オリンピックを前に自由の大切さを考える
ロシアの人権侵害状況を訴えるキャンペーン開始
オリンピックの聖火がモスクワに到着しソチに向けて出発した10月7日、ロシアで表現・結社・集会の自由の権利がどれほど侵害されているかを広く知ってもらうため、何十万人ものアムネスティのメンバーが世界中でイベントを催し、抗議行動を繰り広げた。トロント、プエルトコ、ワルシャワ、パリ、ブリュッセルなど世界各地、そしてモスクワで、趣旨に賛同する人びとが公共の場やロシア大使館の前で抗議の集会やフラッシュモブを行ったり、ピケをはった。日本では、12月から状況改善を政府に訴える署名キャンペーンを行う予定である。
オリンピックの放映に世界が釘付けになっている間も、ロシア当局は国内では人権侵害を繰り広げるはずである。しかしロシアが、自国の憲法で、そして自らが批准国である国際人権条約でも明確に保障されている基本的人権を踏みにじっている事実は、オリンピックのファンファーレも華やかな式典をもってしても隠しきれないであろう。
ロシア当局はオリンピック競技場でのデモを禁止しているオリンピック憲章を盾に、個人や活動家が、合法的、平和的なデモに参加するのを妨げようとしている。しかし、憲章が禁じているのは実際の競技場所や会場のみであり、禁止が理にかなっている場合のみである。ロシア当局が阻止しようとしている一般的な抗議デモは憲章の禁止規定には当てはまらず、その行為は表現・結社・集会の自由の原則に違反する。
オリンピック大会は人権を無視していい場ではない。大会の主催は市だが、実質的には広く国の主催であり、その主催国ロシアの基本的人権の侵害は、それこそ、オリンピック憲章が掲げる「人間の尊厳保持に重きを置く平和的な社会を推進する」という目的に反する。
人権を大切に思う人はもちろん、オリンピックに関わる人すべてが、ロシア当局が社会や市民に課している規制を思い、声をあげてその規制に反対することが大切だと、アムネスティは考える。
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キャンペーンでは、主に次のことを訴えていく。
●良心の囚人であるウラジミール・アキメンコフさん、アルチョーム・サヴィオロフさん、ミハイル・コセンコさんの3人は、ただ表現と結社の自由の権利を平和的に行使しただけで1年以上も拘禁されている。 2011年と2012年の国会議員選挙と大統領選挙が不正だったと抗議する大集会が各地で開かれていた折、この3人は2012年5月にモスクワのボロトナヤ広場での抗議集会で拘束された。ボロトナヤ広場での抗議集会に関連して13人がモスクワで裁判にかけられており、数人が同件でいまだに裁判待ちの状態である。
●平和的抗議行動を抑圧する法律により、デモの主催者に重い罰金を科しているが、そうした適用の多くが恣意的である。 2013年にはモスクワ市内とその周辺だけでも81の抗議集会があり、600人以上が拘束された。
●2012年に施行された「外国の代理人法」はロシアで活動する海外のNGOを著しく弾圧している。モスクワのアムネスティ事務局も査察を受けた。また、この法の下で検察が起訴したNGOの裁判では数団体とその幹部が高額な罰金を科された。さらに多くのNGOに対し外国の代理人として登録するよう公式要求が発令され、要求に応じなければ処分を受けることになる。
●2013年に同性愛嫌悪に基づく法律が導入され、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・インターセックス(LGBTI)の人びとの表現や集会の自由の権利を制限してきた。その結果、ロシア全土で同性愛嫌悪暴力が増加している。LGBTIのイベントは、それに反対するデモ隊によって妨害され、当局からはデモ禁止命令を受け、参加者は未成年者の間での非伝統的な関係を奨励したとして逮捕された。この法律に違反すると、外国人も含めだれでも最高3000米ドルの罰金を受ける。
●パンクグループのプッシーライオットが2011年、モスクワのロシア正教会で、平和的で短い、しかし時の政権に挑発的なパフォーマンスをしたことが契機となり、神への冒涜法が導入された。メンバーのうち2人は2年の禁錮刑という政治色濃い判決を言い渡され、現在服役中である。その1人 ナジェージダ・トロコンニコワさんは刑務所の悪状況について苦情を言ったため独房に入れられ、ハンストをしている。
●ジャーナリストや人権活動家の殺人事件をきちんと調査しない。アンナ・ポリトコフスカヤさんは2006年に銃殺されたが、犯人は明らかになっていない。 ナタリア・エステミロワさん、ガジムラート・カマロフさん、アフメドナビ・アフメドナビエフさんらの殺人でも、誰も起訴されていない。
補足:「外国の代理人法」……海外から資金を受け「政治活動」に携わっているとみられるNGOなどの団体に、「外国の代理人」として登録する義務を課すもの。登録すると、一般団体より頻繁な報告義務や監査義務、定期査察受け入れが発生し、また、抜き打ち査察もある。登録や報告に不備があると罰金刑や服役刑が科される。「政治活動」に携わっているという判断基準はあいまいで、「不備」の解釈の幅も広い。NGOを厳しく監視するための法と考えられる。登録しなければ罰金が科せられ、一時的な活動停止や資産凍結に追い込まれることもある。
▽アムネスティ日本
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