日本の女性は、自身が理系職種に就いているイメージを持ちにくい?理系進学者と文系進学者で比較、「理系進学・就職にメリットを感じる」で3倍以上の開き
大学1-2年生の女子520名を対象とした進路選択に関する調査結果を公表
■調査の背景
高等教育にてSTEM(理系)領域を専攻する女性はOECD加盟国の大半で少ない傾向にあります。特に日本では2019年時点で自然科学・数学・統計学と工学・製造・建築分野の割合はそれぞれ27%と16%(*1)であり、加盟国の中で最も低い状況です。この状況は過去20年ほど変化していません。
その原因として、性別による先入観(ジェンダーバイアス)が学生の進路意識に影響を及ぼすことがあります。日本の20歳から69歳までの男女1,086人を対象とした学問分野とジェンダーイメージの調査では、女性はSTEM(理系)に不向きというイメージが強いことがわかりました(*2)。大学の進学率も女性のほうが男性より15%も低い(*2)というデータもあります。一方、国際学力テスト・PISAの日本の数学の成績では、男女の能力差はほとんどない(*3)ことが明らかとなっています。
さらに、2016年に実施された、自身が文系向きか理系向きかを尋ねた調査(*4)では、小学生4〜6年生の女子のうち理系志向と答えた割合は37.7%ですが、中学生女子は27.4%、高校生女子は28.3%となり、大学入学時点で理系に進学する女子は18.0%(*5)まで減少します。
本調査では、日本において女性が大学入学時に理工系学部を選ぶ割合が低い背景に着目し、特に文系を選択して大学に進学した女性の幼少期からの経験や育った環境、学校、親族などの要因を中心に分析し、なぜ理系を選ばなかったのか、女性の理系選択に影響を与える要因を明らかにしました。
なお、本調査では、文理選択の意思決定状況をもとに、理系進学者を「理系志望者」と「理系グレーゾーン」、文系進学者を「文系志望者」と「文系グレーゾーン」(*6)にそれぞれ分類して分析しています。
■調査結果の概略
理系進学者と文系進学者を比較すると、女子学生が理系に進学する要因として「得意な理系科目があること」も重要だが、「理系進学・就職にメリット」を感じることがより重要。理系進学者は「理系進学・就職にメリットを感じる」確率が3倍以上も文系進学者より高い。
「理系進学・就職にメリットを感じること」は「プラスの影響をもたらす保護者を含めた理系ロールモデル」と中高時代の「理系体験(*7)」が影響。「学校の女子理系進学割合」の要因は影響が限定的。
母親が理系職業従事者である場合、文系進学者においては「理系進学・就職にメリットを感じる」割合が約3分の2に減少。
文系進学者でも、中高時代に「理系体験」をすると、「理系進学・就職にメリットを感じる」割合が1.3倍増加。
■調査結果からの示唆
女子学生の文理選択には「理系進学・就職にメリットを感じること」が大きく影響
・調査結果によると、女子学生の中で「理系進学・就職にメリットを感じる」かどうかと、「得意な理系科目があること」が、文理選択や文理選択の前段階である中3の時点での文理の考え方(理系志望、理系グレーゾーン、文系志望、文系グレーゾーン)に強く影響を与えることが判明した。
・このうち、文系進学者と比較して、理系進学者においては、1.5倍以上が「得意な理系科目があった」と回答し、3倍以上が「理系進学・就職にメリットを感じること」があったと回答。
・この結果から、進学もしくは文理選択をする前に「得意な理系科目」の有無も影響するが、さらに重要な要因として「理系進学・就職にメリットを感じること」がなかった場合、消極的な理由から文系を選択した女子学生がいる可能性がある、という仮説が成り立つ。
「理系進学・就職にメリットを感じる」には「プラスの影響をもたらす保護者を含めた理系ロールモデル」と中高時代の「理系体験」が影響
・本調査では、「学校の女子理系進学割合」「両親の学歴」などの要因も比較した。これらの要因は「理系進学・就職にメリットを感じる」かどうかと、一部相関性は見られたが、女子学生の文理選択に与える影響は限定的だった。
・文系進学者において「理系進学・就職にメリットを感じる」人の割合は、母親が理系職業従事者である場合は、そうでない場合(身近な親族に理系職業従事者がいなかった場合)と比較すると3分の2ほどに減少する。このことから、進学ないしは文理選択する前に女性が理系職業で働くことの難しさを身近で感じることが、「理系進学・就職にメリットを感じること」にネガティブな影響を及ぼすといった仮説が成り立ち、周囲に理系職業の女性ロールモデルが存在するだけでは十分ではないことが示唆された。
