電子書籍・事典の活用による読書支援の効果を長崎市立小学校で調査
~学校および家庭での読書意欲が向上 授業での活用や図書室との相乗効果も~
今般、本調査の結果を取りまとめましたので発表します。
電子書籍サービス導入による児童の読書習慣などに対する効果
タブレットからさまざまな書籍を閲覧できるようになったこと、児童がデジタルサービス上の機能に関心を持ちやすいことから、長期休業中やすき間時間、帰宅後などの読書機会の増加につながった。また、一度に複数人で同じ書籍が利用できるため、教職員からは授業や課題で使いやすいと評価された。
電子書籍サービスによって図書室の利用が減るのではなく、図書室・電子書籍サービス双方から好きな本に出会うことができる、図書室の利用後に新しい本を探す、図書室のイベントに組み込むといった事例が見られた。電子書籍サービスと図書室活動の両立を図りつつ、児童の読書環境を豊かにすることができると言える。電子事典サービス導入による児童の調べ学習・インターネット利用に対する効果
電子事典サービスは、授業で専門用語を調べる場面や調べ学習をする場面で主に利用されていた。児童向けの分かりやすい説明があり、図や写真も見ることができることから、授業で活用しやすいと評価された。
ウェブ上の検索エンジンとは異なり、検索結果が児童向けに分かりやすく表示され、正確な情報や専用のコンテンツが表示される。そのため、安心して調べ学習(あるテーマについて、児童が書籍やインターネット検索などを用いて調べたことをまとめる学習)に取り組めるという意見があった。インターネットを利用する際のリスクを軽減し、児童の情報活用能力の向上につながる機能が評価された。電子書籍・電子事典サービスを学校現場に導入する際の留意点
電子書籍や電子事典サービスの一般社会への浸透はまだ十分とは言えない。学校現場で活用するには、教職員が活用方法や活用事例を知る機会を提供するなどの工夫が必要である。
■本取り組みの概要
導入先: 長崎市内の4つの市立小学校(学校周辺に大規模書店や市立図書館が少ない市立小学校から選定)
導入内容: ポプラ社の電子書籍読み放題サービス「Yomokka!(よもっか!)」および電子事典などを閲覧できる調べ学習応援サービス「Sagasokka!(さがそっか!)」について、対象校で利用されているインターネット接続が可能なタブレット端末を通じて、教職員および児童が学校や自宅で自由に利活用できることとした。それぞれの利活用方法については、授業で活用する・しないも含め、個々の教職員の裁量とした。
〇Yomokka!(よもっか!)
32社3,500冊(2023年7月1日時点)の作品が掲載されている電子書籍読み放題サービス。同じ本を同時に複数人が利用できるほか、さまざまな本と出会う機能や読書履歴を確認できる機能などがある。
〇Sagasokka!(さがそっか!)
デジタル化された児童向けレファレンス資料をオンラインで提供する調べ学習応援サービス。「総合百科事典ポプラディア」および「ポプラディアプラス人物事典」の項目を閲覧できるほか、関連項目への遷移、コラム・クイズを通した項目の紹介、テーマ別項目集を用いた検索、項目に紐づく画像・資料の検索など調べ学習に適した機能がある。
〇その他
「朝日小学生新聞」の一部のコンテンツを過去3カ月分閲覧できる。
〇サービス概要: https://kodomottolab.poplar.co.jp/mottosokka/
導入期間: 2022年7月~2024年3月(予定)
■本調査の概要
調査目的: 電子書籍・電子事典サービスの利活用を進める方法の検討に役立てるため、本取り組みの導入が以下の場面において児童・教職員に与えた影響や課題、ニーズなどを把握する。
・読書環境や学習環境
・学校図書室の利用
・家庭での過ごし方
・教職員の授業準備や読書推進
調査方法:
①児童②保護者③教職員に対し、質問票によるアンケート調査を実施した(2023年2月20日~3月3日)。その結果、それぞれ以下の回答を得た。
・児童48名、保護者25名、教職員20名
④学校全体への影響を把握するため、学校長、教頭、図書室担当者には、対面によるヒアリング調査を実施した(2023年3月)。その結果、以下の回答を得た。
・導入した4校の学校長、教頭、図書担当者合計5名
⑤本取り組みによる読書行動の変化を把握するため、電子書籍利用冊数および本取り組み前後における図書室貸出冊数を計測した。
・電子書籍利用冊数(2022年7月~2023年1月)
・図書室貸出冊数(2021年7月~2022年1月および2022年7月~2023年1月)
■調査結果
(1)Yomokka!の活用実態と児童への効果
