淡水のプランクトンも凍結防止のため 海の磯の香りの元になる双性イオンをつくり出す

国立大学法人熊本大学

・ロシアのバイカル湖にて、氷に覆われた湖で繁殖する植物プランクトンや化学物質を10年にわたり追跡し、本発見につながりました。
・氷の結晶の間隙や湖水で渦鞭毛藻の一種が繁殖します。この淡水プランクトンが海の磯の香りの元となる双性イオン化合物を細胞内に貯えることがわかりました。海洋プランクトンは塩水の浸透圧に対応するためこの化合物を作っていますが、浸透圧調節の必要がない淡水で生成が確認されたのは初めてです。
・淡水のプランクトンもこの成分を生成する能力を持ち、氷結した湖で繁殖する際、凍結防止のため自身の細胞内にこの硫黄を含む双性イオンを作りこんでいると考えられます。

【概要説明】

 熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)の戸田敬教授ならびにロシア科学アカデミー陸水学研究所の研究グループは、バイカル湖でのフィールド調査を10年間実施し、氷に覆われた湖で繁殖する植物プランクトンが、凍結防止のため、硫黄原子を含む双性イオンをつくり出していることを発見しました。この双性イオン(dimethylsulfoniopropionate: DMSP※4)は、海洋プランクトンが塩水の浸透圧に対応するためにつくる化合物として知られており、その分解物は磯の香りの成分として一般の方にも馴染み深いものです。浸透圧調節の必要が無く、かつ硫黄原子を供給する硫酸イオンが海水の1/500しかないバイカル湖でこの化合物が検出される、しかもその濃度が海水以上になるのは驚くべきことです。淡水のプランクトンもDMSPを生成する能力を遺伝的に持っており、氷の中や0℃の水の中で生きるためこの双性イオンを利用していることが判明しました。
本研究成果は、令和5年11月25日(日本時間)、Springer Natureが発行する科学雑誌「Communications Biology」に掲載されました。


【今後の展開】 

 DMSPは淡水のバイカル湖でも氷結時に繁殖するプランクトンにとって重要な化学物質であることが判明しました。バイカル湖だけでなく、高緯度帯にある数多くの湖沼や、高山に残る雪渓、ならびに氷河に繁殖するプランクトンにとっても、氷点付近で生存するための重要な化学物質であることが予想されます。様々な自然環境における凍結防止機能の存在を明らかにしていくとともに、培養実験によるDMSP生成要因の定量化など実験室レベルの研究が待たれます。また、どうしてこのような防御機構を持つようになったか、遺伝的な解明にも発展していくと考えられます。
本成果は化学、生物学、陸水学、海洋学、雪氷学など広い科学分野と関連し、多様な発展が期待されます。


【論文情報】

論文名:Abundant production of dimethylsulfoniopropionate as a cryoprotectant by freshwater phytoplanktonic dinoflagellates in ice-covered Lake Baikal
著者:Kei Toda、 Vladimir Obolkin、 Shin-Ichi Ohira、 Kentaro Saeki
掲載誌:Communications Biology, 6, no.1194 (2023)
doi: 10.1038/s42003-023-05573-9


【お問い合わせ先】

熊本大学大学院先端科学研究部(理学系)

担当: 教授 戸田 敬

電話: 096-342-3389

e-mail:todakei※kumamoto-u.ac.jp(※を@に置き換えてください)

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上場
未上場
資本金
-
設立
1949年05月