岩手県から日本最古の植物化石を発見

国立大学法人 静岡大学

 静岡大学理学部のルグラン ジュリアン助教、マヘル アフメド博士(創造科学技術大学院)らの研究グループは、岩手県大船渡市に分布する約4.1–3.9億年前(古生代前期デボン紀)の地層から、日本最古の胞子化石群集を発見しました。これは植物の化石記録としても日本最古で、従来の記録を1000万年以上遡ります。
 この胞子化石群集の解析から、当時の日本に原始的な維管束植物からなる“草原”が広がっていたことが初めてわかりました。前期デボン紀は、植物が爆発的に多様化した時代です。しかし、この時代のアジアの植生データは少なく、本研究の成果は植物の歴史を復元する上で極めて重要です。また、胞子化石の中には、南中国の同時期の地層から報告された種が多数ありました。このことは、当時の東北日本が南中国の近くにあったことを示唆します。
 なお、本研究の成果は、日本古生物学会が発行する国際誌 「Paleontological Research」電子版に3月15日に掲載されました。

【研究の詳細】

 植物は、約4.8億年前までに陸上に進出しました。また、維管束植物の祖先は、前期デボン紀(約4.2–3.9億年前)の間に急速に多様化し、現在見られる植物の祖先が出揃いました。動物の歴史に例えるなら、前期デボン紀に起きた維管束植物の多様化は、カンブリア大爆発に匹敵する大事件です。一方、これまで知られていた日本最古の植物化石は、岩手県、福島県、岐阜県、熊本県などで報告された後期デボン紀(約3.8–3.6億年前)のリンボク類(木生のヒカゲノカズラ類)でした。つまり日本では、この重要な時期について、植物化石のデータが全くなかったということです。

 私たちは、前期デボン紀の日本の植生を解明する足掛かりとして、岩手県大船渡市に分布する中里層で胞子化石を探索しました。中里層は海で堆積した地層ですが、炭のようなものが地層中に多く含まれることが古くから知られていました。また、示準化石である三葉虫に基づき、約4.1–3.9億年前に堆積したことがわかっています。

 本研究では、中里層の岩石をすり潰し、胞子化石を抽出しました。通常、胞子化石は光学顕微鏡で観察します。しかし、中里層の胞子化石は熱と圧力によって“黒焦げ”になり、不透明でした。そのため、私たちは走査型電子顕微鏡を用いて、胞子化石を観察しました。

 その結果、複数個の胞子が集合した隠胞子(ゼニゴケの仲間)や表面にY字型のマーク(注1)を持つ胞子などが見つかりました(図1)。

図1.中里層から得られた隠胞子(A)とY字型のマークを持つ胞子(B–F)の走査電子顕微鏡写真.図1.中里層から得られた隠胞子(A)とY字型のマークを持つ胞子(B–F)の走査電子顕微鏡写真.


 Y字型のマークを持つ胞子をさらに分類したところ、リニア類(原始的な維管束植物のグループ)、ヒカゲノカズラ類、ゾステロフイルム類(ヒカゲノカズラ類の姉妹グループ)、トリメロフィトン類(現在生きているシダ類や種子植物の祖先)などが含まれることがわかりました(図2)。いずれも草本生で、木になる植物はありませんでした。つまり、中里層が堆積した海の後背地には、原始的な維管束植物からなる“草原”が広がっていたということです。

図2.中里層の胞子の由来植物のイメージ(Steemans et al., 2012改変).図2.中里層の胞子の由来植物のイメージ(Steemans et al., 2012改変).


 この胞子化石群集は、日本最古の植物化石記録であり、従来の最古の記録よりも1000万年以上古いものです。また、この群集には、南中国から報告された同時期の胞子化石と共通する種が多数ありました。このことは、中里層が堆積した場所が、南中国と近かったことを示唆し、当時の古地理を推定する上で重要な発見です(図3)。

図3.前期デボン紀(約4.1億年前)の古地図と中里層が堆積した場所 (Torsvik and Cocks, 2016改変).図3.前期デボン紀(約4.1億年前)の古地図と中里層が堆積した場所 (Torsvik and Cocks, 2016改変).


 初期の維管束植物に関する研究は、これまでヨーロッパや北米を中心に行われてきました。アジアのデータは相対的に少ないため、前期デボン紀に起きた植物多様化は地球規模で解明できていません。今後日本において、前期デボン紀だけでなく、さらに古い地層、あるいは少し新しい地層についての研究を進めることで、植物の初期進化に関する理解が深まると期待されます。


注1.

減数分裂の結果、1つの胞子母細胞から4つの胞子ができます。胞子形成の過程では、同じ胞子母細胞に由来する4つの胞子が互いに接したステージがあります。この際、胞子どうしの接触面には線状の構造が形成されますが、最終的に4つの胞子が分離しても、この線構造は残ります。 Y字型のマークは、未成熟な胞子が正四面体型に並んでいたことを意味します(図4)。

図4.正四面体型に並んだ胞子.紙面手前側の胞子と他3つの胞子との接触面を赤点線で示す.図4.正四面体型に並んだ胞子.紙面手前側の胞子と他3つの胞子との接触面を赤点線で示す.


【図の出典】

Steemans, P. et al. 2012. In: Talent, J. (ed.), Extinction intervals and biogeographic perturbations through time. Springer, Berlin, pp. 437–477.

Torsvik, T. H. and Cocks, L. R. M., 2016. Earth history and palaeogeography, 317 p. Cambridge University Press.


【論文情報】

掲載誌:Paleontological Research(日本古生物学会欧文誌)

論文タイトル:Early land plant spore assemblage from the Devonian Nakazato Formation of the South Kitakami Belt, Northeast Japan

著者:Ahmed Maher1,2, Julien Legrand1*, Toshihiro Yamada3, Toshifumi Komatsu4

 (*責任著者, 1静岡大学, 2Al-Azhar大学, 3北海道大学, 4熊本大学)

DOI:https://doi.org/10.2517/PR230018


【研究助成】

基盤研究(B) 21H02553(北海道大学 山田敏弘)

基盤研究(C) 19K04059(熊本大学 小松俊文)

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上場
未上場
資本金
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設立
2004年04月