◇Yomokka!の活用状況(教職員へのアンケート結果)
Yomokka!の活用については、授業での活用も含め、個々の教職員の判断に委ねられていたが、教職員のうち75%が授業・課題などで活用したり、児童に活用を促したりしていた。
◇Yomokka!の活用場面(教職員へのアンケート・ヒアリング結果)
Yomokka!の活用場面として、回答した教職員の半数以上から挙げられたのは、学校内の朝の読書活動の時間やテスト・課題終了後などのすき間時間、家庭での読書などであった。
Yomokka!が持つ自身の読書記録を保存できる機能や、Yomokka!のリンクをクラスのオンライン掲示板に引用して本を紹介できることなど、デジタルサービスならではの特徴が児童の興味を引き、さらに読書や読書を通じた交流をするきっかけにもなっていた。
一方で、授業の教材や端末持ち帰り時の課題としての利用は、それらの半分以下にとどまった。
具体的な活用場面(アンケートの自由回答・ヒアリング結果から抜粋)
◇教職員にとってのYomokka!導入の効果(教職員へのアンケート結果)
Yomokka!の導入効果として最も多かったのは、回答した教職員の半数以上が挙げた、「休み時間や放課後、長期休業中に読書することを促しやすくなった」であった。
一人1台のタブレットを通じて、児童に新しい本を読むように勧めやすくなったことが、児童の読書機会の増加につながったと考えられる。
◇Yomokka!導入後の児童に見られた変化(教職員へのアンケート結果・ヒアリング結果)
導入後に児童に見られた変化として、「児童の読書への関心が高まった」という回答が最も多かった。その理由として、デジタルデバイスを好んで利用する一部の児童が紙の書籍以上に興味を示したことや、おすすめの本がランダムにガチャのような画面で表示され、ゲーム感覚で新しい本に出会える機能が児童の関心をひいていることなど挙げられた。結果として、「児童の読書時間が増えた」という回答も2番目に多かった。
また、電子書籍と紙の書籍に触れた結果、仕掛け絵本など、電子書籍にはない紙の書籍ならではの魅力に児童が気付くきっかけになったとの回答もあった。
児童に見られた変化(アンケートの自由回答・ヒアリング結果から抜粋)
◇Yomokka!を使った感想(児童へのアンケート結果)
Yomokka!を利用した児童の感想としては、低学年からは「本を読むことが楽しくなった」、高学年は「新しい本を知った」「本を読むことが楽しくなった」が多かった。本に親しみ始めた低学年にとっては読書を楽しむきっかけとなったことが、ある程度読書に親しんでいる高学年にとっては新しい本との出会いとなったことが評価されたものと思われる。
◇2021年度と2022年度の読書量の比較
図書室の貸出冊数とYomokka!の利用データを計測し、2021年度(2021年7月~2022年1月)の児童の読書量と、2022年度(2022年7月~2023年1月)の児童の読書量を比較した。
2021年度の児童1人当たりの図書貸出冊数と、2022年度の児童1人当たりの図書室の貸出冊数と電子書籍の読了冊数を合計した値を比較すると、特に2~4年生において、2022年度の方が多い結果となった。
電子書籍の導入は、紙の書籍を読む機会を減少させるのではなく、児童が電子書籍と紙の書籍を組み合わせ、より多くの本に触れる機会を創出していると言える。
(2)Sagasokka!の活用実態と児童への効果
◇Sagasokka!の活用状況(教職員へのアンケート結果)
Sagasokka!については、60%の教職員が授業・課題などで活用したり、児童に活用を促したりしていた。教職員は、主に「授業の教材として」「テストや課題終了後のすきま時間の学習教材として」活用していたと回答している。
◇Sagasokka!の活用場面(教職員へのアンケート結果・ヒアリング結果)
Sagasokka!は、主に授業の補助的な教材として活用されていることが分かった。例えば、小学校高学年の調べ学習や、国語や社会で出た言葉を調べる場面において活用されていた。
具体的な活用場面(アンケートの自由回答・ヒアリング結果から抜粋)
◇教職員にとってのSagasokka!導入の効果(教職員へのアンケート結果・ヒアリング結果)
Sagasokka!の導入効果として、教職員からは、学習指導や教材研究の手助けとなったという意見や児童がインターネット上で資料を調べる方法を学べるという意見が挙がった。
その他の効果(ヒアリング結果から抜粋)
◇Sagasokka!導入後の児童に見られた変化(教職員へのアンケート結果・ヒアリング結果)
