【医学生向けキャリアセミナー 開催レポート】 児童精神科 海老島 健先生が語る“学び続ける面白さ”~二人として同じ症例はない~
小児医学・医療・保健の発展のため、小児医学研究者への研究助成や小児医学を志す医学生への奨学金給付などを行う公益財団法人川野小児医学奨学財団(所在地:埼玉県川越市、理事長:川野幸夫/株式会社ヤオコー代表取締役会長)は、2025年9月26日に当財団の奨学生を対象に「東京都立小児総合医療センター 医長 海老島 健先生によるキャリアセミナー」を開催しました。その内容をご報告いたします。
■医学生向けキャリアセミナー開催の背景
当財団では、奨学生がこれからの医学界を担う人材として成長することを目的に、現役医師である当財団奨学生OBOGとの交流を通じたキャリア形成の機会を提供しています。さまざまなバックグラウンドをもつ先輩方の話を聞くことで、新たな発見や学びを得る場となっています。
35年以上にわたり続けてきた奨学金事業を通じて、当財団が築いた先輩医師とのつながりを、今まさにキャリアを考える医学生に生かしてほしい――その思いから、2022年より奨学金事業の一環として本セミナーを行っています。
■キャリアセミナー開催内容

<概要>
日 時:2025年9月26日(金)
開催形式:オンライン
参 加 者 :当財団奨学生 12名
講演内容:学生時代の過ごし方/キャリア選択のきっかけ/児童・思春期精神科の現状
<講師プロフィール>
海老島 健先生
所属:東京都立小児総合医療センター / 児童・思春期精神科 医長
専門分野:児童思春期精神医学
資格:
精神保健指定医 / 日本精神神経学会専門医・指導医 / 日本児童青年精神医学会認定医 / 子どものこころ専門医機構子どものこころ専門医・指導医 / 医学博士

経歴:
2009年3月:京都府立医科大学卒業
2009年4月:同大学附属病院初期研修医
2011年4月:東京都立松沢病院精神科後期研修医
2014年4月:東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科後期研修医
2019年3月:山梨大学大学院医学工学総合教育部博士課程生体制御学専攻卒業
2019年4月:東京都立小児総合医療センター児童・思春期精神科医員
2022年4月:同センター医長
<講演内容(抜粋)>
■ 児童精神科は学びの連続 -2人とて同じ症例はない-
少子化がすすむ中で、児童精神科にかかる子どもは増加しています。身体の疾患でなければ、基本的にはすべて心の問題ということになり、対象範囲は広く症状もさまざまです。不登校、被虐待、家庭内暴力などいわゆる病気とはかけ離れた理由で受診されるケースも多く、医療だけではなく福祉に関連することもあります。そのため、医療的なアプローチだけでは解決しきれない部分もあり苦しくなることもありますが、子どもやそのご家族と、大事な時期に全人的に寄り添うことができるというやりがいがあります。国内の研究では症例数が多いものはほとんどなく、臨床しながら試行錯誤を重ねています。一般的な知識を得て専門医を取得するだけでは歯が立ちません。私自身、すでに子どもの心の臨床をはじめて12年目になりますが、一人前になれたというような実感は全く持てていません。2人とて同じ症例はなく、常に初体験、学びの連続です。
■ 児童精神科のニーズの高まり -精神疾患全体の発症年齢ピークは14.5歳-
子どもの自殺率や児童虐待、学校における子どもの暴力行為、不登校などは増加をしています。こういった社会的背景があり、児童精神科のニーズは確実に高まっています。さらに、精神疾患の発症年齢ピークは成人期ではなく子どもの時期にあり、ピークは14.5歳です。だいたい中学2年生~3年生頃の時期は、症状が一番はっきり出てきて、行動も目に見てとれるようになります。抑うつや粗暴な言動だとか、周りとの兼ね合いで起きてくるような問題がこの時期に出てきます。この時期にケアが早く入らないとその後の予後は良くなく、成人期に入っても悩みを重ねていく、といったデータもあります。子どもを取り巻く問題が増加していること、また子ども期の医療的な介入が重要であることからも、児童精神科への関心とその役割は大きくなっています。
■ 治療は医者一人では成立しない -他職種の方々へのリスペクトの気持ちをもち、責任をとる姿勢-
治療は医者一人では成立しないことが多いので、他の職種の方々と協力して進めていかなければいけません。その中では、医者を中心として責任を取るということが大切だと思います。治療の方針を定めた段階では確信が持てないことも多いですが、チームコンダクターとして医者の私が責任を持ちます、というスタンスで逃げ腰にならずに進めることが重要です。また、熱心になればなるほど細部にこだわってしまいがちになるので、一度俯瞰して状況を見渡してみるのも大事なことだと思います。心の治療は結果が見えにくい部分もあるので、治療がうまくいかなくても一喜一憂しないことを、精神科医として日常的に心がけています。
<現役奨学生からの質問(一部)>

診療科を児童精神科に決めた背景は何ですか?

