【国立科学博物館】 貴重な標本、傷をつけずにDNA分析 ~植物のおしば標本から非破壊的にDNAを抽出する新手法を開発~
国立科学博物館(館長 林良博)の杉田典正、海老原淳、神保宇嗣、中江雅典、細矢剛、遊川知久と福島大学の兼子伸吾、黒沢高秀の研究グループは、2020 年 1 月24 日発行のJournal of Plant Research誌において、植物のおしば標本のもとの形を損なうことなくDNAを抽出する方法を発表しました。
近年のDNA解析技術の進歩により、標本に残存するDNAを使った研究が注目されています。しかし、DNAを抽出するためには標本の一部を破壊することが避けられませんでした。そこで研究グループは、プロテイナーゼK などを含む緩衝溶液をおしば標本の表面に滴下・回収することで、標本の形態を変化させることなくDNAのみを抽出する手法を開発したものです。本手法は、標本の形を維持することが重要な貴重標本のDNA分析を可能にするともに、短時間・低コストのDNA抽出法としても活用が期待されます。
- 研究の意義
今回開発した手法は、標本の原形を維持したままDNAを抽出できるため、貴重な標本の情報を損なうことなく分子生物学研究への利用を可能とする画期的な技術開発と位置付けることができます。またこの手法は、通常の植物DNA抽出法よりはるかに短時間かつ低コストで実施できることも大きなメリットで、通常の植物DNA抽出法としても普及が期待されるものです。
- 研究の内容
溶液中に抽出されたDNAの質を確認するため、2つの遺伝子領域(matK およびrbcL)のDNA塩基配列を検出する実験を行なったところ、matKでは80%、rbcLでは46.2%の標本からターゲットの塩基配列を得ることができました。さらにDNA抽出の効率を向上するため、標本の一部を切除し上述した溶液に30分浸し切除部を標本に戻す低侵襲法を試みたところ、matKでは80%、rbcLでは92.8%の標本からターゲットの塩基配列を得ることができました。2つの方法を組み合わせれば、matKでは90%、rbcLでは 92.8%の成功率となり、市販のDNA抽出キットを使った結果と同じ数値となりました。また1934年に採集された標本に本手法を適用したところDNA塩基配列の検出に成功したことから、古い標本に関しても適用できることが示されました。
【参考】
手法の概要。標本の葉の表面の汚れをブロアーとTEバッファーで落としたあと、DNA抽出用の緩衝溶液を30分置く。DNA抽出された溶液を回収し、分子生物学の通常の方法でDNA塩基配列を検出する。緩衝溶液を置いた葉は、吸湿紙を当てて乾燥させる。
DNA抽出前と後の状態。標本はヤクシマアリドオシラン。aは葉上にDNA抽出用の緩衝溶液を置く前、bは緩衝溶液を回収した後。矢印の葉に緩衝溶液を置いたが、回収後の葉に変化は見られなかった。
- 論文情報
著者:Norimasa Sugita, Atsushi Ebihara, Tsuyoshi Hosoya, Utsugi Jinbo, Shingo Kaneko, Takahide Kurosawa, Masanori Nakae & Tomohisa Yukawa
ジャーナル名:Journal of Plant Research
DOI:10.1007/s10265-019-01152-4
印刷版の出版:2020年1月24日
【国立科学博物館】https://www.kahaku.go.jp/
【国立科学博物館 筑波研究施設 】 https://www.kahaku.go.jp/institution/tsukuba/
【福島大学】https://www.fukushima-u.ac.jp/
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