環境対応型、シンプルな加水分解触媒の開発に成功
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
岡山大学・大学院自然科学研究科
-工業廃水ゼロ、低炭素社会指向の新しい工業プロセス実現へ-
【産技助成Vol.42】
岡山大学・大学院自然科学研究科
-工業廃水ゼロ、低炭素社会指向の新しい工業プロセス実現へ-
【産技助成Vol.42】
【新規発表事項】
岡山大学大学院自然科学研究科(岡山県岡山市)の講師、押木俊之氏らは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、新しい錯体触媒法によるシンプルな加水分解プロセスを開発し、アミド類(注1)を製造する際の工業廃水をゼロにする新規製造法の開発に成功しました。
現行のアミド類製造法は、銅触媒法、酵素法など、反応物や生成物の種類に応じ様々な手法がありますが、共通の重要課題は、大量の水を必要とすることです。その為、工業廃水が大量に排出されます。今回の開発により、加水分解時の工業廃水をゼロにした、省エネルギー型の革新的コンパクトプロセスの実現が見込まれます。
加水分解はアミド類の製造以外にも、あらゆる産業・用途で用いられており、バイオマス資源利活用などの環境・エネルギー対応の新技術にも欠かすことの出来ないプロセスです。
2008年10月28日~29日に東京ビッグサイトで開催されるオルガテクノ2008にブース出展し、触媒性能の詳細と新たな触媒系を初めて発表する予定です。
(注1)アミド類は紙力増強剤、凝集剤であるアクリルアミドやビタミンB3構成成分であるニコチンアミドなど工業的に重要な化学品です。
1.背景及び研究概要
低炭素社会の実現に向けて、製造工程から環境に配慮していく必要があります。例えば、紙力増強剤、凝集剤であるアクリルアミドを製造する場合、現在はアクリロニトリルを銅触媒法や酵素法により加水分解して製造しています。この際、アクリロニトリルに対してモル比で1:100以上の大量の水を必要とするため、工業廃水が生じるとともに、生成物の水溶液濃縮工程における熱エネルギー損失があります。さらにアクリルアミドは50%水溶液製造物として次工程に搬送されるため、輸送効率を下げています。このような廃水や搬送に関する環境負荷は、世界が直面する水環境問題や温室効果ガス削減の観点からも、今後無視し得ない重要な課題となります。
今回開発した新しい錯体触媒法は、従来の触媒的な加水分解法と全く異なり、アミドの原料となるニトリルに対してモル比で1:1(注2)の水、すなわち「最小限の水」で加水分解反応が進行するため、「廃水ゼロ」を実現し、目的とするアミドのみが高選択的に得られます。さらに、中性条件下で有機溶媒を用いることなく無溶媒で反応が進行する利点があります。今回の開発は、中性条件下で水を活性化し、金属中心でニトリルを活性化する2元機能型錯体触媒というコア技術を基にしております。
(注2)モル比とは、分子の数に対応する物質量(単位はモル)の比のこと。モル比1:1の場合とは、ニトリルの分子数と水の分子数が一致するということになる。
2.競合技術への強み
今回開発した「新触媒による錯体触媒法」には、以下の特徴があります。
①環境対応:
水が全てアミド生成に費やされるため、廃水が全く生じません。生成物の濃度が高いことは、生成物の輸送効率の向上にも貢献します。
②コンパクト:
無溶媒でアミド類を得ることができます。したがって単位生産量あたりの反応器の体積を格段に小さくすることができ、非常にコンパクトな製造設備にすることが可能です。
③容易な入手性:
新手法では、ルテニウムやイリジウム錯体を用います。これらの貴金属錯体は酵素法で使用する酵素に比べ容易に入手可能です。
④高スループット:
耐熱性が高い(180℃付近まで)ので、反応温度を高く設定することにより、反応速度を格段に上げることができます。従って、単位時間あたりの生産量を増大できます。
3.今後の展望
加水分解とは、反応物と水が反応し生成物を与える、古典的でありながら、現在においても重要な工業プロセスであり、あらゆる産業・用途で用いられております。バイオマス資源利活用、液体バイオ燃料製造といった環境対応新技術の発展にも欠かすことのできないキーテクノロジーです。
今後は新しい環境対応型工業プロセス実現へ向け、さらなる高活性化を図るとともに、この新規加水分解法をアミド類製造以外にも適用する研究を本格的に進めます。
2008年10月28日~29日に東京ビッグサイトで開催されるオルガテクノ2008、続いて11月7日に岡山大学で開催される岡山大学知恵の見本市2008にブース出展し、触媒性能の詳細と新たな触媒系を初めて発表する予定です。
4.その他
(1)研究者の略歴
1991年 千葉大学大学院理学研究科修了 理学修士、1998年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了 博士(理学)、1998年 岡山大学大学院自然科学研究科助手として着任、2002年より講師。
(2)受賞
2006年1月 岡山県産業振興財団 岡山リサーチパーク研究展示発表会 奨励賞 「超高活性ニトリル水和触媒の開発」
2006年3月 日本化学会 第11回技術進歩賞 「ルテニウム錯体触媒を用いた1,4-ブタンジオールの脱水素環化反応によるγ-ブチロラクトンの製造技術の開発」
5.参考
・詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081010_nr.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。
