[1] Ogata H, Isoyama Y, Nose-Ogura S, Nagai N, Kayaba M, Kruse JGS, Seleznov I, Kaneko M, Shigematsu T, Kiyono K. Allometric multi-scaling of weight-for-height relation in children and adolescents: Revisiting the theoretical basis of body mass index of thinness and obesity assessment. PLoS One 19:e0307238 (2024).
[2] Isoyama Y, Nose-Ogura S, Ijitsu MJ, Kruse JGS, Nagai N, Kayaba M, Ogata H, Mangalam M, Kiyono K. Age- and height-dependent bias of underweight and overweight assessment standards for children and adolescents. Front Public Health 12:1379897 (2024).
株式会社ぴよログ代表のコメント(代表取締役社長 榊原 洋平)】
「ぴよログ」には、多くの子どもの身長や体重の記録が蓄積されていますが、これまではその数値を成長曲線と比較する段階にとどまり、個々の子どもの痩せや肥満を正確に評価することは難しい状況でした。
今回、大阪大学大学院基礎工学研究科 清野研究室との共同研究を通じて、より科学的根拠に基づいた新しい体格評価基準の確立と、それに基づくユーザーへの的確なフィードバック提供を目指してまいります。
【株式会社ぴよログについて】
夫婦で共有できる育児記録アプリ「ぴよログ」の提供を通じて、乳幼児期の育児をサポートしています。使いやすいユーザーインターフェース(UI)と豊富な機能が高く評価され、累計500万ダウンロードを達成しました。今後も、育児のパートナーとして、子育てをより便利で安心できるものにするサービスを提供してまいります。
所在地:愛知県半田市広小路町155-3 クラシティ2F
代表者:代表取締役社長 榊原 洋平
公式サイト:https://www.piyolog.com/
【大阪大学大学院基礎工学研究科・清野健教授のコメント】
大規模なデータ解析に基づいて子どもの健康を見守るという取り組みは、まだ始まったばかりの新しい挑戦です。これまで、子どもの健康に関する研究は、医療機関や研究機関が限られた環境で収集したデータに依存していました。しかし近年、データ科学の発展により、日常生活の中で得られる「実世界データ(real-world data)」を活用し、その分析結果を社会全体で共有していく流れが加速しています。本研究は、その最前線に立つ試みの一つです。家庭で日々記録される成長データをもとに、科学的根拠に基づいた新しい体格評価の仕組みを構築することで、すべての子どもがより健康に成長できる社会づくりに貢献したいと考えています。
【今後の展開】
今後は、育児記録アプリ「ぴよログ」に蓄積された成長データを活用し、年齢や身長の影響を受けにくい新しい体格評価モデルの開発を進めていきます。得られた成果は「子どもの発育評価基準」として体系化し、家庭や医療・教育の現場で幅広く利用できる形で公開する予定です。また、この評価法を「ぴよログ」アプリに実装することで、家庭でも手軽にお子さんの成長を科学的に見守ることができる仕組みを提供します。
さらに、大阪大学の国際医工情報センター(MEIセンター)と連携し、新しい体格評価法の医学的・生理学的な妥当性や臨床的意義を検証していく計画です。これにより、医学・情報科学を融合したアプローチから、科学的根拠に基づく発育支援の仕組みを確立し、研究成果を社会に還元していきます。
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