5㎝精度で津波を測定へ。新レーダーシステムを開発
誤差無しのリアルタイム計測で注意喚起。正常性バイアスによる逃げ遅れ0へ
日本は古くから津波の被害を受けており、津波の規模や到達時間の予測は現在も先行研究によって行われています。既存研究は大規模な近海や遠海で起きる大きな津波について、ある程度の信頼性がある予測を実現している一方で、特に沿岸域での津波予測の精度には課題があり、実際に到達する津波の規模とズレが生じるケースも多くあります。ただ、津波は通常の波と異なる強力な自然災害で、数十㎝の規模でも大きな人的被害を生む可能性があり、予測精度の向上は重要な社会課題です。この研究では沿岸に設置するレーダーから海面に電波を照射。現在は沿岸から150mの範囲で15㎝~5㎝の精度で津波を測定できる方法を確立しました。研究は最終的に沿岸から30kmの範囲で津波の大きさを精密に計測して、予報の精度からくる「正常性バイアス」によって発生しうる人的被害を減らすことを目指しています。研究について取材していただけたら幸いです。
※本研究は総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)(先進的電波有効利用型)による支援を受けています。
数十㎝でも被害の可能性。津波の恐るべきパワーとは
通常、海の波は海面に吹き付けた風による風波の集合体で、潮位の満ち引きと組み合わさって大きさが決まります。こうした通常の波と異なり、地震や海底火山の噴火などの要因で発生する津波は海底地形の盛り上がりを受けて、膨大な量の海水が数十㎞~数百㎞の波長で押し寄せるため、たとえ数十センチでも通常の波とは比べ物にならないエネルギーを持っています。30㎝程度の津波でも、巻き込まれると大人が立っていられないほどの力があり、50センチになると車が流される程になります。
津波は岬の先端や湾奥の特殊な地形に押し寄せた場合、波が集中し高さを増して押し寄せることが知られています。また、陸地に到達するまでに複数の波が重なって高くなる場合もあります。このため、沖合では数十㎝の高さの津波でも、実際に陸地に押し寄せる高さは各地点で異なります。
海面にレーダー電波照射。高さと距離を分析
近木研究室の取り組む研究は陸上に設置したレーダーから海表面に電波を照射し、電波が海面にあたることによる信号の変化を分析します。津波は通常の波とは異なる大きな力を持つ災害です。津波を通常の波と区別して観測するためにどうすれば良いか?近木研究室では、膨大な量の水が一気に押し寄せ、海面が広い範囲で盛り上がる津波は、月の引力によって日々発生する潮の満ち引きに似た現象であると想定。つまり、海を測定して、海表面の波浪(風によって生じる波)を差し引いて、潮位による海表面の高さ変化のみをとらえる技術が確立すれば、実際に津波が発生した場合でもその規模を正確に割り出せると考えます。
1秒間に100回の電波照射を行い、波長変化を時間平均処理する独自の方法を用いて、海面の水位変化について「潮位」のみ精緻に測定する方法を編み出しています。
目標は30㎞先の津波の精緻予測
リスクが高まる南海トラフ地震などに備えて、津波の早期発生検知とその正確な規模を知ることは重要な社会課題です。
これまでのところ、津波の発生検知には
・過去に起きた地震や津波をデータベース化して、新たな地震が起きた際に津波の発生規模を予測するもの
・沖合のブイの潮位計やGPSの計測結果から予測するもの
・深い海底に設置する複数の圧力センサーで海水圧から潮位を測定する海底地震津波観測網(DONET)などの先行技術があります。
本研究のメリット、先進性
・津波の規模を誤差最小「5㎝」以内で計測できる可能性があり、正確な注意喚起が可能に。
規模予測の誤差をなくすことで「大したことはないだろう」(正常性バイアス)による逃げ遅れを防止できる。
・陸上のアンテナはメンテナンスが容易で維持コストも軽減可能。
今後の課題
現在の測定範囲は最大150m。アンテナをアップグレードし、
・来年度3㎞→・再来年度30㎞までの拡張を目指す。
・潮位測定はレーダーを照射する時間間隔を長くするほど正確になるが、その分タイムラグが発生する。
スピードの速い津波をリアルタイムで測定するため、計算式の精度向上が必要
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