マラリア削減でアフリカ経済が年間平均約160億ドルの押し上げ
マラリア・ノーモアUKが報告書を発表
(6月5日、英国)マラリア・ノーモアUKが発表した報告書によれば、「2030年までにマラリアを2015年比90%削減」という国連が掲げた目標が達成されれば、アフリカ各国のGDPが1269億ドル増加する可能性があることが分かった[1]。
これはアフリカ経済にとって年間平均160億ドル近い押し上げに相当する。総額約160億ドルは、全アフリカ各国の保健医療に対する年間総支出の10%以上に相当する[2]。また、この目標を達成することで、アフリカのマラリア流行国への輸出がさらに310億ドル増加する可能性が示され、そのうちG7諸国は40億ドル近く、米国は15億ドル近く、英国は4億5000万ドル以上増加する可能性が含まれる[3]。
報告書は、6月13日から15日にかけてイタリアで開催されるG7サミットに先駆けて発表された。議長国イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、アフリカ大陸の保健システムへの投資を含め、アフリカの経済成長を刺激するためにパートナーシップを組むことを優先課題に掲げている。
世界保健機関(WHO)によれば、マラリアは現在、年間60万人以上の命を奪っている[4]。世界全体でマラリアによる死亡者数の約4分の3が子どもだ。一方、マラリアは労働年齢人口にも影響を及ぼしており、従業員の欠勤、所得の減少、所得税の減少、医療費の増加を通じて経済成長を阻害する可能性がある[5]。また、マラリアに罹患した子どもは、学校を頻繁に欠席するため、教育の進捗や最終的な経済的貢献が妨げられるだけでなく、医療サービスや看病する親の負担も大きくなる。
報告書で紹介された、ケニアのキスム郡ビクトリア湖畔の漁村で漁業を営むジョージ・オティエノは、マラリアの影響について語っている。
「マラリアは毎年、私の家族にも影響を及ぼしています。マラリアに罹患すると、仕事も漁業もできなくなり、漁業コミュニティにとって非常に危険なのです。 健康であれば、漁師や乗組員が働き、母親たちも働き、関連する貿易活動をしている人たちも働くので、私たちの収入は増えます。マラリアがゼロになれば、子どもたちは学校に行き、漁師は仕事に行き、農民は農場に行き、商売をしている人たちは商売をすることができるのです」
マラリア感染者数が減少することで恩恵を受けることが予測される国としては、2023年から2030年の間にGDPが350億ドル近く押し上げられるナイジェリア、90億ドル以上のケニア、85億ドルのアンゴラなどがある[6]。GDPが押し上げられることで、診断能力の強化、医療労働力の強化、プライマリー・ヘルスケアのインフラ強化といった、保健医療部門のさらなる強化が可能となる。それにより、パンデミック(世界的大流行)の可能性を秘めた新たな疾病など、将来の脅威を予防し、それに対抗するための準備を整えることも可能になる。
G7はこれまで、ワクチンへのアクセスを向上させる上で重要な役割を果たすワクチン同盟(Gavi)や、マラリアと闘うためのツールや治療法へのアクセスを向上させる上で長年重要な役割を果たしてきたグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)などのグローバル・ヘルス・イニシアチブの設立を支援してきた。
Gaviは、6月20日に予定されている増資会議で、2種類の有効なマラリア予防接種への拠出を初めて議論する。これらのワクチンは、次世代蚊帳などのマラリア対策のツールと併用して使用されることで、近年停滞しているゼロマラリア達成への道のりを活性化させる重要な役割を果たすことが期待される。
マラリア・ノーモアUKのCEOであるアストリッド・ボンフィールド博士は、今回の報告書に対し、「ゼロマラリアへの投資の拡大により、何百万人もの命を救い、アフリカ経済を成長させ、貿易を促進できるだけではなく、アフリカ各国および世界における保健支出を強化し、保健の安全保障を強化するための新たな資金確保になる」と述べている。
「アフリカとの世界貿易の増加は、マラリア研究開発資金を維持し、他の感染症に取り組むためにより広く生命科学への投資を継続することによって、他国がこの病気を抑えることも可能にしている。G7とマラリア流行国は手を携え、Gaviとグローバルファンドを通じ、マラリアへの投資を拡大することで、命を救い、経済的繁栄を回復し、保健の安全保障を強化することができる。世界的なマラリア削減目標は達成されていないものの、ワクチンや「次世代型」蚊帳のような新しいツールは利用可能だ。各国政府がGaviとグローバルファンドに十分な資金を提供し、必要な人々にツールが行き届くようにすれば、目標達成は可能だ」。
ジュネーブに本部を置く国連のマラリア専門機関「RBM Partnership to End Malaria」のCEOであるマイケル・チャールズ博士は、「マラリアは人命を奪い、マラリア流行国の重要な社会的・経済的利益を妨げている。私たちは、この悲劇的なサイクルを終わらせるために、マラリアを2015年比で90%削減するという2030年の目標を優先させなければならない」と述べた。
「マラリア対策への投資ギャップは依然として問題であり、有効性が既に確認されているマラリア対策の手段や治療法を、より迅速かつ体系的に展開することを妨げている。今回の研究は、マラリア対策に投資すべき理由を示す結果となった。マラリア対策への投資は、初めにかかる費用は大きく見えるが、実際には、目標達成により獲得できる利益は、費用をはるかに上回るものだ。適切な投資により、世界各地で適切なマラリア対策戦略を実施し、命を救い、地域の成長と国際貿易の組み合わせによって経済が大幅に活性化することが期待される」。
*本報告書の日本語版は認定NPO法人Malaria No More Japan(MNMJ)が翻訳・編集しております。英語版オリジナルおよび日本語版は以下のMNMJウェブサイトよりご覧いただけます。
MNMJウェブサイト:https://malarianomore.jp/archives/13816
[1] Research and analysis conducted by Oxford Economics Africa (part of the Oxford Economics Group) on behalf of Malaria No More UK
[2] Health Financing, One, https://data.one.org/topics/health-financing/ (Last accessed 08.05.24)
[3] Research and analysis conducted by Oxford Economics Africa (part of the Oxford Economics Group) on behalf of Malaria No More UK
[4] Case and mortality data, ‘The World Malaria Report’, The World Health Organization, 2023, https://www.who.int/teams/global-malaria-programme/reports/world-malaria-report-2023
[5] Research and analysis conducted by Oxford Economics Africa (part of the Oxford Economics Group) on behalf of Malaria No More UK
[6] Research and analysis conducted by Oxford Economics Africa (part of the Oxford Economics Group) on behalf of Malaria No More UK
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