勇払原野一帯では130年ぶり ウトナイ湖サンクチュアリでタンチョウのヒナを確認

日本野鳥の会

公益財団法人日本野鳥の会(事務局:東京、会長:上田恵介 会員・サポーター数約5万人。以下、当会)は、2020年5月26日にウトナイ湖サンクチュアリ(北海道苫小牧市)で初めてタンチョウの親子を確認しました。ウトナイ湖を含む勇払原野一帯でのタンチョウの確実な繁殖記録は明治時代前半のものが最後であり、およそ130年ぶりの繁殖確認となります。
■5月26日にヒナ1羽を含む親子を確認​

 

9月5日ウトナイ湖周辺の農地で確認したタンチョウ親子。サンクチュアリ内で確認した親子と同一と思われる9月5日ウトナイ湖周辺の農地で確認したタンチョウ親子。サンクチュアリ内で確認した親子と同一と思われる

これまで道東に限られていたタンチョウの繁殖地が近年、徐々に道内各地へ拡大を見せるなか、苫小牧市内の弁天沼周辺では2013年以降、継続してタンチョウが観察されていました。また、2018年、2019年とウトナイ湖周辺で飛べるようになった幼鳥を連れた家族が観察されるなど、ウトナイ湖を含む勇払原野でのタンチョウ繁殖への期待が高まってきていました。

そして、2020年5月26日、当会レンジャーがウトナイ湖サンクチュアリ(国指定ウトナイ湖鳥獣保護区特別保護地区、およびラムサール条約湿地)内でヒナ1羽を連れた家族群を確認しました。

なお、タンチョウの親子確認につきましては、繁殖活動への影響を考慮し、これまで情報の公開を控えていましたが、幼鳥の飛翔が可能となり、2020年9月5日にウトナイ湖周辺の農地で同じ親子と思われるタンチョウが確認されたことを受けて、公表することにいたしました。


■確認の経緯

 


●4月15日 市内の農地の堆肥で採食していた成鳥1羽が、ウトナイ湖方面に飛び去る様子を確認

●5月26日 17時30分ごろ当会レンジャーがウトナイ湖岸の自然観察路から望遠鏡を用いて観察していたところ、成鳥1羽を確認。繁殖の可能性があったため周辺を捜索した結果、ヒナ1羽を連れた家族を確認。タンチョウへの影響を考慮し、証拠画像の取得後、観察を終了。

●6月24日 改めて状況確認のための調査を実施したところ、ウトナイ湖の湿地帯でヒナを連れた家族を確認。合わせて巣の捜索を試みたが、ヨシの生長が早く、発見できず。

●7月31日 再びウトナイ湖サンクチュアリ内で状況確認の調査を実施。家族の発見には至らなかったことから、他所に移動したものと考えられる。

●9月5日 ウトナイ湖周辺の農場で幼鳥1羽を連れた家族が確認される。

6月24日に状況調査を行ない、ウトナイ湖の湿地帯で親子を再度確認 撮影/日本野鳥の会6月24日に状況調査を行ない、ウトナイ湖の湿地帯で親子を再度確認 撮影/日本野鳥の会

※ウトナイ湖全域を見渡せる場所がないことから、一連の調査は、タンチョウへの影響に十分配慮した飛行高度を取ったうえで、環境省の了解のもと、ドローンを用いることとしました。
※詳細な確認位置は、今後のタンチョウへの影響を考慮して非公開とさせていただきます。


■今後について

今後、当会では、タンチョウ繁殖地の保全のため、営巣を含む生息状況について把握する調査を進めることにしています。また、関係する行政機関などとも協議しながら、立入の制限について検討し、さらに、タンチョウの移動経路になっている可能性があるものの、現在保全に関する法的指定のない、美々川流域の保全活動も進めたいと考えています。


■ウトナイ湖サンクチュアリと勇払原野保全について​

 


