脊椎関節炎とティーツェ症候群:鑑別診断における認識の重要性
新概念「ティーツェ領域」とは?
桜十字病院リウマチ膠原病内科の中村正医師と桜十字八代リハビリテーション病院内科・リウマチ科の松木泰憲医師による論文が、2025年1月、『Oxford University Press』を出版社とする日本リウマチ学会誌『Modern Rheumatology』に掲載されました。本論文は、重要なリウマチ性疾患のひとつ、脊椎関節炎に統括される各疾患とティーツェ症候群の臨床的な違いをより明確にし、鑑別疾患における重要性と新たに提唱した「ティーツェ領域」に病変をきたすリウマチ性疾患を浮き彫りにしました。このことは今後のプライマリケアにおける臨床診療へのアプローチの向上にも貢献する重要な成果であると考えています。
『Modern Rheumatology』2025年35巻1号 掲載
“Spondyloarthritis and Tietze’s syndrome: A re-evaluation (脊椎関節炎とティーツェ症候群:再評価)”
【URL】 https://academic.oup.com/mr/article/35/1/1/7756748
■ Oxford University Press(オックスフォード大学出版局)
英国のオックスフォード大学の一部局で、学術・研究・教育の振興に貢献する世界規模の出版事業を展開しています。
【URL】 https://corp.oup.com/
■ Modern Rheumatology (日本リウマチ学会誌)
一般社団法人日本リウマチ学会が発行するリウマチ学学会誌で、リウマチ学や関連分野のオリジナル論文、症例報告、綜説、小論文などを掲載しています。
【URL】 https://academic.oup.com/mr
適切な診断基準の確立に向けた論文
脊椎関節炎は早期診断と迅速な治療が必要な疾患であるのに対し、ティーツェ症候群はある程度経過を診ながら治療介入することが一般的です。そのため、鑑別診断が適切でない場合、不必要な治療が施されるリスクがあります。また、前胸部上部に発症する他のリウマチ性疾患と症状が類似しているため、早期に正確な鑑別を行うことが治療成功のカギとなります。そのような観点からこれら疾患の鑑別の重要性を再認識し、前胸部上部における様々な疾患を臨床的に整理・分類することが求められます。このことはティーツェ領域に症状を有する多くのリウマチ性疾患の鑑別が重要であることを再認識させるものです。
本論文は、過去に発表された関連ある論文を渉猟し、最近の脊椎関節炎に関する新知見を加え、中村医師と松木医師によるティーツェ症候群やSAPHO症候群の臨床経験などを踏まえて、脊椎関節炎とティーツェ症候群の鑑別を中心に論じています。

図1. いわゆるティーツェ領域
ティーツェ症候群は前胸部上部に発生しやすく、特に胸鎖関節や第2・第3胸肋関節に腫れが生じます。症状が広がると胸骨領域にも影響を及ぼすことがあります。本図では「ティーツェ領域」を黒い実線の楕円で示しています。
脊椎関節炎とティーツェ症候群の識別の重要性
近年リウマチ学の分野では脊椎関節炎の研究が進み、欧米ではその発症に遺伝的素因(HLA-B27)が関与していることが一般的に知られています。しかしながら、日本人ではその素因を有する割合は低いにも関わらず、診断にはHLA-B27が採用されており、脊椎関節炎診断の難しさにつながっています。

図2. 一般人口におけるHLA-B27遺伝子型の保有者率は世界的に地域差がある
参考資料:
・難病情報センター『硬直性脊椎炎(指定難病271)』
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4847
・順天堂大学医学部付属順天堂病院膠原病・リウマチ内科
『脊椎関節炎』
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/concerned/disease/disease07.html
『脊椎関節炎(特に強直性脊椎炎)』
https://hosp.juntendo.ac.jp/clinic/department/collagen/disease/disease04.html
ティーツェ症候群は1921年に報告された稀な症候群で、20~40歳代に発症しやすく、男女比ではやや女性優位の傾向を認めます。前胸部上部の症状を特徴とする経過良好な症候群ですが、同部位に症状を有する脊椎関節炎との鑑別が難しい側面があります。

