空港検疫、バイオテロ対策向け高感度病原体検出法を開発

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
長浜バイオ大学バイオサイエンス学部


~5分で感染直後の微量ウイルス等の有無を診断~【産技助成Vol.41】
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【新規発表事項】
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部 長谷川 慎氏らは、新興・再興感染症(注1)対策に活用できる高感度検出法を開発しました。病原体(ウイルス等)が含まれる測定対象に病原体と強く結合する蛍光試薬を加え、紫外域のレーザー光を当てるだけで、蛍光分子(注2)の溶液内での動きの違いからウイルスやバクテリア・原虫のような病原性粒子を一粒子レベルで計数する超高感度な検出技術です。現在、発展途上国を中心に感染症が蔓延し、温暖化に伴う気候変動やグローバル化した経済活動が大規模な感染症の拡大をもたらしている主要因の一つと指摘されています。感染症の拡大を抑えるためには素早い公衆衛生対策が不可欠となりますが、現在主流の簡易検査法(免疫クロマト法(注3))は検出感度が低いため、ウイルス感染直後(ウイルス量の少ない時期)の検出が難しいことが課題となっていました。今回開発した一粒子検査法の検出感度は免疫クロマト法に比べて100倍高く、微量のウイルス検体でも見逃すことなく診断できます。診断時間も5分程度まで短縮されました(免疫クロマト法は約30分)。空港検疫所における高病原性新型インフルエンザウイルス(注4)等の新興・再興感染症の防疫対策、バイオテロ対策、感染症治療薬の開発のためのスクリーニング等への応用が期待されます。

(注1)最近約20年間に新たに認識された、あるいは再流行し出した感染症に対する総称のこと。病原体としては、エイズやエボラ出血熱などがある。例えば、2003年頃に重症急性呼吸器症候群(SARS)が突発的かつ一過的に流行し、死亡率の高さから大きな社会不安をもたらした。
(注2)光(励起光)を分子に照射すると分子が励起光より長い波長の光を放出することがある。この現象を蛍光と呼び、蛍光を出す分子のことを蛍光分子という。
(注3)着色粒子で標識した抗体とウイルスが結合した抗原抗体複合体を含む試料を試験紙に吸い込ませ、その中を移動する際に直線状に固定された別の抗体に集中的に捕捉されることで現れる色付きのラインの有無によって定性分析する方法。
(注4)今後、H5N1型トリインフルエンザウイルスから変異して発生すると予想されているヒト-ヒト感染が可能な変異ウイルスのこと。これまでに経験したことのない亜型であるため、ヒトの中に当該ウイルスに対する免疫は存在しない。しかも高病原性で極めて伝染性が高いため、致死的なウイルスとなる危険性が非常に高いものと考えられている。


1.研究背景
発展途上国を中心に、エイズ、デング熱や熱帯マラリアといった感染症の大規模な感染拡大が国際的問題となっています。本邦においても麻疹の全国規模での流行や養鶏場でのトリインフルエンザの突発的発生が社会問題となり、隣国のSARS(重症急性呼吸器症候群)に対する危機意識の高まりは記憶に新しいところです。その主要因として、温暖化に伴う気候変動やグローバル化した経済活動がこれまで流行地域の限定されていた感染症の感染範囲の著しい拡大をもたらしていることが指摘されています。感染症を克服するためには、治療薬の開発と素早い公衆衛生上の対策を講じることは勿論、迅速な診断法を確立し、早期治療と感染の拡大防止に役立てることが不可欠です。とりわけ、海外で発生した感染症の伝播を水際で止める防疫検査では、現場で直ぐに診断できる検査手法が望まれています。現在特に危惧されているのが高病原性インフルエンザウイルスのパンデミック(大規模流行)です。対策としてタミフルなどウイルス増殖阻害薬が備えられつつありますが、その治療効果は体内ウイルス量が低いほど高いとされています。このことは、ウイルス感染直後(ウイルス量の少ない時期)の診断こそが非常に重要であるにもかかわらず、現行の検出感度の低い簡易検査法(免疫クロマト法)では十分に検出できないという危険性を示唆しています。本課題の解決のためには、インフルエンザウイルスのみならず、様々な病原体粒子を短時間で高感度に検出する新しい検出手法の確立が重要かつ急務であり、これにより公衆衛生に関わる現状の多くの問題点を解決するものと考えています。


