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千葉工業大学
会社概要

最強動物「クマムシ」のゲノム改変を可能に

――耐性機構の全容解明に向けて大きな前進――

千葉工業大学

【発表のポイント】

◆さまざまな極限環境に耐えることで知られるクマムシ類で初めてゲノム編集個体の作製に成功しました。

◆親個体の体内にゲノム編集ツールを注入することで、ゲノム中の目的遺伝子を完全に改変した子個体を得る手法を確立しました。

◆遺伝子改変個体の作製は、長年に渡ってクマムシ研究における最大の技術的課題であり、本研究はその課題を解決しました。これにより、耐性機構の解明が進むことで、ワクチンなどの常温乾燥保存技術の開発につながることが期待されます。

クマムシへのゲノム編集ツールの顕微注入(写真撮影:西郷永希子) (左)模式図(右)写真クマムシへのゲノム編集ツールの顕微注入(写真撮影:西郷永希子) (左)模式図(右)写真

【概要】

 

東京大学大学院理学系研究科の近藤小雪特任研究員(研究当時)〈現・千葉工業大学助教〉、田中彬寛大学院生(研究当時)、國枝武和准教授は、高い耐性をもつヨコヅナクマムシ(注1)(図1)を用いて、標的遺伝子(注2)を完全に改変した個体を「シングルステップ」で作製する手法を確立しました。

クマムシ類は、宇宙空間への曝露などさまざまな極限的なストレスに対して高い耐性をもつことで知られます。これまでに耐性に寄与すると考えられる遺伝子やタンパク質が多数見つかっていますが、クマムシにおける適切な遺伝子改変技術が確立されておらず、それらの生体内での機能や耐性への寄与を調べることができませんでした。

本研究チームは、クマムシのゲノムを改変する効率的な手法を開発し、遺伝子を破壊したノックアウト個体(注3)のほか、外来DNA配列をゲノムに組込んだノックイン個体(注3)の作製にも成功しました。本研究成果は、クマムシの耐性機構の解明を促進するとともに、ワクチンや有用な生物材料などを保存する革新的な技術の開発に役立つことが期待されます。


図1:ヨコヅナクマムシの卵および8日齢の個体図1:ヨコヅナクマムシの卵および8日齢の個体

図1説明:ヨコヅナクマムシは、メスだけが存在し交尾をせずに卵を産む単為生殖という様式で繁殖します。


【発表内容】

微小な水生無脊椎動物であるクマムシ類の一部の種は、乾燥や高線量の放射線といったさまざまな極限環境に高い耐性をもちます。動物の乾燥耐性に関わる因子としてはトレハロース(注4)がよく知られていますが、クマムシの耐性にはトレハロースではなくクマムシのみがもつ固有の遺伝子(注5)が重要であることが示唆されています。これまでの研究から、多数の耐性遺伝子が見つかっていますが、それらが実際にクマムシの体内でどのように働き、どの程度耐性に寄与しているかを明らかにするには、標的遺伝子を破壊した遺伝子改変クマムシを作製して耐性への影響を評価する必要があります。しかし、これまで遺伝子改変クマムシの作製に成功した例はなく、そのような技術の開発は長年の課題となっていました。


研究グループは、これまでにクマムシ成体の一部の細胞でゲノム改変する技術を開発していました。今回、昆虫で開発されたDIPA-CRISPR法(注6)を参考に、その技術を発展させ、高い耐性をもつヨコヅナクマムシで標的遺伝子を完全に改変した個体を作製する方法を確立しました。この方法では、高濃度のゲノム編集ツールを適切な時期の成体クマムシの体腔に注入することで、同ツールが生殖腺内の卵細胞に取り込まれてゲノム編集が起こり、ゲノムが改変された子個体が得られます(図2)。

図2:開発したゲノム改変クマムシ個体の作製方法図2:開発したゲノム改変クマムシ個体の作製方法

図2説明:ヨコヅナクマムシの卵を採集し、卵からふ化した幼体が7から10日齢になったところで、ゲノム編集ツールを体内に注入しました(親個体)。その後、親個体が産卵した卵を回収し、卵からふ化して成長した個体(子)のゲノムDNA配列を調べて標的遺伝子の改変が起こっている個体を特定しました。


 研究グループは、いくつかの遺伝子を標的として、高濃度のゲノム編集ツールをさまざまな日齢のクマムシ個体に注入し、各個体から生まれた子のDNA配列を調べました(図2)。その結果、7~10日齢で注入した場合に、遺伝子が改変された(ノックアウト)子個体が複数得られました。興味深いことに、いずれの標的遺伝子の場合も得られた遺伝子改変個体のほとんどは改変された配列が1種類のホモ接合体(注7)でした(図3)。これはヨコヅナクマムシがメスだけで繁殖する単為生殖という生殖様式をとり、遺伝情報の伝達様式が特殊であるために起きる現象として解釈されます(図4)。シングルステップでホモ接合変異体を得られることによって、その後の系統化や解析が容易になります。さらに、ゲノム編集ツールに、研究者がデザインした配列をもつ1本鎖DNA(ssODN)を加えて注入することで、同様の手法でデザイン通りの改変を起こしたノックイン個体が得られることも分かりました。

図3:標的遺伝子の改変されたDNA領域図3:標的遺伝子の改変されたDNA領域

図3説明:ゲノム編集によってDNAの一部が欠失した標的遺伝子(変異型)のDNA配列の解析例。この例では変異の入っていない野生型のDNA配列と比較して8塩基(CATTGGGT)が欠失していました。各ピークがほぼ完全に単一の種類から形成されていることから、この子個体は改変された1種類のDNA配列のみを含むホモ接合体と考えられます。


