マグネシウム合金細管の革新的加工技術を開発 ―ダイレス引抜きと冷間引抜きの一貫加工を実現―
~透析治療手術用ステント素材として、SG biomedicalへサンプル提供を開始~
□要点
透析患者の治療成績向上につながる生分解性ステントの開発には、マグネシウム合金の精密細管を安定供給することが不可欠でした。マクルウは東京大学との共同研究でこの加工課題を解決し、ダイレス引抜きと冷間引抜きを組み合わせた一貫加工技術を確立。台湾のSG biomedicalへのサンプル提供を開始しています。
□本文
株式会社マクルウ(本社:静岡県富士宮市、代表取締役:安倍雅史、以下、マクルウ)は、東京大学生産技術研究所(東京都目黒区、所長:年吉 洋)変形加工学研究室(古島 剛研究室、以下、古島研)との共同研究により、ダイレス引抜き加工と冷間引抜き加工を組み合わせた(図1)革新的なマグネシウム合金細管加工技術を開発しました。本技術で加工したマグネシウム合金細管は、オーダ化成株式会社(本社:大阪市中央区、代表取締役社長:積山修也)を通じ、SG biomedical Co, Ltd.(本社:台湾新竹県、董事長:呉建興、以下、SG biomedical)が開発している透析治療手術用ステント(図2)の開発・評価用素材として、サンプル提供を開始しています。
本技術は、古島研が有するダイレス引抜き加工に関する研究成果および技術的ノウハウと、マクルウの冷間引抜き加工技術をもとに、令和4~5年度静岡県医療機器産業基盤強化推進事業助成金を活用して開発しました。


□開発の背景と技術的成果
マグネシウム合金は、比強度が高く、生分解性と生体安全性に優れることから、生分解性医療機器の材料として広く注目されており、血管内で用いられるステント用素材としても研究が進んでいます。
一方、血管内で用いられるステントは、素材となる管材の外形が3mm以下の精密細管が必要です。塑性加工が困難とされるマグネシウム合金では、細管を安定的・経済的に供給することが課題とされてきました。具体的には、精密な管材に仕上げるために必要な冷間引抜き加工の加工可能減面率が他の金属と比べ著しく低いため、冷間引抜き加工を数十回繰り返すか、または最初に管材を制作する押出し加工の段階から細管を準備する必要があり、いずれも大きな加工上の困難を伴います。
そこで、マクルウは古島研との共同研究により、ダイレス引抜き加工と冷間引抜き加工を組み合わせた革新的なマグネシウム合金細管加工技術を開発しました。本技術は、押出し加工時に加工上の困難を伴わない一般的な寸法で管材を製作し、ダイレス引抜き加工が可能とする大きな減面率で一気に管材を小径化・薄肉化した後、冷間引抜き加工により寸法精度と表面精度を高めるものです。
本技術の開発により、自社で保有する汎用押出し加工設備(車いすフレーム用管材の製造にも活用)で母材となる管材を製作し、ダイレス引抜き加工・冷間引抜き加工までの一貫加工が可能となりました。これにより、マグネシウム合金細管を安定的・経済的に供給できる体制が整いました。
今後は、本技術を活用したマグネシウム合金細管の提供を通じて、SG biomedicalの透析治療手術用ステントの開発進展および市場拡大に寄与するとともに、さまざまな生分解性医療機器への採用を目標とした事業を推進していきます。
□用語説明
■ダイレス引抜き加工
材料を急加熱して引抜き、塑性変形によって断面を縮小させる加工法。ダイ(金型)を使用しないため、摩擦力の高い難加工材にも対応できる。加熱・冷却・塑性変形を組み合わせた加工プロセスであり、加工温度や冷却速度、塑性変形量(ひずみ量)、ひずみ速度などを制御することで、引抜き後の結晶組織制御への応用も期待される。

*関連論文
・T. Furushima, K. Manabe: Large reduction die-less mandrel drawing of magnesium alloy micro-tubes, CIRP Annals - Manufacturing Technology, Vol. 67 (2018) pp. 309-312. (https://doi.org/10.1016/j.cirp.2018.04.101)
・T. Kishimoto, T. Furushima: Achieving thin wall and high surface quality of magnesium alloy tubes in combined process of hollow sinking after die-less mandrel drawing, International Journal of Material Forming, Vol. 16 (2023), Article Number 29 (https://doi.org/10.1007/s12289-023-01750-7)
■冷間引抜き加工
常温で鋼材や非鉄金属などの素材をダイスと呼ばれる金型に通して引き抜く加工方法。塑性加工の一種で、断面積の縮小や形状の変更が可能。機械的性質の向上や仕上げ面の滑らかさなどのメリットがある。
■透析治療手術用ステント
SG biomedicalが開発を進めている、動静脈瘻(AVF)の透析治療向け手術用ステント。SG biomedicalは国立台湾大学病院(NTUH)と共同で、現在50%の手術成功率を70%以上に引き上げることを目標としている。現在、多数の動物実験が進行中であり、今後は臨床試験も計画されている。
*関連論文
1. Chien-Hsing Wu, Fuh-Yu Chang, and Ping-Tun Teng: Development and In Vitro Validation of Magnesium Alloy Stents with Layered Double Hydroxide Coating, The 15th Asian Workshop on Micro/Nano Forming Technology (AWMFT), 2025, Taiwan.
2. Chien-Hsing Wu, Fuh-Yu Chang, Chiung-Ju Lin and Ping-Tun Teng: Development of Magnesium Alloy Stents with Layered Double Hydroxide Coating for Improved Corrosion Resistance and Biochemical Stability in AVF Applications, J. Funct. Biomater. 2026, 17(2), 76; https://doi.org/10.3390/jfb17020076
*関連特許
・TWI789316B (Taiwan)
・US20230404780A1 (US)
■生分解性
微生物などの働きによって物質が分解される性質。マグネシウムは、水分や塩化物イオンが存在すると分解してマグネシウムイオンになり、体内に吸収される性質がある。
■血管内で用いられるステント
血管が狭くなった部位を拡張して支える金属製のチューブ状の医療機器。狭心症や心筋梗塞、末梢血管疾患などの治療に使用される。
■塑性加工
金属やプラスチックなどの材料を加工する際に、その材料の塑性(一定の力を加えると元に戻らない性質)を利用して行う加工方法。押出し加工、引抜き加工、圧延加工などが該当する。
■減面率
断面減少率の略称で、加工前の断面積が加工後にどのくらい小さくなっているかを表す割合。
■押出し加工
押出し素材(ビレット)を金属容器(コンテナ)に入れ、心棒(ステム)で圧縮してダイスと呼ばれる金型から押し出し、必要な断面形状(パイプや棒)に加工する方法。
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