AIによる内視鏡外科情報手術支援システム「EIRL Surgery LC」が薬事承認を取得
術中合併症予防を支援する次世代医療AIの社会実装へ

国立大学法人大分大学(学長:北野正剛)および学校法人福岡工業大学(学長:村山理一)は、両大学の共同研究成果を基盤として開発された内視鏡外科情報手術支援システム「EIRL Surgery LC」が、医薬品医療機器等法に基づく製造販売承認を取得したことをお知らせいたします。製造販売承認番号は、30800BZX00052000です。

本技術は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の支援(平成29年度「未来医療を実現する医療機器・システム研究開発事業」、令和元年度「医療機器開発支援事業」)のもと、大分大学医学部 猪股雅史教授(消化器・小児外科学講座)、福岡工業大学情報工学部 徳安達士教授(情報システム工学科)、オリンパス株式会社およびエルピクセル株式会社(https://lpixel.net/)と共同で研究開発を進めてきたものです。
特許取得後(第7127785号)、臨床機器試験(J-SUMMIT-C03)(Surg Endosc. 2023)を経て有効性・安全性が評価され、エルピクセル株式会社により医療機器承認を取得し、社会実装・実用化を実現しました。本システムは、手術中の内視鏡映像をAIがリアルタイムに解析し、胆嚢周囲の重要な解剖構造の認識を教示することで、胆道損傷などの重篤な合併症の予防に資することを目的としています。また、技術に関連する特許も国内外で取得されています。
■背景
我が国において腹腔鏡下胆嚢摘出術は年間約12万件実施されている標準的な外科手術ですが、そのうち約600件において胆道損傷が発生すると報告されています。胆道損傷は重篤な合併症の一つであり、再手術や長期入院を要する場合があるほか、退院後の生活の質(QOL)の低下にもつながることが知られています。
このような合併症を予防するためには、胆嚢周囲の解剖学的ランドマークを適切に確認することが重要とされています。しかしながら、脂肪や膜に覆われた解剖学的ランドマークを正確に認識することは術者の経験や技量に依存する側面が大きく、客観的かつ定量的に評価することが難しいという課題がありました。
■研究・開発の内容
本研究では、内視鏡手術映像を用いた深層学習により、熟練外科医が経験に基づいて認識する胆嚢管・肝外胆管・S4下縁・ルビエレ溝といった解剖学的ランドマークを高精度に認識し、術中にリアルタイムで提示するAI技術を開発しました。
本技術は、大分大学医学部附属病院において実施された臨床機器試験(J-SUMMIT-C03)および消化器内視鏡外科推進連絡会における技術的検討を経て、有効性および安全性が評価されました(Surg Endosc. 2023)。その後、エルピクセル株式会社による医療機器としての実装および薬事対応を経て、オリンパス株式会社の内視鏡映像システム「VISERA ELITEIII」と適合する形で製品化され、薬事承認に至りました。
■本技術の特徴
・手術映像をリアルタイムに解析し、胆嚢周囲の重要解剖構造の視覚的提示を実現
・熟練外科医が暗黙知として行っている「漿膜下を走行する胆嚢管および肝外胆管の見立て」をAIにより予測・可視化(本技術の中核をなす特許技術)
・外科医の判断を補助し、胆道損傷などの重篤な合併症の予防に寄与
・若手医師の教育・技能習得支援への応用が可能
・術中情報支援という新たな医療AI領域を切り拓く技術
■社会的意義
本技術は、「外科医の暗黙知」をAIによって可視化・共有することで、術者に気付きを与えるものであり、医療の質の均てん化および医療安全の向上に貢献します。特に、経験に依存していた解剖構造の見立てを客観化することで、術者間のばらつきを低減し、安全な手術手技の標準化を促進することが期待されます。
また、本技術は若手医師に対する教育・トレーニング支援としても有用であり、熟練外科医の判断プロセスを学習可能な形で提示することで、従来は経験に依存していた技能習得の効率化と質の向上に寄与します。
さらに、本成果はAI技術を単なる診断支援にとどめず、「術中の意思決定支援」にまで拡張した点において、次世代医療の重要な一歩と位置づけられます。術中にリアルタイムで情報を提示することにより、外科医の判断を支援し、合併症リスクの低減に直接的に寄与する新たなスマート医療の新たな枠組みを提示するものです。
加えて、本技術が医療機器として薬事承認を取得し、実臨床での活用が可能となった点において、研究開発にとどまらない社会実装のモデルケースとなるものです。今後は国内での普及に加え、国際展開を通じて世界的な医療安全の向上に貢献することが期待されます。
■今後の展開
今後は、エルピクセル株式会社およびオリンパス株式会社の協力のもと、国内医療機関における評価を進めるとともに、保険収載に向けた臨床データの蓄積を図ります。
また、大分大学医学部が取り組んでいる文部科学省「高度医療人材養成拠点形成事業(MIRAI Project)」においても、本技術を基盤とした医工連携研究をさらに推進します。これにより、消化器外科にとどまらず、呼吸器外科、泌尿器外科、産婦人科、整形外科など他領域への展開を目指します。
さらに、将来的には国際展開も視野に入れ、本技術を通じて世界的な医療安全の向上に貢献していきます。
■両大学の役割
大分大学医学部は、臨床現場における課題設定、手術データの提供、および臨床評価を担い、本技術の臨床的有用性の検証に中心的な役割を果たしました。福岡工業大学は、AIの学習モデル選定および精度向上に関する研究開発を担い、本技術の中核となるアルゴリズムの高度化に貢献しました。両大学の密接な医工連携により、基礎研究から臨床応用に至る一貫した開発体制が構築され、本技術の社会実装につながりました。
■コメント
大分大学 猪股雅史 教授(医学部 消化器・小児外科学講座)
「医療におけるAIは、これまで診断支援が中心でしたが、本開発システムは外科医の手術中の意思決定を直接支援する革新的技術の社会実装であり、まさに『スマート手術時代』の到来として、世界的に注目されています。長年取り組んできた医工連携の成果が、厳格な臨床機器試験を経て薬事承認という形で結実したことを大変嬉しく思います。本製品は、手術時の医療安全をさらに向上させ、患者さんにとって、合併症リスク低減という最大の安心につながるものと確信しています。本技術の社会実装は、地域医療の質の均てん化、および国際的な医療安全の向上に大きく寄与するものと期待しています。」
福岡工業大学 徳安達士 教授(情報工学部 情報システム工学科)
「本技術は、大分大学と福岡工業大学の協議の中で生まれた着想を起点とし、熟練外科医の暗黙知をAIにより術中に可視化・教示するという発想として発展してきました。その構想から約8年、本研究により、AIが術中の判断を支援するという新たな枠組みを提示できたことは、研究者として大変意義深い成果です。本技術が医療安全の向上に貢献し、安全な手術の標準化につながることを期待しています。」
■用語説明
解剖学的ランドマーク:手術において術中合併症を防ぐための重要な解剖学的構造物。
■問い合わせ先
【大分大学 総務部総務課広報係】
870-1192 大分市大字旦野原700番地
TEL: 097-554-7376(直通) FAX: 097-554-7413
【福岡工業大学 入試広報部】
811-0295 福岡市東区和白東3-30-1
TEL: 092-606-0634(直通) FAX: 092-606-7895
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