熟練者の動作の「型」を体得できる遠隔身体技能トレーニングシステム【産技助成Vol.56】

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
独立行政法人産業技術総合研究所


ハイパーミラー(注1)を応用して高度な手技が求められる
先端医療の技能トレーニングを遠隔地間で行うシステム

(注1)ビデオカメラで撮影した自分の像(自己像)と対話相手の像を合成し、左右反転してディスプレイ(HM画面)に表示する遠隔対話インターフェース。HM画面は擬似的な鏡として機能し、遠隔地間の握手や指差しなど空間を共有した相互のやりとりが可能になる。通常のテレビ会議システムに比べ、より優れた空間把握・遠隔地との一体感を実現する。HMの対話者が空間を共有している傍証として、無意識に適切な距離を保つ行動(パーソナルスペースの確保)が観察される。
main image
【新規発表事項】 
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、独立行政法人産業技術総合研究所の主任研究員、熊谷 徹氏は、ハイパーミラーを応用して高度な手技が求められる先端医療の技能トレーニングを遠隔地間で行うシステムを開発しました。
本技術は遠隔地にいる指導医があたかも学習者の隣にいるかのように指導できるシステムであり、指導医の録画映像を用いれば、そのまま精密ヒト鼻腔モデル(注2)を練習台として自習できるシステムです。
これまで医療の現場で手術等の身体技能を教授するには、指導者と訓練者が同じ場所にいて、細かな動作を見ながら説明する必要がありました。しかし、指導者数が少ない先端医療の分野では、指導医と訓練者の地理的な距離という制約が熟練医の優れた技術・技能の普及を阻害する大きな要因となることも少なくありませんでした。
本プロジェクトでは、内視鏡下鼻内手術手技の研修を対象として、遠隔地間での空間共有機能に優れた電子的な「鏡」であるハイパーミラー技術を応用した技能トレーニングシステムを構築し、その有効性を実験的に検証しました。
切開手術を必要とせず患者に苦痛の少ない内視鏡による鼻内手術の安全性向上と普及に貢献します。また、名医の録画教材を使っていつでも好きなだけ独習ができるため、鼻内手術以外の手術も含めた手術の安全性の向上や新しい手術手技の普及促進に役立つと期待されます。

(注2)副鼻腔を含む鼻内の骨形状が、人体CT画像より精密に再現されている世界初の手術可能な内視鏡下鼻内手術手技トレーニング用モデル。2003年に産総研で開発された。


1.研究成果概要
内視鏡による鼻内の手術は、その対象である副鼻腔(注3)が、極めて複雑な構造を持ち、薄い骨の壁を隔てて視神経・脳・動脈等の重要臓器に隣接していますので、十分な研修を必要とします。
内視鏡手術では、手術を行う部位を内視鏡画像の中央に安定して捉えること、内視鏡画像の上下方向を保持すること等、「視野の確保」が最も大切です。本システムでは、学習者は自分と遠隔地の指導医の内視鏡画像を見比べて、正しい視野の確保を学習します。操作がどのように異なるかは、ハイパーミラーの画面に映った自分と指導医の操作を比べることで分かります。精密ヒト鼻腔モデルは形状が同じであるため、内視鏡を指導医と同じように操作すれば、全く同じ視野が得られ、内視鏡画像が異なれば、内視鏡の操作が指導医と違っていることに気づきます。
また、図2に示すように、指導医側の指示動作を撮影する小型カメラを設置し、その指示画像を学習者の内視鏡画像に合成することで、指導医が学習者の内視鏡画像に「手を出して」解剖構造の説明や手術の指示を与えられるようになっています。
本システムは、上記の互いのライブ映像を送り合う遠隔指導の他、指導医の録画映像を用いた自習システムにも対応しており、名医の録画教材を使っていつでも好きなだけ独習ができるため、手術の安全性の向上や新しい手術の普及促進に役立つと期待されます。

(注3)副鼻腔:頭蓋骨の顔の裏側部分にある、薄い骨の壁で仕切られた空洞。副鼻腔に溜った膿を、生理的線毛機能により自然に排出できなくなったのが慢性副鼻腔炎で、手術の適応対象となる。


2.競合技術への強み
1) 3次元的な手術技能を遠隔教示で学べる
先端医療の技術・技能の普及阻害要因であった地理的制約の克服を可能とする技能トレーニングシステムです。
2) 既存技術により安価にシステムを構成できる
パソコン、インターネット、クロマキーヤ等を組み合わせるだけで、安価に技能トレーニングシステムを構築することができます。
3) 指導医のお手本画像による自習システム
あらかじめ登録されているお手本画像や、トレーニング中に保存したモニター画像をいつでも再生し、何度でも独習できます。


3.今後の展望
今後実用化していくためには、研究開発成果の発表機会のさらなる確保と医師教育現場への本格導入が課題です。そのために内視鏡手術の難しさをさらに解明し、効率的なトレーニング手法を開発していきたいと考えます。
また以上のハイパーミラーを用いた手術技能の教示技術の実用化に向け、企業・研究機関と意見交換を行う予定です。既に複数の企業から実用化研究の打診がありますので、これらの企業とともに製品化を目指したいと思います。


4.参考
成果プレスダイジェスト:産業技術総合研究所主任研究員 熊谷 徹氏

すべての画像


ビジネスカテゴリ
美容・健康
ダウンロード
プレスリリース素材

このプレスリリース内で使われている画像ファイルがダウンロードできます

会社概要

URL
http://www.nedo.go.jp/
業種
製造業
本社所在地
神奈川県川崎市幸区大宮町1310番 ミューザ川崎セントラルタワー16~21階
電話番号
044-520-5100
代表者名
村田 成二
上場
未上場
資本金
-
設立
-