日本人の成人気管支喘息患者における腸内細菌叢の異常と性差を解明
~病因の理解と新たな予防・改善方法に向けて~
シンバイオシス・ソリューションズ株式会社(以下、当社)は、腸内細菌叢(腸内フローラ)※1と疾病の関連性に関する研究と、腸内細菌叢の改善を介した疾病の予防・改善方法に関する研究・開発に取り組んでいます。この度、日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野との共同研究により、日本人の成人気管支喘息(以下、成人BA)の患者群には腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が生じており、その異常に関連する腸内細菌の種類には性差があることを解明しました。
本研究成果は、国際学術誌『Biomedicines』(2026年1月8日付)に掲載されました。
■研究の要旨とポイント
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腸内細菌叢の異常と小児喘息との関連性を示す研究はこれまでに多数報告されていましたが、日本人における腸内細菌叢と成人BAの関連性については明らかになっていませんでした。
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本研究では、日本人の成人BA患者群(以下、成人BA群)と健常対照者群(以下、対照群)の腸内細菌叢を比較することで、成人BA群における腸内細菌叢の異常とその特徴を明らかにしました。
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成人BA群と対照群で違いのある腸内細菌の種類(分類群)を調べた結果、成人BA群では呼吸器疾患に関連する分類群が多く、短鎖脂肪酸を産生する分類群が少ないという特徴がみられ、腸内細菌叢の構成に異常が起きていることが示唆されました。また、成人BAに関連する腸内細菌の分類群の多くは、男女で異なっており性差が存在していました。
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本研究によって、腸内細菌叢が成人BAの病因に関連することが示されたことから、今後、成人BAの予防や改善の方法において腸内細菌叢が新たなターゲットとなることが期待されます。また、その際には性差を考慮する必要があることが示されました。
■背景
気管支喘息(bronchial asthma:BA)は、慢性的な呼吸器疾患の一つであり、世界中で約3億人が罹患しています。気管支平滑筋の収縮により、気管支が狭窄し気流制限が生じるため、喘鳴や咳、呼吸困難などの症状を示します。日本での気管支喘息有病率は小児で約7%、成人では約4%と推察されており、厚生労働省の2020年患者調査によると推計総患者数は約918,000人と報告されています。また、成人BAの有病率は、男性よりも女性の方が高いことが世界的に知られています。
近年、腸内細菌叢の異常(dysbiosis)が小児喘息の発症と関連していることが多数報告されています。小児喘息では、腸内細菌の代謝産物の産生異常が免疫応答に影響を及ぼします。腸内細菌によって産生される酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸は、気道炎症に対する保護効果が示されており、便サンプル中の短鎖脂肪酸濃度の低下は、小児喘息リスクの増加と関連しています。腸内細菌叢は成人のBA発症と重症度にも関連している可能性があり、海外の研究では、成人喘息患者において腸内細菌叢の異常が生じていること、短鎖脂肪酸産生菌のレベルが低いことが報告されていますが、日本人を対象とした研究はありませんでした。
腸内細菌叢の構成は国や地域によって異なり、日本人は特有の腸内細菌叢を有していることから、他国での研究結果が日本人にも当てはまるとは限りません。さらに、成人BAの有病率と腸内細菌叢の構成のそれぞれには性差があることが分かっていますが、これまでの研究では性差が考慮されていません。
そこで本研究では、性差に焦点を当てつつ、日本人の成人BA患者において腸内細菌叢の異常が生じているかどうかを調査しました。
■研究手法と成果
研究チームは、日本人20~70代の成人BA群(男性48名、女性90名)と対照群(男性60名、女性120名)の腸内細菌叢を、次世代シーケンサー※2を用いた16S rRNA遺伝子配列解析※3により男女別に比較しました。
腸内細菌叢の多様性を比較するにあたり、β多様性※4をBray–Curtis指数に基づく非計量多次元尺度法(NMDS)※5のプロットにより可視化し、PERMANOVA※6の検定を実施したところ、男女ともにβ多様性に有意差が認められました(図1)。これは、成人BA群と対照群では腸内細菌叢の構成に違いがあることを示しています。

成人BA群と対照群で異なる腸内細菌の分類群(属レベル)を解析したところ、男性の成人BA群では対照群と比較してStreptococcus、Blautia、Veillonella、Unclassified(属レベルの分類が定まらなかった細菌)、Adlercreutzia、Clostridium_IVおよびSchaaliaがより多く、一方で、Butyricimonas、Clostridium_XlVb、MegamonasおよびClostridium_XVIIIは少ない傾向がみられました(図2A)。女性の成人BA群では、Flavonifractor、Streptococcus、Eggerthella、Enterocloster、Ruthenibacterium、Dysosmobacter、Sellimonas、Erysipelatoclostridium、Blautia、Clostridium_XlVa、FusobacteriumおよびAnaerotignumが多く、Coprobacter、Oscillibacter、Agathobacter、Ruminococcus、CoprococcusおよびOdoribacterは少ない傾向がみられました(図2B)。女性の成人BA群で存在量に違いがみられた19分類群中8分類群では、対照群との間に有意差が認められました(ウィルコクソンの順位和検定※7 p < 0.05)。成人BA群では男女ともにStreptococcusとBlautiaが多い特徴が観察されましたが、その他の分類群は男女で異なっていました。