図4:ホモ接合変異体の誕生を説明するヨコヅナクマムシにおける減数分裂モデル図4:ホモ接合変異体の誕生を説明するヨコヅナクマムシにおける減数分裂モデル

図4説明:ゲノム編集ツールによって片方の染色体に変異が導入された後、通常の減数第一分裂によって同じ染色体の2コピーが娘細胞に分配されます(ここでは染色体間の部分的な組み換えは省略して示しています)。その後、姉妹染色分体が分離することで2倍体を回復した後、通常の細胞分裂に類似した減数第二分裂によってホモ変異体の卵細胞が生じると考えられます。


 今回、クマムシの遺伝子改変個体を作製する方法を確立したことにより、クマムシの耐性機構のみならず、進化発生学などの研究分野の進展も期待できます。また、クマムシの耐性機構の解明は、ワクチンや重要な生物材料の保存技術の開発につながることが期待されます。

 

〇関連情報:

「プレスリリース①クマムシ耐性タンパク質によるストレスに応答した細胞の硬化」(2022/09/07)

https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/8042/


【発表者・研究者等情報】                                        

東京大学大学院理学系研究科 生物科学専攻

國枝 武和 准教授

近藤 小雪 研究当時:特任研究員

       現:千葉工業大学 先進工学部 生命科学科 助教

田中 彬寛 研究当時:博士課程

      現:遺伝学研究所 日本学術振興会特別研究員PD


【論文情報】                                          

雑誌名:PLOS Genetics

題 名:Single-step generation of homozygous knockout/knock-in individuals in an extremotolerant parthenogenetic tardigrade using DIPA-CRISPR

著者名:Koyuki Kondo, Akihiro Tanaka, Takekazu Kunieda*(*:責任著者)

DOI:10.1371/journal.pgen.1011298

URL:https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1011298



【研究助成】

本研究は、科研費「クマムシ特異的非ドメイン型タンパク質の探索と機能解析(課題番号:21H05279)」、「極限環境耐性動物クマムシの持つ耐性メカニズムのダイナミズムと新規分子原理の解明(課題番号:20K20580)」、「高い放射線耐性を示す動物クマムシが持つ防護と修復の新規メカニズムの解明(課題番号:20H04332)」の支援により実施されました。


【用語解説】

(注1)ヨコヅナクマムシ

クマムシの一種で学名は Ramazzottius varieornatus。北海道札幌市の橋の上から単離された1個体に由来する遺伝的に均一な集団(YOKOZUNA-1系統)が研究室で継代飼育されており、ゲノムが解読されていることから、クマムシの分子生物学的な研究に使用されています。交尾をせずメスだけで卵を産む単為生殖により繁殖します。ほぼ完全な脱水に耐えられる「乾眠」と呼ばれる特殊な乾燥耐性をもち、乾眠状態において、さまざまな極限的なストレスに耐性を示します。


(注2)標的遺伝子

本技術では研究者が調べたい特定の遺伝子のみに改変を起こすことができ、その対象となる遺伝子のことを指します。本研究では、細胞の物質輸送に関わるタンパク質(トランスポーター)の1種とトレハロース合成酵素の遺伝子を標的遺伝子として、ゲノム改変を行いました。


(注3)ノックアウト個体、ノックイン個体

標的遺伝子に人為的に変異を導入することで、その遺伝子の機能を破壊した個体をノックアウト個体といいます。一方、研究者のデザインしたDNA配列をゲノムの狙った場所に組込んだ個体をノックイン個体といいます。

  

(注4)トレハロース

グルコースが2分子結合した非還元型の二糖。さまざまなストレスによって細胞内のタンパク質が変性するのを防ぐはたらきがあるとされています。乾燥耐性をもつ線虫やネムリユスリカの幼虫の耐性はトレハロースに依存することが報告されています。


(注5)クマムシのみがもつ固有の遺伝子

クマムシ以外の生物には見つかっていない遺伝子群。ヨコヅナクマムシのもつ全遺伝子のうち、約40%はクマムシ固有遺伝子であると推定されています。近年の研究から、クマムシ固有遺伝子の多くは、特定の立体構造をもたない非構造タンパク質であることが示されており、その中のカーズ(CAHS)遺伝子やDsup遺伝子は、動物培養細胞に発現させると、浸透圧耐性や放射線耐性を向上させることが示されています。


(注6)DIPA-CRISPR(Direct Parental-CRISPR)法

昆虫において開発された手法で、特定の時期の雌親個体にゲノム編集ツールを注入すると卵が成熟する過程でこれらのツールを取り込み、一部ゲノム改変を受けた子個体が産まれるというものです。Shiraiらによって2022年に報告されました。


Shirai Y, et al. DIPA-CRISPR is a simple and accessible method for insect gene editing. Cell Rep Methods. 2022; 2: 100215.


(注7)ホモ接合体

多くの動物はゲノム(全遺伝子のセット)を2つもち、有性生殖を行う生物は父親と母親から1セットずつ受け継ぎます。ある遺伝子について2つのセットがまったく同じ配列を持つものをホモ接合体といい、逆に2セットの間で配列が異なる場合をヘテロ接合体といいます。ヨコヅナクマムシもゲノムを2セット持ちますが、メスだけで繁殖する単為生殖のため、1匹の親個体からゲノムを2セット受け継ぎます。今回得られた遺伝子改変個体の多くはホモ接合体でしたので、親のもつ2セットのゲノムのうち片方を倍加して受け継いでいる可能性が考えられます(図4)。

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