「父として、ケアを担う人として」—男性介護職の育休と現場の声

株式会社Blanketが運営する、介護に関わる人々が主体的によりよい未来をつくることを目指すコミュニティ「KAIGO LEADERS」(東京都文京区/発起人:秋本可愛)は男性介護職員を対象に「育児休業に関するアンケート」を行い、73名より回答を得ました。6月15日の「父の日」を前に、男性介護職の育休取得について、現場のリアルな声を届けます。
背景
介護・福祉の現場は今、深刻な人材不足の渦中にあります。厚生労働省は「2040年に約57万人の介護職員が不足する」と推計し、2023年度には介護職員数が統計開始以来はじめて前年度比で減少しました。誰もがケアを受けられる社会を守るには、あらゆる世代に介護職の魅力を伝え、若手が長く働き続けられる仕組みを急ぎ整える必要があります。待遇改善や働きやすさの向上はその要となる対策の一つです。そこで私たちは、介護現場で働く男性職員の「育児休業」を切り口に、現状の課題と可能性を探るリサーチを実施しました。
KAIGO LEADERSとは
KAIGO LEADERSは、「すべての人に、カイゴリーダーシップを」をビジョンに掲げ、介護に関わる人々が主体的によりよい未来をつくることを目指すコミュニティです。2013年に介護に関する前向きな情報交換と学び合いの場としてスタート。オンラインコミュニティ「SPACE」では多様なメンバーが交流しています。年間100回以上のイベントや独自の学び合いの場「自由研究」を通じて実践が広がり、介護関連の起業や自治体との連携プロジェクトなど、学びを行動へとつなげる活動が生まれています。
団体名:KAIGO LEADERS
設立:2013年4月22日
発起人:秋本可愛
HP:https://heisei-kaigo-leaders.com/
調査概要
調査名:介護職における男性育児休業に関する実態調査
調査期間:2025年4月1日〜5月6日
調査方法:インターネット調査
調査元:KAIGO LEADERS
有効回答:73件※うち男性67名(男性介護職および育休相談を受けた管理職)
調査結果概要
・回答者の育休取得経験者は16.4%
・最大の障壁は「人手不足による職場への負担感」と「収入減の不安」
・育休取得者の多くが「子どもとの時間が得られた」「仕事に対する気づきがあった」と回答
・代替人員の確保や所長の積極的な宣言による環境改善も一部で見られる
・「取得しない」のではなく“取得できない”現場課題が浮き彫りに
調査結果
●現在勤務している職場は男性の職員が育児休業を取得しやすい環境だと思いますか?
N=74
「育休を取りやすい環境」だと感じているのは6割。一方で「思わない」「まったく思わない」は合わせて39.2%。約4割の男性職員が「育休は取りづらい」と感じていることが分かりました。

●あなたはこれまでに現在の事業所で育児休業を取得したことがありますか?
※「いいえ」には「育児をする立場にあったが育休を取得しなかった/介護職に就いている間に育児をする立場になかった」という方を含みます。
N=67
育休取得経験者は16.4%にとどまりました。「今後取得を検討している」は6.4%と取得のハードルの高さが浮き彫りになりました。育休が取りやすい環境だと感じている人が6割おり、応援ムードはある一方で実際の取得者にはあまり繋がっていない結果となっています。

●育児休業を取得しなかった理由を教えてください。
(複数選択可:最大3つまで)N=52
「人手」「収入」「制度の壁」が大きく影響しています。制度の存在だけでなく、周囲の空気や前例の不足が強い影響を与えていると推察されます。また「制度がなかった」「取得方法がわからなかった」「取得できることを知らなかった」など、現在の育児介護休業法では法令違反に該当する可能性もある事がわかりました。業界としても事業者や経営者層に対して周知を行っていく必要性を感じています。

自由記述から見えた3つの課題と示唆
1)「制度はある、でも誰も取らない」という空気
「リーダーが取れば他の人も取りやすくなるけど、人が足りないから言い出せない」
「前例がない。話すこと自体がタブーみたいな雰囲気」
「制度があっても『本当に取るの?』という戸惑いの空気がある」
2)「迷惑をかけたくない」が壁に
「育休は当然と言われるけど、実際は他の人が残業で対応。申し訳なさが残った」
「自分が抜けた分のカバーができない。利用者との関係もあるし休みづらい」
「人手不足をカバーする仕組みがなければ、気持ちだけでは取れない」
3)「休んでよかった」実感する声も
「育休で家族との時間をしっかり取れた。妻との連携も深まった」
「休むことでチームの自走力を考えるきっかけになった」
「働かないことの不安や、育児の大変さを自分ごととして知れた」
育休取得者の多くが「家族との絆が深まった」「チームで支える体制の必要性を実感した」と回答しています。育休取得者の存在が次の育休取得者に繋がる可能性があります。
今回の調査から、「制度はあるが使えない」という現場の空気が依然根強いことが明らかになりました。特に、人手不足でカバーしきれない・迷惑をかけるという感情が男性介護職の育休取得を強く抑制しています。また、ロールモデルの不足が取得を「自分ごと」にしづらくしている点も重要です。
特定非営利活動法人 ファザーリング・ジャパン
副代表理事 徳倉康之氏のコメント
目まぐるしく改正される育児介護休業法の中で、年々男性の育休取得率が上がってきています。
しかし業界毎に詳しく見るとまだ法改正に対応できていない組織や業界も散見されます。
その中で今回、介護職の中でこの男性育休に関する調査が行われた事は大変意義のある事と同時に、「制度はあるが風土がない」という環境が見えてきています。男性育休取得者を増やそうとする取り組みそのものが、組織を維持し適切で安全な介護環境を整える事業者としての形になる事がわかっているからこそ、粘り強く意識の変化と働き方の変化が生まれてくる事を期待します。
株式会社Blanket
代表取締役 秋本可愛のコメント
育休は大切な権利です。人手が足りないからといって、「産後」という今しかない大切な家族の時間を我慢しなければいけない社会は、やっぱりどこかおかしい。私自身、出産後に夫が2ヶ月の育休を取ってくれたことが、心の支えになったことをよく覚えています。介護の現場でも、安心して育休を取れる空気や仕組みがあることで、「またここで働きたい」と思える人が増えていくはずです。人手不足を補うのではなく、人が集まり、続けられる職場づくりを、業界全体で進めていきたいと思います。
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