危機的状況下にある今、命を守る保健医療活動を最優先に
グローバルファンド、第53回理事会で重要決定──命を守る感染症対策を加速
2025年5月、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)は、第53回理事会において、三大感染症との闘いと保健医療サービスの持続的な強化に向けた重要な決定を行いました。グローバルな保健資金の不安定化、紛争、医療インフラの逼迫といった世界的な混乱に対応し、より柔軟で迅速な支援を追求するため、命を守ることを最優先としつつ、受益国主導で感染症対策プログラムの見直しを進める姿勢を明確に打ち出しました。
世界情勢の混乱が続くなか、人々の命を守ることを最優先に、感染症対策プログラムを見直す、グローバルファンドの重要な決意について、以下グローバルファンドのプレスリリース日本語抄訳版をご覧ください。
###
危機的状況下にある今、命を守る保健医療活動を最優先に
2025年5月14日、ジュネーブ発 — 世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)は、スイス・ジュネーブにて第53回理事会を開催し、保健医療サービスの混乱が世界的に深刻化する中、現在の事業実施期間の介入策の見直し及び2026年から始まる次期事業実施期間の準備について議論を行いました。
理事会の冒頭、副議長のビエンス・ガワナス氏(初代AU社会コミッショナー)は、世界は今、紛争、市民社会スペースの圧迫、逼迫する医療体制、保健資金の減少傾向といった複合的な脅威に直面していると言及し、「今こそ覚悟を持ち、グローバルファンドの理念に再びコミットする時だ」と述べました。