2.競合技術への強み
長浜バイオ大学バイオサイエンス学部は、滋賀県工業技術総合センターなどと共同で「一粒子検出法」と名づけた病原体検出原理を開発(注5)し、それを応用した検査機器を試作を開始しました。一粒子検出法は、蛍光分子の溶液内での動きを非常に細いレーザー光で観察するため、蛍光物質を付着させたウイルスやバクテリア・原虫のような病原性粒子を一粒子レベルで計数することが可能です。これまでにインフルエンザウイルスの高感度検出に成功しています。開発した一粒子検出法の特徴は以下の通りです。
①ウイルス検出感度は現行の簡易検査手法(免疫クロマト法)に比べて100倍高く、検出までに数日から一週間掛かるこれまでの精密検査手法(培養法、PCR法(注6))と同等の検出精度を実現。
②診断時間は約5分で、臨床で実際に用いられている従来の免疫クロマト法より6倍早い。
③検出プロセスが簡便で人的ミスが少ない。
・試料溶液に光を照射するだけで目的物を検知可能であり、分離・濃縮等の特別な操作が不要。
・病原体に特異的に吸着する蛍光試薬を加えるだけで測定可能。
・病原体一粒子から検出可能。従来の検査手法(培養法、PCR法等)で行われる増幅反応不要。

(注5)一粒子検出法の原理は、当初、(財)滋賀県産業支援プラザ「滋賀県提案公募型新技術開発事業」の支援を受けて、滋賀県内研究機関・企業の共同研究の一環で見いだされました。
(注6)Polymerase Chain Reactionの略。ゲノムDNAなどを鋳型にして、増幅したい領域の両端に相補的なプライマー(注7)と耐熱性DNAポリメラーゼ(注8)を用いてサイクル反応を行うことにより、目的とするDNA領域を増幅する方法。
(注7)DNAポリメラーゼがDNA を合成する際に反応の開始点と終了点を決める役割をもつ短い核酸の断片のこと。
(注8)1本鎖の核酸を鋳型としてそれに相補的な塩基配列を持つDNA鎖を合成する酵素の総称。


3.今後の展望
前述の特徴を活かし、以下の応用を中心とした用途展開を考えています。
(1)防疫
空港検疫所などで海外からの感染を水際で防止するために、旅行者の喉や鼻腔の粘膜試料、場合によっては唾液などからその場で感染の有無を判定することができます。特に、新型インフルエンザの水際での上陸防止対策など、新興・再興感染症の拡大阻止に対する強力なツールを提供します。
(2)研究支援
感染症治療薬の開発のためのスクリーニング系にも適しています。本技術は、高感度・迅速性・定量性に優位性があります。従来技術としてはELISA法などが利用されてきましたが、これら望まれる性能をすべてを満たしているわけではありません。創薬研究には、特に感度・定量性をさらに高めた高性能型機器を提供したいと考えています。
(3)臨床検査
検体は微量で良いため、患者の負担を低減させることができます。本技術は測定機器が必要であるという欠点があるものの、病原体粒子を増幅なしに検出できるという特徴から、将来的には測定機器のコストダウンを図り、現在従来法(培養法等)によるウイルスの増幅が困難で直接検出技術と定量法が必要とされている病原体(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、ノロウイルス)に対する適用を考えています。

また、この他にもウイルス一粒子検出技術に関連した手法として、食中毒の原因物質を特定したり、遺伝子診断の効率を高めるための技術開発を同時に行っており、幅広い応用展開を考えています。


4.その他
(1)研究者の略歴
1993年 大阪大学理学部化学科卒業、1999年 大阪大学大学院理学研究科有機化学専攻修了(博士(理学))、1999年4月~2003年3月 東京工業大学フロンティア創造共同研究センター研究員(NEDOフェロー)、2003年4月~ 長浜バイオ大学 専任講師


5.参考
・技術提案資料(http://10.61.110.40/itd/teian/info/201008/index.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。
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