生成AIで面談業務を効率化し、住民支援の質を高めるリンクワーカー業務支援システムを開発

社会的処方の実践・普及による持続可能な未来型健康社会の実現をめざし、新潟県十日町市での試行導入を開始

株式会社 日立製作所

図1 リンクワーカー業務支援方式の概要

 株式会社日立製作所(以下、日立)および新潟大学は、地域資源を活用して住民の健康を支える社会的処方*1の多地域展開をめざして、音声認識と生成AIを活用したリンクワーカー*2業務支援システムを開発しました。2025年9月1日より、新潟県十日町市の特定保健指導業務に試行導入し、有効性を検証します。

 本システムは、リンクワーカー(保健師など)が行う住民との面談内容をリアルタイムでテキスト化した後、地域資源の紹介に必要な住民の健康状態や生活状況、希望する支援内容などの情報を、項目別に即座に整理・要約してレポート作成を支援することで、リンクワーカーの業務の効率化と面談時の情報の取得漏れ防止を実現します。さらに、要約・整理された面談内容と、予め蓄積された地域資源の利用データに基づいて、住民の課題や要望に応じた適切な地域資源の候補を、対話形式で検索・提示します。

 今後、十日町市での試行導入を通じて、さらなる機能改善や他地域への展開を進めるとともに、健康・医療・介護・福祉分野への社会的処方の実践・普及を推進し、持続可能な未来型健康社会の実現に貢献していきます。

*1 社会的処方: 住民の健康課題解決のため、薬の代わりに地域資源とのつながりを「処方」する仕組み。広義には、保健指導におけるスポーツクラブの活用、介護予防分野における住民主体の地域の通いの場の活用などの取り組みも含まれる。

*2 リンクワーカー: 支援を必要としている人を、住民の健康を支える行政や民間の地域活動やサービス(地域資源)につなぐ役割を担う人。

背景および課題

 現在、高齢化により医療・介護サービスの需要が増加する一方、少子化により医療・介護の専門人財は不足するという大きな課題を抱えています。特に、生産年齢人口の減少が進む地方自治体では、限られた人財や資源で地域の医療体制を持続的に維持することが求められています。また、近年、教育や就業、生活環境などの社会的要因が健康や生活の質に大きく影響することが明らかになってきました。こうした背景から、医療機関だけでなく、地域の栄養・運動教室、通いの場など多様な地域資源を活用した「社会的処方」の取り組みが注目されています。

 これまで、日立、新潟大学は、十日町市の協力を得て、糖尿病患者に地域の栄養指導やスポーツクラブを紹介する小規模実証「とおかまち健康の処方箋」の取り組みを進め、血糖コントロールの有意な改善と持続的な生活習慣の変化を確認しました。一方、患者に地域資源を紹介するリンクワーカーの業務において、面談記録の作成に多くの時間と労力を要することや、地域資源の数や種類が拡大した場合の紹介先選定方法が課題であることが明らかになりました。

課題を解決するために開発した技術・ソリューションの特長

 そこで日立と新潟大学は、医療・介護の専門人財や地域資源が限られる中でも、リンクワーカーが効率的かつ的確に住民支援を行えるよう、面談記録作成の負荷軽減と情報の取得漏れ防止、さらに多様化・拡大する地域資源の中から最適な支援先を選定できる仕組みを実現するため、音声認識と生成AIを活用した業務支援システムを共同で開発しました。

1. 面談内容の自動文字起こし・要約によるレポート作成支援機能

 本システムは、リンクワーカーが住民と行う面談内容を、音声認識技術によりリアルタイムでテキスト化します。さらに、生成AIがテキストの内容を項目別に整理・要約し、地域資源の紹介に必要な情報を自動的に抽出・分類します。これにより、従来手作業で行われていた記録作成の負担を大幅に軽減します。また、面談中、会話の内容を項目別に即座に要約して表示するとともに、未確認の項目をリマインドする機能を備えており、確認すべき項目の漏れを防止します。これにより、経験年数やスキルに依存せず、限られた時間内で誰でも一定水準の記録作成が可能となります。さらに、整理・要約する項目はカスタマイズが可能であり、社会的処方の適用分野に合わせたレポート作成が実現できます。

2. 対話型AIによる地域リソース検索・提案機能

 本システムは、住民の課題や要望に応じた適切な地域資源の候補を、生成AIを活用し、対話形式で検索・提示する機能を有しています。地域資源の情報は、施設の名称や所在地、活動内容などの基本的な情報に加え、リンクワーカーや住民からの提供情報も含めて蓄積できるようにしました。また、生成AIが、これらの蓄積された情報を活用し、住民に適切な地域資源の候補を提示できるようにしました。これにより、リンクワーカーが地域資源を把握・紹介する際の情報収集負担を軽減し、住民に対して迅速かつ的確な支援を提供することが可能となります。