■自分の裁量でできることがある点と、社会的なニーズの高さ
エビデンスが多くない分野だからこそ、自分の裁量でできることがある点に面白さを感じ、神経内科や精神科に興味をもっていました。身内に精神科医がいた影響もあり、結果的に精神科を選択しました。成人ではなく子どもの精神科を選んだ理由は、社会におけるニーズの高さです。子どもを診るということは、精神的なプレッシャーを感じることもありますが、非常にやりがいがあります。

児童精神科を専門としない医師や研修医も診療する上で知っておかなければいけない事は何ですか?

■ 病気と決めつけてしまうことの恐ろしさ
心の病気は捉えにくいものなので、安易に障害という言葉を使ったり、病気ですね、と言って欲しくないと思います。例えば病気でもない人が「私、うつ病と言われました」と自分は病気だと思うようになってしまったり、病気と決めつけてしまうことの恐ろしさがあります。精神科の診断というのは、あくまでも恣意的に決めた基準があり、その基準を満たすものを病気としています。そういった視点を持って患者さんへの言葉を選んでもらうことは、とても大事なことだと思います。

児童精神科の医師として、日頃関わっている方にはどのような方がいますか?

■ 福祉関連の方、学校の先生等との接点
日頃、福祉関連の方とやりとりすることは多いです。児童相談所の福祉士さん、心理士さんや児童養護施設、障害児福祉施設、自立支援施設などの職員さん、学校のカウンセラーさん、担任の先生、日々そういった方と連絡を取り合っています。学校での患者さんの様子を学校の先生に電話して聞いてみることもあります。
■イベント終了後アンケート結果(抜粋)
・本日のセミナーの感想を教えてください。

"児童精神科”は初期研修でも選択しないと学ぶことができない分野なのでとても勉強になりました。また、少子化が進む中で児童精神科の需要が増していることや診療報酬によって入院病床が急速に伸びている中で診療の質や体制は整っているのだろうかなど疑問に思うことも多く、新たな視点で見ることが出来ました。質問形式での進行も理解しやすく、自由質問タイムも疑問に思ったことをすぐに聞くことが出来たので理解が深まりました。
・最も興味を持った内容を教えてください

精神科は、身体科よりも患者に対する治療内容がひとりひとり異なるため、医師の裁量が求められることに興味を持ちました。
・ご自身の今後のキャリアの参考になったことがあれば教えてください

児童精神科を目指す上で、小児科と精神科のどちらで後期研修を行うべきか悩んでいました。海老島先生は大人の精神科をまわることが法律の理解や疾患の理解に有用だとおっしゃっており、大人の精神科で研修することの重要性を再認識できました。
■奨学金事業について https://kawanozaidan.or.jp/scholarship/
「小児科医になって、子どもたちを支えたい」そんな高い志を持ちながらも、経済的な理由によって進学を諦めてしまう学生がいます。当財団では小児医学を志す医学生および小児医学研究に従事している大学院生に対して奨学金事業を行っています。当財団の奨学生は2025年度までで148名にのぼり、卒業生の多くが第一線で医師として活躍をしています。
<奨学金事業のあゆみ>
1990年 埼玉県内の高校を卒業した医学生を対象に奨学金貸与事業を開始
2010年 返済義務のない奨学金給付事業に制度を変更
2021年 千葉県内の高校卒業者にも奨学金給付の対象者を拡大
2023年 給付額を月額7万円に引き上げ
■財団概要
財 団 名: 公益財団法人川野小児医学奨学財団
所 在 地: 〒350-1124 埼玉県川越市新宿町1-10-1
理 事 長: 川野 幸夫(株式会社ヤオコー 代表取締役会長)
事 務 局 長: 川野 紘子
設 立: 1989年12月25日
行 政 庁: 内閣府
U R L : https://kawanozaidan.or.jp/
T E L : 049-247-1717
M a i l : info@kawanozaidan.or.jp
事 業 内 容 : 研究助成/奨学金給付/小児医学川野賞/医学会助成/小児医療施設支援/
ドクターによる出前セミナー/医師・地域連携 子ども支援助成
<創業ストーリー>
財団の創業ストーリーや事業のエピソードをPR TIMES STORYで紹介しております。
どうぞご覧ください。
失われた息子の命をきっかけに設立した「川野小児医学奨学財団」ー小児医療をめぐる課題に取り組む中で感じた、子どもたちの心と体を守るために必要なこと
https://prtimes.jp/story/detail/rX5NvZs7GXb
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