タックルする選手の頭の位置は頭頚部外傷発生頻度に大きく関わる

~ラグビーの試合映像の解析から~

順天堂大学大学院医学研究科 整形外科・運動器医学の金子和夫教授、川崎隆之准教授、祖父江省吾医員らの研究グループは、ラグビー競技においてタックルした選手の頭部位置が相手選手の進行方向を遮るように衝突した場合、脳振盪を含めた頭頚部の外傷発生頻度が約30倍高くなることを見いだしました。本調査結果は、他競技に比べて脳振盪の発生頻度が高いラグビーの指導者、コーチ、選手自身に広く認識されるべき内容であり、ラグビーにおける頭頚部外傷の減少や発生の予防に大きく貢献できるものと期待されます。本研究成果はイギリスのスポーツ医学雑誌「British Journal of Sports Medicine」で2017年11月21日に公開されました。 
【本研究成果のポイント】
  • タックルした選手の頭部位置が相手選手の進行方向を遮るように衝突した場合、脳振盪をはじめとした頭頚部外傷の発生頻度が30倍高いことを明らかにした
  • これまで推奨されてきたタックル技術の根拠を実証し、競技の指導者、コーチ、選手に対して有益な情報となる
  • 本研究の結果はラグビー競技だけでなく、アメリカンフットボールなどタックル動作を含むスポーツ全般に対して、頭頚部外傷の減少や予防に貢献できる

【背景】
ラグビー競技は他競技に比べ頭頚肩部外傷の多いスポーツです。以前はスクラムで脊髄損傷が多く発生していましたが、バイオメカニクス研究などをもとにルール改正が繰り返され、その発生数は大きく減少しました。一方、頭頚肩部外傷はタックラーに多く発生するとも報告されています。これまでマウスガード、ヘッドガード、肩パッドなどの防具が開発されてきましたが、それらの効果は一定の見解を得ていません。つまり自分自身のスキルによって自分を守らなければいけないということになります。
ワールドラグビーやニュージーランド、オーストラリアなどのラグビー強豪国の協会では、タックルする選手の頭部を相手選手の横もしくは後ろに位置するように推奨しています。これは相手選手の進行方向に頭が入ることによって受ける衝撃を避けるためです。しかし実際の現場では、タックルする選手の頭が相手選手の進行方向を遮るように位置するタックル(日本では逆ヘッドタックルと呼ばれる)が見られ、頭頚肩部外傷をする選手が多く見受けられます。
もう一つの代表的なコンタクトスポーツとして知られるアメリカンフットボールでも頭頂部から飛び込むタックルは禁止されていますが、依然として逆ヘッドタックルが一般的です。しかしながら近年頭頚部外傷への意識が高まり、ラグビー界で推奨されているタックル(アメリカンフットボールではHawk tackleと呼ばれる)に注目が集まってきています。
今回の疫学調査は、ラグビー競技においてコンタクト外傷が発生するタックルの特徴を明らかにすることを目的に、タックルする選手の頭部位置を分類し頭頚肩部外傷の発生頻度を調査しました。

【内容】
2015、2016年に行われた強豪大学ラグビー部2チームの試合をランダムに28試合抽出し、試合映像より全3970タックルを分析しました。まずタックルした選手の相手選手に対する頭部位置でタックルを2つに分類しました。1つは相手選手に対し、横もしくは後ろに位置するもの(ここでは便宜上、順ヘッドタックルと呼ぶ 図1A)、もう1つは相手選手の進行方向に位置するタックル(逆ヘッドタックル 図1B)です。そして各チームの外傷記録と照合し各タックルの外傷発生頻度を計算しました。

図1:A 順ヘッドタックル、B 逆ヘッドタックル図1:A 順ヘッドタックル、B 逆ヘッドタックル

その結果、全3970タックルのうち逆ヘッドタックルは317タックル(8.0%)を占め、その内、22タックルで頭頚部や肩関節の外傷*1が発生しました。一方の順ヘッドタックルは3653タックル(92.0%)中、10タックルで外傷が発生しました。外傷発生頻度として順ヘッドタックルを1000回行うと頭頚肩部外傷が2.7回発生するのに対し、逆ヘッドタックルは69.4回発生することになります。外傷別にみると逆ヘッドタックルにおける脳振盪、頚部外傷、バーナー症候群*2、鼻骨骨折の発生頻度は順ヘッドタックルと比較し20〜30倍も高いということがわかりました。(図2)

図2: タックルタイプによる外傷発生頻度図2: タックルタイプによる外傷発生頻度

さらに逆ヘッドタックルをした選手に対しアンケート調査を行った結果、61%の選手が、逆ヘッドタックルを回避することができたと回答しました。これら個々の原因、理由を紐解けば、今後逆ヘッドタックルに起因するコンタクト外傷を予防していくヒントになると考えています。

【今後の展開】
本研究により、逆ヘッドタックルは順ヘッドタックルと比較し、脳振盪を含む頭頚部外傷が多く発生することが明らかになりました。実際の現場において一部の競技者は、相手の推進力を阻止しやすいと考えて逆ヘッドタックルを意図的に行う場合もあるため、まずはこの結果をラグビー指導者、コーチ、選手に啓蒙していき、ラグビー競技における頭頚部外傷の減少や発生の予防につなげなければいけません。今後この逆ヘッドタックルをしてしまう状況、選手の考えなどをさらに詳細に分析し、具体的な予防策を提唱していかなければならないと考えております。
近年スポーツ競技で発生する脳振盪は、セカンドインパクト症候群*3や引退後の高次機能障害など、多くのリスクを伴うことが世界中で啓蒙されています。本結果は、ラグビー競技だけでなく、アメリカンフットボールなどタックル動作を含むスポーツ全般に対しても貢献できる可能性があります。

【用語解説】
*1 外傷: ここでいう外傷の定義は、ラグビーの競技中に受傷し、その後24時間以上練習、試合に参加できなかった怪我を指す。
*2 バーナー症候群: スポーツにおけるコンタクト外傷で、呼称は受傷時の電撃痛に由来する。首や肩を走行する末梢神経が損傷され、上肢の筋力低下や感覚異常が長期化することも多い。
*3 セカンドインパクト症候群: 脳振盪の後、再び頭部に衝撃を受けた際に生じる症状。脳に損傷が生じるリスクが高まる。

【原著論文】
論文タイトル

Tackler’s head position relative to the ball carrier is highly correlated with head and neck injuries in rugby

著者
Shogo Sobue, Takayuki Kawasaki, Yoshinori Hasegawa, Yuki Shiota, Chihiro Ota, Takeshi Yoneda, Shigeyuki Tahara, Nobukazu Maki, Takahiro Matsuura, Masahiro Sekiguchi, Yoshiaki Itoigawa, Tomohiko Tateishi, Kazuo Kaneko

掲載誌
British Journal of Sports Medicine
DOI:http://dx.doi.org/10.1136/bjsports-2017-098135
Accepted 30 October 2017Published online 21 November 2017
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