成人BA群の特徴としてみられた分類群の多くが男女で異なっていましたが、BA群で存在量が多い分類群の多くは呼吸器疾患に関連することがこれまでに報告されており、存在量が少ない分類群の多くは短鎖脂肪酸産生菌に該当する傾向がみられました。

これらの結果から、日本人の成人BA患者において腸内細菌叢の異常が生じていることが明らかとなりました。また、その特徴として、成人BA群で存在量が多い分類群には呼吸器疾患と関連するものが多く、存在量が少ない分類群の多くは短鎖脂肪酸産生菌であることが判明しました。このことから、完治が難しいとされる成人BAの予防や改善の方法において、腸内細菌叢がターゲットとなる可能性が示唆されました。性差や個々人の腸内細菌叢のプロファイルに基づいた食事療法、プレバイオティクス、プロバイオティクスなどの介入が成人BAの予防や治療の新たなソリューションとなる可能性があります。
■今後の展望
本研究で明らかとなった成人BAと腸内細菌叢の関連性は、腸内細菌叢を介した成人BAの治療・予防法の開発につながることが期待されます。
■用語解説
※1 腸内細菌叢
ヒトの腸内には1,000種以上、10~100兆個程度の腸内細菌が共生しており、重さにして約1.5 kgと考えられている。腸内細菌はそれぞれテリトリーをもって生息しており、その全体を「腸内細菌叢」と呼んでいる。
※2 次世代シーケンサー
一度に大量の塩基配列を決定することができる次世代型の塩基配列決定機器。旧世代型に比べ、同時処理可能なDNA断片数が桁違いに向上し、目的サンプルの大量塩基配列データを得ることができる。
※3 16S rRNA遺伝子配列解析
16S rRNA遺伝子配列は、細菌の進化の道筋(系統関係)によって異なっており、配列を調べることで細菌が属する分類群(属や種など)を明らかにすることができる。そのため、細菌の系統マーカー遺伝子として利用される。
※4 β多様性
2つのサンプル間の多様性の相違度を表す。
※5 非計量多次元尺度法(NMDS)
高次元(次元 >= 4)の散布図を低次元(2次元または3次元)へ、元の次元における点間の位置関係を保ったまま投影する手法の一種である。
※6 PERMANOVA
2群間におけるβ多様性の違いが、有意なものであるかを検定するための、統計学的手法の一種である。
※7 ウィルコクソンの順位和検定
ノンパラメトリック検定のひとつで、マン-ホイットニーのU検定とも呼ばれ、得られた2つのデータ間の中央値に差があるかどうかを検定する。ウィルコクソンの符号順位検定はパラメトリック検定における対応のあるt検定に相当するものである。
※8 効果量
ある現象に対して、着目している変数がどの程度の影響力を持っているのかを指標化した量のこと。
■研究グループ
シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
代表取締役社長 増山 博昭
研究開発本部 平野 千尋・畑山 耕太・香野 加奈子
日本大学医学部内科学系呼吸器内科学分野
神津 悠・神野 優介・黒澤 雄介・山田 志保・水村 賢司・飯倉 元保・丸岡 秀一郎・權 寧博
■原論文情報
Chihiro Hirano, Yutaka Kozu, Yusuke Jinno, Yusuke Kurosawa, Shiho Yamada, Kouta Hatayama, Kanako Kono, Kenji Mizumura, Motoyasu Iikura, Shuichiro Maruoka, Hiroaki Masuyama, Yasuhiro Gon. Sex-Specific Differences in Gut Microbiota Composition in Adult Patients with Bronchial Asthma. Biomedicines 2026, 14(1), 125.
doi: 10.3390/biomedicines14010125
https://www.mdpi.com/2227-9059/14/1/125
■研究内容に関する問合せ先
シンバイオシス・ソリューションズ株式会社研究開発本部 平野 千尋
research(at)symbiosis-solutions.co.jp
※ (at) は@に置き換えてご連絡ください。
■取材に関する問合せ先
シンバイオシス・ソリューションズ株式会社 広報担当
info(at)symbiosis-solutions.co.jp
※ (at) は@に置き換えてご連絡ください。
■企業概要
当社は、腸内細菌叢から疾病リスク等を分析・評価する腸内細菌叢の検査・分析サービス(『SYMGRAM®』、『健腸ナビ®』他)の開発・運営および医薬・食品メーカー等と連携して腸内細菌叢の改善を介して疾病を予防・改善するための機能性食品(医食品®)の研究・開発などを行うヘルステック・バイオベンチャーです。
・会社名:シンバイオシス・ソリューションズ株式会社
・本社:東京都千代田区神田猿楽町2-8-11 VORT水道橋Ⅲ 3F
・研究所:埼玉県和光市南2-3-13 和光理研インキュベーションプラザ内
・設立:2018年4月 ※一般社団法人日本農業フロンティア開発機構と国立研究開発法人理化学研究所(旧辨野特別研究室)による研究成果を事業化する目的で設立
・資本金:29億9,392万円(資本準備金含む:2026年1月1日現在)
・URL:
【コーポレートサイト】https://www.symbiosis-solutions.co.jp/
【腸内細菌叢の検査・分析サービス「SYMGRAM」サイト】https://symgram.symbiosis-solutions.co.jp/
【腸内細菌叢の検査・分析サービス「健腸ナビ」サイト】https://kenchonavi.com/
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