Chefs for the Blue、飲食店の水産物調達の実態調査を発表。1300人の有効回答中、流通は95%が減少、価格は99%が高くなったと回答 。特にイカ類・ウニが入手困難
持続可能な海と食を目指した啓発活動を行うシェフの団体、一般社団法人Chefs for the Blue (渋谷区千駄ヶ谷/代表:佐々木ひろこ)は、飲食店のオーナーおよび食材調達担当を対象とした水産物調達の実態調査を実施。集まった1,301の回答から、物量・種類・価格などあらゆる面で調達が困難になっている状況が明らかになりました。
【背景・問題意識】
「和食」が2013年にユネスコ無形文化遺産として登録されてから、約12年が過ぎました。島国で生まれた和食は、海の豊かさをベースに発展した料理体系であり、先人から受け継がれてきた多くの魚料理は、日本に暮らす人々の命と健康を根底から支えてきました。そして近年は、さまざまな料理ジャンルの飲食店が魚介を多用した料理を生み出し、私たちの暮らしを豊かにしてきたとともに、食の国としての日本の地位を確固たるものにしています。
インバウンド消費額は2024年に8兆円を越え、そうした訪日外国人にとっても「食」が大きな渡航目的である(観光庁調べ)ことからも、私たちの魚食文化が、世界に誇れる魅力的なコンテンツであることに疑いの余地はありません。しかし近年、そんな魚食文化醸成に大きな役割を果たしてきた飲食店にとって、水産物が手に入りづらい状況が続いています。
2020年に改正漁業法が施行されましたが、それ以降も原因がはっきりしないまま、ほとんどの魚の漁獲量は減少を続けています。スルメイカやサケ、サンマなど、記録的な不漁がニュースになる魚だけでなく、江戸前鮨の花形コハダや、地域の食にとって重要なマダコ、シャコ、アサリ、マアナゴ、和食にとって大切な天然マコンブなど、多くの魚種が消えつつある沿岸の海も多いのが現状です。
日本の漁業・養殖業の生産量は1980年代の1/3以下となり、沿岸漁業の生産量も6割以上減少しました。食用魚介類の自給率は54%(2023年度/概算値)と、1964年(113%)の半分以下。世界的なタンパク質供給不足が目前に迫るなか、これは食料安全保障上の大きな課題であり、さらにこれまで培ってきた食文化を維持継承することも困難という危機的状況です。
このたびChefs for the Blueは、水産物生産の減少が日本の飲食業界に与えるインパクトを明らかにするために、業界初めての試みとして、全国の飲食店のオーナーおよび食材調達担当者を対象に記名式のアンケート調査を実施しました。
【調査結果サマリー】
・流通する物量は10年前に比べて95.2%が減少したと回答
(とても減った41.3%、減った53.9%)
・価格は10年前に比べて99.6%が高くなったと回答
(とても高くなった66.4%、高くなった33.1%)
・物量減および価格高騰について、高価格帯の店舗ほど強く感じると回答
(顧客単価30,000円以上の店は、物量がとても減った51.3%、価格がとても高くなった78.1%)
・特に仕入れ状況が悪化した魚種として名前が挙がった魚種の数は、1位イカ類、2位ウニ、3位サンマ、4位海老類、5位タコ類、6位アワビ、7位サバ、8位アナゴ
・98%が、水産物の仕入れの今後について危機感があると回答
(危機感がとても大きい72.7%、危機感が少しある25.4%)
【Chefs for the Blue代表 佐々木ひろこのコメント】
今回の調査により、飲食店における水産物の状況がこの10年で大きく悪化していることが明らかになりました。98%が「今後について危機感がある」と回答しており、この状況は日本の食の危機、食文化の危機そのものと言えます。
近年の漁獲量減少の背景にある事象として、温暖化による海洋環境の変化はもちろん大きいですが、それだけに限りません。海の生産量を超える過剰な漁獲や沿岸・河川流域開発、レジームの変化(イワシなど一部の魚種について数十年単位で資源量が上下する現象)、川を通じて供給される栄養塩減少他が、複合的にからみあって魚種ごと・地域ごとに異なる影響を与えていると推測されています。
解決に向けた対策のためには、まず海でなにが起きているのかを正確に把握することが先決ですが、日本の資源調査・評価関連予算は、漁業生産額で下回るアメリカの半分にも及びません(※)。まずは資源の調査や評価、研究に十分な予算があてられたうえで、日本の大切な資産・資源である魚食を守るためにも、一刻も早い水産資源の保全・回復が求められています。
また、調査において99%の回答者が水産資源に関する生産情報を求めていました。今後飲食店をはじめとした社会に対しても、生産履歴や流通情報等、情報提供(トレーサビリティの開示)がされることを期待します。飲食店は、サステナビリティに配慮した食材調達やメニュー開発が可能となります。
なお、こうした危機的な状況をふまえ、Chefs for the Blueは2025年6月2日に小泉農林水産大臣および森水産庁長官に政策提言書を提出しました。こちらの提言内容もあわせてご覧ください。
※Chefs for the Blue調べ。
2023年度漁業産出額:日本 9,534億円(海面)/アメリカ 7,112億円(商業)
2025年度資源調査・評価関連予算:日本 98億円の内数/アメリカ 238億円
【調査概要】
調査時期:2025年5月15日~29日(15日)
調査方法:インターネット調査
調査対象:全国の飲食店のオーナーおよび食材調達担当者
回答数:1,315サンプル
有効回答数:1,301
有効回答店舗数:1,267
【調査結果詳細】
代表的な質問回答は以下の通り。全調査データは下記リンクを参照ください。
・回答者の料理ジャンル(最多5ジャンル):
寿司26.9%(350店舗)、日本料理18.1%(235店舗)、フランス料理15.33%(199店舗)、イタリア料理10.5%(136店舗)、専門店(うどん・蕎麦・焼肉・鰻・天ぷら等)7.3%(95店舗)

