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学校法人東京理科大学
会社概要

細胞増殖促進因子ポリアミンが抗体の産生量とその糖鎖修飾に関わることを発見

~抗体の安定した生産と品質管理につながる新知見~

東京理科大学

【研究の要旨とポイント】

  • 抗体医薬品の糖鎖構造は、産生細胞であるチャイニーズハムスター卵巣 (CHO)細胞の状態や培養条件等によって、変化することが問題となっています。

  • 抗IL-8抗体を産生するCHO DP-12細胞をモデル細胞として用い、細胞内ポリアミン量を減少させた結果、抗体産生量が約30%減少し、糖鎖のガラクトシル化が亢進しました。

  • 細胞内のポリアミンが枯渇した細胞に外からポリアミンを添加した結果、抗体産生量の回復とガラクトシル化が抑制されました。

  • ポリアミン添加は、抗体医薬品の安定生産に有用である可能性が示されました。


図. 本研究の概要。CHO細胞のポリアミン量を減少させる実験およびポリアミン欠乏細胞にポリアミンを添加する実験を行った結果、ポリアミンが抗体産生量と糖鎖構造の維持に重要な役割を果たすことが明らかになった。


【研究の概要】

東京理科大学薬学部薬学科の東恭平准教授、米野雅大助教、東京理科大学大学大学院薬学研究科薬科学専攻の宮嶋倫氏(修士課程2年)らの研究グループは、抗体医薬品の有効性や安全性、薬物動態に大きな影響を与える抗体の糖鎖修飾が、産生細胞内のポリアミン量によって影響を受けることを見出しました。


近年、がんや自己免疫疾患など様々な疾患に対して、多くの抗体医薬品が開発・承認されています。抗体のFc領域(*1)には、297番目のアスパラギン残基に糖鎖(N-結合型糖鎖)が付加しており、抗体の糖鎖は、構造によって抗体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)(*2)活性、および補体依存性傷害(CDC)(*3)活性が異なる他、安定性や機能、輸送、免疫原性(*4)等にも関与することが知られています。特に、糖鎖のガラクトシル化はADCC活性に影響を及ぼすことから、抗体生産時における糖鎖修飾の制御が、抗体医薬品の有効性・安全性確保に不可欠となっています。しかしながら、糖鎖構造は、抗体を産生する細胞の状態や培養条件など様々な要因によって変化します。そのため、糖鎖構造の厳密な制御が困難であることが、製造コストを押し上げる原因の一つとされています。


ポリアミンは、ウイルスからヒトに至るまで普遍的に含まれ、翻訳制御などを介して細胞内の様々な機能を調節する物質です。細胞に含まれるポリアミン濃度は細胞の状態細胞に応じて変化することが分かっています。例えば、増殖が活発な細胞ではポリアミン濃度は高く、老化した生体組織や増殖が遅い細胞では低いことが分かっています。そこで本研究では、モノクローナル抗体(*5)の生産に広く用いられるCHO細胞(*6)を用いて、抗体糖鎖に対するポリアミンの影響を調べました。ポリアミン生合成阻害剤を添加して培養し、細胞内ポリアミン量を減少させた結果、抗体産生量が約30%減少し、糖鎖のガラクトシル化が亢進しました。さらにポリアミンが欠乏した細胞にポリアミンの一種であるスペルミジンを添加すると、抗体産生量の回復とガラクトシル化の亢進が抑えられました。この結果は、抗体の安定した生産と品質管理に寄与する成果であると考えられます。


本研究成果は、2023年11月8日に国際学術誌「Journal of Biotechnology」にオンライン掲載されました。


【研究の背景】

N-結合型糖鎖は、抗体のFc領域の297番目のアスパラギン残基の側鎖にN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合し、そこにさらにGlcNAcやマンノース、フコース、ガラクトースなどの中性糖が結合したものです。結合した糖の種類や数によって、糖鎖は複雑多様な構造をとり、それに応じた異なる生物活性を示します。特に、N-結合型糖鎖のガラクトースは、ADCC活性、およびCDC活性に影響を及ぼすことが分かっています。


ポリアミンには、代表的なものとして二価アミンのプトレシン(PUT)、三価アミンのスペルミジン(SPD)、四価アミンのスペルミン(SPM)があり、これらは細胞内では前駆物資であるオルニチンからPUT、SPD、SPMの順に合成されます。本研究で用いたCHO細胞は、アルギニンからオルニチンを合成するためのアルギナーゼ活性を失っているため、無血清培地で培養した場合にはこれらポリアミンを生合成できません。そのため、無血清培地でCHO細胞を長期間培養すると、細胞増殖速度や生存率が低下することが報告されています。本研究グループは、細胞の状態によって変化する糖鎖構造とポリアミンの性質に着目し、その関係を調べることにしました。


【研究結果の詳細】

まず、ヒト抗IL-8抗体(ヒトIgG1)を産生するCHO DP-12細胞 (以下、CHO細胞)を用いて、ウシ胎児血清(FBS)濃度を通常の10%から0.5%にまで下げたAdvanced DMEM培地 (以下、低血清培地)で培養しました。低血清培地で培養したCHO細胞に含まれるポリアミンを高速液体クロマトグラフィー (HPLC)で測定すると、通常検出されるPUT、SPDの代わりに、二価アミンのカダベリン(CAD)、三価アミンのアミノプロピルカダベリン(APC)が検出されました。CHO細胞ではアルギナーゼ活性が欠如しているため、低血清培地では細胞内でアルギニンからPUTの前駆物質であるオルニチンが枯渇し、結果としてオルニチン脱炭酸酵素はオルニチンの代わりにリジンを脱炭酸することでCADが生合成されたと考えられます。またCHO細胞は、培養期間が長くなると生存率が低下しますが、それに伴い細胞内CAD量も著しく減少しました。


