「2030年 インテリジェントな世界」に向けて

—技術的課題と研究開発の方向性 アナリストサミット講演要旨

中国・深圳で開かれたファーウェイの第18回グローバルアナリストサミットで、12日に取締役・戦略研究院院長のWilliam Xuが基調講演を行いました。その要旨は次の通りです。
「2030年 インテリジェントな世界」に向けて

お集まりの皆様、第18回ファーウェイ・グローバルアナリストサミットへお越しくださいましてありがとうございます。パンデミックおよびアンチグローバリゼーションにより、この1年は多難なものとなりました。今日、私たちは不確実性と同時にチャンスに満ちた新たな10年の幕開けを目の当たりにしています。ICT産業も、新たな試練に直面し、新たなブレイクスルーを生み出す必要に迫られます。
 


社会的ウェル・ビーイングを支える世界の人口とエネルギー

社会的ウェル・ビーイングを支えるのは、世界の人口とエネルギーとなります。

国連の報告書によると、2030年までに世界人口は86億人となり、そのうち12%が65歳以上となります。そして25歳以下の人口は、減少傾向となります。高齢化する人口と労働力不足が社会の進歩を妨げることになります。寿命を伸ばすソリューションだけでなく、生活の質を改善しエンド・オブ・ライフケアにおける尊厳を保つ事へのニーズが高まりつつあります。

同時に、世界のエネルギー消費量も年率1.7%で上昇しています。18世紀と比べ、エネルギー消費は22倍となりました。現在、エネルギーの85%は化石燃料由来となっています。エネルギーのサステナビリティは、私たちすべてが直面する難問となっています。


サステナビリティの実現:低炭素 電子化 インテリジェント

低炭素エネルギー、産業のより広範に渡る電子化、そしてインテリジェンスがサステナビリティの実現に必要となります。

2030年までには、全エネルギーの50%以上が再生可能なエネルギー源からのものとなり、自動車の50%が電気自動車となり、家庭の18%にスマートロボットが備わります。

広範囲に渡る産業にその力を提供することで、ICTテクノロジーは世界炭素排出量を今後10年で20%削減させます。


限界を超越し未来を包容する

私たちが見据える未来の実現には、限界を超越していく必要があります。

私たちは、生体的な認知の限界を超えることを目指していきます。

今日、携帯電話のカメラは100倍のズームを実現していますが、カメラの性能と自然界の生物の視覚能力との間には依然として大きな隔たりがあります。例えば、蜘蛛は物体の輪郭と動きを捉える能力がはるかに優れており、これにより自動運転の必要要件を満たすカメラの開発において学びが得られるかも知れません。

私たちは、新たなコンピューティングテクノロジーを開発し、生体的インテリジェンスを進化させていくことを目指しています。

すでに多くのAIアプリケーションが見られますが、ディープニューラルネットワークを学習させることは難しく、多大なエネルギーを消費します。アリの頭脳ほどの機能も達成することができていません。アリの頭脳のエネルギー消費量は0.2 mWほどに過ぎませんが、営巣、社交、戦闘、アブラムシからの食餌など多くの活動をこなせます。インテリジェンスをシンプルなシナリオから構築するに当たり、こうした生物から学びが得られると考えています。

真に没入感あふれる実体験を得るため、物理的限界を超えていくことを目指しています。既存の5Gネットワークは、こうした実体験からは程遠いものとなっています。実物大の光学コミュニケーションのためには、より速いネットワーク速度とより小さなレイテンシーを実現する必要があります。

メゾスコピック端末を開発することで、新たな地平を切り開くことも目指しています。科学者がコンピューティングを用い、分子および原子レベルの設計および組立を行い、チップおよびコンポーネントの性能を大幅に改善しています。

 
未来の核となる柱課題と研究開発の方向性

私たちの住む世界は、物質、エネルギー、情報の3つの柱からなっています。これらが合わさり、世界の在り方が決まります。ここから、私たちが取り組むべき未来の課題が見つかります。物質とは存在の源であり、エネルギーは動きを与えるもの、そして情報がつながり合いを実現します。

2030年までに、世界では数千億ものコネクションが存在することになります。そしてあらゆるユーザーが10 Gbpsのブロードバンドスピードを利用できるようになります。100倍のコンピューティング能力とストレージ容量が実現することになるでしょう。エネルギーの50%以上が再生可能な資源由来となります。発電、伝達、処理を飛躍させるテクノロジー、そして情報とエネルギーの活用における進化が必要になります。

これらの予測と前提に基づき、私たちが対応すべき課題と今後10年における開発の方向性についてお話します。


 課題1:数百億もの多様なコネクションに対応できる5.5Gの定義

最初に課題となるのは、全てをつなげることになります。人々をつなげることに加え、他の膨大な数のものを繋げる必要があります。こうしたコネクションに対する需要は、非常に多様なものとなります。