「グローバルファンドは単に資金を供与しているだけの組織ではない。国際社会の連帯、共同責任、科学、そして希望に基づいたパートナーシップである」と強調し、すべての人が予防可能な病気や生まれた場所によって人生を左右されない世界の実現を目指すと改めて表明しました。
グローバルファンド事務局長のピーター・サンズ氏も「数百万の命と、これまでに築いてきた成果が危機に瀕している」と警鐘を鳴らし、「危機にどう対応するかで、パートナーシップ組織の真価が問われる。今こそ使命と理念に忠実であるべき時だ」と訴えました。
命を救う介入策へのアクセスを最優先に
理事会では、エイズ、結核、マラリアとの闘いでの成果を維持し、人命に関わる介入策へのアクセスを確保するために、現在進行中の事業サイクルにおいて資金配分の見直しが必要であるとの認識で一致しました。
また、この見直しのプロセスは支援を受ける各国主導で行われるべきであり、市民社会や当事者コミュニティ、保健大臣、実施団体、技術パートナー、そして国別調整メカニズム(CCM)など、パートナーシップ全体として連携すべきとされました。
さらに、見直しの基準、対象となる介入策の範囲、資金供与の見直しプロセスとスケジュールについて、各国に明確なガイダンスを示すことの重要性が強調されました。これにより、迅速かつ透明性のある意思決定と効果的な実施が可能になります。グローバルファンド事務局は、今後数週間以内に各国へ指針を提示し、進捗状況を理事会に報告することを約束しました。
ロスリン・モラウタ議長は「変化の激しい状況で、今あるリソースで最大限の効果を上げるこれまでの対策の成果を無駄にしないためには、迅速かつ明確に変化することが不可欠である」と述べ、「見直しは、公平性、効率性、そして成果を守るという価値観に基づいて進められるべきだ」と語りました。
成果の振り返りと今後への備え
サンズ事務局長は過去20年間の成果として、平均寿命の延伸やユニバーサル・ヘルス・カバレッジの推進、エイズ、結核、マラリアの大幅な減少を挙げ、とりわけ米国のリーダーシップと支援に謝意を示しました。
また、今月発表した初のアフリカ製HIV治療薬の調達や受益国での製造能力強化が、疾病対応とパンデミックの備えの両面に大きく寄与していると強調しました。共同調達メカニズムについては、「市場形成とコスト効率の観点から、グローバルファンドの中核的な強み」と位置づけました。
一方で、現在の国際保健上の危機が最も脆弱とされる人々に甚大な影響を及ぼしていると述べた上で、持続可能な保健システムの構築と、マラリアなど新たに深刻化する脅威への備えの必要性を訴えました。
第8次増資への結集を呼びかけ
理事会では、南アフリカ(今年のG20議長国)と英国の共催で行われる予定の第8次増資に向け、国際社会に対して連帯と支援の強化を呼びかけました。
南アフリカ保健副大臣であり、グローバルファンド理事会の東部・南部アフリカ代表団理事であるマスム・パーハラ氏は「グローバルファンドの増資の成功こそが、三大感染症の終息と強靱な保健システム構築の加速を可能にする」と述べ、国際社会に対し連帯と投資を呼びかけました。英国代表もまた、ドナーによる野心的な拠出誓約や受益国の国内保健資金の拡大、技術支援、アドボカシーの提供を通じて、各国パートナーが団結すべきだと訴えました。
持続可能性に向けた戦略
理事会では、現在の第7次事業実施期間および2026年からの第8次事業実施期間を見据え、現在の危機への柔軟かつ迅速な対応と、持続可能性の両立が重要であるとされました。各受益国が国内資金を段階的に拡大し援助からの自立に向向け進捗することや、HIV予防薬「レナカパビル」など革新的なツール への公平なアクセス促進などについても、今後の重点課題として挙げられました。
また、Gavi(ワクチンアライアンス)などの他の国際機関との連携強化により、国主導の取り組みを尊重しつつ、効果の最大化とコスト効率の向上を目指すべきとの意見も出されました。
技術審査パネルの見直しを承認:重点国への支援を強化し、審査プロセスを柔軟化
理事会は、グローバルファンドの技術審査パネル(TRP)の見直しについても承認しました。今後は、最も価値が発揮される領域――「インパクトの高い中核的な投資支援」および「移行中の国々」に重点を置き、その他の国についてはより柔軟な審査プロセスを適用する方針の見直し案を承認しました。これは次期事業実施期間の戦略を反映したもので、各国のニーズに即した分別化 、持続可能な支援体制の構築と申請者の負担軽減の両立を目指すものです。
ピーター・サンズ事務局長は、「私たちグローバルファンドは、自らの価値観とモデルに揺るぎない信念を持つ一方で、変化に対して柔軟であることも大切にしている」と述べました。
###
*JCIE/グローバルファンド日本委員会による部分抄訳、英文原文:Global Fund Board Backs Prioritization of Lifesaving Interventions amid Crisis, Urges Strong Eighth Replenishment to Protect Progressを正文とする
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)は、低・中所得国の三大感染症対策を支える官民連携基金です。G7を初めとする各国の政府や民間財団、企業など、国際社会から大規模な資金を調達し、低・中所得国が自ら行う三疾病の予防、治療、感染者支援、保健システム強化に資金を提供しています。グローバルファンドのパートナーシップによる支援により、2002年の設立から2023年末までに6500万の命が救われました。2000年のG8九州・沖縄サミットで、議長国日本が感染症対策を主要課題として取り上げ、追加的資金調達と国際的なパートナーシップの必要性についてG8諸国が確認したことが、グローバルファンド設立の発端となりました。このことから、日本はグローバルファンドの「生みの親」のひとつと言われています。

グローバルファンド日本委員会
グローバルファンド日本委員会は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)を支援する日本の民間イニシアティブ。グローバルファンドに対する理解を促進するとともに、感染症分野における日本の役割を喚起し、政策対話や共同研究、国際シンポジウム、視察プログラムなどを実施。(公財)日本国際交流センターのプログラムとして運営されています。

公益財団法人 日本国際交流センター
公益財団法人日本国際交流センター(JCIE)は、⺠間レベルでの政策対話と国際協力を推進する公益法人です。国際社会の安定と発展には、政府による外交のみならず、様々な民間アクターによる国を超えた相互理解や協力が不可欠という信念のもと、民間外交のフロントランナーとして、世界と日本をつなぎ国内外の諸課題解決に貢献しています。「人間の安全保障」の視座のもと、外交・安全保障、民主主義の擁護、グローバルヘルス(国際保健)、グローバルな人の移動、女性のエンパワメントなど、多角的なテーマで国際交流や政策対話・政策提言活動を行っています。

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります
メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。
すべての画像