ごく少量のアレルゲンによるアレルギー性気道炎症の発症機序を解明

~ 皮膚感作と吸入抗原の酵素活性が気道炎症の原因となる ~

順天堂大学大学院医学研究科・アトピー疾患研究センターの高井敏朗 准教授らの研究グループは、アレルギーを引き起こすダニや花粉の抗原に含有されるプロテアーゼ活性(タンパク質分解酵素活性)が抗原感作*1成立後の気道炎症の発症に重要な役割を果たすことを明らかにしました。これは、プロテアーゼによって損傷された気道上皮から放出されるサイトカイン(IL-33) *2が抗原特異的T細胞*3に作用し、ごくわずかな吸入抗原量で発症に至る新たな機序によるものであり、アレルギーマーチ*4 などの予防や治療法の開発につながると期待されます。本研究成果は米国アレルギー・喘息・免疫学会発行の科学雑誌Journal of Allergy and Clinical Immunologyのオンライン版(日本時間2018年2月6日)で公開されました。
【本研究成果のポイント】
  • プロテアーゼ抗原経皮感作のモデルマウスは少量の抗原吸入で過敏に気道炎症を発症
  • 気道上皮でプロテアーゼ依存的に放出されるサイトカインIL-33が抗原特異的T細胞応答を相乗的に増強
  • プロテアーゼ刺激経路をターゲットとしたアレルギー発症(アレルギーマーチなど)の予防・治療戦略へ

【背景】
皮膚を介した抗原感作が起点となる喘息・鼻炎や食物アレルギーなどは、いわゆるアレルギーマーチに発展することがわかってきています。経皮抗原感作が成立した後の異所(呼吸器・消化管など)でのアレルギー性炎症の発症には、T細胞やIgE抗体などの獲得免疫系が関与すると考えられていますが、なぜごくわずかな量の抗原にT細胞が過敏に反応するのかはよくわかっていませんでした。そこで私たちの研究グループは、経皮感作後の最初の抗原吸入で気道上皮に何が起こっているのかを明らかにするため、実際の環境下で抗原が有する特性に着目して作用機序を調べました。

【内容】
私たちは、ダニ主要アレルゲンと構造が類似したパパイヤ由来のプロテアーゼ(パパイン:食肉加工に用いられ職業性アレルゲンとしても知られる)をモデル抗原として選択しました。これを重要な抗原感作ルートと考えられる皮膚に塗布して感作を成立させたマウスは、少量の抗原の吸入によって気道炎症を発症しました。この反応は吸入時の抗原のプロテアーゼ活性を失活させると起こらなかったことから、発症には抗原のプロテアーゼ活性を必要とすることが明らかになりました(図1)。

図1.少量の吸入抗原にプロテアーゼ活性がないと呼吸器アレルギーは発症しない図1.少量の吸入抗原にプロテアーゼ活性がないと呼吸器アレルギーは発症しない

その機序として、プロテアーゼは気道上皮のバリアを破壊して抗原捕捉を促進します。さらに、プロテアーゼによって損傷を受けた気道上皮からサイトカインであるインターロイキン33(IL-33)が放出されます。そして、その受容体を発現する2型ヘルパーT細胞(Th2)が気道に数多く浸潤し、T細胞受容体とIL-33受容体の同時刺激が相乗的にT細胞応答を増強していることがわかりました(図2) 。

図2.抗原のプロテアーゼ活性は最小量の抗原曝露によって呼吸器アレルギーを発症させる(その作用機序)図2.抗原のプロテアーゼ活性は最小量の抗原曝露によって呼吸器アレルギーを発症させる(その作用機序)

抗原感作が成立した後のアレルギー性炎症の発症にはT細胞やIgE受容体などの抗原の構造を認識する獲得免疫系が中心的に関与すると考えられてきました。しかしながら、感作成立後の発症は単に抗原構造の認識だけでなく、プロテアーゼ活性の刺激が共在することによって開始し、最小量の抗原吸入に対して過敏に炎症反応が誘発されることが、本研究結果から新たに明らかになりました。

【今後の展開】
本研究により、呼吸器アレルギーの発症において環境アレルゲンに含まれるプロテアーゼ活性が想定以上に重要であることが初めて示唆されました。最初の発症のきっかけは抗原構造だけでなくプロテアーゼ活性などの刺激が共在することが必要なため、プロテアーゼで刺激される生体内の経路の阻止は発症の予防や治療に繋がると考えられます。今後は、プロテアーゼ活性による上皮損傷やその下流の経路などを標的とし、経皮感作を起点としたアレルギーマーチ等に対する新しい予防・先制介入・治療戦略の策定に向けて研究を進めていきます。

【用語解説】
*1 感作
異物である外来の抗原が侵入するとこれを認識するT細胞や抗体が体内で生産されるようになります。この過程を感作と呼びます。感作の成立後に再び同じ抗原が侵入するとこれらのT細胞や抗体が反応して、アレルギーなどの免疫応答が誘導され、炎症などの症状が現れます(発症)。

*2 サイトカイン(IL-33)
サイトカインとは細胞から産生される生理活性タンパク質の総称で細胞間相互作用に関与します。IL-33はサイトカインの一種です。IL-33は上皮細胞や血管内皮細胞の核内に存在し、細胞障害によって短時間のうちに細胞外へ放出されます。プロテアーゼ刺激によっても放出されることが知られています。

*3 抗原特異的T細胞
抗原提示細胞は抗原タンパク質を細胞内で断片化し、それにより生じた抗原ペプチド断片を主要組織適合抗原(MHC)にはまり込んだ形で細胞膜上に提示します。この抗原ペプチド-MHCの複合体を特異的に認識するのが抗原特異的T細胞です。T細胞はヘルパーT細胞とキラーT細胞に分類されます。Th2 細胞(2型ヘルパーT細胞)とはヘルパーT細胞の亜群であり、IL-4, IL-5, IL-13などのいわゆるTh2サイトカインを産生します。IL-4, IL-5, IL-13はそれぞれIgE産生、好酸球増殖、粘液産生に関与しており、Th2 細胞はアレルギーにおいて重要な役割を担っています。

*4 アレルギーマーチ
アトピー素因のある人にアレルギー疾患が次々に発症することをアレルギーマーチと呼びます。典型的には、皮膚症状から始まり、消化器症状や気管支喘息・鼻炎へと進展します。近年、皮膚を介した抗原感作が起点であるとする説が有力になっています。

【原著論文】
雑誌名: Journal of Allergy and Clinical Immunology
タイトル: Airway inflammation after epicutaneous sensitization of mice requires protease activity of low-dose allergen inhalation
著者: Izumi Nishioka, Toshiro Takai, Natsuko Maruyama, Seiji Kamijo, Punyada Suchiva, Mayu Suzuki, Shinya Kunimine, Hirono Ochi, Sakiko Shimura, Katsuko Sudo, Hideoki Ogawa, Ko Okumura, Shigaku IkedaDoi:10.1016/j.jaci.2017.11.035

なお、本研究は順天堂大学大学院医学研究科アトピー疾患研究センター、皮膚科学講座との共同研究として、文部科学省科学研究費JSPS基盤研究(C) (JP25461711, JP26860759, JP17K10007)の支援を受け実施されました。
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