2040年問題を前に急がれる「就職氷河期世代」の就労・処遇改善。森 詩恵 教授(社会政策)が、支援から零れてきた「非正規シングル女性」の自立支援を提唱社会保障リテラシー獲得プログラム開発に取り組む

学校法人大阪経済大学

政府は、2025年4月より「就職氷河期世代等支援のための関係閣僚会議」※1)を立ち上げ、就労・処遇改善にむけた議論を進めています。バブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代にかけて就職活動を行った「就職氷河期世代」が、41歳から55歳の中高年に突入しました。なかでも、新卒就職率が6割を切った1999年から2003年卒は初職から非正規雇用となった人も多く正規雇用化が難しい傾向があります。

また少子化のもと女性の労働参加は、社会的な課題となっています。森詩恵教授は、「就職氷河期世代」が多数を占める、これまで社会の支援から零れ落ちてきた「非正規雇用」の「シングル女性」へ焦点を当てた研究を続けています。

▼労働力不足が顕著になる「2040年問題」。就職氷河期世代の非正規から無期雇用転換は緊急課題。

団塊ジュニアが高齢期を迎え、労働力不足が決定的となる「2040年問題」。政府は、これを見据えて「全世代型社会保障」を打ち出していますが、「就職氷河期世代」の非正規労働者がこのまま高齢期を迎えると、税・社会保障財政を圧迫することが懸念され、その対策が急がれます。特に女性の労働参加は社会全体の必須課題です。

しかし現在、非正規雇用女性の所得水準は正規雇用に比べ依然として低く、「同一労働同一賃金」の実現には至っていません。また、就職時が厳しい経済状況であったために、未就労や不安定就労を余儀なくされた就職氷河期世代の非正規労働者を取り巻く環境は今でも厳しい状況です。

▼非正規化とシングル化が同時に進行する日本。家族単位の性別役割分業を土台とした社会保障の見直しを。

未婚率は年々進行していますが、依然として「女性はいずれ結婚して、誰かと生活をともにすれば生活は安定する」という固定概念は、個人にも行政にも根強く残っています。森教授は、女性の「非正規化」と「シングル化」が同時進行する現代社会において、家族単位の性別役割分業モデルに基づいた現行の社会保障制度は改善が必要と考えています。 

40・50代になると、シングルであっても生活リスクは本人の問題だけではなく、親の介護を担う可能性も高くなります。また学校や福祉と繋がりやすいシングルマザーに比べ、子どものいないシングル女性の貧困は見落とされがちです。

▼非正規シングル女性の過半数が、「自ら望んで非正規を選択」「このまま非正規でよい」と回答。

森教授らが2020年と2024年に実施したアンケート調査※2)によると、非正規雇用シングル女性の6割以上が「自ら望んで非正規雇用を選択した」、また「雇用期間の定めがある」と回答した人のうち、半数以上が「正規への変更を希望しない」と答えており、正社員として厳しい労働環境を受け入れて働くより非正規の方が都合が良い、と考えている傾向が浮かび上がってきました。

さらにアパレル、秘書、教員、サービス業など様々な業種の非正規雇用シングル女性に対して行ったグループインタビューでは、それぞれ非正規雇用に対する認識に違いがあり、「無期転換ができることを知らなかった」「ネットの情報から先のリアルな支援へのつながり方が分からない」との声も上がりました。また、「悩んでいるのは一人ではない、ということを感じた」「危機感を持つ必要がある」という声もあり、社会保障制度の知識獲得への意欲も見られました。

▼社会保障リテラシー獲得プログラムを開発し、全国の男女共同参画センターと連携したセミナーを展開。

森教授は、金融・投資教育だけでなく、社会保障制度の基礎知識、働き方・生活リスクへの意識改善、そしてこれらを踏まえたライフプランを考える「社会保障リテラシー獲得」が急務と考えています。そこで森教授らは、非正規シングル女性や男女共同参画センターへの調査をもとに個々の実情やニーズに沿った“ワンステージアップ”を目指し、情報へのアクセス、支援機関や同じ悩みを持つ人との繋がりを構築する「社会保障リテラシー」獲得プログラムの開発に取り組んでいます。2025年度より男女共同参画センターと連携したプログラムの施行をスタートしています。

参考データ

※1)就職氷河期世代等支援に関する関係閣僚会議

新たな就職氷河期世代等支援プログラムの基本的な枠組み(令和7年6月3日決定)

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/kankeikakuryokaigi/pdf/20250613_siryou2.pdf

※2)大阪経済大論集・第73巻第2号・2022年7月

『非正規シングル女性の労働・生活状況と「社会保障リテラシー」~「2020年度非正規シングル女性実態調査」をもとに~』 

https://www.jstage.jst.go.jp/article/keidaironshu/73/2/73_83/_pdf

●内閣官房 就職氷河期世代支援等

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/index.html

●(公財)横浜市男女共同参画推進協会「非正規勤務のシングル女性の仕事と暮らし応援サイト」

https://www.hiseiki-singlewomen.info/

大阪経済大学 経済学部 経済学科 教授 森 詩恵 (もり うたえ) プロフィール

    

ttps://webj8.osaka-ue.ac.jp/ouehp/KgApp?resId=S000077 https://u-mori-lab.com/

1972年生まれ、大阪府出身。2001~2005年 松山東雲大学講師、2005年~大阪経済大学経済学部 講師、准教授を経て、2014年~教授、2019~21年経済学部長、2022~24年副学長。2025年~経済学研究科長を務める。専門は、社会政策。高齢者介護保障政策研究、非正規シングル女性の労働・生活支援、「社会保障リテ ラシー」獲得支援研究。

【論文】

・「非正規シングル女性の労働・生活状況と「社会保障リテラシー」『大阪経大論集』第73巻第2号(2022年)

・「介護保険制度における「介護の社会化」と家族介護」『大原社会問題研究所雑誌』No.771(2023年)

・「就業状況からみたシングル介護者の介護・生活状況とその支援課題」『経済学研究』第10巻第2号(2023年)

・「制度改正からみる介護保険制度の肥大化とその課題」『社会政策』第16巻4号、ミネルヴァ書房(2025年) 

【著書】

・『現代日本の介護保険改革』法律文化社(2008年 単著)

・『社会政策入門ーこれからの生活・労働・福祉』法律文化社(2024年 共著)

【所属学会】

・社会政策学会

・日本労務学会

・日本社会福祉学会

・日本地域福祉学

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▼本件に関するお問い合わせ先
大阪経済大学 企画・総務部 広報課
住所:大阪府大阪市東淀川区大隅2-2-8
TEL:06-6328-2431
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上場
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資本金
-
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1932年09月