書籍「そして私たちの物語は世界の物語の一部となる」刊行のお知らせ
当財団では、南アジアと東南アジアの結節点であり、自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP)の中でも重点地域のひとつとされ、先の大戦中のインパール作戦の激戦地でもあり、日本とも歴史的に関係が深いものの、これまでほとんど知られてこなかったインド北東部について、情報発信や人的交流を積極的に進めてきました。
特に、「北東インドとアジアの記憶と記録」事業では、アジア屈指の文化民族的多様性を誇る地域でありながら、これまで紛争や低開発、周縁化等に苦しんできたインド北東部の人々が、自らの手で、自分たちの歴史、記憶と記録を次世代に継承していく拠点や基礎を整備するための支援を行っています。その一環で、インドのズバーン出版社を通じて、インド北東部出身の女性やマイノリティの人々によるフィクションやノンフィクションの英文書籍もこれまで複数冊出版し、好評を博しています。
今回のアンソロジー(選集)では、これまでに出版した英文書籍の中から、ズバーン出版社の主宰者で、日経アジア賞やドイツのゲーテ賞等、国内外で受賞歴がある著名な作家のウルワシ・ブタリアさんが、日本の読者向けに抜粋した作品を取り上げています。ぜひお手にとってお読みください。
書籍の内容(出版社のHPより)
バングラデシュ、ブータン、中国、ミャンマーに囲まれ、さまざまな文化や慣習が隣り合うヒマラヤの辺境。きわ立ってユニークなインド北東部から届いた、むかし霊たちが存在した頃のように語られる現代の寓話。女性たちが、物語の力をとり戻し、自分たちの物語を語りはじめる。本邦初のインド北東部女性作家アンソロジー。
一九四四年四月、日本軍がやってきた。軍靴で砂埃を立てながら、行進してきた。先頭の男は村人たちに呼びかけ、こう言った。「食料と寝起きする場所を提供してくれれば、あなたがたに害は及ばない。我々はあなたがたの友人だ。我々はあなたがたを解放するために来た。あなたがたを傷つけることはない」。(「四月の桜」)
「これにはどんな富よりも値打ちのある宝物が入っている。死ぬ前におまえに渡したい。昔、語り部から手渡されたものを、おまえに手渡すよ」ウツラはその壺をわたしの頭の中に入れた。……何週間か経ってウツラは死んだ。……お話を語るときわたしは別の人間になった。生き生きした。それからずっと語り続けている。(「語り部」)
わたしたちは首狩り族の末裔だったが、いまはインド政府が提供してくれる資金に頼っていた。わたしたちは平地人とは違っていた。彼らは……反政府分子がいないか見張ってもいた。現代生活が、伝統的な慣習や行動とぎこちなく共存していた。(「いけない本」)
タイトル:そして私たちの物語は世界の物語の一部となる
発行:国書刊行会
定価:2,640円(税込)
刊行日:2023年5月26日
ISBN:978-4-336-07441-6
目次
序 | 「本土」と「周辺」、「われわれ」と「よそ者」(ウルワシ・ブタリア) |
ナガランド州からの文学作品 | 丘に家が生えるところ(エミセンラ・ジャミール) |
アルチャナル・プラデーシュ州からの文学作品 | 夜と私(ネリー・N・マンプーン) |
ミゾラム州からの文学作品 | 書くこと(バビー・レミ) |
マニプール州からの文学作品 | 台所仕事(チョンタム・ジャミニ・デヴィ) |
あとがき | インド北東部、記憶と記録(中村 唯/笹川平和財団 主任研究員) |
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