環境NGO、東証プライム7企業に対して気候変動対策に関する株主提案
全7社が勧告的決議案を拒んだことを受け、定款変更議案を提出

国際環境NGO FoE Japan
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は金融、総合商社、電力3業界の7企業に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。提出先企業は三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(以下SMFG)、みずほフィナンシャルグループ(以下みずほ)、三菱商事、三井物産、住友商事、日本最大の火力発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力です。
我々は7社に対し定款変更に伴う制約を課すことを可能な限り避けつつ、気候変動リスクの緩和を通じた企業価値の向上に向けて、建設的かつオープンな対話を進めていくことを期待し、書簡の形式で法的拘束力のない勧告的決議案を提出しました。しかし全7社より勧告的決議を定時株主総会にて議案として取り扱うことはない旨の返答を受け取りました。このことから、以下の表のとおり当該企業に対して法的拘束力のある定款変更議案の形式で議案を提出しています。
2020年以降、日本の高排出企業や金融機関は、気候変動に関する株主提案に直面してきました。昨年金融機関の株主総会にて決議された議案(気候変動関連の事業リスク及び事業機会の効果的な管理のための取締役のコンピテンシーの開示を求める内容)をはじめ、25%以上の株主の賛同を集めた事例も数多くあります。今回提出した議案には、当該企業の取締役らを監視する監査委員会/取締役会の役割およびその実態についてより多くの情報開示を求めることで、企業のガバナンス向上を推進する狙いがあります。
他国を例に挙げると、英国のコーポレート・ガバナンスコードには「株主総会の議案に20%以上の反対票が投じられた場合は、その背景を理解すべく、企業がどのような行動をとるか総会の結果を発表する際に説明すべき」とあります。我々も一貫して当該企業に対し、方針の改定やさらなる開示を求めてきました。そうしたなか、広く株主が意見表明する重要な機会となる勧告的決議を定時株主総会で諮ることを企業側が拒否したことについては大変失望しています。岡山県岡山市や愛媛県今治市で発生した大規模な山林火災は工業化による人為的な気候変動の影響を受けて広がったとする内容の研究も発表されており、気候変動対策の緊急性は一層高まっています。当該企業の経営陣が勧告的決議案を拒絶し、定款変更議案を提出せざるを得ることになった経緯についても、我々の働きかけの意図や問題意識についてより多くの株主、ステークホルダーの皆様からご理解いただけることを期待しています。
株主提案

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)
▪️メガバンク
「メガバンクがNZBAから脱退したことで、銀行のネットゼロ公約への本気度が厳しく問われています。銀行は、高排出顧客が信頼性ある移行計画を策定する明確な期限を示す必要があります。さもなければ、銀行自身にとっての財務リスクへとつながるからです。昨年、同様の株主提案が強い支持を得たにもかかわらず、銀行は意味のある進展を示しませんでした。今後数ヶ月で進展が見られなければ、再び株主からの反発を招く可能性があります。加えて、気候リスクを含むリスク管理について、監査委員会による評価の開示を強化することは、ガバナンスの改善と企業価値の向上に不可欠です。」
(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)
「メガバンクの監査委員会は機能してないと考えざるを得ません。なぜならば、メガバンクは信頼できるネットゼロへの移行計画のない企業や、重要な炭素吸収源である熱帯林や泥炭地の破壊及び人権侵害に加担する問題企業に資金提供を続けているからです。メガバンクの執行部門でリスク管理ができていないだけでなく、監査委員会の監督機能にも深刻な課題があるのではないかと大きな懸念を持っています。例えば、MUFGとみずほは大規模事業における社会・環境リスク管理の枠組みである『赤道原則』の遵守を誓約する一方で、現地の先住民族の反対を無視して建設予定の米メキシコ湾岸のリオ・グランデLNG施設に資金提供を行っています。メガバンクは早急にガバナンスの一層の強化と情報開示を行い、リスクを厳格に管理すべきです。」
(レインフォレスト・アクション・ネットワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)
▪️総合商社
「各商社はネットゼロ目標を支持しているにも関わらず、今後も高炭素セクターへの投資を続ける計画を変えていません。激化する気候危機の影響による物理リスクや、移行リスクにどのように対応するのか開示し、また対応策を示すことは株主にとっても気候危機対策上も非常に有意義です。また、商社はモザンビークLNGやLNGカナダなど人権上の重大な懸念が指摘されている事業にも投資を行っており、ガバナンスとリスク管理を問う提案は今後のリスク緩和の上でも重要と考えます。」
(国際環境NGO FoE Japan, 事務局長, 深草亜悠美)
「気候変動による財務リスクが高まる中、商社が晒されているリスクを適切に管理する為のガバナンスに関する情報開示は不十分です。定量的リスクと非財務リスクを適切に認識し、事業計画や投資判断にどう反映させるのか。そして、その一連の意思決定プロセスの妥当性をどのように担保しているのか——こうした点について、日本最大級の総合商社におけるガバナンス体制の透明性が強く問われています。」
(マーケット・フォース, 日本エネルギーキャンペーナー, 布川健太郎)
▪️中部電力
「電力の安定供給を重視するとしながら、不確実性の高い技術に過度に依存することはリスクに他なりません。水素・アンモニア燃料の利用拡大は継続的な燃料の輸入を必要とするため、国の安全保障上の問題となるだけでなく、電力価格を押し上げることで国民の暮らしを圧迫することにつながります。2050年の目標を定めただけでは対策は進みません。具体的な計画の策定や実行、気候変動による影響の評価、さまざまなリスクへの対応が適切に行われているのかを株主が判断するには情報の開示が必要です。」
(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)
「中部電力およびJERAの移行計画には依然として改善が見られず、JERAの化石燃料事業の拡大により移行リスクは深刻化しています。加えて、日本最大級の電力会社であるJERAは、山火事、洪水、台風など、気候変動の進行に伴う物理的リスクにも晒されています。中部電力とJERAによる気候変動への遅慢な対応は、ガバナンス上の課題を浮き彫りにしています。気候変動の悪化に伴う財務リスクの情報開示を拡充し、取締役の適切な監督を強化することが、今後、一層必要になります。」
(マーケット・フォース, 日本エネルギーキャンペーナー, 布川健太郎)
株主提案に関する詳細(株主提案に関する特設サイト)
Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/
株主提案の内容に関するお問合せ先
□ マーケット・フォース(Market Forces)
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
□ FoE Japan 担当者:深草亜悠美 Email: info[@] foejapan.org
□ 気候ネットワーク 東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org
□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
担当者:関本幸 E-mail: yuki.sekimoto[@]ran.org
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