生活再建から未来へ続く教育支援まで

ネパール地震から4年 ~復興支援7つの事業の進捗と、今後の課題・支援~

日赤

日本赤十字社は、最も被害の大きかった地域のひとつであるシンドパルチョーク郡で発災直後から救援活動を開始し、現在も復興支援活動を続けています。これまでの支援活動と、現在の様子、今後の課題についてご報告いたします。
 4年前の2015年4月25日11時56分。ネパールにおいてマグニチュード7.8の地震が起こりました。死者8856人、被災者約560万人、半壊・損壊した住宅約89万戸。国民の5人に1人が被災するという、甚大な被害となりました。

地震発災直後の、首都カトマンズの様子地震発災直後の、首都カトマンズの様子


 地震の発災直後より、日赤はシンドパルチョーク郡のメラムチ村(首都カトマンズから北東へ約30㎞)に医師・看護師を派遣。住宅や地域の診療所が倒壊している中で、医療活動を開始しました。
 シンドパルチョーク郡は山岳地に位置します。村で唯一の診療所は、近隣のみならず周囲の山々から数時間かけて歩いてくる患者で溢れていました。日赤の医療チームは、診療所の医師と協力し、1日約200人の患者の対応にあたりました。

地震により、甚大な被害が発生地震により、甚大な被害が発生


 2015年8月をもって緊急救援(医療支援)は終了しましたが、その後も日赤は同郡において、住宅再建支援、地域保健再建、水と衛生支援、生計支援等7つの事業を通じて、復興支援活動を続けています。
 地震から4年。住宅や診療所の再建、水道・トイレなどの衛生設備の整備が進み、現地の生活環境は整いつつあります。しかし、1年のうち3か月間続く雨季や、未舗装の道路でのアクセスの難しさなど、全てが順調には進まない現状もあります。そのような中で日赤は地震発生前よりもより良い安全な状況(Build Back Better and Safer)を目指し、復興支援活動を継続しています。(※7事業の概要と実施状況をご覧ください。)

現地の声 「赤十字の支援のおかげで生活環境が向上しました」
<ジェト・ワイバさん(生計支援事業)>
 地震により、村は大きな被害を受けました。環境が変化する中、ワイバさんは大工として働こうと考えました。
 資金も技術も十分ではありませんでしたが、生計支援事業により、1万5千ネパール・ルピー※の助成金を得ることが出来ました。

大工として自立したジェト・ワイバさん大工として自立したジェト・ワイバさん

ワイバさんはこれを元手に作業場をつくり、木材を購入。大工育成研修に参加した息子と共に、大工として生計を立てることに成功しました。

「赤十字は、最も必要な時に支援の手を差し伸べてくれました。新しい仕事を始める決意を応援してくれたのです。借金を全て返済し、今では毎月8千ネパール・ルピーを貯蓄できるようになりました」

※ネパールの最低賃金=月額9,700ネパール・ルピー(2016年7月 国際労働財団)


<シタ・アディカリさん(水と衛生支援事業)> 

新しい水汲み場を利用するシタ・アディカリさん新しい水汲み場を利用するシタ・アディカリさん

 

赤十字の職員が住民と共に配管工事に励みました赤十字の職員が住民と共に配管工事に励みました

 パイプの敷設、貯水タンク・水汲み場の建設が進み、村では安定して水が得られるようになりました。そのため、衛生的な生活が営めるようになっただけでなく、農業でも新たな取り組みが始まっています。多くの家庭で、たまねぎ、トマト、キャベツなどさまざまな野菜を栽培するようになりました。育てた野菜を市場で販売し、新たな収入源にしようという話も出ています。

「以前は、20世帯で1つの水汲み場を利用していました。しかし今は、3世帯に1つにまで増えました。十分に水が使え家事が楽になり、野菜の栽培も始めました。生活が大きく変わったと実感しています。」


 


地震に強い学校をつくる
 地震により多くの学校が損壊し、子供たちは学校に通えなくなってしまいました。シンドパルチョーク郡ダドゥワ村の学校再建を担当することになった日赤は、ネパール赤十字社と共に学校関係者や地域住民との対話を重ね、学校を再建する土地を探し、校舎の設計や建設業者の選定を進めてきました。

ネパールの山間地では貴重な平地。地域の方が「学校のためなら」と土地を寄付して下さいました。ネパールの山間地では貴重な平地。地域の方が「学校のためなら」と土地を寄付して下さいました。