(公財)日本野鳥の会は、渡り鳥の中継地であるウトナイ湖および美々川をはじめとする勇払原野の自然環境を保全することなどを目的に、1981年に日本最初のサンクチュアリとしてウトナイ湖サンクチュアリを開設しました。以来およそ40年に渡って、勇払原野の保全を進めてきました。2000年から2006年にかけては「ウトナイ湖・勇払原野保全構想報告書」を取りまとめ、2007年以降は弁天沼周辺で希少種の生息状況調査を行って状況把握を進めています。

さらに、2016年からはオオジシギ保護調査プロジェクトを開始し、オオジシギにとっての勇払原野の重要性を明らかにし、その保全に努めています。

ウトナイ湖サンクチュアリの遠景。丸枠内は、今回確認されたタンチョウ親子 撮影/日本野鳥の会ウトナイ湖サンクチュアリの遠景。丸枠内は、今回確認されたタンチョウ親子 撮影/日本野鳥の会


■「日本野鳥の会」について

「野鳥も人も地球のなかま」を合言葉に、野鳥や自然の素晴らしさを伝えながら、自然と人間とが共存する豊かな社会の実現をめざして活動を続けている自然保護団体です。
独自の野鳥保護区を設置し、シマフクロウやタンチョウなどの絶滅危惧種の保護活動を行なうほか、野鳥や自然の楽しみ方や知識を普及するイベントや冊子の発行などを行なっています。会員・サポーター数は約5万人。野鳥や自然を大切に思う方ならどなたでも会員になれます。

<組織概要>
組織名 :公益財団法人 日本野鳥の会
代表者 :理事長 遠藤孝一
所在地 :〒141-0031 東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル
創立  : 1934(昭和9)年3月11日 *創立86年の日本最古にして最大の自然保護団体
URL   : https://www.wbsj.org/


――別紙詳細資料――
■タンチョウ繁殖地の道央圏への広がり
 

釧路湿原での再発見以降1960年代まで、タンチョウの繁殖地は根室・釧路地域に限られていましたが、個体数が増えるにしたがって繁殖地が徐々に拡大し、1970年代に十勝地方でも繁殖するようになりました。そして1980年代には網走地方、2000年代に道北地方(サロベツ原野やクッチャロ湖)でも繁殖が確認され、2012年にはむかわ町周辺で道央圏初の繁殖が確認されました。道央圏では、2020年に長沼町の舞鶴遊水地でも繁殖が確認されており、むかわ町のつがいも継続して繁殖していることから、2020年は今回のウトナイ湖での確認を含めて少なくとも3つがいが繁殖したと言えます。

■勇払原野での確認状況

弁天沼を中心とする勇払原野では、タンチョウは2013年以降、毎年観察されています。近年は同時に複数か所で確認されることもあり、2020年には弁天沼でつがいと思われる2羽が観察されています。

■ウトナイ湖における1982年以降のタンチョウの確認記録

ウトナイ湖では1981年の開設以来、数年に1度観察される程度でしたが、2016年以降は毎年確認されています。

<1982年以降、以下の10件の確認記録があります>
●1983年 5月、12月
●1992年 12月
●1993年 1月
●1999年 1月
●2001年 3月、12月
●2002年 4月
●2016年 5月
●2017年 4月
●2018年 3月
●2019年 11月

■タンチョウについて

ツル目ツル科に分類される全長140㎝の大型の種で、国内では北海道東部の湿原を中心に繁殖しています。乱獲や生息環境の破壊により一時は絶滅したと考えられていましたが、1924年に再発見され、以降多くの関係者の努力によっておよそ1800羽にまで回復してきました。近年、徐々に繁殖地が広がってきています。

絶滅危惧II類、国内希少野生動植物種(種の保存法)に指定され、環境省による保護増殖事業が進められています。また、日本を代表する動物のひとつとして国指定特別天然記念物(記念物法)にも指定されています。

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財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
東京都品川区西五反田3-9-23 丸和ビル3階
電話番号
03-5436-2630
代表者名
遠藤孝一
上場
未上場
資本金
1000万円
設立
1934年03月