・10年前と比べた、魚介類が市場等に流通する物量:95.2%が減ったと回答。また店舗のお客様単価と、「とても減った」と感じる割合には相関があり、お客様30,000円以上の店舗は「とても減った」と51.3%が回答。


・10年前と比べた魚介類の価格:99.5%が高くなったと回答。また店舗のお客様単価と、「とても減った」と感じる割合には相関があり、お客様30,000円以上の店舗は「とても高くなった」と78.1%が回答。


・特に減った魚種:最も多かった回答はイカ類、続いてウニ、サンマ、海老類、タコ類と続く(フリーワード回答から登場回数を抽出)。


・仕入れの今後についての危機感:98.1%が危機感があると回答。

【一般社団法人Chefs for the Blueについて】
Chefs for the Blue(シェフス フォー ザ ブルー)は2017年5月、日本の水産資源の現状に危機感を抱いたフードジャーナリストの声がけに応え、東京のトップシェフ約30名が集まった海についての深夜勉強会を起点とする料理人チームです。2021年9月には京都チームも発足。「日本の豊かな海を取り戻し、食文化を未来につなぐ」ことを目指し、NGOや研究者、政府機関などから学びを得ながら、持続可能な海を目指す自治体・企業との協働プロジェクトや各種ダイニングイベント、海の未来を担う次世代の教育事業、飲食業界を中心とした海の学びのためのコミュニティ運営、国への政策提言など、様々な活動を行っています。
【概要】
・法人名:一般社団法人Chefs for the Blue (シェフス フォー ザ ブルー)
・設立日:2018年6月6日 コックさんの日(活動開始は2017年)
・住所:東京都渋谷区千駄ヶ谷3-7-13東急アパートメントB1
・代表理事:佐々木ひろこ フードジャーナリスト
・理事: 【カンテサンス】 オーナーシェフ 岸田周三
【シンシア】オーナーシェフ 石井真介
【ノーコード】オーナーシェフ 米澤文雄
【チェンチ】オーナーシェフ 坂本健
「シーフードレガシー 」代表取締役社長 花岡和佳男
・相談役:【菊乃井】主人 村田吉弘
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