アメニティはオフィスの賃料・稼働率にプラス効果をもたらすか?

~東京都心部における『質への逃避』の定量分析~

三幸エステート株式会社

筑波大学大学院 システム情報工学研究群 松尾 和史
筑波大学システム情報系 教授 堤 盛人
三幸エステート株式会社 マーケティング事業部 今関 豊和、工藤 剛

筑波大学 不動産・空間計量研究室(所在:茨城県つくば市、主宰:堤盛人 教授)と三幸エステート株式会社(本社:東京都中央区、取締役社長:武井重夫)は、賃貸オフィスビルに関する各種データを活用し、オフィス市場の動態や賃料水準に関する調査を共同で行っています。本稿では、賃貸オフィスの募集情報とアメニティに関する各種データを活用して行った、現代的なアメニティと賃料、空室率の関係に関する調査の結果を公表します。


  • ラウンジや屋上テラス、フィットネス、託児所などの現代的なアメニティを有するビルは、同様のアメニティを有さないビルに比べて、賃料が2022年時点で5.3%高い。

  • 現代的なアメニティの有無による空室率の乖離(稼働率に対するプラス効果)は、コロナ禍以降に顕在化し始め、2022年には2.3ポイントまで広がった。

  • 欧米と同様に日本においても『質への逃避』が鮮明になっていることを示しており、オフィスビルの“質”が賃料・稼働率の両面に大きな影響を及ぼしている。


世界中でハイブリッドワークが浸透する中、従業者の出社を促すために、企業がより質の高いオフィスビルに

移転する傾向、すなわち『質への逃避 -Flight to quality-』が顕著になっています。2019年に行われたCushman & Wakefieldの調査では、アメリカのアメニティが充実したビルは、周辺サブマーケットの平均的な賃料に比べ18%のプレミアムがあることが示されています※。日本においても、床面積を減らしつつ、アメニティの充実したビルに移転する事例が増えています。このような日本のオフィス市場における『質への逃避』は、個々のオフィスビルにどの程度の影響を与えるのでしょうか。

※Cushman & Wakefield (2020) Do amenities still matter in a post-COVID-19 world? The Edge Magazine, Volume 7, pp 26-31.


今回の調査では、オフィスワーカーのオフィスビル内での体験に大きな影響を与える対面型のサービス施設(ラウンジ、屋上テラス、託児所、フィットネスなど)を現代的なアメニティとして定義し、これらの現代的なアメニティが賃料と空室率に与える影響を推定しました。調査の対象や分析に用いた変数、分析手法は図表1に示す通りです。


【図表1】調査概要

データ出所

三幸エステート

対象エリア

東京都-東京都心5区

対象期間

2015年第1四半期~2022年第4四半期

対象ビル

1フロア面積200坪以上、延床面積3000坪以上の
一棟貸し等を除く標準的な賃貸オフィスビル 375棟(10138件)

賃料情報

募集賃料(共益費込み)

コントロール変数

築年数、駅徒歩時間、地上階数、1フロア面積、
耐震性能、環境認証、飲食店数、周辺貸付面積、路線数など

分析手法

傾向スコアマッチング


2015年から2022年までの全期間を通じた推定の結果、現代的なアメニティがあるビルは、現代的なアメニティがないビルに比べ、賃料が6.5%高く、空室率が0.8ポイント低いことが明らかになりました【図表2】。


さらに、年ごとに同様の推定を行うと、賃料に対する影響は2019年を除く7時点で有意であり、市況に大きく左右されず、4.5~7.6%程度のプラス効果があることが分かりました【図表3】。なお、2019年については、空室率が極端に低く、賃料が高騰していた時期であったことから、現代的なアメニティの有無が賃料の差別化要因として機能していなかった可能性があります。


空室率に対する影響は、2019年までは有意ではないのに対し、コロナ禍以降は現代的なアメニティの有無による乖離が顕在化し、2022年には2.3ポイントにまで増大しました。これは、コロナ禍における空室率の上昇トレンドの中で、現代的なアメニティのあるビルが、より企業に選ばれている傾向を示しています。空室率の乖離は稼働率の乖離と同義であり、これらの結果は、稼働率に対するプラス効果を示しています。この結果から、『質への逃避』が個々のオフィスビルの賃料と稼働率に影響を及ぼしていることが明らかになりました。


現代的なアメニティの有無による賃料と稼働率の双方に対するプラス効果は個々のオフィスビルの賃料収入に大きな影響を及ぼします。さらに、『質への逃避』が今後より顕著になるのであれば、賃料や稼働率に対する現代的なアメニティのプラス効果もさらに増大し、現代的なアメニティの有無による市場の二極化が進むことが考えられます。


  • 三幸エステート株式会社について

三幸エステート株式会社(1977年5月17日設立)は、賃貸オフィスビルの仲介、外資系企業へのサポート活動、オフィス市場への調査・分析など、さまざまな事業において、情報提供をはじめ、コンサルティングから契約までオフィスに関するあらゆるニーズに幅広くお応えしています。


  • 会社概要

本社所在地:東京都中央区銀座4-6-1
設立:1977年5月17日
代表者:取締役社長 武井 重夫
資本金:1億円
従業員数:255名(グループ全体:431名)※2023年5月1日現在
売上高:50億円内外(グループ売上:100億円内外)
事業内容:ワークプレイスコンサルティングサービス、オフィス仲介サービス、プロジェクトマネジメントサービス
免許:宅地建物取引業:国土交通大臣(11)第3105号、一級建築士事務所:東京都知事登録 第61819号、特定建設業:東京都知事許可(特-3)第154415号
URL:https://www.sanko-e.co.jp/

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業種
不動産業
本社所在地
東京都中央区銀座4-6-1 銀座三和ビル
電話番号
03-3564-8089
代表者名
武井 重夫
上場
未上場
資本金
1億円
設立
1977年05月