建設業の"紙・FAX・Excel"はなぜなくならないのか ── 資材リース業の現場から見えた構造的課題と、AI業務OS「BuildOS」の挑戦

株式会社Leach(本社:東京都、代表取締役CEO:冨永拓也、以下「当社」)は、資材リース業向けAI業務システム「BuildOS(ビルドオーエス)」の開発にあたり、建設資材リース会社への現場取材を実施してまいりました。
本稿では、取材を通じて明らかになった業務実態と、デジタル化が進まない構造的背景、そしてBuildOSが目指す解決の方向性についてお伝えします。
複数画面を同時に開き、手作業で転記する日常

ある建設資材リース会社の事務所を訪ねたとき、まず目に飛び込んできたのはモニターの数だった。
事務スタッフのデスクには、在庫管理・単価表・現場情報・取引履歴など複数のタブが常時開かれている。必要な情報をその都度探しては手動で確認し、別の画面に転記していく。この作業が一日中、途切れることなく続く。
「単価ひとつ確認するのにも、画面を行ったり来たりしなければならない。慣れた人間ならスムーズにこなせますが、新しく入った社員が一人前になるまで相当な時間がかかります」
このリース会社では、ゼネコンや工事会社など複数の取引先と日々膨大な入出庫のやり取りが発生し、全国各地の現場を管理している。部門も複数に分かれ、それぞれの担当者が締め日ごとに伝票の最終チェックを行っている。
最も負荷が高いのは在庫の照合や処理にまつわる確認作業だと、現場の担当者は口を揃える。膨大な取引データの中から相違点を一つひとつ洗い出し、金額や数量の整合性を手作業で検証していく。確認が終わったと思っても、後から差異が見つかれば一からやり直しになる。単純作業のように見えて、実は判断の連続だ。
事務作業の複雑さには、資材リース業ならではの事情もある。仮設資材は売って終わりではなく、貸し出してから返却されるまでの期間をすべて追跡しなければならない。出庫日、返却日、日数計算、破損の有無、紛失時の処理。工事の進捗によって返却時期が前後し、現場統合で管理先が変わることもある。こうした変動要素が重なることで、管理の手間は掛け算的に膨らんでいく。
属人化という静かなリスク

取材で繰り返し聞こえてきたのが「属人化」という言葉だった。
ある処理の判断はこの人にしかできない。別の業務はあの人でなければ回らない。判断工程が多い業務ほど特定の個人に集中し、教育や引き継ぎが極めて難しくなっている。
なぜ属人化が進むのか。背景にあるのは、取引先ごとに異なる商慣行と例外処理の多さだ。同じ「入庫」という作業でも、取引先によって単価体系や計算方法が違う。ある取引先では日割り計算、別の取引先では月単位。値引き処理のルール、特殊な資材の扱い方、過去のトラブルに由来する確認手順──こうした暗黙知は、マニュアルに書き切れるものではない。
「将来的に拠点を増やしたいという構想はあるんです。でも今の業務のやり方では、人を増やしても回らない。仕組みそのものを変えないと、展開は難しい」
経営層からは、この属人化が事業拡大の最大のボトルネックになっているとの危機感が示された。ある担当者が体調を崩したり異動したりすれば、その瞬間から業務が滞る。暗黙知に依存した運用は、組織にとってサイレントなリスクであり続けている。
属人化の根は深い。仮に業務マニュアルを整備したとしても、例外パターンが多すぎてマニュアルが追いつかない。ベテラン社員に聞けばすぐわかることが、文書化しようとすると途方もない作業量になる。結果として「聞いた方が早い」文化が定着し、属人化はますます強固になっていく。
建設業のデジタル化を阻む3つの壁