5Gに定義される3つのユースケースでは、多様なIoTシナリオで対応できないものがあります。例えば、産業IoTアプリケーションでは膨大な数のコネクションと大きなアップリンク帯域幅が必要になります。そこで、eMBBとmMTCの中間となるシナリオであるアップリンク・セントリック・ブロードバンド・コミュニケーション(UCBC)が必要になります。別のタイプの活用事例では、ウルトラブロードバンド、低レイテンシー、高い信頼性が必要になります。ここでは、リアルタイム・ブロードバンド・コミュニケーション(RTBC)が必要になります。これはeMBBとURLLCの中間となるシナリオになります。コネクテッド・ビークルでの車両と道路との間でのやり取りには、コミュニケーションとセンシング性能が求められます。そのため、別の新たなシナリオであるハーモナイズド・コミュニケーション・アンド・センシング(HCS)が必要になります。

現状の5Gではカバーされないこれら3つの新しいシナリオ(UCBC、RTNC、HCS)をカバーするのが、5.5Gとなります。これらすべてが合わさることで、すべてのもののコネクションを超え、インテリジェントなものへと進化させるのです。


課題2:ファイバーの伝達能力を爆発的に増加させる、ナノスケールオプティクスの開発

5Gコネクティビティの足かせとなる課題はコネクションの数にある中、ファイバーコネクティビティの足かせとなる課題はファイバーの能力にあります。

今日、単一のファイバーは同時に100万の4Kビデオストリームに対応できます。2030年には、あらゆる現実世界で相互にやり取りする100万の人々に対応できるようになる必要があります。これはつまり、単一のファイバーが100 Tbpsを超える能力を持つこととなり、10倍以上能力を拡張することになります。

まず、光トランシーバーのレーザーに取り組み、高変調コンポーネントを用いボーレートを2~3倍にする必要があります。これに加え、キャパシティを倍増させる新たな変調コーディングおよびアルゴリズムが必要になります。薄膜、高帯域幅のモジュレーターがこれを切り開くことになります。

2つ目に、信頼性の高い超長距離伝送を可能にする、マニュアルコントロール可能な新たな広周波数、低ノイズの光増幅器の開発が必要になります。鍵となるテクノロジーは、量子限界に近づく光増幅技術となります。

3つ目に、光ネットワークのダイナミックコントロールの研究、およびコンピューティングを通しWDMネットワークを同期システムに移行させることで干渉防止機能の改善、および光学リソースの有効利用の研究が必要になります。鍵となるテクノロジーは、マイクロキャビティの光周波数コムとなります。

より長期では、私たちはスペース部多重化(SDM)などの新たなファイバーと光学システムを研究し、単一ファイバーの能力を100倍増加させる研究が必要になります。

 
課題3:すべてのものをつなげるためのネットワークプロトコルの最適化

3つ目の課題は、ネットワークプロトコルに関連したものとなります。

今日、主要ネットワークは数百億のコンシューマーによる接続に対応できています。2030年までには、兆規模の産業コネクションに対応する必要が出てきます。ここで、3つの大きなネットワークプロトコルの障害に直面します。

1つ目は、デターミニスティック・ネットワークの実現です。ネットワークには、確定的なレイテンシーの保証が必要になります。今日の最善努力によるネットワークレイテンシーを事前計算可能な確定的レイテンシーに移行するため、新たなネットワーク計算理論およびプロトコルが必要になります。

2つ目の障害は、セキュリティになります。すべてのものがつながると、セキュリティシステムは深刻な課題に直面します。       ドローン、カメラ、エッジコンピューティング端末、センサーなどの膨大な数の端末が、これまでにない新たなセキュリティリスクに直面します。内在的でエンドツーエンドのセキュリティフレームワークとプロトコルを構築する時宜が熟しているのです。

3つ目の障害は、柔軟性になります。産業からの要求の多様性が増すにつれ、より長いIPアドレスが必要になったり、一方で短いものが要求されるようになります。この問題の解決には、固定長のIPアドレスを拡張し、セマンティクスとシンタックスに柔軟性を持つ新たなインターネットプロトコルが必要となります。

 
課題4:インテリジェントな世界に対応する、十分な先進コンピューティング能力の提供

コネクティビティによりインテリジェントな世界の幅の広さが決まるのであれば、コンピューティングがその深さを決めることになります。

2030年には、コンピューティング能力への需要は100倍に跳ね上がるでしょう。以前は、シングルコアのCPU性能が毎年50%ずつ増加してきました。しかし現在では、その増加率は10%に落ち込んでいます。汎用目的のコンピューティングが、非常に非効率的になっている分野も見受けられます。需要に十分に対応できるコンピューティング能力の提供は、非常に大きな課題となります。

まず、デジタルコンピューティングを汎用目的のものから特化型へ、そしてCPU、GPU、xPUなどの多様なコンピューティングアーキテクチャの共存に対応できるヘテロジニアス・コンピューティングへと移行させる必要があります。

2つ目に、特化型分野でのアナログ・コンピューティングのメリットを活用する必要があります。光通信コンピューティングは信号処理、コンビナトリアル最適化、機械学習などの分野で用いられることになります。特に、光通信コンピューティングはMassive MIMO(マッシブマイモ)および光コミュニケーションにおいて膨大な活用可能性を秘めています。