・また、最終的に文系進学を選んだ女子学生においても、中高時代に「理系体験」を経験することで、「理系進学・就職にメリットを感じる」人の割合が1.3倍増加した。
・このことから、女子学生に対して、進学ないしは文理選択前までに「理系体験」を提供することで、積極的な動機で女子学生が理系を選択する可能性を高められるという仮説が成り立つ。
上記に基づき、理系分野で活躍する女性の具体的なイメージ提供、ないしはそれらにつながるような理系体験の提供が、女子学生の理系選択を促進する、という仮説が得られる。
*1:OECD iLibrary [Education at a Glance 2019]
*2:OECD Data 2021
*3:横山広美『なぜ理系に女性が少ないのか』幻冬舎、2022年 [図表1-3]
*4:東京大学社会科学研究所・ベネッセ教育総合研究所「子どもの生活と学びに関する親子調査2016」
*5:OECD iLibrary [Education at a Glance 2022] Table B4.3.
*6:●理系進学者:理系学部に進学した人全員
・理系志望:理系を中3時点志望しており、理系学部に進学した人
・理系グレーゾーン:文系を中3時点で志望していたが最終的に理転した人、または中3時点で迷っており、最終的に理系学部に進学した人
●文系進学者:文系学部に進学した人全員
・文系志望:文系を中3時点志望しており、文系学部に進学した人
・文系グレーゾーン:理系を中3時点で志望していたが最終的に文転した人、または中3時点で迷っており、最終的に文系学部に進学した人
*7:ここでは「職場体験」「研究機関・大学・企業の職場見学&インターンシップ」「プログラミング」等、なんらかの形で自身が将来理系職業へ就くイメージが持てるような中高時代における体験機会を指します。
■調査結果の詳細
1.女子学生の文理選択には「理系進学・就職にメリットを感じること」が大きく影響
「理系進学・就職にメリットを感じる学生の割合」「得意な理系科目がある学生の割合」を、理系志望、理系グレーゾーン、文系グレーゾーン、文系志望の4つのセグメントに分けて分析したところ、以下のような結果となった。
① 理系進学・就職にメリットを感じる学生の割合は理系志望(93%)、理系グレーゾーン(75%)、文系グレーゾーン(31%)、文系志望 (19%)の順に低下する傾向にあった。
② 得意な理系科目がある学生の割合は、理系志望(91%)、理系グレーゾーン(79%)、文系グレーゾーン(60%)、文系志望 (49%)の順に低下する傾向にあった。
特に、文系進学者については、理系進学・就職にメリットを感じる学生の割合が理系進学者と比較して、3分の1以下に落ち込む傾向にあった。また、文系進学者における「得意な理系科目がある」割合については、理系進学者と比較して3分の2の落ち込みとなった。
上記結果より、「得意な理系科目がある」ことも重要だが、さらに「理系進学・就職にメリットを感じる」かどうかが女子学生の文理選択に大きく影響する要因であることが判明した。
2. 「理系進学・就職にメリットを感じる」には、「プラスの影響をもたらす保護者を含めた理系ロールモデル」と、中高時代の「理系体験」が影響
「学校の女子理系進学割合」、「両親の学歴」などの選択肢を比較し、これらの要因と「理系進学・就職にメリットを感じること」との関連性を検証した。これらの要因は、「理系進学・就職にメリットを感じること」と一部相関性は見られたが、女子学生の文理選択に与える影響は限定的だった。
理系進学者、文系進学者、それぞれに対して「身近な親族の職業」「中高時代の理系体験の有無」という2つの理系進学に影響を及ぼす可能性がある要因と「理系進学・就職にメリットを感じる」を掛け合わせて分析したところ、以下のような結果となった。
① 文系進学者において「理系進学・就職にメリットを感じる」人の割合は、「母親が理系職業従事者」である場合は、そうでない場合(身近な親族に理系職業従事者がいなかった場合)と比較すると3分の2ほどに減少する。このことから、進学ないしは文理選択する前に女性が理系職業で働くことの難しさを身近で感じることが、「理系進学・就職にメリットを感じる」かどうかにネガティブな影響を及ぼすといった仮説が成り立ち、周囲に保護者を含む理系職業の女性ロールモデルが存在するだけでは十分ではないことが示唆された。