こうした課題は取材先に限った話ではない。建設業界全体に根深い構造的背景がある。
壁1:現場主義という物理的制約
建設業の仕事の中心は「現場」にある。屋外で重機を操作し、資材を運び、高所で作業する。手袋をはめた状態でタッチパネルを操作するのは容易ではないし、粉塵や雨にさらされる環境に精密機器を持ち込むこと自体がリスクになる。
結果として、現場では紙の伝票が合理的な選択肢であり続けている。手書きなら手袋をしたままでも記入でき、電源も通信環境も不要だ。ビルの地下や山間部の工事現場では、そもそも通信が安定しないことも珍しくない。どれだけ優れたクラウドシステムであっても、電波が届かなければ使えない。紙の伝票が現場で生き残っているのは、単なる古い慣習ではなく、物理環境への適応の結果だ。この事実を無視して「紙を廃止してデジタルに移行せよ」と号令をかけても、現場は動かない。過去のデジタル化の試みが頓挫した多くのケースで、この現場の合理性が見落とされていた。
壁2:重層下請け構造
建設業界には、発注者から元請け(ゼネコン)、一次・二次・三次下請けと何層にもわたる企業が関与する独特の産業構造がある。国土交通省の調査によれば、下請け階層は平均で3〜4次に及ぶ。大型プロジェクトになると5次以上に達するケースも珍しくない。
各階層の企業の規模やITリテラシーには大きな開きがある。元請けのゼネコンが最新のクラウドシステムを導入しても、末端の零細企業ではPCが1台あるかどうかという状況だ。
「元請けさんがシステムを変えるたびに、こちらも対応しなければなりません。A社はこのシステム、B社はあのシステム、C社はいまだにFAX。結局すべてに対応できるのは、紙とFAXなんですよ」
1社だけがデジタル化しても、取引先がアナログを続ける限り、結局は併用を強いられる。これが業界全体に「合成の誤謬」を生んでいる。個々の企業が合理的に判断した結果、業界全体としてはデジタル化が進まないという構造的な矛盾だ。資材リース会社はこの重層構造のなかで、上から下まであらゆる階層の企業と取引をしている。だからこそ、フォーマットの混在と対応の煩雑さが集中する。
壁3:フォーマットの非標準性
取材先のリース会社では、取引先ごとに異なる伝票フォーマットを使い分けていた。出来高報告書、安全書類、注文書、請求書──法令で記載項目は定められていても、レイアウトや記入方法に統一規格はない。
当社が複数の資材リース会社を対象に実施したインタビュー調査でも、多種多様なフォーマットの注文書が毎日大量に届く企業ほど、業務負荷への課題意識が強いことが確認された。逆に、受領するフォーマットが少ない企業や、取引先に自社フォーマットを強制できる立場の企業では、課題意識は薄い。
フォーマットの乱立は単なる非効率にとどまらない。企業間のデータ受け渡しに手作業の転記が不可欠となり、ミスの温床になっている。あるフォーマットでは「数量」と書かれている項目が、別のフォーマットでは「個数」だったり「本数」だったりする。人間であれば文脈で同じものだと判断できるが、従来のOCRやデータ変換ツールでは対応しきれない。この「人間にしかできない読解」が、転記作業を自動化できなかった根本的な原因だ。
2024年問題が突きつけた猶予なき現実

構造的課題に加え、建設業界は外部環境からも変革を迫られている。
2024年4月、建設業にも時間外労働の上限規制が適用された。年間720時間の残業上限が厳格に運用されることで、「人海戦術」と「長時間労働」に依存したやり方は法的にも許されなくなった。
国土交通省のデータによれば、建設業の年間総実労働時間は全産業平均を約80時間上回る。特に事務部門では、締め日前後の請求照合業務が長時間労働の大きな要因になっていることが、取材先でも確認された。
「現場の労働時間管理は進んできました。けれど事務所の人間の残業が減らない。伝票処理、請求書との照合、取引先への確認──この作業をどうにかしないと、うちは回らなくなります」
人手不足も深刻だ。建設業就業者の高齢化は他産業と比べて顕著に進んでおり、若手の入職者数は減少傾向が続いている。国土交通省の推計によれば、2025年には建設技能労働者が約90万人不足するとされていた。現場だけでなく、事務職についても「採用しても定着しない」という声が取材先から聞かれた。業務の複雑さと覚えるべきことの多さが、新人の負担になっている。仕組みを変えないまま人を入れ替え続けるやり方には、いずれ限界が来る。
こうした状況は、建設資材リース業にとっても他人事ではない。現場の人手が減れば工期は延び、資材の出庫・返却サイクルが乱れる。予定通りに返却されない資材の追跡、計画変更に伴う伝票の修正、延長料金の再計算──現場の人手不足が、回り回ってリース会社の事務負荷を押し上げている。
残業を減らすために業務を効率化したいが、効率化のための仕組みを構築する時間すら確保できない。この悪循環を断ち切るには、既存の業務フローの延長線上ではなく、業務の設計そのものを見直す必要がある。
資材リース業 ── 建設業務の「結節点」

