世界初、光渦の輻射力が創るシリコンニードルとその形成過程の可視化に成功
新しい表面加工技術の提案
- 研究の背景 ~レーザーによるシリコン表面加工の課題~
- 研究成果 ~世界初のシリコンニードル発見~
実験には、近赤外の光渦(波長1 mm、パルス幅20 ps、エネルギー 0.2 mJ-1.6 mJ)を用いました。使用した試料は単結晶シリコン基板です。基板にできたシリコンニードルは、電子顕微鏡を用いて観察しました(図1:シリコンニードル(照射エネルギー0.6 mJ/pulse、照射パルス数12 ))。
ニードルの高さは 40 マイクロメートル(1マイクロメートルは10-6メートル)を超えます。また、電子線回折法とラマン分光法によって、できあがったシリコンニードルが単結晶であることを明らかにしました。
さらに、ニードルができるまでのプロセスを超高速度カメラで捉え可視化することにも成功しました(図2:シリコンニードルの形成プロセス。200 ns毎フレームの時間で撮影した。レーザー照射から800 ns経過後、ニードル先端からシリコンの液滴が飛び出しはじめることが分かる。)。
光渦照射後、融解したシリコンが光渦の輻射力によって空孔に集められてシリコン基板に堆積することでニードルができあがります。光渦照射後からニードルができるまでの時間は、照射したレーザーのパルス幅(20ピコ秒=20×10-12秒)よりはるかに長い1-2マイクロ秒(10-6秒)でした。この長いプロセス時間がニードルを単結晶化する要因になります。
ニードルができる過程で余剰となったシリコンは光渦の輻射力の効果と表面張力波の効果によって粒径1-2マイクロメートルの液滴として「針の孔」を通すように直線的に指向性良く飛翔します(図2中の拡大図)。通常のレーザー照射では、このような指向性の良い液滴の飛翔運動は決して起こりません。
※ 本研究成果は、2016年2月24日(英国時間)Nature系学術誌Scientific Reportsにオンライン版で発行されます。
※ 論文タイトル:Picosecond optical vortex pulse illumination forms a monocrystalline silicon needle
- 今後の展開
また、光渦の輻射力を使うとシリコンの液滴を「針の孔」を通すように直線飛翔させることができますが、この技術は磁性体をはじめとする様々な機能性材料にも応用可能です。(図2参照) 微細な液滴を任意の場所に三次元的に飛翔させて構造体を創る、いわゆるプリンタブルエレクトロニクスの新しい技術としても極めて高いインパクトがあります。
- 用語解説
注2)アモルファス(非晶質) 周期的に原子が配列している結晶に対して、周期的な原子配列を持たない物質のこと。 代表例としてガラスなどが挙げられる。
注3)輻射力 光のエネルギーの流れに沿って物質に働く力を輻射力という。螺旋波面を持つ光渦の輻射力は、進行方向に沿った前方向の輻射力の他にドーナツ型強度分布に沿った周回方向の輻射力を持つ。周回方向の輻射力は、光渦の螺旋の巻き数を表すℓによって制御できる。
注4)光マニピュレーション レーザー光の放射圧を用いて非破壊・非接触に微粒子を捕捉および操作すること。医学生物分野で応用されている。
注5)モスアイ構造(蛾の目構造) 光に対する屈折率を連続的に変化させて反射光を抑制するために施された光の波長よりも短い周期を持つ構造体。太陽電池の表面に施される場合がある。 また、この構造体は水や空気の抵抗を抑制することもできるので飛行機や自動車などの外壁にも応用されている。
- 論文タイトル
(ピコ秒光渦パルス照射が形創る単結晶シリコンニードル)
- お問い合わせ先
尾松 孝茂(オマツ タカシゲ)
千葉大学 大学院融合科学研究科情報科学専攻 教授
Tel:043-290-3477 Fax:043-290-3477
E-mail:omatsu@faculty.chiba-u.jp
森田 隆二(モリタ リュウジ)
北海道大学大学院工学研究院 教授
Tel:011-706-6626 Fax:011-706-6626
E-mail:morita@eng.hokudai.ac.jp
- 関連リンク
千葉大学 尾松研究室 http://physics.tp.chiba-u.jp/~omatsu/
北海道大学 http://www.hokudai.ac.jp
北海道大学 森田研究室 http://iphys3-ap.eng.hokudai.ac.jp/
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