図3. 本論文で提唱した「ティーツェ領域」に症状を有する疾患
脊椎関節炎は複数のリウマチ性疾患を含む総称であり、乾癬性関節炎、SAPHO症候群、PAO*(掌蹠膿疱症性骨関節炎)は「ティーツェ領域」に症状を有し、前胸壁の骨格病変や皮膚症状を伴うことがあります。ティーツェ症候群とこれらの疾患の鑑別はとても難しいことがあり、脊椎関節炎の診療においてティーツェ症候群を正しく理解することが重要です。
診断精度向上への貢献
本論文によって「ティーツェ領域」の概念が広がり、今後の研究や議論を踏まえて、脊椎関節炎等の国際的な分類基準や鑑別疾患の中に、この概念が位置付けられることが期待されます。それに伴う精度の高い診断技術の確立や 新たな治療法の開発は、患者に提供される医療の質の向上につながるでしょう。また「ティーツェ領域」に症状を有する疾患の診断には、リウマチ内科、皮膚科、整形外科の協力が求められ、診療科の横断的な連携が促進される可能性があります。
さらに本論文は”前胸部上部”の様々な疾患に対する注意喚起を促す意義を有しています。前胸部上部痛の原因を診断する場合、救急医療においては、生命に直結する循環器や呼吸器の疾患を最優先に考慮しますが、実際最も頻度が高い原因は、リウマチ性疾患を含む筋骨格系の疾患です。本論文を通じて、診療医療関係者の皆様が、前胸部上部に痛みや腫脹を呈する「ティーツェ症候群」を含む疾患群を再認識し、プライマリケアにおける鑑別診断に役立てていただくことを期待しています。
桜十字グループとして医療に携わる私たちの活動は、疾患の治療にとどまらず、患者さま一人ひとりの生活の質を高め、さらには社会全体のWELL-BEINGに寄与することを目指しています。人の健康・社会の健康・地球の健康を見据え、動植物を含めたすべての命あるものの健康-「One Health」の視点を大切にしながら、今後も医療の歩みを続けてまいります。
医師のコメント

桜十字病院 院長補佐
中村 正(なかむら ただし)医師
<専門>
リウマチ膠原病内科
詳しい経歴等は こちら >>>
今回提唱した新しい概念がリウマチ診療に携わる医師の目に触れることで、診断の精度向上に寄与し、より適切な治療につながることを期待しています。論文として発表することで、第三者による検証や批評を受ける機会が生まれ、より深い議論を通じて知見が洗練されていきます。この過程こそが、臨床医としての責務を果たすことにつながると考えています。

桜十字八代リハビリテーション病院 副院長
松木 泰憲(まつき やすのり)医師
<専門>
内科・リウマチ科
詳しい経歴等は こちら >>>
ティーツェ症候群に関する造詣の深い中村先生のご指導を賜り、共著者にしていただいたことを光栄に存じます。前胸部の疼痛は多岐にわたる疾患で認められますが、本稿では同症候群と脊椎関節炎との鑑別について、皮膚病変を手がかりとして整理しています。前胸部症状の鑑別等を吟味・再考していただく契機となれば幸いです。
桜十字グループとは
「人生100年時代の生きるを満たす」
2005年、桜十字グループは、熊本県の民間病院の中で最大の病床数を有する「桜十字病院」から始まりました。今では病院のみにとどまらず、医療・介護・予防医療のヘルスケア領域において、社会に必要な様々な事業やサービスを全国に展開しています。
「人」は幼少期から成人期、そして老年期にいたるまで、生きることがひとつの「Life Story」として繋がっています。人生100年時代を迎える今、これまで高齢者医療に向き合ってきた私たちにできることは何か。それは、病気やケガを治す身体的なケアだけでなく、精神的・社会的に「生きるを満たす」新たな概念による事業やサービスを提供していくことです。そうして、すべての世代における人生の楽しみや、生きる喜びを支えると共に、その基盤たる社会づくりに貢献いたします。私たち桜十字グループは、時代の変化に対し、進化し続けることで、「カラダの健康」に加え、「ココロのしあわせ」「ひと・マチ・社会のあり方」これら3つを基軸に、QOL(生活の質)の豊かな未来を切り拓く「ウェルビーイング・フロンティア」を目指しています。
会社概要
◎桜十字グループ
創業:2005年7月
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