 
課題5:産業AIでブレイクスルーを生み出す、膨大な量のデータからの知識の抽出

インテリジェントな世界とは、AIなくしては実現しないため、次に課題となるのはAIアプリケーションの細分化とAIの信頼性となります。

私たちは、細分化の問題に対応するための鍵となるのは、汎用AIモデルの構築にあると信じています。汎用AIシステムは、膨大な数のラベル化されていないデータとより大きなモデルを用いることによって達成され、「教師あり」学習から「自己教師あり」学習へと移行することができます。この分野でブレイクスルーを実現することが非常に重要になります。

さらに、AIと科学技術計算をまとめ上げる必要があります。これは、AI活用の細分化への対応の助力ともなるでしょう。AIは、科学技術計算に新たなアプローチ、手法、ツールをもたらし、厳格な科学技術計算システムはAIをはるかに説明可能なものにするのです。

AIの信頼性は、私たちの長期目標となります。関連性から因果の解析までの難題への対応が必要になる、自動運転のような人命に関わる分野では特に重要となります。

 
課題6:フォン・ノイマンアーキテクチャを超え、100倍濃密なストレージシステムを構築

6つ目の課題は、ストレージになります。

ストレージキャパシティおよび性能は、未来のストレージシステムにとって解決される必要のある問題となっています。

まず、はるかに大きなストレージキャパシティが必要になります。キャパシティの密度は、現在の100倍大きなものとなる必要があります。処理および電力消費の制限により、既存のストレージメディアではこのレベルのキャパシティは不可能です。このキャパシティの障害を克服するには、大容量かつ低レイテンシーなインメモリー・コンピューティングテクノロジー、DNAストレージや高次元光学ストレージなどの超大容量メディアテクノロジー、そして超大容量ストレージ空間モデルおよびコーディングテクノロジーなどの新テクノロジーにおけるブレイクスルーが必要になります。

2つ目に、ストレージ性能の劇的な改善が必要になります。ストレージシステムのデータアクセス帯域がTBからPBへと増加するに連れ、またアクセスレイテンシーがミリ秒からマイクロ秒に抑えられるに連れ、今日の100倍の性能密度が求められるようになります。フォン・ノイマンアーキテクチャでは、データはCPU、メモリ、ストレージメディアの間で転送される必要があります。現状のPCIeとDDR帯域幅は、ネットワーク性能の拡張に追いついていけなくなります。この性能の壁を乗り越えるには、フォン・ノイマンアーキテクチャを超越し、CPUセントリックなストレージから離れ、メモリおよびデータセントリックなストレージへと移行する必要があります。また、データ統合よりも、コンピューティング統合により注力する必要があります。

 
課題7:コンピューティングとセンシングを組み合わせ、ハイパーリアリティかつマルチモーダルな実体験を実現

7つ目の課題は、インテリジェントな世界に不可欠な、インスピレーションあふれるユーザーエクスペリエンスを生み出すことになります。こうしたハイパーリアリティは、2030には現実のものとなります。

ハイパーリアリティ・エクスペリエンスはバーチャルな世界がシームレスに物理世界と統合され、またバーチャルな世界が複合現実に存在するユーザーの意図を理解し物理世界を正確に認識および再現することで達成されます。

人と無数のエッジデバイスの間でマルチモーダル・インタラクションを実現するには、聴覚、視覚、触覚、嗅覚のすべてが統合される必要があります。

この目標の達成には、統合されたユーザー環境がスーパーコンピューターのように機能する必要があります。マルチモーダルセンサーはユーザーの緯度を認識することに加え、言語、触覚、光の認識、神経伝達、その他のタイプの情報を収集し伝達することになります。肉眼3D、ホログラム投影、ARコンタクトレンズ、デジタル嗅覚、デジタル触覚のような技術により、こうした情報をユーザーに届けられるようになるでしょう。

 
課題8:より積極的な健康管理のための継続的自己管理を可能に

高齢化する世界人口は、増加する慢性疾患に直面することになります。

現在、慢性疾患が死亡原因の85%に上っています。効率的に慢性病に向き合うことには、リアルタイムのモニタリングが必要になります。そのため、非侵襲的な血中グルコースの観察、継続的な血圧および心電図観察が可能な医療グレードのウェアラブルが求められます。

例えば、光センサーは脈波計より正確な脈拍計測ができます。血圧のモデリングおよびアルゴリズムにおいても、より高い品質を実現できます。

クラウドサービスとAIテクノロジーに基づき、積極的な健康管理を実現する全体的な個人の健康に関するビッグデータプラットフォームの構築を目指していきます。

ブレイン・コンピュータ・インターフェース、sEMGインターフェース、ウェアラブルロボットを活用し、高齢者が積極的に自己健康管理を行えるようにしていきます。
 

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会社概要

華為技術日本株式会社

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業種
情報通信
本社所在地
東京都千代田区大手町1-5-1 大手町ファーストスクエアウエストタワー12F
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03-6266-8008
代表者名
侯涛
上場
未上場
資本金
-
設立
2005年11月