 最も重視をしたのは、校舎の耐震性です。子供たちが安心して授業を受けられるよう、4年前と同じ規模の地震があっても耐えられるような地震に強い校舎建設を進めています。

 

 学校は、2019年秋に完成する予定です。完成したら、日本でいえば小学生から中学生にあたる約100人の子供たちがこの学校で学ぶことになります。また地震に強い校舎は、ダドゥワ村の防災拠点にもなる予定です。学校の完成後には、地域住民に対する防災訓練も行い、地震に強いコミュニティづくりの支援も続けていきます。

シンドパルチョーク郡の教育事務所の代表が、建設の安全を祈願。シンドパルチョーク郡の教育事務所の代表が、建設の安全を祈願。

現地職員より 「4周年を迎えて~ふたつの大きな力をつないでいく~」
 2019年2月上旬、タンパルダップ村にある診療所で元気な男の子、チャングバちゃんが生まれました。お母さんのスニタ・タマンさん(22)は、この日の朝、自宅から診療所までの山道を、家族や村の住民の助けで2時間かけて担架で運ばれてきました。スニタさんにとっては、2人の女の子に続いて初めての男の子の誕生です。無事出産を終えて、家族や隣人も大喜びでした。
 日本赤十字社はネパール赤十字社と共に、ネパール地震で被災した住宅や社会インフラの再建支援を続けています。タンパルダップ村を含めた14の村の診療所再建事業もそのひとつです。
 日本であれば、数か月で終わる工事も、ネパールの山岳地に点々と散らばる14の村で進めて行くのは容易ではありません。1年間に3か月続く雨季では、未舗装の山道がぬかるみ、車での異動が困難になります。人も資機材も運べなくなり、事業は完全にストップ。度重なる計画の変更に焦りを感じ、何度もくじけそうになりながら、ネパール赤十字社や地域住民、工事会社などの関係者との対話を辛抱強く続け、事業を進めています。
 そして、こうして元気なチャングバちゃんの笑顔を見ると、「ああ、よかった。これまで待っていてくれて、本当にありがとう」と心の底から思います。ネパールに想いを馳せて日赤をご支援くださる方々の力と、ネパールの被災者の生きる力、この大きなふたつの力をつないでいくことこそが私たちの仕事であると、チャングバちゃんの笑顔が教えてくれます。
 ネパール大地震の発生から4周年。日赤が支援する事業もようやくゴールが見えてきました。約4年にわたる診療所再建事業も、2019年3月末には、最後の2棟の工事も終わり、やっと完了する予定です。これから、日赤が支援した14の診療所で何人の赤ちゃんが生まれ育っていくか、今からとても楽しみです。
 

日本赤十字社ネパール代表部 首席代表 五十嵐和代日本赤十字社ネパール代表部 首席代表 五十嵐和代

 



JICAでアフリカ教育開発、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンで東日本復興支援事業に携わり、2016年3月に日赤に入社。ネパール復興支援事業に携わり、2017年から現職。ネパール赤十字社の職員とともに、復興支援事業の実施状況管理などの業務にあたる。






<ネパール地震における緊急救援 2015年4月26日~7月31日>

2015年
4月25日 マグニチュード7.8の地震が発生。
4月26日 先遣隊(医師・看護師等3人、職員2人)を、ネパールの首都カトマンズに派遣。
4月29日 先遣隊がシンドパルチョーク郡メラムチ村で現地調査と医療活動を開始。
4月30日 第1班保健医療チーム14人が現地に向け出発。
現地で診療所を開設することの出来る医療用のERU(緊急対応ユニット)資機材を、ドバイの倉庫から輸出する準備を進める。日々200人の患者を診察。
5月6日  復興支援事業の調整のための要員を派遣。
5月10日 山間部への巡回診療を開始。
5月12日 マグニチュード7.3の地震が発生
5月22日 1,000万円の資金拠出、4,000万円相当の物資支援の実施を決定。
6月2日  保健医療チーム第2班16人出発。
6月22日 「地域に根差した地域保健と救急法」の研修実施。救急法などについて地域の学校から教師と生徒30人が参加。
7月7日  保健医療チーム第3班12人出発。

※発災から7月31日までの主な支援
診療所14,416人、巡回診療1,183人、こころのケア3,639人
地域保健や救急法に関する研修会受講者1,332人
資金拠出1,000万円、物資支援4,000万円相当分