一方で、理系進学者においては、「父親が理系職業従事者」である場合とそうでない場合(身近な親族に理系従事者がいなかった場合)と比較しては7%、「母親が理系職業従事者」である場合とそうでない場合は6%、「理系進学・就職にメリットを感じる」人の割合が増加した。
② また、文系進学者においては中高時代の「理系体験」があることによって、「理系進学・就職にメリットを感じる」学生がそうでない学生と比較して1.3倍増加した。
上記結果より、女子学生の文理選択において、「理系進学・就職のメリットを感じる」要因として、中高時代の「理系体験」があることが判明した。また、理系進学者の中では、身近な親族が理系職業に従事している場合、従事していない場合と比べて、メリットを感じる傾向がやや高まるが、文系進学者においては、特に母親が理系職業に従事している場合、ネガティブな影響を受ける傾向がやや高まることがわかった。
本調査の完全版は、財団公式サイトで公開しております。
URL:https://www.shinfdn.org/posts/KXZHIw1O
関連資料:
https://prtimes.jp/a/?f=d83893-23-efe0f0a4afe904ced74dee939df546f9.pdf
当財団は、2035年度のSTEM(理系)分野の大学入学者の女性比率を28%にすることを目指しており、STEM(理系)女子奨学助成金事業や企業や大学、非営利団体と連携し、中高生や教職員向けのSTEM(理系)関連イベントや調査活動、学生アンバサダーによる啓発活動を行っています。
今回の調査結果を踏まえ、より多くの女性がSTEM(理系)を現実的な選択肢として考えられるようにするための施策を検討しています。協働や連携活動などのお問い合わせは以下の公式ウェブサイトまでお願いします。
山田進太郎D&I財団 | STEM(理系)女子奨学助成金
■調査協力主体(デロイト トーマツファイナンシャル アドバイザリー合同会社)のご紹介
今回はデロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社様の協力を得て、調査を実施しました。同社は、「日本のビジネスを強く、世界へ」をコーポレートスローガンに掲げており、ファイナンシャルアドバイザリーファームとして最大級の陣容と、国内外のネットワークで企業の経営課題を把握し、迅速かつ的確なソリューションを提供しています。詳細は公式ウェブサイトをご確認ください。
デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社|デロイト トーマツ グループ|Deloitte
■公益財団法人山田進太郎D&I財団について
誰もがその人の持つ能力を発揮し活躍できる社会の実現に寄与するために、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進する目的で、メルカリCEO山田進太郎が2021年7月に設立した公益財団法人です。
特に、STEM(理系)のジェンダーギャップに注目し、2021年より女子中学生/高校生がSTEM(理系)キャリアを前向きに検討し、積極的に自己決定するための機運を創ることを目的に奨学金事業を開始しました。2023年からは、さらに活動の幅を広げるべく、対象者となる女子生徒を取り巻くステークホルダーとなる保護者や学校等教育機関、企業、行政/省庁の皆様と連携しながら、各種教育支援イベント等を通じて若い女性の成長と社会進出を支援しています。
※STEM(S:Science / T:Technology / E:Engineering / M:Mathematics)
代表理事:山田 進太郎(メルカリ創業者、代表取締役社長兼CEO)
設立年月日:2021年7月1日(木)
公益財団法人山田進太郎D&I財団公式ウェブサイト:
■2023年度の奨学金事業について
山田進太郎D&I財団は、2023年度もSTEM(理系)進学を選択しづらい現状にある女子学生が理系キャリアを前向きに検討し、積極的に自己決定するための機運を創るため、STEM(理系)女子奨学助成金の募集を7月6日より開始しました。詳細は以下をご参照ください。
STEM(理系)女子奨学助成金募集要項:
https://www.shinfdn.org/scholarship2023/requirements
【一般のお問い合わせ先】
公益財団法人山田進太郎D&I財団事務局
Eメール:info@shinfdn.org
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