「重症対応<リハビリ」の急性期患者が半数
925病院の医療ビッグデータを調査
重症疾患に対応する急性期病院において、退院後の日常生活動作(ADL)の向上に必要なリハビリテーションや栄養管理が不足している患者が半数近くいる可能性が、グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC ※1=本社・東京都新宿区、代表取締役社長・渡辺幸子)の調査で分かりました。これら患者は肺炎や心不全、尿路感染症など軽症・中等症と思われる高齢患者であるため、重症対応の急性期医療よりもリハビリや栄養管理を積極的に行う医療を提供することで、退院後のADL低下を抑制できる可能性が高まります。
軽症・中等症の高齢患者が急増
高齢化の進展とともに、急性期病院に入院する軽症・中等症の高齢患者が急増しています。軽症・中等症の高齢患者は必ずしも急性期病院に入院する必要はなく、むしろ重症対応に重きを置く急性期病院に入院することでのADL低下が懸念されてきました。
こうしたことを背景に、2024年度診療報酬改定では「地域包括医療病棟入院料」を新設。軽症・中等症の救急対応や積極的なリハビリ・栄養介入、円滑な入退院支援と在宅復帰を包括的に実施する病院を評価するものです(詳細は厚生労働省のホームページ)。
これを受けてGHCはこのほど、保有する約1000病院の医療ビッグデータと独自の分析手法を用いて、新たな制度で受け入れることができる症例の現状について分析しました(※2)。
対象症例は白内障、鼠径ヘルニアの順
図表1は分析対象の急性期病院ごとに、新設された地域包括医療病棟を活用できると思われる症例割合(定義は図表キャプション参照)を示したものです。横軸に各病院が並び、右の縦軸が全症例数、左の縦軸が同病棟を活用できると思われる報酬3,751点未満割合、つまり軽症・中等症と思われる症例割合を示しています。
これによると、分析対象の病院における同病棟を活用できると思われる症例割合の中央値は51.3%。リハビリや栄養管理が不足している急性期患者が半数以上いる可能性を示しています。これら患者の具体的な疾患一覧(症例数上位20)は図表2の通りです。
「病院選択に『ADL向上』の視点を」
これについて、病院経営を支援するGHCコンサルタントの太田衛は、「高齢者の救急疾患をすべて急性期病院で対応すると、『入院』という行為でADLが低下する可能性がある。今回のデータ分析の結果から考えても、多くの症例を『地域包括医療病棟入院料』で対応することを検討すべきだ。今後、地域の病院は『医療体制を整えられるか』『経営的に無理がないか』などを考慮し、新制度を活用するか否かを検討することになるだろう」とコメントしています。
また、患者視点においては「『地域包括医療病棟入院料』の活用が普及すれば、患者にとって自分や家族が病気になった際に行く病院の選択肢が増えることになる。ADLの低下は、患者本人はもちろん、患者家族の負担にも大きく影響を及ぼすため、とにかく大きな病院へ行こうとするのではなく、ADLの向上という視点での病院選びが今まで以上に大切になってくるだろう」(太田)ともコメントしています。
(※1)株式会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン
医療専門職、ヘルスケア企業出身者、IT専門家らで構成される経営コンサルティングファーム。急速な高齢化で社会保障財政の破たんが懸念される中、「質の高い医療を最適なコストで」の理念を実践する具体的な手法として、米国流の医療マネジメント手法「ベンチマーク分析」を日本に初めて持ち込み、広めたパイオニアです。http://www.ghc-j.com/
(※2)医療ビッグデータを用いたデータ分析
医療ビッグデータは、患者データを含む医療に関するさまざまなデータの総称。ここでは、包括支払い方式で入院医療費を請求する「DPC(診療群分類別包括払い)制度」の対象病院が作成を義務付けられている「DPCデータ」を指す。DPC制度は、従来型の出来高制度と比較して、1日当たりの報酬が決まっているため、過剰な診療の抑制や必要なコスト削減を促すことが期待できる。主に病床数が多く、重症患者を診療する急性期病院の多くが導入している。対象病院は1761病院(2023年4月時点)。GHCは1000病院以上のDPCデータを保有しており、カバー率は約6割。今回のプレスリリースは、病院経営に資するさまざまなテーマをデータで検証したレポートを掲載する「LEAP JOURNAL」(https://www.ghc-j.com/leapjournal/)の一部記事(『速報!地域包括医療病棟入院料の役割と活用余地』参照※会員限定記事)から分析結果を抜粋した。
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