BuildOSの開発チームが資材リース業に注目した理由は明確だ。
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建設業界の「結節点」に位置している:リース会社はゼネコン、下請け会社、資材メーカーなど多様なプレイヤーと日常的に取引を行うため、この結節点をデジタル化すれば周辺への波及効果が大きい。リース会社が発行する伝票や帳票は、取引先の事務処理にもそのまま影響する。リース会社の業務が変われば、取引先の受け取り方も変わる。一社の変革が、サプライチェーン全体に波及する可能性がある立ち位置だ。
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業務サイクルが比較的パターン化されている:「入庫→出庫→帳票管理→請求照合」という基本構造は、取引先や資材の種類が変わっても共通する。AIによる自動化の効果が出やすい領域だ。
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事務負荷が業界内でも特に高い:取材先で実際の業務データを見せていただいたが、管理項目は数十に及び、締め日ごとに未計上案件の確認と差額の追跡が発生していた。
「締め日前後の数日間は、事務所の雰囲気がガラッと変わります。全員が黙々と伝票と請求書を見比べている。差異があれば最初からやり直し。この期間は、他の業務が完全にストップするんです」
この締め日の風景は、取材した複数のリース会社でほぼ共通していた。業態が同じであれば、抱える課題も共通する。個社ごとにカスタマイズしたシステムではなく、業態に最適化された共通基盤として機能するAI業務OSが求められている理由がここにある。
興味深いのは、リース会社自身がこの課題を強く認識していることだ。取材先の経営層は、現行の業務を「属人的で非効率」と率直に評価し、デジタル化なしには事業の成長が見込めないと明言していた。課題認識はある。変革の意思もある。足りなかったのは、建設資材リースという業態に本当に合ったツールだった。
現場の声から見えた「あるべき姿」

取材を重ねるなかで、リース会社が共通して求めていたのは、次のような業務の姿だった。
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現場で発生した入出庫の情報が、手作業の転記を経ずに事務側のシステムへ連携される
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届いた注文書や伝票の内容が自動で読み取られ、人が確認・承認するだけで処理が進む
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案件ごとの処理状況が一元管理され、誰が見ても進捗がわかる
共通していたのは、「人間の判断そのものをなくしたいのではなく、判断に至るまでの準備作業を減らしたい」という考え方だった。情報の収集、転記、突き合わせ、差異の洗い出し──こうした準備作業に業務時間の大半を費やしている現状を変えたい。判断を下すべきポイントだけに集中できる環境を整えたい、と。
「導入ありきではなく、現場負担軽減と業務品質安定を軸にしたい。システムを入れることが目的になってはいけないんです」
この言葉が、BuildOSの設計思想の出発点になっている。全自動化でも、単なるデジタル化でもない。人間が確認すべきところは人間が見る。ただし、そこに至るまでの膨大な下ごしらえをAIに任せる。この「人間中心のAI活用」が、BuildOSの根底にある思想だ。
なぜ既存のソリューションでは解決できなかったのか

建設業界向けのITツールがまったく存在しないわけではない。施工管理アプリ、帳票作成ソフト、クラウド型の受発注システムなど、さまざまな製品が市場に出ている。
それでも資材リース業の課題が解消されてこなかったのは、これらのツールが「建設現場の管理」を主な対象としていたからだ。施工写真の共有、図面管理、安全書類の電子化──いずれも現場の施工管理者が使うことを前提に設計されている。
一方で、資材リース会社の事務担当者が日々格闘しているのは、入出庫データの照合、請求書の突き合わせ、複数フォーマットの変換といった「バックオフィス寄り」の業務だ。施工管理ツールの守備範囲からは外れている。かといって、一般的なERPでは建設業特有の商慣行(日割り計算、現場単位の管理、資材の出戻りなど)に対応しきれない。
もう一つの問題は、既存ツールの多くが「業務の一部」しかカバーしていない点だ。OCRで伝票を読み取るツール、在庫管理に特化したソフト、請求書作成ツール──それぞれは便利でも、ツール間のデータ連携は手動で行う必要がある。結果として、ツールを増やしても手作業が減らないという本末転倒な状況が生まれてしまう。
資材リース業は、施工管理とバックオフィスの狭間に落ちてしまっていた領域だ。建設現場向けのツールでもなく、汎用的なバックオフィスツールでもない。業態そのものを理解した専用の仕組みが必要だった。BuildOSは、この空白地帯を埋めるために設計されている。
BuildOSのアプローチ

