ノイズの多い環境でも安定動作する量子ビットの高精度制御技術を実証

マイクロ波の連続照射と位相制御で実現、主要国際誌 npj Quantum Informationに掲載

株式会社 日立製作所

 日立は、国立大学法人東京科学大学(Science Tokyo、以下Science Tokyo)との共同研究を通じて、これまで開発を進めてきた*1シリコンを使った量子ビット(量子コンピュータの計算単位)に対し、マイクロ波の連続照射とその位相制御を組み合わせた新しい制御方式を開発しました。量子状態を保てる時間を長くするとともに、量子計算に必要な基本操作を狙い通りに行える精度(ゲート忠実度)を高め、半導体産業で一般的に使われているノイズの影響を受けやすいシリコン材料においても、ゲート忠実度99.1%を実証しました。なお、本成果は量子情報科学分野の主要国際誌「npj Quantum Information」に掲載されました*2。

 一般的に使われているシリコンでは、材料中に含まれるごく微量な29Si同位体*3に由来するノイズの影響で量子状態が乱れやすいことが課題でしたが、本技術は、量子ビット操作用のマイクロ波の波形を工夫してノイズの影響を受けにくい状態を作り、安定した量子操作を可能にします。さらに、量子ビットを多数集積する際に課題となる量子ビットの特性ばらつきに対しても、本開発技術によって、個別の細かなチューニングが不要となり制御負荷を低減できる可能性があります。

 本成果は、将来の大規模量子コンピュータ開発に向けた重要な一歩です。日立は今後も、Science Tokyoや国立研究開発法人理化学研究所(以下、理研)をはじめとする国内外のパートナーと連携し、2027年のシリコン量子コンピュータのクラウド公開に向けた開発を加速します。量子技術の社会実装を通じて、持続可能な社会基盤構築と産業変革に貢献していきます。

*1 日立、量子コンピュータの実用化に向けて量子ビットの寿命を100倍以上長く安定化させる操作技術を開発:2024年6月17日

  日立、シリコン量子コンピュータの大規模化と安定動作を可能にする新制御技術を開発 - 研究開発:2025年10月8日

*2 T. Kuno, et al. "Robust spin qubit control in a natural Si MOS quantum dot using phase modulation" npj Quantum Information 12, 39 (2026).

*3 同位体: 同じ元素でも、中性子の数が異なることで原子の重さが異なる種類をさす。シリコンでは28Si、29Si、30Siが存在。

■背景および課題

 量子コンピュータの実用化に向けては、量子ビットを多数集積し、安定して動作させる技術が重要です。シリコンを使った量子ビットは、既存の半導体製造プロセスを利用できることから、大規模化に適した方式として注目されています。一方で、一般的なシリコン材料には微量な29Si同位体が含まれており、これがノイズとなって量子状態が乱れやすく、量子ビットの状態を保てる時間が短くなることが課題でした。29Si同位体を減らした専用のシリコン材料を用いる方法が検討されてきましたが、材料調達や量産性の観点で課題が残ります。

 これまで日立では、連続的にマイクロ波を照射しノイズ耐性を向上するConcatenated Continuous Drive (CCD)技術を研究してきました。今回、さらにマイクロ波の位相を制御することで、一般的なシリコン材料でも量子状態を長く保ち、安定した量子操作ができることを示しました。

■開発した技術の特長

 本技術では、量子ビットにマイクロ波を連続的に照射し、ノイズの影響を受けにくい状態(ドレスト状態)を作ります。さらに、マイクロ波の位相を時間的に変調して制御を重ねることで、より安定した状態(二重ドレスト状態)を形成します。この「連続照射+位相変調」により、外部からのノイズの影響が平均化されて誤差が蓄積しにくくなります。その結果、29Si同位体由来のノイズに加え、マイクロ波強度のわずかな変動といった制御系のノイズの影響も受けにくくなり、量子状態を長く安定して保てます(図1)。加えて、位相変調を精密に制御することで、量子計算に必要な基本操作を高い精度(ゲート忠実度)で実行できることを確認しました。

図1 量子ビット制御の比較
(a) 従来:一般的なシリコン材料ではノイズの影響で量子状態が乱れやすい。
(b) 本手法:マイクロ波の連続照射と位相制御により量子状態を安定化する。

■確認した効果

 本方式の有効性を評価した結果、以下を確認しました。

 (1) 量子状態保持時間の大幅な向上

   Ramsey測定によるコヒーレンス時間*4は0.14µsから40.7µsへと約280倍に向上。

 (2) 高品質なスピン制御の実現

   スピン回転の安定性を示すQ値*5が2.2から25.0に向上。

   環境ノイズに左右されない高品質な量子操作が実現できることを確認しました。

 (3) 高忠実度な量子操作の達成

   単一量子ビットのゲート忠実度を95%から99.1%に向上しました。

 本技術は産業用途で一般的に使われているシリコン材料で量子ビットを高精度に制御できるため、量産性やスケール化の観点でも大きな利点があります。また、外部からのノイズやデバイス間ばらつきへの耐性が高いことから、量子ビットを多数集積する際に不可避な制御ばらつきを吸収できる特長を持ちます。これにより、将来の大規模シリコン量子コンピュータの基盤技術として強く期待されます。

*4 Ramsey測定によるコヒーレンス時間: 量子状態がどれだけ安定に保たれるかを評価する測定手法。ここで得られるコヒーレンス時間が長いほど、量子ビットを高精度に制御しやすくなる。

*5 Q値: 量子ビットの操作がどれだけ安定して続くかを示す指標。値が大きいほど、より多くの操作を安定して行えることを意味する。

■今後の展望

 日立は、将来のより複雑な社会課題の解決と新たな価値の創出をめざし、「NEXT」領域の研究開発を推進しています。量子分野では、理研をはじめとする国内外のパートナーと連携し、技術の社会実装を進めます。特に、2027年のシリコン量子コンピュータのクラウド公開に向けて、産学官連携や国際標準化を推進し、社会や産業の課題解決に向けた活用を広げます。日立は、量子技術を通じて持続可能な社会基盤の構築と産業変革に貢献していきます。

■謝辞

 本研究は、ムーンショット型研究開発事業 目標6「2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現(プログラムディレクター: 北川勝浩)」の研究開発プロジェクト「大規模集積シリコン量子コンピュータの研究開発(プロジェクトマネージャー: 水野弘之)グラント番号 JPMJMS2065」による助成を受けて行われました。また、本結果の一部は、国立研究開発法人理化学研究所、日立ケンブリッジラボ、国立大学法人東京大学との共同研究の結果得られたものです。

■関連情報

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■照会先

 株式会社日立製作所 研究開発グループ
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株式会社 日立製作所

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情報通信
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東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
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代表者名
德永 俊昭
上場
東証プライム
資本金
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設立
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