新潟県十日町市での実証内容について

 「とおかまち健康の処方箋」のリンクワーカー担当者に開発機能をご覧頂き、「面談記録作成や確認の業務を1/3以下に大幅軽減できる可能性がある」とのコメントを頂きました。そこで、2025年9月から実施する特定保健指導に関わる面談業務において、レポート作成支援機能を試行導入します。特定保健指導の対象者と保健師との面談から、生活習慣のアセスメントと行動目標の設定の記録を行い、リンクワーカー業務支援システムの利用による業務負荷低減、確認漏れの防止、記録の均一化に関わる評価を行います。

新潟県 福祉保健部 部長 中村洋心様からのコメント

 新潟県は、都市部に加え、山間部・離島・豪雪地など多様な地域特性を併せ持ち、人口減少と急速な高齢化に伴い県民の生活課題も複雑化しています。このような背景のもと、リンクワーカーが支援を必要とする方々を地域の多様な資源へつなぐ「社会的処方」は、住民の暮らしを支える上で有望なアプローチの一つと捉えています。生成 AI を活用してリンクワーカーの活動を支援する今回の実証が、本県の多様な地域課題の解決に資する知見をもたらすことを期待しております。

新潟県十日町市 市民福祉部 健康づくり推進課 課長 根津昭様からのコメント

 保健指導では、保健師・管理栄養士は、対象者との面談の中で、普段の生活習慣を把握し、生活習慣の改善目標や具体的な行動を、会話をしながら一緒に考えていきます。対象者を継続して支援していくためには、対象者の生活におけるさまざまな課題や良い点を記録として残すことも重要であり、会話をしながらの記録は、大きな負荷となっていました。今回のシステムにより、記録作業が大幅に省力化され、指導対象者一人ひとりに寄り添った支援につながることを期待しています。

今後の展望

 今回の十日町市での試行導入を通じて、リンクワーカー業務支援システムのさらなる機能改善を進めます。日立は、Lumada 3.0を実現する一連の技術の一つとして本システムを強化し、専門知識(ドメインナレッジ)とAIを組み合わせた現場業務の高度化を通じて、ウェルビーイングと経済成長を両立するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。新潟大学は、地域に密着した研究と実践を通じて、住民一人ひとりの健康課題に寄り添い、地域資源の効果的な活用や社会的処方の実践モデルの構築を推進します。今後も、日立と新潟大学は連携して、健康・医療・介護・福祉分野への社会的処方の実践・普及を進め、持続可能な未来型健康社会の実現に貢献していきます。

 本取り組みは、JST-RISTEX SOLVE for SDGs (ソリューション創出フェーズ) 「多様なリンクワーカーとともにつくる社会的処方とテクノロジーがつなぐ地域主導の未来型健康社会のソリューション創出」プロジェクトの研究開発の一環で行います。

日立製作所について

日立は、IT、OT(制御・運用技術)、プロダクトを活用した社会イノベーション事業(SIB)を通じて、環境・幸福・経済成長が調和するハーモナイズドソサエティの実現に貢献します。デジタルシステム&サービス、エナジー、モビリティ、コネクティブインダストリーズの4セクターに加え、新たな成長事業を創出する戦略SIBビジネスユニットの事業体制でグローバルに事業を展開し、Lumadaをコアとしてデータから価値を創出することで、お客さまと社会の課題を解決します。2024年度(2025年3月期)売上収益は9兆7,833億円、2025年3月末時点で連結子会社は618社、全世界で約28万人の従業員を擁しています。詳しくは、www.hitachi.co.jpをご覧ください。

新潟大学について

新潟大学は、人文社会科学・自然科学・医歯学が共働する研究志向の大規模総合大学として、「自律と創生」の理念のもと、未来のライフ・イノベーションのフロントランナーとなることを将来ビジョンに掲げています。個性ある最先端研究と多様な基礎研究を推進し、それらを通じて地域及び産業の活性化と発展に貢献するとともに、地方から国際社会まで幅広く活躍できる問題解決能力の高い人材・未来社会に貢献できる人材を養成することを目指しています。詳しくは、https://www.niigata-u.ac.jp/ をご覧ください。

お問い合わせ先

株式会社日立製作所 研究開発グループ

お問い合わせフォーム:https://www8.hitachi.co.jp/inquiry/hqrd/news/jp/form.jsp

新潟大学大学院医歯学総合研究科 十日町いきいきエイジング講座

特任教授 菖蒲川 由郷 (しょうぶがわ ゆうごう)

025-227-2131

yugo@med.niigata-u.ac.jp

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会社概要

株式会社 日立製作所

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業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
電話番号
03-3258-1111
代表者名
小島 啓二
上場
東証プライム
資本金
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設立
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