BuildOSは、現場取材から得られた課題に対し、AI技術を活用して解決するために設計されている。
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フォーマットの差異をAIが吸収する。 取引先ごとに異なる伝票・請求書のフォーマットを自動認識し、構造化データに変換する。人間にしかできなかった「伝票を読んで理解する」作業を、AIが代替する。
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請求照合の負荷を大幅に軽減する。 入庫・出庫データと取引先の請求書データを自動で突き合わせ、相違がある箇所にフラグを立てる。担当者は差異のある案件だけを確認すればよい。
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業務全体をひとつのプラットフォームで連携する。 入庫管理、出庫管理、帳票管理、請求照合が分断されず、データが一貫して流れる仕組みをつくる。
重要なのは、これらの機能が個別のツールとしてではなく、ひとつの「業務OS」として統合されている点だ。既存のアプローチでは、OCRツール、在庫管理ソフト、請求管理ソフトをそれぞれ導入し、間をExcelで繋ぐことが多い。それでは結局、ツールとツールの間に手作業が残る。BuildOSは、その「間」をなくすことを設計の根幹に据えている。
加えて、データが一箇所に蓄積されることで、業務そのものが学習素材に変わる。どの取引先との照合で差異が発生しやすいか。どの時期に処理が滞りやすいか。どの資材カテゴリで計算ミスが起きやすいか。こうした傾向をシステムが自動的に把握し、担当者に注意喚起することで、ミスの予防と業務品質の底上げにつなげる。属人化していた判断のノウハウが、組織全体の資産として蓄積されていく仕組みだ。
なぜ「今」AIなのか
建設業界におけるデジタル化の試みは、過去にも繰り返されてきた。EDI(電子データ交換)やOCR(光学文字認識)は何十年も前から存在する技術だ。それでも普及しなかった。
転機となったのは、生成AI技術の急速な進歩だ。従来のOCRは、テンプレートを事前に登録し、決まった位置から決まった項目を読み取る方式が主流だった。フォーマットが変われば設定をやり直す必要があり、取引先ごとに異なる書式を扱う資材リース業には適合しなかった。
生成AIは、フォーマットを事前に定義しなくても、文書の構造と文脈を理解してデータを抽出できる。「数量」「個数」「本数」が同じ意味だと判断し、手書き文字の癖を読み取り、建設資材の品名体系を理解する。人間のベテラン事務員が行っていた「読解」に近い処理が、技術的に可能になりつつある。
この技術の成熟が、BuildOSが「今」取り組む意味を裏付けている。
さらに、AIの処理コストも急速に下がっている。数年前であれば大企業しか手が出せなかった技術が、中小規模のリース会社でも実用的なコストで利用できる水準に近づきつつある。技術的に可能になっただけでなく、経済的にも現実的な選択肢になったことが、今このタイミングで業界特化型のAI業務OSを立ち上げる根拠だ。
「紙をなくす」のではなく「紙に頼らなくてよい世界」を

開発チームが取材を通じて確信したのは、建設業のデジタル化の目的は「紙を一掃する」ことではない、ということだ。
現場で手書き伝票が使われるのには合理性がある。手袋のまま記入できる。電源不要。誰でも使える。紙には紙なりの強みがある。
大切なのは、紙で発生した情報が事務所に届いた瞬間から先を、デジタルで処理できる世界をつくることだ。現場の作業者にデバイスやアプリの習得を強いるのではなく、現場と事務所の「境界」にAIを配置し、アナログからデジタルへの変換を自動で行う。
建設業のDXが掛け声だけに終わってきた背景には、「現場を変えようとした」ことがある。変えるべきは現場ではなく、現場と事務所をつなぐ仕組みの方だ。
建設資材リース業は、年間数千億円規模の市場を形成し、建設業の生産活動を下支えしている。仮設足場、型枠、建設機械──これらの資材がなければ工事は始まらない。にもかかわらず、この業界のバックオフィスは長らくデジタル化の死角に置かれてきた。
株式会社Leachは、この「境界のAI」というアプローチで、まず資材リース業の業務自動化を実現し、そこを起点に建設業界全体のデジタル変革を推進してまいります。
BuildOS お問い合わせ・デモ依頼受付中
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会社概要

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会社名 |
株式会社Leach |
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代表者 |
代表取締役CEO 冨永拓也 |
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設立 |
2024年11月 |
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所在地 |
東京都港区 |
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事業内容 |
業界特化型AI業務OS「BuildOS」の開発・提供 |
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