岡山大学大学院自然科学研究科(岡山県岡山市)の講師、押木俊之氏らは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、新しい錯体触媒法によるシンプルな加水分解プロセスを開発し、アミド類(注1)を製造する際の工業廃水をゼロにする新規製造法の開発に成功しました。
現行のアミド類製造法は、銅触媒法、酵素法など、反応物や生成物の種類に応じ様々な手法がありますが、共通の重要課題は、大量の水を必要とすることです。その為、工業廃水が大量に排出されます。今回の開発により、加水分解時の工業廃水をゼロにした、省エネルギー型の革新的コンパクトプロセスの実現が見込まれます。
加水分解はアミド類の製造以外にも、あらゆる産業・用途で用いられており、バイオマス資源利活用などの環境・エネルギー対応の新技術にも欠かすことの出来ないプロセスです。
2008年10月28日~29日に東京ビッグサイトで開催されるオルガテクノ2008にブース出展し、触媒性能の詳細と新たな触媒系を初めて発表する予定です。
(注1)アミド類は紙力増強剤、凝集剤であるアクリルアミドやビタミンB3構成成分であるニコチンアミドなど工業的に重要な化学品です。
1.背景及び研究概要
低炭素社会の実現に向けて、製造工程から環境に配慮していく必要があります。例えば、紙力増強剤、凝集剤であるアクリルアミドを製造する場合、現在はアクリロニトリルを銅触媒法や酵素法により加水分解して製造しています。この際、アクリロニトリルに対してモル比で1:100以上の大量の水を必要とするため、工業廃水が生じるとともに、生成物の水溶液濃縮工程における熱エネルギー損失があります。さらにアクリルアミドは50%水溶液製造物として次工程に搬送されるため、輸送効率を下げています。このような廃水や搬送に関する環境負荷は、世界が直面する水環境問題や温室効果ガス削減の観点からも、今後無視し得ない重要な課題となります。
今回開発した新しい錯体触媒法は、従来の触媒的な加水分解法と全く異なり、アミドの原料となるニトリルに対してモル比で1:1(注2)の水、すなわち「最小限の水」で加水分解反応が進行するため、「廃水ゼロ」を実現し、目的とするアミドのみが高選択的に得られます。さらに、中性条件下で有機溶媒を用いることなく無溶媒で反応が進行する利点があります。今回の開発は、中性条件下で水を活性化し、金属中心でニトリルを活性化する2元機能型錯体触媒というコア技術を基にしております。
(注2)モル比とは、分子の数に対応する物質量(単位はモル)の比のこと。モル比1:1の場合とは、ニトリルの分子数と水の分子数が一致するということになる。
2.競合技術への強み
今回開発した「新触媒による錯体触媒法」には、以下の特徴があります。
①環境対応:
水が全てアミド生成に費やされるため、廃水が全く生じません。生成物の濃度が高いことは、生成物の輸送効率の向上にも貢献します。
②コンパクト:
無溶媒でアミド類を得ることができます。したがって単位生産量あたりの反応器の体積を格段に小さくすることができ、非常にコンパクトな製造設備にすることが可能です。
③容易な入手性:
新手法では、ルテニウムやイリジウム錯体を用います。これらの貴金属錯体は酵素法で使用する酵素に比べ容易に入手可能です。
④高スループット:
耐熱性が高い(180℃付近まで)ので、反応温度を高く設定することにより、反応速度を格段に上げることができます。従って、単位時間あたりの生産量を増大できます。
3.今後の展望
加水分解とは、反応物と水が反応し生成物を与える、古典的でありながら、現在においても重要な工業プロセスであり、あらゆる産業・用途で用いられております。バイオマス資源利活用、液体バイオ燃料製造といった環境対応新技術の発展にも欠かすことのできないキーテクノロジーです。
今後は新しい環境対応型工業プロセス実現へ向け、さらなる高活性化を図るとともに、この新規加水分解法をアミド類製造以外にも適用する研究を本格的に進めます。
2008年10月28日~29日に東京ビッグサイトで開催されるオルガテクノ2008、続いて11月7日に岡山大学で開催される岡山大学知恵の見本市2008にブース出展し、触媒性能の詳細と新たな触媒系を初めて発表する予定です。
4.その他
(1)研究者の略歴
1991年 千葉大学大学院理学研究科修了 理学修士、1998年 大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了 博士(理学)、1998年 岡山大学大学院自然科学研究科助手として着任、2002年より講師。
(2)受賞
2006年1月 岡山県産業振興財団 岡山リサーチパーク研究展示発表会 奨励賞 「超高活性ニトリル水和触媒の開発」
2006年3月 日本化学会 第11回技術進歩賞 「ルテニウム錯体触媒を用いた1,4-ブタンジオールの脱水素環化反応によるγ-ブチロラクトンの製造技術の開発」
5.参考
・詳細説明資料(PPT)掲載サイト(http://venturewatch.jp/privacy/20081010_nr.html)
※詳細説明資料(PPT)についてはNEDO技術開発機構より業務委託しているテクノアソシエーツの運営管理する「技術&事業インキュベーション・フォーラム」の問い合わせフォームからダウンロードすることができます。
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