Sagasokka!の導入によって、児童が自ら興味があることを調べたり、授業中に紹介した内容や資料を調べたりすることが増えたという回答があった。通常のインターネット検索と異なり、Sagasokka!で言葉を検索すると、児童向けの正確性が担保された説明資料を閲覧できるため、児童の調べ学習の精度・効率が向上したと考えられる。
◇Sagasokka!を使った感想(児童へのアンケート結果)
Sagasokka!を利用した児童からは、「新しいことを知った」「調べることが楽しくなった」という感想が多く寄せられた。
(3)Yomokka!およびSagasokka!全般および導入にあたっての課題・今後の活用可能性
◇Yomokka!およびSagasokka!導入後の児童の変化(保護者へのアンケート結果)
保護者では、Yomokka!およびSagasokka!導入によって、子どもの「読書をする機会が増えた」「興味・関心のある分野が広がった」という変化を感じたケースが多かった。
◇Yomokka!およびSagasokka!に対する意見(保護者へのアンケート結果)
児童が自ら進んでYomokka!での読書を楽しんでいることや、Sagasokka!の情報の正確性・安全性から安心して子どもに使わせられることなど、好意的な受け止めがみられた。
◇Yomokka!およびSagasokka!の活用が難しかった理由等(教職員へのヒアリング結果)
一部の学校や学年では、十分な活用につながらなかった。その要因として、学期の途中での導入による授業計画への導入が難しかったことや、低学年にとっては電子事典サービスの利用が難しかったことなどが挙げられた。
◇今後の活用可能性について(教職員へのヒアリング結果)
今後、Yomokka!およびSagasokka!の活用を推進するにあたって、教職員からは、書籍数や児童向け用語のみを使ったコンテンツの拡充や、教職員による書籍や検索ワードの提示機能の実装などの要望が出された。
■まとめ
(1)電子書籍サービス導入による児童の読書習慣などに対する効果
一人ひとりが持つタブレットを通じて、電子書籍に容易にアクセスし、気軽に読書することができる電子書籍読み放題サービスYomokka!の導入によって、児童にとっては、新しい本に出会う機会が増えるなど読書環境が充実したと言える。児童は、図書室で借りた本の読了後や、長期休業期間中や授業のすきま時間、図書室が利用できないときなどに積極的に利用するようになった。
また、デジタルサービス特有の新しい本に出会う仕掛けや自身の読書記録を確認できる機能には、児童が読書をするきっかけを生む効果や、たくさんの本を読む意欲を喚起する効果もあると考えられる。
電子書籍では、一つの資料を複数人で同時に利用する学習が可能となるため、紙の資料と異なり、教職員が人数分の資料を準備する必要がない。そこで、この機能を活用して、図書室のイベントにYomokka!およびSagasokka!を積極的に取り入れている学校もみられた。
今後、さらに積極的に活用することで、図書室や校内の資料の不足分を補完する役割に留まらず、児童が新しい書籍・情報に触れるきっかけを与え、授業や図書室での活動や家庭での学びをより充実させることができるようになると考えられる。
(2)電子事典サービス導入による児童の調べ学習・インターネット利用に対する効果
Sagasokka!の導入によって、児童が自主的に調べものをするようになったり、興味関心のある分野が広がったりする変化が見られた。電子事典の導入によって、児童が新しいことを知る機会が増え、自ら意欲的に調べものをするようになるという効果が得られたと考えられる。
Sagasokka!は、情報の検索方法や関連情報への遷移のしやすさなどはウェブ上の検索エンジンと類似しているが、それらとは異なり、児童向けのコンテンツとして情報の分かりやすさや正確性が担保されているため、教育現場にとっては利用しやすいコンテンツである。児童向けの専門書が少ない分野の調べ学習や、インターネットを含むさまざまな資料・情報を利用した調べ方そのもの学ぶ素材としても有用であると考えられる。
児童の興味を引きやすいコンテンツ(画像など)が豊富な点や児童向けの分かりやすい記事を教職員から共有しやすい点も、授業に活用しやすい特徴と評価された。
(3)電子書籍・電子事典サービスを学校現場に導入する際の留意点
特に授業における活用のためには、教職員が電子書籍・電子事典サービスを十分に理解していることが肝要である。
電子書籍や電子事典を学校現場で活用するためには、教職員が活用方法や活用事例を知る機会を提供するなどの工夫が必要である。
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