 

<ネパール地震における復興支援 2015年8月~現在>

2015年
9月     日本赤十字社ネパール代表部を設置。
9月     地域保健再建事業(地域の診療所の再建支援)開始。
2016年
4月17日  ラガルチェ村の診療所が完成。ネパール政府への引き渡し式を実施。

11月     住宅再建支援事業(個人の住宅の再建支援。助成金の支給や建設指導)開始。
2017年
2月     水と衛生支援事業(個人の住宅や学校のトイレ、水道設備の再建支援)、生計支援事業(被災者の生計の安定・向上を目的とした、職業訓練、家庭菜園研修、助成金の支給等)、学校基盤防災支援事業(耐震性の高い学校の建築と、その学校を防災拠点とした地域住民への防災教育)開始。
4月まで  (地域保健再建事業)4棟の診療所が完成。
2018年
7月     血液事業支援事業(血液製剤を製造するための機材供与と輸血の安全性向上)開始。
7月~8月 (血液事業支援事業)ネパール赤十字社血液センターの検査部門より2名を招聘し、安全な輸血に関する研修を実施。
2019年
1月     ネパール赤十字社能力強化支援事業(ネパール赤十字社の支部・副支部社屋の建設や、ネパール赤十字社職員の能力向上を目的とした各種研修)開始。
2月10日 (学校基盤防災支援事業)ダドゥワ村の学校の定礎式。

(2017年3月24日の写真)(2017年3月24日の写真)


再建されたラガルチェ診療所で生まれた最初のあかちゃんシャムラチャナちゃんとお母さんのプジャさん。

「診療所が再建されて助かっています。良い医療サービスに感謝しています。」







<日本赤十字社が実施する復興支援7事業の概要と実施状況>(2019年2月28日現在)

(1)住宅再建支援事業
・個人の住宅の再建支援。再建に必要な給付金の支給や、建築の指導等。
対象:1,844世帯、完成:1,033世帯(達成率:56.0%)

(2)地域保健再建事業
・地域の診療所の再建支援。
対象:14棟、完成:12棟(達成率:85.7%)

完成した診療所の前で記念撮影(地域保健再建事業)完成した診療所の前で記念撮影(地域保健再建事業)

(3)水と衛生事業
・個人の住宅や学校のトイレ、水道設備の再建支援。
【個人宅のトイレ】対象:1,300世帯、完成:917世帯(達成率:70.5%)

(4)生計支援事業
・被災者の生計の安定・向上を目的とした、職業訓練、家庭菜園研修、助成金の支給等。
【助成金】対象:469世帯、支給済み:413 世帯(達成率88.6%)

 (5)学校基盤防災事業
・耐震性の高い学校の建設支援。
・地域住民への防災教育。
対象:学校1校を建設中。2019年秋頃に完成予定。完成後、地域住民への防災教育を実施予定。

 

仮校舎で学校の再建を待つ子供たち(学校基盤防災支援事業)仮校舎で学校の再建を待つ子供たち(学校基盤防災支援事業)

(6)血液事業支援事業
・血液製剤を製造するための機材供与
対象:血液センター1件。地震により損壊したバクタプール市血液センターを、現在イギリス赤十字社が
修復中。修復が終了する2019年秋頃に、日赤が機材供与を行う予定。
・ヘモビジランス(輸血の安全性向上)支援
対象:医療情報担当者(輸血で起こる副作用の情報収集担当者)2名。日本にて研修を実施。

(7)ネパール赤十字社能力強化支援事業
・ネパール赤十字社の支部・副支部社屋の建設
対象:支部社屋1軒、副支部社屋2軒の建設準備中。2019年冬頃に完成予定。
・ネパール赤十字社職員の能力向上を目的とした各種研修。研修は順次実施中。
 

このプレスリリースには、メディア関係者向けの情報があります

メディアユーザー登録を行うと、企業担当者の連絡先や、イベント・記者会見の情報など様々な特記情報を閲覧できます。※内容はプレスリリースにより異なります。

すべての画像


会社概要

日本赤十字社

17フォロワー

RSS
URL
http://www.jrc.or.jp
業種
財団法人・社団法人・宗教法人
本社所在地
東京都港区芝大門 1-1-3
電話番号
-
代表者名
清家 篤
上場
-
資本金
-
設立
1877年05月