FIFワークショップ2013「イノベーションで日本を強く」開催
第2回 米国における3D革命
【開催概要】
講演者: 一橋大学特任教授・資源エネルギーPJディレクター、電気通信大学客員教授 安藤晴彦
テーマ: 米国における3D革命
日 時: 2013年9月10日(火) 18:00~20:10
会 場: フューチャーアーキテクト株式会社 会議室
【講義概要】
パーソナル3次元プリンタの登場で「新産業革命」が起きるという。誰でも自らのアイデアを容易に具現化できるので、これまで技術力でモノづくりを牽引してきた日本の危機感は強まっている。先進的取組が行われる米国の現状を知り、“モノづくり復活の切り札”として日本が勝ち抜く戦略を検証する。
◆『MAKERS』が提起する新産業革命の胎動
オバマ大統領は、年初の演説で、3Dプリンタを活用し、次のモノづくり革命は“Made in America”にすると高らかに宣言した。お膝元のシカゴ公共図書館やファイエットビル自由図書館はすでに3Dプリンタを置き、誰でも自由に触れて試せる。鍵となる3Dデザイン能力を幼少期から強化するため、小中学校の教育課程への導入も検討され、数年内に全教室に導入されるかもしれない。日本では一部の大企業や専門学校等しか導入していない。日本は3Dプリンタの技術開発だけでなく、3Dデザイン能力をもっと磨く必要がある。
「新産業革命」到来を告げるクリス・アンダーソンの話題書『MAKERS』は、興味深いベンチャーを多く取り上げている。自ら創業したオープンソースハードウェア企業、クラウド型軍用車開発、3D設計データ提供サイトの事例やアイデアや夢の実現を支援するクラウドファンディングを紹介している。「キックスターター」では約5万のアイデアに500万人が800億円を投じている。前金制なのでリスクフリーでユニークなプロジェクトが急速に立ち上がる。「クラゲ鑑賞器」が目標30万円のところ1,000万円以上集め、「スマートウォッチ」には10億円、約9万個の先行予約が入り、ソニー製品を凌駕したという。「クアーキ」は商品化まで支援する。「スクエア」はスマホ活用型の決済革命を狙う。すでにスタバ、VISA、三井住友、ローソンが提携した。受講者のビジネス、たとえば地銀・信金、食品、物販でも経営革新に大いに活用できるだろう。第三次産業革命の胎動にいち早く気づいたものが次のチャンピオンになる。
◆3D革命の歴史と壁
3Dの潮流は、今に始まったことではない。1960年代に航空機産業で2次元CADが生まれ、コンピュータの進化とともに80年代に3D化された。74年に初のパーソナルコンピュータが生まれ、95年に初の実用パーソナルプリンタが生まれ、ついに昨年パーソナル3Dプリンタが躍進した。まだ樹脂が高価で、インクで儲けるプリンタビジネスそのものだが、今後のイノベーションと進化を考えると、個人のデスクトップにモノづくりプリンタが乗る日は近い。
日本でも3Dで世界制覇したベンチャー企業がある。旧インクスだ。3Dで携帯電話用精密金型を短納期で作り、あっという間に席巻した。フリーター活用で3D設計を行い、紙の図面は一切省いた。徹底したモジュール化活用企業だ。破竹の勢いだったが、より大型の自動車分野に進出し、つまずいた。ここに3Dの限界と課題が隠されている。組み合わせ型のモジュラーの領域では快進撃可能だが、すり合わせ領域では、一工夫も二工夫も必要となる。
◆アーキテクチャ戦略
80年代にモノづくり日本に負けた米国は「仕組み」を考え抜き「ルール」を変えた。それが「モジュール化戦略」だ。乗用車の「テイスト」を出すには、2~3万点もの部品をすべて調整する「すり合わせ」が必須だ。日本の自動車産業は、すり合わせ型のチャンピオンで、今でも強い競争力を保つ。これに対し、ICTを活用して、組み合わせによる多様でスピーディなイノベーションの連鎖で打ち負かすというのがモジュール化戦略である。シリコンバレーの成功がそうだし、韓国、中国も気づいている。選択と集中が重要で、日本企業のような自前主義・社内一貫型では「モジュール化時代における技術革新の超常的なスピードに追い付くことは難しい」と見抜かれている。
◆日本の戦略私論:二正面作戦
日本企業には、モジュール化とすり合わせの二正面アーキテクチャ戦略が必要だと思う。
モジュール化戦略を活用し成功する日本企業は確かにある。時価総額2兆円超のコマツは、その名も「モジュラー・マイニングシステム」というベンチャーを買収し、強烈な国際競争力を獲得した。トヨタも、対顧客ではすり合わせ型だが、異車種間で5割もの部品を共有化し、強烈な原価低減力を確保している。日産も遅ればせながらライバルに学び、今年から「日産CMF」つまりモジュール設計、共有化手法を融合させ、小型車から大型車・SUVまでモジュールの組み合わせを変えて効率よく設計する「クラスを越えた共用化」を目指すという。ちなみに日本の家電業界はモジュール化手法の取り込みでアジア企業に後れをとり、これが競争力喪失の隠れた原因となっている。
得意のすり合わせ型でもさらなるバージョンアップが必須だ。レアメタルのみならずベースメタルの資源枯渇の危機が静かに迫っている。日本の自動車・家電業界はすり合わせで原価低減を進めてきたが、資源負荷は低減どころかむしろ増えている。サプライヤー側にいくつもの代替案があっても、それが素直に出てこない状況で、強かったすり合わせ能力にも、年を取って「メタボ」現象が生じている。だからこそ、省資源型「すり合わせバージョン2.0」を目指さねばならない。マテリアルフローをよく分析すれば、資源負荷やCO2削減だけでなく、競争力向上ができる。その際に、「折り紙工学」が強い武器になる。実は、3Dプリンタと折り紙工学やすり合わせver.2.0は非常に相性が良いことに気づくだろう。
パーソナル3Dプリンタを契機とする新産業革命の胎動は、さまざまな企業に対して、ピンチと同時に大きな飛躍のチャンスをもたらす。グローバル・ネットワーク時代にぜひ勝ち抜いていただきたい。
【本ワークショップに関するお問い合わせ】FIF事務局 T E L:03‐5740‐5817
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