そこで、研究グループは 1)ポリアミン生合成阻害剤であるα-ジフルオロメチルオルニチン(DFMO)を添加したもの(DFMO処理細胞)、2)DFMOと同時にSPDを添加したもの(DFMO+SPD処理細胞)、3)何も添加しなかったもの(非処理細胞)で、細胞増殖を比較しました。すると、DFMO処理細胞では、細胞増殖が停止しました。一方、DFMO+SPD処理細胞では、そのような増殖停止は認められませんでした。そこで、HPLCを用いてこれら細胞に含まれるポリアミン量を調べました。その結果、DFMO処理細胞では、非処理細胞に比べて有意にCADとAPC量が減少していました。驚いたことに、DFMO+SPD処理細胞では、SPDが細胞内に取り込まれたことでSPDが検出されましたが、CADとAPCの代わりにPUTが検出され、10%FBS添加培地で培養した場合と同様のポリアミンプロファイルを示しました。


次に、各細胞から産生された抗IL-8抗体を精製し、濃度を測定しました。その結果、DFMO処理細胞では、非処理細胞およびDFMO+SPD処理細胞と比べて、抗体産生量が約30%減少していました。また、アフィニティークロマトグラフィーを用いて、抗体付加糖鎖に含まれるガラクトースの割合を調べました。その結果、DFMO処理細胞ではガラクトースの割合が増加していることがわかりました。このような組成変化は、DFMO+SPD処理細胞では認められませんでした。


抗体糖鎖のガラクトシル化は、β-1,4-ガラクトース転移酵素によって制御されます。そこで、各細胞におけるβ-1,4-ガラクトース転移酵素 (B4GALT)1〜4のmRNA量を、定量PCRを用いて調べました。その結果、DFMO処理細胞では、B4GALT1 のみmRNA量が増加していました。この結果より、細胞内ポリアミン量が減少するとB4GALT1 mRNAの発現量が増加し、結果として糖鎖のガラクトシル化が亢進することが考えられました。


さらに、ポリアミン欠乏によって誘導される、ガラクトシル化亢進メカニズムを解明するため、小胞体ストレス(*7)に注目しました。小胞体ストレスに関連するBiP、CNX、CRT、ERp57、ERp72、CyPB、UGGTの発現量、および翻訳開始因子eIF2αのリン酸化をウェスタンブロッティング法により調べました。その結果、DFMO処理細胞ではBiP、CNX、CRT、ERp57、CyPBの発現量が増加していました。この結果は、ポリアミン欠乏が小胞体ストレス応答を引き起こしたことを示唆しています。次に、小胞体ストレス誘導剤ツニカマイシンを用いて、B4GALT1〜4の発現に与える影響を調べました。その結果、ツニカマイシン処理により、B4GALT1 mRNA量が増加していることが確認できました。


以上の結果から、CHO細胞においてポリアミン欠乏によって生じた小胞体ストレスが抗体産生量を低下すると同時に、B4GALT1 mRNAの発現を誘導し、抗体糖鎖のガラクトシル化を亢進することが考えられました。このことから、CHO細胞培養時に無血清培地へのポリアミン、特にSPDの添加は、安定した抗体産生と品質管理に寄与すると考えられます。


本研究成果について、東准教授は「本研究は、抗体医薬品の安定的な生産に資するものであり、ひいては薬価の低減につながると期待されます」と述べ、本研究の今後の発展に期待を寄せています。


※本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業基盤研究(C)(18K06652)の助成を受けて実施したものです。


【用語】

*1 Fc領域

抗体の重鎖定常領域。抗体は、Fab領域で抗原と結合し、Fc領域で免疫細胞や補体と結合する。


*2 抗体依存性傷害(ADCC, Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity)

がん細胞や病原体などの抗原に抗体が結合すると、その抗体のFc領域を認識する免疫細胞が呼び寄せられ、抗体が結合しているがん細胞や病原体を傷害する。


*3 補体依存性傷害(CDC, Complement Dependent Cytotoxicity)

がん細胞や病原体などの抗原に抗体が結合すると、その抗体のFc領域に補体が結合し、一連の反応を引き起こして、抗体が結合しているがん細胞や病原体を傷害する。


*4 免疫原性

投与された抗体医薬品自体が抗原としてみなされ、体内で免疫反応を引き起こしてしまうこと。


*5 モノクローナル抗体

1種類の抗原を認識する単一な抗体で、人工的に大量生産される。


*6 CHO(Chinese Hamster Ovary)細胞

チャイニーズハムスターの卵巣から得られた細胞。人工的なタンパク質合成に広く用いられる。


*7 小胞体ストレス

タンパク質合成過程上の不具合により、小胞体内に異常な立体構造や修飾をもつタンパク質が蓄積した状態。


【論文情報】

雑誌名:Journal of Biotechnology

論文タイトル:Intracellular polyamine depletion induces N-linked galactosylation of the monoclonal antibody produced by CHO DP-12 cells

著者:Rin Miyajima, Hitomi Manaka, Tatsuya Honda, Noritaka Hashii, Masato Suzuki, Masahiro Komeno, Koichi Takao, Akiko Ishii-Watabe, Kazuei Igarashi, Toshihiko Toida, Kyohei Higashi

DOI:10.1016/j.jbiotec.2023.10.008

URL:https://doi.org/10.1016/j.jbiotec.2023.10.008

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